タイプ18「夏の旅行だ!恋のバトル其の五」
夜も更けたところで、夏の真夜中のスペシャルイベント・・・。
『肝試し』が、幕を開けることとなった・・・・。
夜の林に集まった一行。
「さて・・・皆さん、夜のお楽しみイベント・・・肝試しの始まりですよ〜」
骸骨がさも嬉しそうににやにやしながらそう言った。
「・・・なぁひじり、お前の従兄弟は肝試しが好きなのか?」
奈絵美が不審な目を骸骨に注ぎながら羊に聞く。
「・・・うん、まぁ、ね≪悪魔だからこういうの好きなんだろうな・・・≫」
羊は静かに心の中でそう思っていた。
「では、今度はこのくじ引きで二人組みを作りましょう」
骸骨が部屋割りの時使用した物と同様のやれせクジを取り出した。
≪ふふふ、今度こそしずくとじんが二人っきりになれるチャンス・・・しずくが怖がってじんに抱きつく、え?お前怖いの苦手なんだ?、バカ!・・・だから何よ、いや、かわいいなって思ってさ、え?・・・・みたいなみたいな!!≫
妄想にふける羊、一人でかなり盛り上がっているようだ。
だが、やらせクジが二度もうまく行くはずがなかった・・・。
「あの〜、いちいちくじ引きだと面倒じゃないですか、ジャイケンで決めませんか?」
策士家、慎の登場。
≪な、なぬ!あのオカマやろう!何を言い出すか!?≫
「あ、それ僕も賛成です」
今度は辰来が賛成の意を表明した。
「私も、こんなに暗かったらくじ引きなんてできないと思いま〜す」
そして、もちろん美緒も賛同する。
≪え?え?えええ!!?なんで?何でみんな!?≫
≪≪≪思い通りにはさせない≫≫≫
結局、羊の作戦は潰れたのであった。
ジャイケンでの決め方。≪飛ばしてもいいっすよ≫
まずは骸骨を抜いた14人でグーとパーにみのジャイケンを行う。
そしてグー同士、パー同士に別れる。
これを何度も行い、二人のペアができるまでやり続ける。
ちなみに、奇数グループが現れた時、残ってしまった人間が他の残りの人間とペアになる。
≪くじ引きがだめになった今・・・頼れるのは奇跡のみ・・・お願い!神様!じんとしずくを同じペアに!!≫
≪お姉ちゃんのジャイケンの癖はもう既に見切っている、一番多い手はグーだ!後はじんさんに同じくグーを出すように言えば、一緒になれる確率は高いはずだ!≫
≪なえみちゃんには後出しの技術を完璧に覚え込ました・・・後は常にじん君の手を見て後出しをすればいい・・・完璧だね≫
≪おみ姉は勘が鋭いから心配しなくても絶対じんさんと一緒になれるわ、でも、他のお姉様方がどんな方法で来るのかは要注意すべきね・・・≫
四人が背中に炎を背負いながらジャイケンに挑む。
果たして・・・結果は!!
雫&羊 要弧&辰来 臣&美緒 奈絵美&慎 栗鼠&狼 北崎&しゅう 音恩&将騎
≪≪≪≪逆ミラクル!?≫≫≫≫
まさかのミラクルペアに四人が同時に心の悲鳴を上げた。
雫&羊
暗い森の中を歩く二人、支給されたのは懐中電灯二つのみ。
一人ずつ手に持ってゴールである神社を目指した。
≪なんでじんじゃなくて私なの?そりゃ私は元じんだけどさぁ〜、神様ももうちょっと空気読んで欲しいな〜≫
愚痴を心の中で吐いている羊、ちなみに、雫は先へどんどん進んでいる。
≪・・・な〜んだ、しずくって別に怖いの平気なんだ・・・まぁ気が強いし・・・でもちょっとがっかりな気も・・・≫
羊が一人でそんな事を思っていたら、いきなり木の枝が揺れた音がした。
羊がその音のした枝に目を向けると、フクロウが一匹いた。
「な〜んだ、ただの鳥か」
精神が男であるため驚かない羊。
だが、目の前の雫が動きを止めてじっと立っているのを見て怪訝な思いをした。
「・・・ど、どうしたの?」
「・・・・怖いの・・・」
雫はそう言うと、いきなり振り返って羊に抱きついた。
「え?ちょ!し、しずく?」
「怖いのダメなのよ私!!怖い!本当怖い!!無理だって〜、もう進めないよ〜、帰ろうよぉ〜!」
泣き始める雫、戸惑いながらも少し嬉しい羊。
≪・・・・こ、これはこれでいいかも≫
「大丈夫だよしずく、私がいるから、ね?」
「帰る〜!絶対かえるぅぅ!!もうむりだってぇえ!!」
≪・・・あ〜ぁ、なんでこんなにかわいい子をほったらかしにしてたんだろ、俺って本当・・・・バカだな・・・・≫
温泉からも見えていた月を見ながら、羊はそう思っていた。
要弧&辰来
≪しまった・・・姉弟はよく似るとはいうけど・・・まさか僕もジャイケンの癖がお姉ちゃんと一緒だったなんて・・・てか、気付くべきだった≫
後悔を胸いっぱいに満たしながら、辰来は周りの様子を極力見ないようにした。
「ギャシャァアア!!!」
突如、鳥が奇怪な鳴き声をあげた。
「ノワァアーーーー!!!怖くない!怖くない!全然怖くない!!」
「たつき、うるさい」
要弧が冷たくそう言った。
「い、いや、ほら、その、別に怖くはないけどさ、うん、怖くないけどさ、声出せばほら、元気になるかなって」
足を震わせながら辰来は必死の弁解を試みた、だが、またもやうるさいと怒られた。
≪・・・はぁ〜、普通こういう時は演技でも怖がるのが女の子なのに・・・≫
どこまでも男らしい姉貴に困る弟だった。
≪いや、でも、暗いな・・・ちょ、怖いかも!?いや!怖くない!怖くないぞ!≫
震える体を前に進める辰来、だが、周りの木々がどうも薄気味悪く不安になる辰来。
≪・・・・だめかも、怖くて・・・あぁもう!帰ろうかな?≫
そう思うと、足が不思議と止まってしまった。
≪・・・あ〜、もう・・・どうでもいいや≫
「・・・ったく、仕方なぇなぁ」
止まった辰来を振り返って、要弧はそう言いながら、辰来の手を握った。
「・・・いや、面目ない」
「ったく、さっさと終わらせるぞ」
≪・・・はぁ〜、結局、僕はいつもお姉ちゃんに頼っちゃうな・・・本当、情けない・・・≫
そう思っていたら、手が少し震えている事に気付く。
≪あれ?この震えは僕じゃない・・・≫
そして、辰来は気付いた、目の前の要弧が、震えているということに。
≪・・・そっか、僕を気遣って・・・怖いの我慢していたんだ・・・・なんだよ、もう・・・そんなに女の子らしい所があるなら・・・じんさんの前でも素直になればいいのに・・・・もったいないな≫
やはり、自分がしっかりせねば・・・・。
辰来は、夜空に浮かんでいた月を見ながら、心にそう刻んだ。
臣&美緒
≪・・・まぁ、でも、じんさんの相手はりすちゃんだし・・・じんさんが他の人に取られる心配はないからそれはそれでよしにしよっと≫
美緒はそう思いながら、姉である臣とくっ付きながら歩いた。
≪でもまぁ、退屈だわ・・・全然怖くないし、私もおみ姉も肝試しとか平気だからな〜・・・まぁそう考えると逆にじんさんとペアを組まなくてよかったかも、怖がらない女の子なんてかわいくない印象を受けるかもしれないからな〜≫
のんきにそんな事を考える美緒。
臣もいつもの無表情でのんびりと歩いていた。
≪・・・でも、いつかじんさんと付き合う事になったとき・・・おみ姉がお化け屋敷とかで一切怖がらなかったら・・・それはそれでドン引きされるかも!?それじゃ危ないわ!≫
「おみ姉!」
「え?・・・・どうしたの?」
「おみ姉怖がったことってある?」
「・・・・・ない」
「じゃあさ!少しは怖がる練習した方がいいよ!」
「・・・・・・なんで?」
「だって!例えば文化祭とかでお化け屋敷の出し物の時、お友達が脅かす役だったらさ、全然怖がらなかったら相手がかわいそうじゃん!ね?お友達には親切にしないと」
「・・・・そっか」
「うんうん!じゃあさ、まずは驚いたふりをしてみて」
「・・・・きゃ〜・・・?」
棒読みな上に顔の表情を一切変えず怖がるマネをした臣。
≪・・・いや、どうしよう・・・え?これどうすればいいの?≫
戸惑う美緒、だが、何も言わないわけにはいかない。
「・・・ほら、なんか、もっと、本当に怖がっているように」
「・・・・きゃ〜」
「・・・おみ姉、やる気、ある?」
少し怒り出す美緒。
「ご、ごめん・・・・本当・・・ごめん・・・」
不安な表情になり涙目になる臣。
≪・・・・・それよ!!!≫
「そうだよ!おみ姉泣けばいいんだよ!」
「・・・・・え?」
「女の涙は武器!特におみ姉の涙を見た日には世界が変わるぐらいだから効果は抜群!」
「・・・・何を言ってるの?」
月の下で、二人の姉妹が仲良くそんな話をしていた。
奈絵美&慎
「・・・ことごとく失敗しているね」
「・・・・そうだな」
「海ではじん君を悩殺できた、温泉の時はいまいちだったけど、それでも他の子よりはリードしていたはずだ!」
「他の子?誰だそれは?そんなの知らんな」
「・・・あの〜、その軽い男口調止めてもらえるかななえみちゃん?」
「お前こそ、男の癖に甲高い声まで出して、情けない」
「これは地声ですー!全く、なえみちゃんにはもうちょっと女の子らしさが必要だよ」
「お前には男らしさが必要だな」
「はぁ〜、生意気な態度が許されるのは中学生までのお子様か幼馴染だけだよ、高校生の女の子なら、かわいく!可憐で!優しい性格!この三拍子を守らなきゃ」
「お前は男である条件を守っているのか?」
口答えをする奈絵美に、慎は鋭い目を向けた。
「・・・素直じゃないと、その折角のかわいさが無駄になるよ」
怒気を含ませたその視線に、奈絵美は少し不安になる。
「・・・私だって、別に、男口調が好きなわけでもないし、素直になりたいけど・・・この性格のほうが、じんは好きなはずだもん」
「・・・・はい?」
「・・・だって、だって!じんはようこにだけは優しいもん!私見てたんだから!小さい頃からじんはようこと一緒でさ!小学生の時に私もじんと友達になったけど、じんはいっつもようこの側にいたもん!・・・私も、ようこみたいになれば・・・じんは、振り向いてくれるかもしれないから・・・だから、好かれる女の子になろうと」
「・・・素直な自分を出さない子に、なびく男なんて・・・カスばっかりだぜ?」
慎ははにかみながら、奈絵美にそう言った。
≪・・・ったく、じんも罪な男だな・・・一人の女の子をここまで夢中にさせるなんて・・・まぁ、僕も・・・君に惚れた人間の一人だけどね≫
月は全員に、平等に降り注いでいた。
そんな感じで、夏休みの思い出は作られていく。
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