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タイプ46「レイン・ライブラリー」


 うは、めずらし!将騎が語りだぜ!

なんかギャグろうとしたらシリアスりやがった。

え?言っている意味がわからない?


要するに毎度同じく予想外ですって事さ!

 僕は、いつも狼先輩の背中ばかりを見ていた。


 初めて見たのが、桜の散る入学式の日。


 あの日の、あの時の、あの場所での、あの一言が、


 今でも、僕の、唯一の女の子らしい気持ちを、独占していた。


 


 『東雲しののめ夜珠やたま

高校一年生。ルックスは、短い黒髪に細身で長身。長く細いまつげと優しいまなこ。甘いマスクときれいな白い肌。

奴に惹かれない女性などいない、天使の生まれ変わり、御伽草紙の王子様。

数多くの通り名をもつ夜珠。しかし、奴を表すのにもっと的確な通り名があった・・・。


それは・・・・・『第二の要弧』・・・・・。



 暑い日が続く五月の終わり。もうすぐ梅雨という名の陰鬱な時期が来る。

でも、僕は梅雨が嫌いってワケじゃないよ。雨の日にもいい事はあるからね。

どうも、メチャクチャ影が薄くてまさか語り手になれるとは思っていなかった将騎です。

え?誰かって?・・・・全話読んだ人にならわかるでしょ?

北崎君とよく一緒にいる男子メンバーの一人だヨ。

さて・・・僕は北崎君達と違って背も低いし運動神経も無い。

だから部活は『文芸部』に所属してます。

どんな部活かって言うとね、本を読む部活なんだ〜。

うん、それだけ。ごめんね、おもしろくなくて。

でも、そんな部活に興味を持ってくれた後輩がいるんだよ。

名前は『東雲夜珠』ちゃん。すっごく背の高い女の子なんだ〜。

しかも凛々しい顔で即決即断、はっきりとした物言いが大和魂を感じさせるよ。


そんなかわいい後輩があろう事か僕に恋の相談をしてきました。


「先輩、さっきから黙ってそっぽ向いてますけど・・・迷惑ですか?」

「ううん!そんな事ないよ!」

図書室で座る僕と夜珠ちゃん。僕ら二人以外に人はいない。まぁだから相談を持ちかけて来たんだと思うんだけどね。

「・・・えっと・・・それで・・・誰が好きなんだっけ?」


「ですから・・・狼先輩ですってば」


あちゃー。何度聞いても聞き間違いじゃないな〜。

この学校でジンといえば狼君しかいないからな〜。にしても・・・狼君はボーイッシュな子によくモテるね。


自分で言うのもなんだけど、自分がお姉さん系の人からよく好かれるの理由は、なんとなくわかるんだ。

ズバリ、たぶんキャラ的に。

男のくせに小さくて、色白で、女の子っぽくて、敬語で、へタレ。

僕を好きになった人がよく上げる、僕を好きになった所。


でもね・・・僕にとっては、それは全部コンプレックスなんだ。


背の高い人が羨ましい。男らしい態度を取れる人が、かっこよくて、羨ましい。

今でも、そう思う時がある。



話がズレたね。とにかく、どこを好きになったのか聞いてみよう。


「先輩を好きになった理由ですか?・・・僕を見ても・・・変な目で見なかったからです。入学式の日・・・男っぽい容姿なのに、セーラー服でしたから・・・。それで、同じ学年の子には話しかけにくて・・・そんな時、狼先輩が・・・話しかけてくれたんです」


――――――――――――――――――――――


 右も左もわからなくて。

不安でいっぱいで。周りの人が、自分を変な目で見ているようで・・・。

そんな疑心暗鬼な中・・・先輩が、話しかけてくれた。


『どうした?新入生だろ?道にでも迷ったか?』

『・・・え?あ、はい・・・その、今からどうすれば・・・』

『新クラスに向かうんだが・・・クラス別表はあっちに掲示されているぞ』

『あ、ありがとうございます』

普通に接してくれた先輩に、ここに来て初めての安堵を感じた。

そして、駆け出した私の背中に、先輩は言ってくれた。


『入学、おめでとう。これからよろしくな』


その言葉で、生まれて初めての、トキメキが、僕の胸にはじけた。


――――――――――――――――――――――


「い、以上が・・・好きになった経緯です」

顔を赤くして、夜珠ちゃんは言った。

それにしても、僕という一人称の女の子が本当にいるとは。

そして、相変わらずな狼君の無責任な行動。まぁ、いい事をしているんだけどね。


狼君は、世間で言う鈍感な男だ。身近にいる女の子の恋心に気付いてあげれない、そんなある意味最低な男だ。

でも、彼は・・・いい人だから。

優しくて、差別をしない人だから。

相手の、中身まで見てくれる。そんな人間だ。


そうか・・・だから、コンプレックスを持っている人が、彼の周りには集まるのか。


一見、要弧さん達も、北崎君達も、人気者で悠々自適な学校生活を送っているように思われているかもしれないけど、案外そうでもない。

みんなと同じ普通の人間なのに、特別視されて、特別扱いをされて、時には差別もある。

自分のコンプレックスも、他人からは無責任で重宝される。

そうなると、いつも息が詰る生活になる。

自由な学校生活や、気楽に話し合える友達がいなくなる。

そんな生活が、楽しいわけが無い。

芸能界とかならいざ知らず、僕らは普通の学生だ。アイドルのお仕事にはまだ早い。


そんな、疲れ切った僕らを、落ち着かせてくれるのは、狼君だ。

彼は、アイドルでもないし、人気者ってワケじゃない。

一般人からのイメージじゃあ、地味らしい。

でも、人気者である僕らから見たら、彼が輝いて見えた。

ルックスは、同じくらいなのに、なぜ、彼は人気者じゃないんだろう。

彼は何で悠々自適に学校生活を送れているんだろう。


それは、口では簡単に説明できない。

ただ、最も近い答えを言うならば・・・・。


狼君は・・・普通の人だから・・・。



≪あれ?何か特に誉め言葉でもなんでもないような?≫

「そ、それで将騎先輩・・・狼先輩は・・・その、す、すす、好きな人とか」

夜珠ちゃん・・・。君も人気者でありながら、狼を好きになった人間の一人。

でも、残念だけど・・・・狼にはもう、好きな相手がいる。

これは僕の予想だけど。というか、客観的に見た結果なんだけど・・・。

狼君は、きっとあの人と一緒になるんだと思う。

だから・・・君に入れる余地は無い・・・。

ごめんね。でも、無理に希望を持たせるなんて事の方が、僕にはできない。

狼君が結局誰を好きになるかなんて、第三者が決めれるわけ無いし、答えがわかるわけも無い。


「・・・狼君には、もう好きな人がいるんだ・・・残念だけど・・・」


初恋が終わる時ほど、辛い時は無い。

その証拠に、夜珠ちゃんはショックを隠しきれない様子だ。


雲行きが怪しくなって、すぐに雨が降ってきた。

このタイミングで見る雨は、さすがに嫌な気持ちがする。


僕一人だけの図書室は、妙に静かで、雨の音だけが聞こえた。


ねぇ、狼君。


君は、普通の人に好かれて追いかけられることは無いだろうけど、


僕らみたいな人気者には好かれて、追いかけられているんだよ?


でも、愛し合えるのは一人ずつのみ、だから・・・、


多くの人を泣かせる代わりに、愛する人一人を、しっかり守ってね。


きっと、それが、恋に傷付いた者達への、唯一の傷薬だと思うから。


 雨は、思ったよりも短く、最終下校時には晴れていた。

タイミングよく現れた虹に、僕は笑顔を向けて、図書室を出た。



感想、待ってるよ。 by将騎


恋理論、求む。 by作者


帰れ。 by羊

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