タイプ52「男達の聖戦四」
どんどんふざけれないくらいに重い話になってきた。
それでもこの物語は、止める事が出来ない。
火行火が隠れている山中への道を、二人乗りをしたバイクが一台、疾走している。
要弧と羊だ。要弧がバイクの運転免許を持っていたようだ。
二人がこの行動に走ったのは、数分前にかかってきた慎の電話がきっかけだった。
病院に来てほしい、という話を聞いた要弧が、血相を変えてバイクの用意をしたのである。
そこで、偶然一緒だった羊が、無理やりついてきたのだ。
「・・・羊、この前みたいに捕まるかもしれないんだぞ?」
「・・・・まぁ、前回はどうにかなったし、今回もどうにかなるでしょう」
「どうにもならない相手だから言ってるんだけど?」
「・・・ねぇ要弧・・・あいては、一体何なの?・・・キチガイな熱狂ファン?」
「・・・・・元・・・親友よ」
≪よかった・・・元彼って言うのかと思ってたぜ・・・≫
心では軽口をたたけた羊だが、要弧の真剣な顔の手前、何も言えなかった。
「・・・それで?・・・狼も知らない要弧の親友って・・・どんな人?」
「知ってるわよ・・・狼も・・・」
羊は、一瞬凍りついた。
なぜなら、全くもって自分には、今の敵に見覚えがなかったからだ。
「・・・じ、狼も・・・知ってるって?」
「そうだよ・・・・恐ろしい凶悪な暴走族を作ったのも・・・自分の部下に、あえて女を襲わせるのも・・・・そして、羊が見たって言うあの雷門に命令をしているのも・・・私を、不器用ながらも、愛してくれているのも・・・・間違いなく、彼女・・・いや、今は完璧男だったわね・・・」
「・・・・え?」
羊は一瞬だけ、遥か昔の記憶が甦った感覚に陥った。
そう・・・それは、要弧と狼と、もう一人の幼馴染・・・・・。
「・・・・・・・・・・まさか・・・・あいつ?・・・・・」
羊の声は、バイクの激しい轟き音にかき消された。
一方、同じ方向に進むバイクが、要弧たちを追いかけていた・・・・。
そう、慎と骸骨だ。
二人は急いで彼女たちに追いつこうとしていたが、慎は、相変わらず先程の質問を続けていた。
「・・・・遥か昔の約束って・・・なんです?」
「忘れたわ」
骸骨が、いつものお惚け調子で返した。
「・・・遥か昔だなんて言ってますけど・・・案外、僕らが小学生の時の話なんじゃないんですか?」
「何の話や?」
「・・・今まで、僕は狼くんと要弧ちゃんの傍にずっといました。でも・・・それは友達として・・・本当にずっと傍にいてる人間のことは、幼馴染って言うんですよ・・・その点、狼くんと要弧ちゃんは本当にいい幼馴染です・・・・そう・・・僕の記憶が正しければ・・・もう一人・・・彼らの幼馴染がいたはずなんです」
「あ、赤信号や」
「・・・知ってます?・・・僕は、彼らと出会うまでは、友達が誰もいない孤独な人間だったんですよ?・・・他人に対して会話をするのが苦手だった僕は、自分を変えるという方法を考えました・・・それが僕のニューハーフの始まりですよ・・・・最初は男の癖に、っていういじめが本当に多かった・・・まぁ小学校高学年の話ですし、変な目で見られるのは当然ですね・・・結局、僕は自分を変えるどころか・・・・危うく見失うところでしたよ・・・って!!骸骨さん信号!!?」
「キィィィイイイイイイイイイ!!!!!」
赤信号を無視してぶっちぎった骸骨、その所為であわや衝突事故が起きそうであった。
「な・・・何考えているんですか!?」
「お前こそ何考えているんや?べらべら余計なことゆーて」
「余計ですか・・・これでも、最後は狼くん達が助けてくれたという感動のオチがあったんですけどねぇ?」
「そんなもん聞かんでもわかるわ!そんな話今必要ないやろ?」
「・・・まぁ・・・僕の話はいらないとしても・・・ここからが大切な話なんです」
そう言って慎は、ゆっくりと話した。
「狼くんが言ってたんですよ・・・僕に似た幼馴染がいるから・・・ってね」
バイクは相変わらず颯爽と走っている。
だが、うるさいバイクと対照的に、二人の間には沈黙が流れていた。
そして、それを破ったのは骸骨だった。
「・・・それ、要弧ちゃんやろ?」
「この期に及んでおふざけですか?いい加減にしましょうね?」
「しゃーないやん、オレやて知らんねん。だれやそのもう一人の幼馴染て?」
「まだ言い逃れるつもりですか?」
「だーかーら!オレは何も知らん!」
「知らないはずがありません。あなたは悪魔なんでしょう?だったらそのお得意の魔法で調べればすぐでしょう?」
「何を調べたらええのかわからへ〜ん」
「小早川春風・・・・あなたの本当の主は、この人だ」
急に、骸骨はバイクを止めた。
そして、バイクのエンジンを止める。すると、驚くぐらい静かな空間が現れた。
「・・・何で知ってんねん?」
骸骨が、まるで、犯罪の証拠を叩きつけられた犯人のように、疲弊した声を上げる。
「・・・・中学へ上がったときです。僕はどうしても・・・狼くん達の幼馴染という女の子に会ってみたかった。僕と同じというその言葉の意味を・・・軽く受け止めていましたからね。きっと、それこそ要弧ちゃんと同じ感じの、男装が趣味みたいな女の子だ・・・そう思っていました・・・でも、彼らの幼稚園を調べて、小学校低学年の時の担任だった先生にまで話を聞きに行って・・・知ってしまったんです・・・」
まだ青空がいっぱいの空を見上げながら、骸骨は静かに聞いていた。
そして、慎は最も重要な部分を、話した。
「狼くん、要弧ちゃん、そして春風ちゃん・・・彼らは当時、誰もが認める仲良し三人組であり・・・また、誰もが、異質だと感じた三人組だった・・・・春風ちゃんは・・・性同一性障害の子供・・・つまり、本気で自分を男だと思っている女の子だったんです」
慎のそのセリフのあと、骸骨は、ゆっくりと間をおいてから、聞いた。
「・・なぜ、春風がオレの主ってわかったん?」
「勘ですかね?・・・少なくとも、あなたが特殊な思いで、彼らの近くにいたのはわかりましたけどね。さぁ・・・行きましょうか・・・彼女の元へ」
「いや・・・もう、春風は男や」
「ほう?・・・そうですか、でも・・・もう、取り返しはつきません。あなたがどんな約束を三人と交わしたのか、当時の三人はどうだったのか、なぜ春風ちゃんは狂っているのか。何一つわからない僕にも、わかることがあります・・・それは、このままそいつらを見過ごせねぇってことだ」
慎がそう言うと、骸骨も頷いて、またエンジンをかけた。
そして、その間にももう・・・狼たちは、火行火にアジトに着いていたのであった。
すみません。
本当にすみません。
次回、重要な告知をさせていただきます。