タイプ34「雫パニック!〜最後の日〜」
「い・・・生きてる・・・生きてるぞぉオオオ!!!」
作者は本当に生きているだけです。ダメじゃん。
寒い朝、霜が降っているので、玄関先の草木は軽く白がかっていた。
雫はマフラーを首に巻いて、玄関先まで見送ってくれた母を振り返る。
「いってきま〜す」
「・・・ねぇ、雫・・・本当にいいの?」
母は辛そうな顔で大事な一人娘を見た。母の目には、涙が溜まっていた。
「嫌だったら言えばいいのよ、お母さんだって自分の信じた道を進んだの・・・その所為で雫には迷惑かけちゃったけど、今ならまだ!」
「・・・大丈夫だから」
雫は笑った。
雫自身、もっとマシな言葉はなかったのかと内心後悔していたが、この言葉が精一杯のようだ。彼女もまた、溢れそうな涙を堪えていた。
「お母さんもお父さんも、ずっと私の親でいて欲しいの・・・それに、おじいちゃんにだって、迷惑かけるのは嫌だから・・・後悔はしてないよ」
無理やり笑顔を作った。
なにせ、今日が最後の・・・みんなと一緒にいられる日だから。
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狼達と初めて出会ったのは中学校の入学式の時。
幼稚園の頃からの幼馴染である要弧と狼、そして小学校の時に奈絵美と臣に二人は出合った。
要するに、私がみんなの中で一番遅くに知り合ったのだ。
初めて要弧や狼を見た時は、何ともいえない滑稽さがあった。
要弧も臣も奈絵美も狼をいじめているようで、実はかまって欲しそうで。
そんな様子を見て、友達になりたいと思うのに時間は全くかからなかった。
私は恋の架け橋になってやろうと思った。特に要弧の。
理由は特別にあるわけではなかったが、強いて言うなら、要弧が一番良く墓穴を掘って狼と気まずい雰囲気になっていたからだ。見ていて助けたくなった。
そんな理由で、狼と要弧をくっ付けさせようと動こうとした。
だが、私は狼と顔をあわせる度に、カチンとくる悪態ばかりついていた。
それで狼が怒る様子がおもしろかった。いちいち面白い反応をしてくれた。
いつから、好きという感情が芽生え始めたのだろうか?
いつも悪態ばかりつく私なのに、なんだかんだ言って側にいつもいてくれたからだろうか?
いや、狼にそばにいるとかいないとかの概念なんか無い。
みんなと一緒というのが、私達の中では、当たり前なのだ。
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雫が学校の校門近くに来ると、後ろから誰かが抱きついてきた。
「雫!あはよ!」
「羊?・・・うん!おはよ!」
羊が笑顔で雫に挨拶をした。昨日は泣いていたが、もう吹っ切れたのだろう、雫はそう思った。
「ねぇ!早速だけど今日学校サボって遊ぼう!」
「えぇ!?・・・どうしたのよ急に?」
「急なのはお互い様でしょ?」
羊が自信満々な表情で雫にそう言った。
≪・・・お別れパーティーかぁ・・・ま、折角だし!≫
雫は胸の奥にある寂しさを確かに感じながらも、笑顔で羊に返事をした。
学校をサボって繁華街に来た。
平日の繁華街は初めてだが、休日よりは人が少ないといった程度なだけで、相変わらず人込みはひどいものだ。
「・・・もしかして、羊だけ?」
「うん、そうだよ?」
他にメンバーがいないことに、雫は内心がっかりしながらも羊と会話をしていた。
「ところで、何して遊びたいの?羊」
「う〜ん、それじゃあ、アクセサリー店なんかに!」
制服で平日に堂々と遊ぶのも抵抗はあったが、慣れてしまえばどうという事は無い。
二人はいつもの様子で店を回っていた。新刊の漫画本に対して感想を言い合ったり、最近流行のクレープ店でお喋りをしながらクレープを食べる。
「・・・・楽しそう」
「まぁな、あいつらにはやっぱりああいった軽い感じの笑顔がお似合なんだろ?」
臣と要弧がこっそり二人をつけていた。
常にSPが見張っているためただ単に雫を連れて行こうとしても、すぐに捕まるのは目に見えている。なので狼達はSPの処理をまず実行する事にした。
まず一番雫と仲が良く、更にSPの男達を油断させれる容姿の持ち主という事で羊が雫を連れまわす役をする。そして要弧と臣はホスト姿に変装して二人の後を付ける。もちろん二人はエサだ。SPは当然の如く怪しく見える要弧と臣の目の前に現れるはずだ。
そして、後ろで待機している男性陣にSPを退治させる・・・という作戦だ。
≪それに・・・もしSPを抑えれなかったとしても、羊にすぐ連絡を入れて逃亡をしてもらう、足の速い二人ならSPを撒ける・・・後は運しだいね≫
要弧は緊張した面持ちで二人をつけていた。
羊と雫はCD店に入って行った。今の所変化は無い。要弧も臣も店内に入ろうと自動ドアに向かった。
「すみません・・・お待ちいただけますか?」
≪≪きたっ!!≫≫
要弧はさり気なくポケットの中の携帯に手を伸ばし、一斉送信のボタンを押した。あて先も内容もあらかじめ書いておいた、そして・・・メールは全員に送信された。
「・・・なんすか?」
要弧は振り返りながらそう言った。相手は案の定、SPらしきスーツの男。更にもう三人後ろに続いていた。
「先程から尾行しているだろう?それとも・・・付きまとっていると言ってやったほうが理解してくれるかな?」
脅しの目で静かに男は言った。プロの脅しは本物だった。要弧も臣も体が震えた。
「さっさと失せれば見逃してやるよ、水商売のガキども」
「あぁ!?なんだよおっさん?俺らが何してるって?」
要弧は意を決して野次を飛ばす、臣も平然を装った態度ができた。
「俺らと話がしたいならもっと人気の無い場所にでも行こうぜ?」
「・・・仕方ない、おい、お前が行け」
さすがにただのケンカでは四人とも付いて来るわけがなかった。だが、完全にこいつら四人を抑えなければならない。要弧は先に動いた。
偉そうに命令をしていた男の鳩尾に、右の拳を叩きいれた。
奇襲は功をなして、恐らくリーダーであろう男は情けなく両膝を地面につけた。
もちろん要弧にしかできない芸当である。速さと慣れた打撃が必要だからだ。
「お!おい!」
「グ!ゴホッ!・・・先に手を出した事を・・・後悔させてやるよ」
冷静な口調でありながら四人の男達は明らかに怒りの形相で要弧を睨む。
そして四人は一斉に動き出した。要弧に目掛けて容赦なく攻撃を仕掛ける。
しかし、四人の男達の動きは途中で停止させられた。
それもそうだろう、彼らの背後には分散して尾行していた狼達がバットを片手に立っているのだから。つまり頭を叩かれたのである。当然四人はあっけなく気絶して夢に旅立った。
「よし、意外と隙の多いやつらで助かったぜ」
音恩がそう言いながらSPの一人から携帯を拝借した。
「・・・葛木葵・・・十中八九こいつが今回の横から美少女を何の苦労もなしに手に入れれるボンボンのムカつく男だな」
「音恩の怒りが痛いほど伝わる紹介だな」
しゅうがそう言いながら倒れているSP達を道の端っこに寄せた。
「さて・・・面倒なお相手の連絡先を手に入れれたようなので・・・俺と・・奈絵美に辰来、この三人で話をしに行く。後は羊と雫のデートの監視を頼んだ」
狼はそう指示を出して音恩から受け取った携帯で、葛木葵に電話をかけた。
呼び出し音が数回鳴って、意外と早く、相手は電話に出た。
『どうしたの小田?まさかとは思うけど雫さんを逃がしちゃったの?』
「大丈夫ですよ、雫をたった一人でどこぞの金持ちに嫁入りさせないようにしっかり守っているので・・・どうぞご安心を」
『・・・へぇ、ただの高校生だって聞いていたのに・・・プロのSP四人を抑えるほど強いなんて知らなかったなぁ』
幼い感じのする声色だが、男には間違いないようだ。
「とりあえず、話がしたいですね。会って話をしましょうよ」
狼はさり気なく提案をする。そして返事はあっさりと返ってきた。
『いいよ!場所はセンタースカイビル。知ってるよね?港の近くだよ。じゃあ・・・待ってるから』
相手は子供のような印象の奴だった。だが、声と口調とは裏腹の、黒い部分が見え隠れした気もした。
いよいよ、狼達は雫の婚約者と会う事となった。
消息不明だったATURAです。
なんか、もう、本当すみません。
初めの頃にコメントを下さった人達は今でも見ていてくださっているのでしょうか・・・。
あ、やべ。本編が妙にシリアスだからオレまでシリアスになっちまったよ。
感想・・・待ってます。
どう?シリアスっぽい?by作者
帰れ by羊