タイプ3「危機到来!」
栗鼠は朝ごはんを食べるとさっさと遊びに行ってしまった。
しかしよく考えてみれば昨日帰ってきたのは珍しい事だった。
いつもなら二週間おきにしか帰ってこず、帰ってきたと思えば『お金頂戴』といって無駄にある親の貯金をもっていくのだ。
「さて、今日は一日暇だったよな?」
「おう、確かそのはずだ」
『そうなんか、じゃワイ外散歩してくるさかい』
「骸骨が外歩いて良いのか?」
羊が怪しいものを見るような目で悪魔を見る。
『心配ないて、姿消すさかい、ほな、なかよーな』
壁をすり抜けていってしまう悪魔、
「本当、変な奴だな」
狼が溜め息をついて言った。
「・・・なぁ」
皿洗いを一緒にしている羊が狼に話しかけた。
「・・・これから、俺はどうやって生きれば良い?」
「は?・・・いや、別に普通に生きれば?」
狼は軽く返す。
「まてよ、じんは男だから今まで通りでいいが、オレは女になったんだぞ?」
「あ〜、それは確かに大変だな」
「他人事みたいだな、オレの事なのに」
「別に他人事じゃねぇよ、本当に大変だって思ってるって」
「ほう〜?・・・例えばどこが大変なんだ?」
「えぇっ!?・・・そりゃあ、身だしなみを気にするのが大変だし」
「それぐらいやらない女だっているだろ?」
「あ!あとトイレの時は困るな、周りが女子だと気まずいだろ」
「女子トイレは全部個室だぞ?隔離されているだろうが」
「そうか・・・あ!ほら!・・・ないな」
「なんだその薄いリアクションは?」
「だってよ〜、よく考えたら女になってもあんまかわんねんじゃね〜の?」
「・・・・ふぅ〜、オレがモテない理由が少しわかったよ」
「な、なんだよ唐突に?」
「いいか?女心がわからないやつに惚れる女がいると思うか?」
「・・・知らん」
「ダメだな、手の施しようがない」
「ひどいな、それより、結局、女になって大変な事ってなんだよ?」
「・・・・女と結婚できない」
羊がそう言うと、狼は『そうか!!』という派手なリアクションをとった。
しかも思い余って皿を落とす、そしてあたかも時が止まったかのような空気、
口をあけて顔が黒くなった狼に羊は『真剣に聞け』とだけ言った。
「・・・女って、すげぇ大変だな」
「結婚できないって言った瞬間自分の考えをあっさり捨てるな貴様」
「だって、女と結婚できないって、つまり女の子と付き合えない、付き合えないって事はモテない、モテないってことは・・・それは人生の敗北」
「それは男の場合だろ?俺が言いたいのは、精神が男なのに体が女になってしまったからこそ、もしかすると男と付き合う事になるかもしれないだろ?それを困ってるんだよ」
「・・・・なに?」
「あ?いや、だから、中身は男のオレが外見が女になってしまった故に、男と結婚するかもしれないのが嫌なんだよ」
「・・・それって間接的にオレが男と付き合ってるって事になるよな?」
「うん・・・まぁ、そうだな」
狼がまた皿を落とす。
「お前これで二枚目だぞ?割った分買いに行けよ」
羊が何か言っているが、狼には聞こえなかった。
「お〜い、どうした?」
狼はこの上ない衝撃を受けて、固まっていた。
「我ながら、情けない」
羊が固まった狼を自分のベッドに寝かせながら言った。
「ったく、何でオレが自分を運ばなきゃいけねーんだよ?」
そう言いつつも、狼を寝かせると、羊は洗濯物をしに下へ降りた。
ふと、途中で壁にかけてある鏡をみる。
「・・・え?」
たしかにそこにある顔は、美しい顔だった。自分の顔とは思えない、まぁ自分の顔ではないのだろうが、
「にしても、オレだけ女って、不公平だな〜」
鏡を見て文句を言う羊、だがすぐに洗濯物がある事を思い出し、下へ降りた。
午後12時、その時間になって、羊はあることを思い出した。
「・・・・たしか、ようこ達に飯をおごるんじゃ?」
血の気が引いていく、
「しまった!じんをおこさねぇと!」
掃除中だった為、掃除機を持っていた羊だが、要弧の恐ろしさを知っているため掃除機を投げ捨て二階へ駆け上がった。
「おい!じん起きろ!」
「はい!起きてます先生!」
完全に寝ぼけている狼、だが意識はあるようだ。
「今日はようこ達に飯をおごる日だったろ!!」
「・・・あぁああああああ!!!!」
狼も青い顔をしてベッドから飛び出る。
「ようこはまだ来てないよな!?」
「おぁ、まだ来ては」
「ピンポーン」
≪≪きたぁああああああ!!!!!!≫≫
心の中で叫ぶ二人、
「仕方ない、じん!お前は早く用意しろ!ようこはオレが何とかする!」
「わかった!頼んだぜひじり!」
さすが元一心同体、
ナイスなコンビネーションで自分の危機を脱しようとする。
「お〜い、じん〜?」
要弧が玄関で狼の名前を呼ぶ。
すると、ドアが空いた。
「遅いぞ〜、早くして・・・え?」
「あ、こ、こんにちわ〜」
羊が愛想笑いをする。
「・・・・どなた・・・ですか?」
「はい、私はじんの従兄弟のひじりです、はじめまして〜」
精一杯の笑顔をする羊、すると、要弧はなんだか顔が赤くなっている、
それと同時に、なにか悲しそうな目をした。
「・・・え?ど、どどどどどうかささされましたか?」
殺されるのではと怯えはじめる羊、だが要弧はすぐに笑顔になった。
「いえいえ!はじめまして、赤城ようこです、じんの友達です」
笑顔になった要弧、正直狼はそれを見たことがなかった、そして人格は狼なのだから、羊も見たことがない、だからそれを初めて見た羊は、かわいいと思った。
≪ようこにも、こんなにかわいいところがあったんだな≫
正直かわいい場面ならお前が常日頃要弧と接している時いくらでもあったよこの鈍感ヤローというツッコミがあるものだが、無論、本人は知る由もない。
「よし!サンキューひじり!」
後ろから遅れながら狼がやってきた。
≪よし!これでオレは開放される、よかった〜≫
と心の中で独り言をする羊、
だが、現実そんなに甘くなかった。
「え?どうせならひじりも来なよ」
要弧が羊にそう言う。
そして固まる二人、
「え!?いや?アハハ?なに?」
「え?いや、だから、一緒にご飯だべようよ」
要弧が普通に誘う、だが羊には『来い』と言っているように聞こえた。
「ちょ!ちょ、ちょちょ、ちょっと待て」
「なんだじん?」
≪あれ?なんか口調変えてませんかようこさん?≫
そう思いつつ、狼は言葉を続けた。
「じ、じつは、ひじりはオレの従兄弟なんだ」
「あぁ、さっき聞いた」
「き、聞いたんなら察しろよ」
「何を?」
「え?・・いや、その?・・・い、従兄弟と飯食うなんて変じゃん、なぁ!」
「え?まぁ、そうですよね〜?」
「いや、変じゃないだろ、それに一緒に食べないなら一緒に住んでご飯どうしてるんだよあんたら」
「「あ」」
「じゃ、決定、一人増えるからって困るなよ、情けないぜじん」
一人勝手に決めてしまった要弧、
そして『そうじゃねぇんだよ!!』と心の中で叫ぶ狼と羊だった。
「うっそ〜!こんなじんに美少女従兄弟がいたの〜!?」
雫が何気に狼をけなしながら羊を見て驚く。
「・・・・・」
無反応の狼、それもそうだ、ただでさえ羊がついて来てしまったのと、何気に指定された店がお高いイタリア料理店なのだから。
目が白くなっている。
「さ!今日はじんの奢りだから一番高いの選ぼうよ!」
雫がノリノリでふざける、
「ひじりは前はどこに住んでいたの?」
眼鏡の奈絵美が質問をしてきた。
ショートカットで今日はミニスカートをはいている。
いつもはあまり話さない、よく話すのは勉強のときだ、分からない部分を聞けばいやみを入れながらではあるが事細かく教えてくれる。
「え!?・・・ふ、フランスです」
適当に先日親が手紙を送ってきた時の内容を思い出してフランスで仕事中なのを思い出し答えた羊。
「ほう、だったらフランス語が話せるのかい?」
「え?いや!あ、あの、じつは、に、日本人専用の学校でしたので、フランス語は話せません」
「そうなのか、残念だな、フランス語なら私も知っていたからフランス語で会話をしたいと思っていたのに」
≪どれだけ勤勉なんだよあんたは≫
「・・・動物は・・・好き?」
今度は臣が話しかけてきた。
無口な性格ではあるが根暗ではない、
その証拠にスポーツがだいの得意である。
まぁ男で例えるならクールといったかんじだ。
だが学校の男子の間では「ミステリアス美女」だのなんだので結構人気がある。
服装もラフでジーンズにシャツを着ている。
まぁ常日頃から無口なのだから話すことはない、
だが良くわからないがよく一緒の委員会をやる。
それでよく顔をあわせるがなかなか会話はない。
正直ミステリアスなのは認める・・・。
「ど、動物で好きなのは、小さい小動物とかが」
「カメレオン?」
「えぇ!?いや、爬虫類はちょっと・・・かわいいのが好きです」
必死に女の子っぽく振舞う羊、
さすがにここまでぶりっ子をしていると自分で自分が気持ち悪く感じられる。
だが、ここで変に目を付けられたくない、普通の人として生活しよう、そう羊は決めていた。
「・・・おいじん」
「ん?どうしたようこ?」
要弧が羊が雫たちと話しているうちに狼のほうへ話しかけた。
「お前に従兄弟っていたのか?」
「ぅん!・・い、いたよ」
「何だその変な返事は?まぁいい、だが従兄弟を見るのは初めてだぞ?幼馴染なのに」
「あぁ、ああ、ぁあ!あれだ、フランスにいたからさひじりは、それで今回どうしても日本に来たいって言って、まぁ来たわけよ」
「なんかさっきからお前変だぞ?・・・だが、事情はわかった、つまり、お前は昨日からひじりと一つ屋根の下で生活しているわけだな」
≪まぁ、本当のこと言うとひじりは俺だから生まれた時から一緒なんだがな≫
「まぁ、お前に限ってそんな事はないと思うが」
「ん?・・・なんだ?」
要弧が狼を睨みながら言った、
「夜中にひじりの叫び声が聞こえたらお前を真っ先に殺す」
≪いや、まぁ、本当に従兄弟という関係でそんな事態になったら殺されても仕方ないが、アイツはオレだぞ?・・・いや、わかるわけないか・・≫
「バ〜カ、変なことしねえよ、気にしすぎだ」
「わかった、お前の言葉、信じてやろう」
要弧がそう言うと、少し笑った。
安心したような笑みだった、かわいいその笑顔を、
≪ヤベェ!悪魔の笑みだよ!?オレを殺している場面でも想像してるのか!?≫
この鈍感は勘違いしていた。
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