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タイプ57「男達の聖戦九」


狼、要弧、春風達の過去が、今明かされる。


(かっこつけてみました。どう?)


 インターネットの胡散臭いホームページのクリック如きで、オレの悩みが解消するわけが無い。

辻風………いや、春風は画面を食い入るように見ながら頭の中でそう呟いた。

彼女はまだ児童施設でパソコンを触らせてもらえなかったため、学校のパソコンルームで端末をいじってる。

小学校三年生にしては、しっかりした少女。

そんなイメージを初見では持たされる。

はきはきとした物言いと、どこか堂々と強気な口調。

だが、見た目があまりにも少女らしさが出ていたため、よもや彼女が男気取りをしていたなどとは、誰も見抜けないだろう。

いや、男気取りではない、彼女は自分を男だと思っているのだ。

だから、男に対しては同族という親近感があり、女に対しては、異性としての目を向けていた。

簡単に言えば、男子の輪に入るのを当然の事とし、女子とは距離を置いていたのだ。

そんな彼女が、周りから理解された環境にいられたわけがない。

同級生達や教師、他の親からも偏見の目で見られた。

だが、たった一つ運が良かったといえるのは、狼と要弧がいたことだろう。

男勝りで正義感の強い、絵に描いたような活発少女の要弧と、要弧に付いていくだけのおまけ感覚な狼。

だが、この二人の存在が、確実に春風の支えであったのは聞かずとも分かる。

事実、周りから疎外されている春風にとって、二人は唯一の友であった。

しかし、依然として現実の解決は進まない。

周りの目がどうこう以前に、そもそも春風は己の身体に多大なコンプレックスを抱いていた。

まぁ男と思い込んでいるのに、体が女性のものであれば、言い知れぬ苦痛があるのは明白だ。

特に小学生の頃の同世代同士というのは『一緒』という同調をおこす傾向にある。

要するに他人のおもちゃを欲しがる子供のことである。

しかし、この問題の解決はなんとも困難であった。

想像には難くないことだが、問題の解決には手術、そう『性転換手術』が必要だ。

しかし、体が未発達な小学生がそんな大掛かりな手術を受けられるわけが無い。

医者でなくとも分かることだ。

だから、今はどうすることもできないというのが、現実であった。

周りから異形を見るようなモノ珍しい目線を四六時中浴び続ける生活を受けた事があるだろうか?

それも小学生で、だ。

気安く話しかける者も居なければ、大人ですら一歩引いた距離をとる。

不幸なことに、春風には親が居なかった。

孤児だ。平和な世では珍しい捨て子。

はっきりとした事は言えないが、この境遇が今の彼女を作った要因の一つだろう。

悲劇のヒロインと呼んでも差支えがない気もする彼女だが、本人はそこまでは悲観していない。

まぁその理由が………。


「ここにいたか辻風」


ドアを開けて気軽に声をかけてきたこの男、狼の存在だ。

「おう。要弧はまだ部活?」

「うん。バスケやってる」

唯一の男同士の友………。少なくとも春風はそう思っていた。

辻風という呼び名も、春風にとっては親友ゆえの特権だと思っているくらいだ。

まぁこの男がどこまで理解しているかは不明だが。

「何見てんの?」

狼が顔を覗かせて画面を見ようとしたが、春風は直ぐに消してしまった。

「勝手に見んな」

「いかがわしいものでも見てたか?」

春風が狼の額にデコピンを決める。可愛い攻撃に見えるが、狼が転げまわっているところを見ると相当痛いようだ。

「これだからスケベオオカミは」

「いいんだよ。母さんが久しぶりに帰ってきた昨日、男はみんな欲望に忠実なオオカミだって」

「お前の母さんは本当に無責任な人だな。子供の前で変なこと教えるなよ」

春風がため息をつく。それを見て、狼は微笑する。

こんなやり取りでも、春風には幸せだと感じさせてくれる重要な日々であった。

普通に接し、言葉を交わし、笑いあう。

普通でない人生だった春風の中で、たった少しの平穏であった。


要弧と狼がいて、自分も居る。

これがいつしか春風は当たり前だと思っていた。

いや、これほど荒んだ不幸をいくつも味わったのだ、もういい加減いいんじゃないのか?

いい加減、幸せを掴んだっていいんじゃないのか?

だが、そんな切望は、残念ながら届かなかった。

そう、ほんの些細なきっかけで。



施設暮らしをしている春風。

基本親が出張中の狼。

そして普通の家の要弧。

この三人が出会ったきっかけは同じ幼稚園というものだ。

ドラマチックでもなければ、運命的でもない。

だが、出会い自体が簡素であっても、その後に続く事象が運命的であれば、こんな出会いでもいきなり大きなことに思える。

それと同じで、この三人の仲が壊れたきっかけも、気づかないうちにできていたある溝によるものだった。



「………好きな人は………狼だよ」


春風自身にとって、要弧本人から明かされたこの台詞が、どれほど苦しいものなのか……。

休日の、昼下がりの、しがない公園での、たった二人だけの会話での、この一言。

この一言が、春風の支えを取ってしまった。

要弧自身、精々(せいぜい)親友相手に明かした小さな事実のつもりでも、春風にとっては、唯一の友二人が消えていく未来が見えた。

いや、ただの親友として見ていたならまだしも………。


春風は要弧に好意を抱いていた。




異常かい?そりゃあ女の子同士じゃあね。

でも残念、春風は厳密に言えば女とは定義できない。

複雑だろ?友情の線に絡みついた好意の線は、こんな爆弾すら作ってしまうのさ。

しかも運が悪いのは、春風にとって、世界には要弧と狼しかいないってことだ。

わかるだろ?

友達といえるのがこの二人だけなんだよ。


裏切られた気になった。


春風は完全に、要弧や狼が憎くなった。


理由なんて言わずともなんとなく分かるだろ?


話せるのも、理解し合えたのも、春風にはこの二人しか居なかったんだ。


その二人の間に恋が芽生えたら?


春風は孤独になるだろ?


理解されない世界で、たった一人で生きて行けと?


どうだい?些細だろ?

本当に小さなことで、人間関係はこうまで周りを巻き込むんだよ。

何が悪かったかねぇ?

要弧が狼を好きになってしまったから?

それともそれを春風に言ってしまったからか?

春風が二人の仲を認めてあげないからか?

そもそも春風が同一性障害だからか?

だったらその要因の一つといえる春風を捨てた親は?


ていうか、春風を無視してきた周りの人間に、一切罪はないと言えるの?


春風に、もっと友達がいれば変わったんじゃないか?


変な暴走族も作らずにすんで、その暴走族に巻き込まれる子も出ずに済んだんじゃないか?


なぁ?全部春風が悪いのか?


違うだろ?偏見を持っていた他の人間も悪いだろ?


たった一人に責任をかぶせるなよ?


完璧にそいつが一人で勝手に狂ったのか?


何もしないってのが………要因作りの一つになることだってあるんだぞ?





  「なぁ?あんたはどう思う?」





なんか長ぇ。もっとスマートにいきてぇ。


 だが、それと妥協は違うだろ?


(またまたかっこつけてみました)


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