タイプ53「男達の聖戦五」
真っ黒クロクロ〜。マジでおっも重〜。
あのギャグの軽快ハツラツ学園コメディーのタイプパニックはいずこへ?
あ、重大発表はあとがきで。
「・・・皆がいない?・・・」
例のごとく置いてけぼりを食らった将騎くん。今は学校で大人しく授業を受けています。
「にしても・・・いきなり自習になったし・・・すごくいやな予感がする・・・」
もちろん、先生方は大怪我を負った生徒や、未だ拉致されている生徒。そして暴走族を追いかけていった数人の生徒などなど、問題が起きまくっているのでその対処に走っています。
「・・・・ふむ・・・心配だ」
将騎はうすうす狼たちの身に何かが起こったのを感じていた。
だが・・・あえて待っていることにした。
追いかけても、自分が役に立たないのは目に見えている。
だから・・・帰りを待ってあげよう。
帰る場所が、仲間のいる場所がある事を、証明し続けてあげよう。
その場にいてあげるだけで、誰かを助けることも、可能なのだから。
「・・・早く帰ってきてよね」
さびれた工場。周りにはうっそうと木々が生い茂り。工場の排水の嫌な臭いが立ち込めていた。元は何の工場だったのかもわからないくらいに、荒れ果てたその場所は、まさに世間の嫌われ者たちがアジトとして使うには申し分ない場所であった。
「いよいよ着いたな・・・そして嫌ほど多い見張りの数・・・10人くらいいるぞ?」
北崎が茂みに身を隠しながら、同じく身を隠している狼達にそう言った。
「めんどくせ〜な!正々堂々正面突破!これがシンプルでカッコいい!だろ!?」
「音恩、少し黙ろうか?」
北崎がさすがにふざけている場合じゃないだろ、と言わんばかりの視線を音恩に送った。
「そういえばさぁ・・・警察にここの場所教えなくていいのか?ぶっちゃけここ知ってるのオレらだけだぞ?多分」
しゅうはそんな事を言っているが、狼は反応もせず、ただジッと工場を見ていた。
「・・・狼?」
「・・・・あ?・・・え?すまん、なんだ?」
「いや、だからさぁ〜、敵の親玉と君との間には何があったのか聞いてんだよ〜」
「そうそう、さっきから上の空で話を聞いてなかったのか?」
「あぁ、悪かった。なに、何があったとか、そういうものじゃなくて、あいつとは・・・・って!・・・何のことだよ」
狼が危うくしゅうと北崎の連係プレーで重要な事を喋りそうになったが、のどまで出たそのセリフを抑えてしまった。
「バレバレだって、君が何かを隠していることぐらい・・・・何せ音恩へのツッコミはほとんど僕がやったからね。いつもは君の鋭いツッコミがあるはずなんだが」
「漫才の調子で相手の心読むなよ・・・・」
狼がまた上の空になって、工場を見つめた。
「・・・なんだよ?話せないことか?」
音恩が声色を変えて狼に質問をした。どうやら隠し事をされているのが気に入らないらしい。
「・・・話してもいいが・・・確証がない。オレの思い過ごしの可能性がある。それでもいいなら話すぜ?」
「辻風が実は知り合いでしたってやつか?」
しゅうがひょうきんな調子でそう言ったが、狼からの否定がなかった。
「・・・は?マジで?」
「いや、だから・・・偶然、昔の幼馴染も・・・あだ名を辻風だと名乗っていた奴がいたからさ・・・」
狼の上の空な状態から、辛そうな表情と、なぜか、どこか懐かしむ雰囲気が漂っていた。
「・・・まさか・・・な」
「はっ!知り合いだとしても、やってる事が酷過ぎやしないか?狼、お前は人を見る目がねぇよ。うん、絶対そうだ」
しゅうがそんなふざけた調子でケタケタ笑っていたら、ふと、音恩が真剣な顔で狼を睨んでいた。
「・・・なんだ?・・・別に手を抜くつもりはないから安心しろよ?」
「いや・・・今のお前のその様子じゃあ・・・手を抜きまくりそうだぜ」
「何だそりゃ?オレは別に相手が誰だろうと気にしねぇって」
「・・・なぁ・・・狼、お前ってつくづく変な奴だよな」
音恩がいきなり変な発言をした。
その突拍子もない質問に、全員が固まる。
「・・・は?」
ようやく狼が口をあけて、その一語を発するが、音恩は気にせず話を続けた。
「お前はあれだよな、要弧たちとかを友達としてしか見てないよな?」
「何だよ急に?はい?意味がわからない」
「いやいや、お前は確かに近年まれに見る鈍感ヤローなのは確かだ。そこに嘘偽りはないと思う・・・・でも、やっぱおかしいんだよ。何がおかしいって・・・あんな美女達に囲まれて、なぜお前は誰にも惚れないんだ?」
「・・・・は?」
相変わらず、情けない返答しか出来ない狼。そして質問の意味を理解できない北崎達。
だが、音恩だけは、何かを掴んでいたようだ。
「相手の好意に気づかないのは、鈍感だから仕方がないとしてもだ・・・彼女たちをお前は一度でも恋愛対象としてみたのか?いや、見てたらもう付き合っているはずだよな・・・それともう一つ。かつて一度だけ見たお前と要弧のデート。ぶっちゃけ傍から見たら結構いい感じに出来ていたあのデートだがよぉ・・・・お前はろくに要弧を見れなかったし、初デートでドキドキというより・・・愛情のない、ただ、美少女と一緒にいて恥ずかしい・・・そんな感情しか見れなかった気がする・・・・あの後すぐにもとの二人に戻ったから、特に気にしなかったけど・・・結局お前らは交際を始めたわけじゃねぇしさ・・・お前、要するに彼女たちはただの『親友』であって、『女の子』としては眼中にないんじゃないのか?」
「それがどうしたよ」
狼が何となく音恩の言いたい事を理解し始めて、そして怒気のこもった返事をした。
「なんだよ音恩、今更そんな事聞いてどうするんだよ?」
「知りたいから聞いたんだよ。狼は日ごろから女がほしいとか言ってたが、それなのに彼女たちを一切見ていなかった。親友だからどうとか、それを加味した上でも・・・おかし過ぎやしないか?オレは一時期お前がゲイなのでは?と真剣に心配していたぜ」
「で?オレは結局、要弧たちを親友としてみていた。それで終わりだろ?さっさと侵入方法を考えようぜ?」
「待てよ。まだ重要な話をしてねぇよ。ハッキリ言うが、要弧たちを恋愛対象としてみなかったお前は、結構異常だと思う。面と向かって告白とまでは行かずとも、心のどこかでは愛しているところがあったかもしれない・・・だが、お前にはそれが全くないと見受けられる」
「だから!それがどうしたんだよ!今はどうでもいいだろうがよ!」
「お前・・・まだ誰かに未練があるんだろ?」
音恩のそのセリフに、しゅうも北崎も怪訝な表情を浮かべる。だが、狼だけは、目を見開いて、驚嘆していた。
「さっきから上の空だったが、お前は何かを見ていたんだろ?そしてここに来ていきなりクールダウン。ボコボコニするぜ、死刑執行だ、とかの威勢はどこいったよ?」
「・・・ぅるせえよ」
「どう見たって・・・今のお前、過去の何かにとらわれているぞ?・・・オレは相手の心理状態を見透かせれる。だからお前の今の気持ちが何となくわかった」
「うるせぇよ」
「全てはオレの推論だが・・・・お前は、好きな奴を未だ引きずっているから・・・要弧たちも好きになれなかったんだろ?」
「うるせえ!ヘタな推理は今はいらん!・・・もう黙ってろよ」
「お、おい、さっきから声が大きすぎるぞ・・・気づかれたらどうするんだよ?」
しゅうが青い顔をして言うが、二人の会話の火は消せなかった。
「狼・・・オレは・・・ただチャラチャラしているだけの奴とか、服装がだらしないとか・・・その程度の不良には、何の思いも抱いてねぇが・・・・実害を出すような・・・マジでカス以下の存在の不良は・・・殺したいほど憎い・・・その理由がわかるか?」
「・・・なんだよ?」
「そいつらは人を傷つけるしか脳のないカスばかりだからだ。他人の痛みも知らず、自分が楽して、楽しもうとして、自分の欲望を満たす事しか考えてねぇ・・・・そんな奴らが、ウザくて仕方ないんだよ。必死に毎日を生きている人間を、そいつらはあざ笑っているようで・・・それならまだしも・・・迷惑すらかけてくる・・・・真面目に生きている奴を馬鹿にして!不真面目な自分達をカッコいいとか思っていやがる!・・・そんな奴らが、オレと同じ人間ってだけで、吐きそうなくらい、気分がクソ悪いんだよ。いいか狼・・・オレは、許されるんなら・・・あの工場にいる腐った奴らを殺してぇ・・・それぐらいキレているんだよ。確かに、オレ自身へ、何かしたわけではないが・・・やつらがヘラヘラと笑っていることが、一番許せねぇんだよ。いいか・・・お前の知り合いかなんかは知らねぇけど・・・辻風ってやろうは・・・・絶対、生易しい殺し方はしてやんねぇ」
音恩から発する禍々しいオーラに、狼は何かを悟ったように、哀れな視線を、音恩に送った。
「・・・音恩・・・今のお前の目は・・・・その腐った奴らと同じ色をしてるぞ」
音恩は、無表情になった瞬間、右拳で狼を殴り飛ばした。
すると、茂みから飛び出てしまう狼。そのまま、見張りの一人と衝突した。
「バカ!なにかんがえ」
「狼、久々にオレはキレちまったよ。責任とって殴られてくれ」
北崎が止めるのも聞かず。音恩は開襟シャツを脱いで、柄シャツになった。
「冗談じゃねぇ・・・音恩、お前は本当のクズ野郎とそうでない奴の境目もわかんねぇのか?だったらオレが教えてやるよ。お前みたいな甘ちゃんは温室育ちだからな、野生とは何かを教えてやるよ」
狼も平然と立ち上がる。衝突した見張りは気絶していた。
そして、他の見張りも、ばっちりと二人の姿を見つけた。
しかし、二人は見張りになど目を向けず、お互いに睨みあっていた。
「ば・・・馬鹿だろ?・・・まぁいい!さっさとリンチにしてやるぜ!」
「殴られるのはそっちのほうだよバーカ!」
早速、見張りたちがわらわらと襲ってきた・・・・が。
「「邪魔だよ」」
狼と音恩は容赦ない拳を、襲ってきた奴らの顔面なりあごなりに叩き込んだ。
そして、二人は一気に走り出し、二人でケンカを始めた。
襲い掛かった奴らは、立つ力もなく、地面に突っ伏し、眠ることとなった。
最終回、迎えさせます。
偉そうに続けるなんて言って申し訳ございませんでした。
軽率な行動が売りの私ですが、さすがに考えもなしに動きすぎました。本当にすみません。
というわけで、クライマックスまで、どうぞ激走を見届けていただけるとうれしいです。