タイプ36「雫パニック!〜逃亡の日〜」
ひっさっしっぶっりっの更新、ヤホー
ゲームセンター
無駄にBGMが大きいその場所に、雫と羊はいた。
ユーフォーキャッチャーを雫が真剣な表情でやっている。クレーンを上手く動かし、猫のぬいぐるみを取ろうとしていた。その横顔を、羊は嬉しそうに見ている。
「・・・・よしっ!」
上手くいったのだろう。雫が歓喜の声を洩らし、猫のぬいぐるみが取り口に落ちてきた。
「すご〜い!雫って本当にユーフォーキャッチャー上手いよね!」
「まぁねぇ〜、ちょろいちょろい」
雫は満足げに、そのアニメチックなおとぼけ顔の猫のぬいぐるみを両腕で抱いた。
「・・・・これ、羊との思い出にするね」
ふと、雫がそんな事を言った。それも、悲しそうなトーンで。
羊はその言葉を聞いて、確かな胸の痛みを感じた。
まるで、突き放されるのが当然のような。別れるのが、まるで決められた運命かのような。
羊はすぐに嫌な思いを頭からたたき出して、あえて平常でいようとした。
「まだ、雫と別れるつもりは無いよ。雫が、一人で辛い思いをするのもイヤ」
羊はそれだけを言って、沈んだ顔の雫に、笑顔を向けた。
「次は何する?どこ行く?何でも言って!」
「・・・そう・・・じゃあ・・・・みんなに会いたい!」
「え?」
「・・・要弧たちに、会いたい」
純粋なその願いは、もちろん、後ろから付いて来ている要弧たちにも聞こえていた。
「・・・・どうする?」
北崎があえて、要弧にそう声をかけた。
「・・・んだよ影薄。私達は雫を守るためにだなぁ」
要弧が一瞬目を擦ってから、強がる口ぶりでそう言いのけた。だが、栗鼠が言い返した。
「護衛ならもうしましたよ。後は、雫さんの近くにいたら?」
要弧が、少し考える。そして、臣の方を見た。
「・・・どうする?臣」
「・・・私は・・・雫のそばに・・・いたい」
臣は、そう言って要弧の手をつかむ。
「・・・行こ?」
臣がそう言うと、要弧もゆっくり頷いた。そして、二人は雫の方へ駆け寄った。
その光景を、北崎達は嬉しそうに見ていた。
「仲、良いんだな」
しゅうが眼鏡を上げながら言う。
「そりゃもう。家族で過ごした時間と同じ位の長さを、彼女達はあのグループで過ごしていたんだからね」
慎が微笑ましく見ている。そして、彼らは、覚悟をした。
「彼女達の悲しむ顔なんて、見たい奴はここにはいないんだから・・・。死ぬ気でやるしかないでしょ?」
慎の軽いもの言いに、ほかの全員が、強くうなずいた。
きっと、大人の目から見れば、自分達のしている事は所詮ワガママでしか無いだろう。
それでも、仲間を大切にする気持ちが間違いだとは思ってない。
しかも、結婚とか、自分が好きになる相手ぐらい、自分で決める権利はあるはずだと思う。
好きになる過程とか、ぶっちゃけ知らねぇ。
それでも、誰かを好きになったかどうかぐらいはわかるつもりだから。
子供達の未来を作る手助けが大人のすることであって、未来自身を作るのは、きっと子供だと思う。
だから、見守っていて欲しい。
直接手を出すとかじゃなくて、口を出すのでもなく。ただ、見ていて欲しい。
それすらも、ワガママなのかな?
「雫!お前学校サボって何してんだよ!」
要弧が雫の後ろから声をかける。そしてビックリして振り返る雫。
「え!?ど!どうしたの二人とも!」
「・・・別に・・・気にする事は無い」
臣が笑ってそう言った。
「二人とも、スーツ姿だよ?」
羊が笑ってそう言うと、二人はしまったという表情になる。
だが、雫は全く気にすることなく、二人に言った。
「ねぇ!公園に行こ!外の空気が吸いたくなった!」
四人は仲睦まじく、ゲームセンターを出た。
そして、北崎達もそれに続く。
その時、北崎に携帯が鳴った。
北崎はすぐに電話に出る、案の定、狼だった。
『イケメン崎、今葛木と話し終わった所だ』
「そうか、で?どうだった?」
『それが・・・更にややこしい事になってよぉ』
「まじかよ・・・で?どんな風にややこしく?」
『簡単に言うと・・・葛木側からは婚約破棄ができない、つまり・・・全て南字が決めた事らしい。これは状況が厳しくなった、少なくとも南字の連中に捕まると厄介だ。だから、絶対に雫と羊から目を離すなよ。わかったな?』
「わかったわかった、簡単すぎて話を聞いてないくらいだ」
『もう百回くらい言ってやろうか?』
「いや・・・十分覚えているから大丈夫だ・・・ところで、南字が黒幕とわかった所で、今後の作戦は?」
『そうだな・・・実は今こっちで奈絵美が作戦を考えたようでさ、まぁその為に今からオレ達はまた別の所へ移動するから』
「ほう・・・つまり、後は任せて逃げ続けろと?」
『まぁそういう事だ、頼んだぞ?』
任せとけよ。北崎はそう言って携帯を切った。
店内にはもう北崎しかいない。他の男性陣も外へ出たようだ。
北崎は特に慌てず外へ出た。そして、驚愕の光景に目を見張る。
通行人が怯えながら遠退いて行く。それもそうだろう。今しゅうと音恩がヤクザのような風体の男達にリンチされている。五人がかりで地面に倒れている二人を蹴り続けていたのだ。
隅では要弧と臣が倒れていた。目立った外相は無いのでリンチではなく眠らされたと思われる。北崎は逆上して五人の男達につっこもうと走り出した。しかし、誰かに腕をつかまれた。
「なんだ!!」
北崎がそう怒鳴って、止めた人物を見た。
「私よ」
栗鼠だった。彼女は北崎の腕をつかんだまま、こっちに来てと言った。
「バカ!しゅうと音恩が!」
「二人は雫とお姉ちゃんを逃がすためにわざと捕まったのよ!あんたが今出て行っても無駄よ!だから・・・だから、今戦えるあんたがいなくなったら、誰が雫を守れるのよ!」
栗鼠は顔を前に向けたまま走り出した。そして、何が起こったのかを手短に伝えた。
待ち伏せさせられていたらしい。ゲームセンターを出ると、明らかにガラの悪い男達が10人ほどいた。そのうちの二人がすぐに要弧と臣に飛びつき、布で口と鼻を押さえたらしい。そして二人はすぐに気を失った。暴力を振るわない所を見て、どうやら要弧も臣も女だとばれているようだ。そして雫と羊にも同じく眠らそうとした所で、しゅうと音恩が飛び出してきた。その間に将騎と慎と美緒が二人を連れて逃げ出した。しかし栗鼠だけが北崎を連れてくるため近くで身を潜めていて、今に至る。
「みんなはどこに逃げたんだ?」
「一応私の家に向かっているわ。そこになら骸骨もいるから」
「骸骨?・・・もしかして」
「え?あんた知ってるの?」
「・・・いや、まぁ・・・一応ね」
二人はとにかく走って雫たちを追いかけた。
雫たち五人が必死に走って狼の家を目指していると、雫がポツリと言った。
「・・・ねぇ、もしかして・・・みんな私の婚約を阻止しようとしてる?」
「え?今頃気付いたの?」
慎が走りながらも笑顔でそう言った。
「・・・もう・・・いいから」
雫はそう言って立ち止まった。
急に立ち止まったので雫以外の全員が派手にすっころんだ。
「あ・・・ごめんね」
「急に立ち止まらないでくださいよ!もう!ホラ急がなきゃ!」
将騎がそう言うが、雫はもう動くつもりは無いらしい。笑顔でこう言った。
「・・・ありがとう・・・みんなと一緒にいられて・・・楽しかったよ」
その清々(すがすが)しい笑顔は、悲しい表情にも見えた。
「変態やナンパ師・・・・まぁもとい、しゅうだったか音恩だったか、あいつらも・・・短い間だったけど、狼以外の男友達としては、いい奴らだったな。まさか、体張って守られるなんて・・・思ってもなかった。いつもはバカやっているくせにね・・・。将騎、あんたもよくがんばってくれたよ。弱そうな感じのくせに、根性あるじゃん。陰薄は・・・ここにいないけど・・・まぁ、あいつも悪い奴じゃなかったよ。適当でごめんね。美緒ちゃん・・・臣を巻き込んでごめんね・・・辰来くんにも謝らなきゃダメだな。でも・・・もうできないかも。慎・・・いい加減男らしくしろよ?・・・でも、あんたが狼の次にできた初めての男友達なのよね?・・・全然男っぽくなかったけどね」
雫は泣きながら、それでも、笑顔を絶やさずに言った。
それを、全員が苦痛の表情で見ていた。
「・・・栗鼠ちゃんに臣に奈絵美も要弧も・・・私の最高の友達だよ。みんながここにいないのは・・・結構残念だけど・・・思い出は・・・大切にするから。私がいなくなっても・・・みんな、元気でいてよね。一番明るかった私がいなくなったからって・・・暗くなったりでもしたら・・・承知しないんだから・・・ねぇ・・・羊」
「・・・なに?」
羊は涙声で、返事をした。
「・・・みんなの事、お願いね・・・羊にだったら・・・任せられる!・・・だから、もういいよ?・・・私のことは諦めて」
「あきらめれない!」
羊は雫の手をつかんだ。
「あきらめられるわけ無いじゃん!絶対にあきらめないんだから!」
そう叫ぶ羊、その叫びに、他のメンバーが、奮い立った。
背後で男達の怒鳴り声が聞こえる。どうやら追いつかれたようだ。
雫が羊の手を振り解こうとする、だが、羊は強く握った。
「だめだよ羊、手を離して」
「はなさねぇ!」
羊が強くそう言った。だが、男達は無慈悲にも、躊躇なく近づいてきた。
「・・・雫さん・・・僕、初めて誉められました。根性があるって」
ふと、将騎がそんな事を言った。
「え?」
「いつもは・・・弱虫だと・・・根性なしと・・・臆病者と言われてきて・・・北崎君達に、いつも助けてもらっていて・・・そんな情けない僕を・・・雫さんは・・・根性のあるやつだって・・・言ってくれた」
将騎は男達を睨みつけて、最後の言葉を言った。
「僕は、そんな雫さんの言葉を裏切りたくない!」
将騎が果敢にも一人の男に体当たりをした。
相手は大人の男なのに。自分より大きな体の相手に、将騎はありったけの勇気を込めた。
相手は油断をしていたようだ、将騎の体当たりは見事に一人の男を押し倒し、気絶させた。
「逃げろ!」
そう言ったのは慎だった。
「羊、雫を頼んだ・・・オレも、男として戦ってやるよ」
慎がそう言って、笑った。だが、その表情はいつものとは違う、男らしい表情だった。
「そ、そんな・・・私が今出れば丸く収まるのよ!だから」
「違いますよ雫さん」
美緒がすかさず言った。
「みんな、雫さんのために動いたんです・・・なのに・・・雫さんが捕まったら元もこうも無いでしょ?・・・逃げてください」
「で、でも!できないよ!」
「甘ったれないでくださいよ!臣姉もあなたのために体を張ったんです!その頑張りを無駄にするのなら!私は一生あなたを許しませんから!!」
美緒の激怒に、雫は何かを気付かされた。
そして、美緒がふっと笑う。
「みんなと一緒にいたい・・・それを、みんなが望んでいるんですよ」
美緒がそう言うと、突如男が美緒の背後に立っていた。
「み!美緒ちゃん!」
雫がそう言うと、美緒はようやく男に気付いたようだ。
「はは!おせぇよ!このガキを放して欲しかったら!」
「そういう事は、捕まえてから言いなさいよ?」
美緒はすぐに男の足の指をかかとで踏みつけた。そして素早く痛がる男から離れる。
「私達は大丈夫ですよ、援軍もきたみたいですし」
美緒の目線の先には、将騎に殴りかかっていた男を殴り倒す北崎と栗鼠がいた。
「さ、行って下さい」
「・・・ありがとう・・・みんな・・・本当にありがとう」
「・・・行くよ!」
羊が雫の手を取って、二人は走りだした。
そろそろ、結末の時。
てか長ぇ、早くギャグに戻りたい。