タイプ24「その気になればナンバーワン」
そうだよ!誰だってその気になればナンバーワンなんだよ!
いや、無理か
狼がようやく休憩室の掃除を終えて次の仕事を聞くためオーナーの部屋へ向かっている。
「・・・おかしいな、ホストの人と一切会わない・・・みんな働いているのか?」
狼がそんな疑問を口に出していると、右側のドアがいきなり開いた。
「ドゴッ!」
予想通り狼の顔面に当たる扉。
「・・・え?」
ドアを開けた主は情けない声を出していた。
「・・・っつてぇええええ!!!!誰だゴラァア!!!ケンカ売ってんのかおい!!」
あまりの痛さに我を忘れて怒る狼。
「ご、ごめんなさい・・・い、急いでいたので・・・本当・・・すみま」
「バタリ」
狼が鼻を押さえていた手をどけると、通路に倒れ込んでいる一人の少年。
「・・・・いや、なに?なんだよ?」
狼が少年をつつくが、反応がない。
「・・・んだよ、変な奴だな」
狼は不満がかなりありつつもその少年を起こし、少年が出てきた部屋に運ぶことにした。
かなり細身だったので簡単に抱き上げる事ができた。
そして部屋に入ると、そこはベッドしかない個室だった。
「なんだ?従業員の緊急用寝室か?」
そんな事を言いながら、狼は少年をベッドに寝かせる。
「ったく、世話の焼ける坊主だ」
そう言って狼は部屋を出ようとした。
「あの・・・待って・・くれませんか」
いきなり呼び止められる。
「・・・なんだよ?」
狼が振り返ると、少年は上体を起こして、狼に乞うような目をした。
「・・・・なんだよ?」
非常に嫌な予感のした狼だったが、一応聞いてみる。
「・・・僕の変わりに、ホストしてくれませんか?」
か細い声で言う少年、そして捨て犬の様な乞う眼差し。
「いや、断る、無理だし」
意外と狼は血も涙もない冷血漢だった。
「お、おねがいします・・・僕、なんだか貧血みたいで」
「みたいじゃなくて貧血なんだろ、大人しく寝ていろ」
「で、でも・・・お客様が待っているから」
「仕事優先ってか?子供らしくない事はするな」
「・・・こう見えても、一応高校生です」
「知らないのかい?高校生はまだまだお子様なんだよ、わかったか坊主?」
「・・・あなただって高校生でしょ?」
「・・・・こ、こうみえても二十歳だ、ざ、残念だったな」
「見え透いた嘘は止めてください、あなたは新顔でしょ?」
「なんだよ、まるでお偉いさんみたいな態度だな?お前こそ下っ端だろ?」
「このクラブのナンバー1ホスト、キリです、ホストの中では一番偉いんですよ?」
「はじめまして、ウェイターのシンです」
こいつ・・・意外と野心家だな。
「こんな所でNo1に会えるなんて光栄ですキリさん」
「さっきまで小僧とか言ってませんでしたっけ?」
「記憶がありません」
「便利な頭ですね・・・それで、ホストの代役を」
「え?なに?お水が欲しい?はい!今すぐ持ってきます!」
「・・・いい加減にしないと・・・怒りますよ?」
≪怖いなオイ、その黒い瞳が更に怖さを倍増させているよオイ≫
とりあえず狼はふざけるのを止めた。
「でもよぅ、やっぱオレには無理だって、そもそもホストに向いていない」
「・・・あなたは・・・外見で、ホストになれると思っているんですか?」
「うん、まぁ、100%」
「はっきり言わないでください・・・・ホストになるだけなら、外見がよければ確かに誰でもなれますけど・・・本当のホストは・・・気持ちだって・・・必要なんですから」
「ふ〜ん、で?オレのような外見もダメで気持ちも無いような男はどうすりゃいいの?」
「・・・もういいですよ・・・そこまで、ホストをしたくありませんか?」
「うん、したくないね」
「・・・それは差別ですか?」
キリは怒った表情で、狼に聞いた。
「水商売が・・・底辺の人間がすることだから・・・馬鹿にしているんですか?」
悔しい顔をするキリに、狼は言った。
「底辺の人間ができる事なら・・・オレだってやってやるさ・・・でもな、人を相手とした仕事っていうのはさ、簡単じゃないだろ?・・・オレは、世間の考えには流されない、だから、この仕事に対して差別なんかしていない、ただ純粋に、オレには無理だって言ってるだけだよ」
「・・・そうですか、それを聞いて・・・少し安心しましたよ」
少し笑ったキリは、上体をベッドに戻した。
「・・・今の仕事に、誇りを持っているんだな」
「プライドですよ、母親が苦心して開いたこのお店を、守るためにも、もっと大きくするためにも、姉と一緒に、がんばるって決めたんですから」
「そうか・・・だったら、今は休んで、明日またがんばればいいだろ?今無理をして体を壊したら、元も子もないだろ?」
「そうも、いかないんですよ」
苦笑いのキリは、真剣な目で、狼に言った。
「今夜、大財閥のお嬢様が遊びに来ます、ここでお嬢様が気に入ってくれれば、このお店の未来も切り開けますが・・・もし、気に入ってもらえず、更に他のお店に盗られたら・・・このクラブは、確実になくなります・・・だから・・・今夜が勝負なんです」
また、キリは起き上がろうとした。
「僕はナンバー1ホストとして、しっかり出迎えないと」
だが、それを制した手があった。
「・・・シン君?」
「・・・・わかったよ、こんなオレでよければ・・・手助けするぜ」
「・・・ありがとうございます」
キリはそう言って、安心した笑みで、また気を失った。
「セイトくんってかわいい〜!お気に入りにしちゃうから!」
「え、はい、あ、ありがとうございます」
テンションの物凄く高いお姉さんに絡まれている羊。
「マナさんセイトが気に入ったみたいですね!どうです?ここでシャンパンなんかは?」
「うん!追加追加!お父さんが今日は気前よくてお小遣いたくさんくれたからまだまだいけるよ〜!」
≪うん、オンオン殺す≫
静かに心の中でどうやって音恩をボコボコにしようか考えていた羊。
だが、周りの様子が少しざわめき始めた。
「んにゃ?オンオン、周りが騒がしいけどどうしたの?」
「あぁ、今日はたしかお嬢様が来るらしくて、多分今来たんでしょ?」
「へぇ〜、どこのお嬢様?」
「ん〜?確か・・・如月財閥のお嬢様だったような」
「わお、かなりビックなお客さんね、このお店もかなり繁盛するでしょ?」
「う〜ん、かもね、まぁ、オレにとって一番大切なお客様は・・・マナさんですけどね」
「きゃー!!嘘でもその台詞嬉しい!」
≪うん、なんだかバカップル同士みたいだな・・・にしても、お嬢様ねぇ?≫
「すみません、オンオンさん、キリさんを見ませんでしたか?」
金髪のヒロと呼ばれていた男が音恩に聞いてきた。
「いや?・・・おい、まさかお嬢様が来たっていうのに・・・いないのか?」
「はい、なんとかナンバー2のユウさんと3のオキさんが相手をしていますけど・・・お嬢様は二人ともタイプじゃないようでして・・・」
≪あれ?ユウは要弧でオキは臣のことだよな?・・・って、ナンバー2と3!?≫
どうりで見かけないわけだ・・・ナンバー2,3とは、やはり男でももてるって事だな。
そう思った羊は改めて要弧たちのすごさを実感した。
「おいおい、どうすんだよ?ここで失敗したら経営に響くだろ?」
「そうなんですよ・・・」
≪うわ〜、いきなり大変な事になっているな・・・どうするんだろ?≫
少し心配の色を見せる羊、だが、もうすぐもっと心配になる光景を見る事になるとは、思ってもいなかった。
「あら?かっこいい子が来たわね」
羊に抱きついていたマナさんがふと、そんな事を言った。
「え?」
振り返る羊。
すると、そこには、黒いスーツに身を包んだ・・・狼がいた。
≪・・・はぁぁぁぁあああああああああ!!!!!????≫
顎が外れそうになるほど口をあける羊。
「すみませーん、お嬢様のお席はどちらに?」
≪ちょ!何言ってるのオレ!?それお前の台詞じゃないから!≫
唖然とする羊、だが、もう誰にも止める事はできないのであった。
感想評価投票クリック!どんどんやってくれ!
登場人物への質問!どしどし送ってくれ!
『こんなキャラクターいたらおもしろくない?』
『コイツが主役の話、読んでみたいぜ』
『漫画化させてください!』
『アニメ化させてください!』
などのコメントも待ってます!
調子にのるな〜 by羊