タイプ48「プロジェクト・プロフェッショナルX」
今回ほど何を書いているのかよくわからなくなったお話は無いと思う。
とある日曜日の夜。
「狼〜、テレビ見ようぜ!」
羊が唐突にそんな事を言った。
「はぁ?オレには日曜映画劇場の『ルーキーっす』を見るという使命が」
「実は雫とか要弧、後影薄野郎がテレビに出るのよ。見ても損は無いと思うよ?」
「・・・ふむ。で?何の番組?」
「プロジェクト・プロフェッショナルX〜若き挑戦者たち〜」
説明しよう。プロジェクト・プロフェッショナルX〜若き挑戦者たち〜、とは、未成年の子供達の未知への挑戦と苦悩をカメラ班が取材し、彼らの勇姿を追いかけるドキュメンタリー番組である。ナビゲーターは津久野柴アキヒサ。平均視聴率は20%と、正統派ノンフィクション番組としてだけでなく、現状の子供社会に鋭いメスを加える内容が、老若男女問わず多大な人気を獲得している番組である。
「・・・へぇ・・・あいつらなんかしてたっけ?」
「・・・・・まぁ・・・みればわかるよ」
二人はソファーに座って、目の前の液晶テレビに目を向けた。
そして、番組はオープニングに入る。
「プロジェクト・プロフェッショナルX!!」
今、高校生達の間では、ある組織が急増していた。
それは、学園のアイドルを愛する組織・・・・『ファンクラブ』
芸能人ではなく、同じ学生の子を愛し尊敬する学生が増えたのはなぜだろうか?
そして、広大な空間を身近なものにしたインターネット、そこにも・・・ファンクラブはある。
今宵は、全国的に名高い『ヨーコズ・ファンクラブズ』
女性のための、女性による、女性同士の愛を守る『百合教会』
天使の生まれ変わりと言われている夜珠さんを愛し敬う『夜珠様賛美倶楽部』
そして、今劇的な急成長を遂げる期待の新星『スリーS連合』
この、四大学生組織の代表の彼らと、アイドルたちの生活を、カメラは追います。
真っ暗な背景に、スポットライトが一つ、舞台にいる男の真上で光っていた。
「今宵もこの番組のお供をしますのは、この私アキヒサであります。さて、テレビの向こう側にいるアイドルには、直接会うチャンスや、話をするチャンスもございません。それでも、多くの人がテレビの向こう側にいるアイドルを日夜追いかけています。しかし、今日、テレビの向こう側ではない、アイドルを追いかける若者が急増してきました。まずはこのVTRをご覧ください」
場面はうって変わって、昼間の学校。
『この学校では、日本で展開されている四大学生組織のトップが多く通っています。そして、本日はその組織の内、『百合教会』の幹部学生とコンタクトを取り、取材に来ました。待ち合わせは校門前、丁度、今待ち合わせの時間になりました。』
「こんにちは〜」
『時間通りに来てくれた彼女、『美浦園花さんは、百合教会の幹部学生です。今日は彼女に、ファンクラブとは何かを、教えてもらいます』
『場所は教室。今は普通の学生としての時間を過ごしています。それでは、彼女にいくつか質問をしてみましょう』
Q 百合教会とは、具体的にどんな組織なのか?
「そうですね。女の子の聖地を守る活動っていうのがセオリーなんですけど、基本は創作活動ですね。同人誌の作成や販売をしています。それと、気に入ったカップリングの観察もよくしています。後は基本、女の子アイドルの追っかけとマネージメントです」
Q 規模はどれくらい?
「本部教会はもちろんここですけど、支部教会なら多い所で一県に20は組織されてます。前回の教会総合の時の情報では、協会員人数2万人突破だそうです」
Q メンバーは全員女の子?
「いいえ?現に百合教会の会長は男性ですよ。我々は男女問わず、女性の愛を守るため、神のご加護を受けた者ですから」
Q 教会って事は宗教関係?
「違いますよ。ただ女性の聖地という事で、神聖な場なので神秘的にしただけで、神を崇めているわけではありません」
Q 他の四大学生組織について知っている事は?
「『スリーS連合』は最近で来たばっかりですけど、私達百合教会を吸収したりして、怪物的に急成長してますね。トップの人間は長官って言うらしいですけど・・・その詳細は不明です。その代わり、表立って活躍しているのは、副長官の北崎氏ですね。ヨーコズ・ファンクラブズは、言わずと知れた要弧グループのファンクラブですよ。ただ、組織がとてつもなく大きいって事は分かるんですけど・・・詳細は一切不明ですね。一応代表取締役は・・・確か・・・鈴木・・慎・・・そう!鈴木氏のはずですよ!・・・夜珠様賛美倶楽部も、比較的新しい組織ですね。その上所属メンバーはホトンド後輩たち・・・あ、でも最近部長が代わったらしいですよ・・・確か、夜珠ちゃんの信頼できる先輩って事で・・・将騎君だったかな。大和氏がその倶楽部の長ですよ」
『質問もこれぐらいにして、いよいよ放課後です。園花さんは早速教会の本部室へ入るようです』
「・・・すみません。本部の場所は知られたくないので、カメラはご遠慮願います」
『残念ながら、カメラでの撮影を断られました。本部の場所は明かしたくないようです』
美術室
「ここはたまに使わせてもらう、言わば臨時室です。ほら、あそこにアイドルがいます」
『いよいよ彼らのアイデンティティーである、アイドルの登場です』
『グラウンドでテニスをしている、一際輝く女の子・・・ボーイッシュな感じが爽やかな美少女、彼女の名前はヨーコ、本人からの承諾は得ていないので仮名とします。そしてテニスの相手は、長髪のこれまた光り輝く美少女、名前はオミ<仮。彼女達のテニスの試合に、園花さんは食い入って見つめています』
Q GLについて、どう思いますか。
「・・・私は、男の子にもときめくので、自分が当人になる事はまず無いのですが・・・女の子同士という禁断の恋に・・・すごく、憧れみたいなものがあるんです」
Q 同性愛差別については?
「・・・理解できないのは、仕方の無いことかもしれません。自分でも、おかしいと思う時があります・・・・でも、そんな内気な思いを、この百合教会は・・・仲間がいるという心強いものをくれたんです。だから・・・私は、自分に正直で自由になろうって、思ったんです」
Q BLはどう思いますか?
「・・・・・・・・・・・・・・・うん、まぁ」
映像がスタジオに戻る。
「このように・・・今学生の間では、身近なアイドルを敬愛するファンクラブが増えています。特に大きい組織では、アイドルは複数いるようです。では、本日のゲストを紹介します。一人目は、ヨーコズ・ファンクラブズ代表取締役の鈴木慎さんです」
「どうも〜、鈴木慎で〜す」
「いやぁ、てっきり男性かと思ったら美しいお嬢さんですね」
「ありがとうございます」
「それでは、まず・・・あなたの組織について説明していただけますか?」
「そうですね〜・・・ヨーコグループという学園アイドルのグループがいるんですけど、そのうちの一人でも好きになれば入れる組織でしてね、特別表立った行動は取っていないんですよ。ただ彼女達について仲間内で話し合ったりするぐらいなんですよ。何せ平穏を愛する彼女達の前で下手に騒げませんから」
「意外ですね。しかし日本最大の学生組織のはずですが?」
「組織が大きいっていっても、人数が多いってだけですよ。ただ中にはイベントを自主開催したりストーカー行為を働いたり・・・まぁ、そういった人間を捕まえたりするメンバーもいますね。正直肥大しすぎた組織なので、上の人間も手も足もでないと言ったところですよ」
「そうですか、学生のうちからそういった組織の局面に向かい合っているとは・・・苦労してますね」
「でも、我々のモットーは憧れを語る、ですから。どちらかというと巨大コミュニティーを作ろうっていうのが当初の目的だったんですけどね・・・」
「そうだったのですか・・・では、次のゲストをお呼びします。VTRでも名前が出た、スリーS連合、副長官の北崎淳くんです」
「どうも、北崎敦です」
「では早速、あなたの組織についての説明を」
「はい。我々も、本来ならヨーコズ・クラブズに吸収されているはずの組織でした。それは、我々のアイドルというのが、ヨーコグループの一人だからです。しかし、正体は明かせませんが、我が連合の長官は別途で組織を立ち上げる決断を下したのです。そして、我々が行う事は・・・・アイドルを・・・幸せにする事・・・」
「・・・なるほど。しかし、幸せにするというのは難しいのでは?」
「もちろん、容易な事ではありません。それ故、連合員には厳しい規律を守らせています。それを守った上で・・・我々を幸せにしてくれたアイドルに・・・夢を・・・贈りたいのです」
「・・・素晴らしい・・・この私津久野柴アキヒサ、久々に感銘を受けました・・・夢をくれたアイドルに・・・恩返し・・・今までもらう事ばかりを考えていた人には考えさせられるメッセージですね・・・・今の学生社会で、なぜ学園アイドルのファンクラブが急増しているのか・・・何となく判った気がします。最近の若者の考えが・・・今まではもらう事ばかり考えていた時代から・・・恩返しする時代になったという事ですね・・・・」
「ファンクラブ・・・・純粋に人を敬愛する気持ちで募った仲間の集合体。彼らは・・・何を思ってこれからも、アイドルのために身をつくすのか・・・・その答えを今日、判った気がします・・・それでは皆様・・・本日はここまで」
テロップとエンディングテーマ
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
狼と羊は無言でテレビを見つめることしかできなかった。
ドキュメンタリーって結構おもしろいよね?