タイプ2「あれ?二人?」
妹の栗鼠のために夕食を作る狼、
そして風呂に入って自分の部屋に入る。
「・・・ハァ〜」
唯一気の許せる場所、簡素な自分の部屋だが落ち着ける。
狼はイスに座って目の前のパソコンの電源を入れた。
最近ハマっているのは不思議な体験をした話の載っているホームページだ。
怖い話ではなくもっとメルヘンに近い話だ。
人生のどん底から這い上がって幸せになった話や、
九死に一生を得た話など、感動できる話ばかりだ。
どうやら狼はこれを読んでストレスを発散しているようだ。
「いいなぁ、俺もこんな幸せな人生を歩みたいぜ」
いつものように読んでいると、ある話に狼は目が止まった。
『少女になったお話』
興味を持って読んでみると、それはある日突然少年が少女になってしまったお話で、
その後幸せになるという良くあるパターンだった。
だが面白いのは、いじめられっこだった少年が少女になっただけで周りの人間が優しくなってくれたのである。
最後の台詞は『自分が変われば、周りも変わる』というなんとも無茶苦茶なものだ。
性別まで変えねば周りは変わらないのか?
甚だおかしいこの物語に一人感銘をうける狼。
どうやら彼は普通の人より大分ピントがズレている様だ。
「そうか!俺も女になればこの最悪な状態から抜け出せるのか!?」
究極な結論に辿りついた狼、性転換でもする気なのだろうか?
「よ〜し!まずはパソコンで検索だな!」
全く、一体なにに熱中しているのやら・・・。
だが、この行動が大きく彼の人生を変えた。
三時間、女になる方法で検索して真剣に探している狼、
だが出てくるのは性転換かニューハーフについてのものばかりだ。
だが、ある面白いページを見つけた。
『奇跡の黒魔術』
なんとも胡散臭く怪しいページだ。
そこになんと女になる方法が記されていた。
『汝、性を変えたくば次の術を使いたまえ、
一つ、横になれ。
二つ、魔方陣を頭に思い描け。
三つ、このページにアクセスしろ。
以上」
絶対にヤラセだ、というか嘘だ。
なんてアバウトな説明でしかも嘘っぽいんだ。
こんなので性別変わるのなら性転換の手術など誰もしないだろ!
だがそんな常識も、今の狼には気づけなかった。
「よし!横になって魔方陣を頭に描いた!後はこのページにアクセス!」
意気揚々とページにアクセスした狼、
「兄貴〜、朝だぜ?起きろよ〜」
ふと栗鼠の声が聞こえた。
狼はすぐに起きる、
どうやらいつの間にかベッドで寝ていたようだ、
確か何かしていたような気がするのだが?
昨日は何をしていた?
・・・・・思い出せない。
とりあえず今日は休日の朝だ。
狼が妹の為に朝食を作ろうと部屋を出ようとしたときだった。
「ちょっとちょっと」
誰かに呼び止められる、振り返ると、
自分がいた。
「・・・・どなたですか?」
「狼です」
「・・・・俺は誰だ?」
「恐らく狼です」
「・・・・ここはどこだ?」
「狼の、もとい俺の部屋です」
「・・・・なぜ俺の声は甲高い?」
「それはあなたが女性だからです」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「「だぁあああああああああ!!!???!?!?」」
叫ぶ二人、どうやら昨日のアクセスがこんな事態を招いてしまった。
「うるせぇよ!静かにしろバカ兄貴!」
下から栗鼠が怒鳴っている。
だがそんな事を気にしている場合ではない、
「なぜだ?なぜ俺が二人!?」
「それはこっちが聞きたい!しかも女だぞ俺!?」
「どうなってる!?どうなってる?」
「・・・とりあえず、落ち着こう」
『おう、そうしたほうがええで』
いきなりの第三者の声、
二人が同時に声のした上を見ると、死神が浮いていた。
「「だぁあああああああああああ!!??!?!!??」」
本日二度目の叫び声、
「うるせぇよ兄貴!!」
また栗鼠が声を荒げる、だが骸骨の大釜をもった黒いローブのいかにも死神ですといった容姿の謎の生物が浮いているのだ、驚くなという方が無茶だ。
『あんたらさっきからうるさいなぁ、もっと静かにせぇや』
「なんで死神が大阪弁なんだよ!?」
「しかも怪しい大阪弁だな!?エセ大阪弁だぞ!?」
『ドゥントゥウォーリー[心配ない]』
「いきなり英語!?」
「つーかなぜここに死神がいる!?」
とりあえず落ち着いて、
『まず、オレは死神とちゃう、悪魔や』
「そっから違うのかよ」
「ややこしいなオイ」
『そんで、あんたらがこうなってしもたのは、オレを呼び出したからや』
「「いや、呼んでないから」」
『まぁ聞け、ええか?昨日アクセスしたやろ?』
「どこに?」
『黒魔術のページにや』
「うん、アクセスした」
『あれはな、10億分の一の確立でひらくページなんや』
「物凄い確立だな」
『まぁようするに、あんたらはそのページをひらいたさかい、黒魔術を発動させてオレを呼んだわけや』
「だが、俺の願いは女になる事だけで、分身を作るつもりはなかったが?」
『知らんのか?この方法の副作用は「自分が増える」やで?』
「「知らん」」
『ほな、もうゆうたからな』
「つーか、これからどうすれば良い?」
『知らんわ』
「じゃあ元に戻してくれ」
『ほなもう一回ページひらいてーな』
「・・・・は?」
『黒魔術は黒魔術でしか消せへんよ?』
「・・・10億分の一の確立でひらくページをまたひらけと?」
『せや』
「ふざけんな」
「そんなのできるかボケ!」
『そりゃそれでしゃーない、あきらめぇ』
「・・・・なぁ、マジでどうすれば良い」
「お願いです、教えてください」
とうとう頭を下げ始める二人、
『簡単や、今の生活に馴染めばええやん』
悪魔は気楽にそう言った。
『えぇか?オレはあんたらのしもべやからてつどうたる』
「本当か!」
「なんか大阪弁はへんだが頼れそうだな」
『当たり前や!任しとき!』
「で、どうすればいい?」
『あんたらのとこの親は今おらへんやろ?なら妹はんには洗いざらい話して味方になってもらえばええねん』
「なるほど」
「確かに味方は作るべきだな、よし」
早速階段を下りる三人、
そしてまずは狼男バージョンが栗鼠のところへ行った。
「お、おはよう」
「なに?さっきまで叫んでいたのに?妙に落ち着いちゃって」
「なぁ、栗鼠」
「なに?どうでもいいから朝ごはん作って」
「・・・それより、大事な話があるんだ」
「なに?どうしたの?」
「・・・実はな、いろいろあってな、うん、どう言えばいいのか」
「・・・兄貴、彼女できたのか?」
「そんないいニュースじゃない、悪い知らせだ」
「ふん、あのバカ親が事故で死んだの?」
「それも違う、俺についてだ」
「・・・まさか、兄貴・・・病気?」
「い、いや、そうでない・・・と思う」
「嘘だろ・・・どういうことだよ!」
「はい?いえ、なに?何怒ってんの?」
いきなり声を上げる栗鼠、そしてビビる狼、
「病気だったなんて、早く言ってよ!妹に黙ってるなんて最低だよ!」
「違う違う!落ち着け!病気じゃないって!」
「な〜んだ、じゃ何なの?もしかして兄貴が二人になったとか?」
「じつはそうなんだ」
真面目に真剣な顔で答える狼、
一時停止する妹、
それを見守る狼女バージョンと悪魔。
「・・・ふ〜、兄貴、あんた病気だよ」
「俺も最初そう思ったが、現にいるんだ」
「はいはい、とりあえず精神科に電話だな、要弧さん達のいじめがこうなっちゃうなんて、迂闊だったわ、少しは止めるべきだったようね」
「まぁ待て、そして携帯を置け」
本当に電話しようとした妹を止める狼、
「とりあえず、見てもらえばわかる」
そう言って狼女バージョンの方を見た。
「い、いくしかないな」
『おう、ばしっときめや!』
そして出てくる狼女バージョン、と悪魔、
固まる妹、下を向く兄貴。
「成る程、理解はできた」
栗鼠は努めて冷静にそう言った。
「いや、本当にすまない、俺の運が悪すぎて」
『なにゆーとんねん!メッチャ運えぇやん!』
勇気を読まずに突っ込む悪魔、
「黙れ骸骨」
一言で黙らせる栗鼠。
「で、問題は、増えちゃった兄貴、もといこの姉貴を何とかする」
栗鼠はそう言って狼女バージョンを見た。
「にしても本当に兄貴の分身?似ても似つかないほどかわいいんだけど?」
「うん、それ俺も思った」
栗鼠と狼男バージョンが女バージョンを見て言う。
「おいおい、そんなわけないだろ?どうせ俺と似て地味なんだよ」
「まぁそれは置いといて、まずは名前ね」
「そうか、このままだと狼が二人いる事になるからな」
「で?女になった俺の名前を変えるのか?」
「そのほうがいいわね、じゃあ・・・狼の反対で羊はどう?」
「ひつじ?・・・名前としてはおかしくないか?」
「私なんてりすよ、ひつじでいいでしょ」
「せめて読み方変えようぜ?狼でじんだから、羊でひじりって読んだらどうだ?」
「うん、それいいわね、じゃ、決定!」
『名字はどないすんねん?」
「そうね〜、従兄弟って事にして同じ姓でいいでしょ」
「成る程、じゃ羊は従兄弟でここに居候しているって設定だな」
「よし、わかった・・・親父とお袋にはなんて?」
『それなら大丈夫や、オレが記憶の偽造をしといたる』
「さすが骸骨、やるわね」
『お譲ちゃんには負けるわ』
何気に意気投合する二人、
そしてそれを見て心配になる狼と羊だった。