夏祭り、イエス!ナツマツリ!!
さぁ、待ってましたヒロイン視点!夏祭りVr
今日は夏祭りの日、そう、それは特別な日を意味する。
というわけで、今回は狼、羊視点ではなく、ヒロインの要弧視点でお送りします。
デパートの浴衣コーナーでたたずむ要弧。
見ているのはもちろん浴衣。
「・・・・・・」
無言で真剣に見ている。
「ねぇ、あそこの人かっこいいね!」
「本当!浴衣の前にいる人でしょ!かっこいい!」
「でもなんで女物の浴衣の前にいるのかな?」
「バカねぇ、彼女さんへのプレゼントに決まってるでしょ!」
「そっか〜」
通りすがりの女子高校生が大きな声でそんな会話をする、
もちろん要弧にまる聞こえだ。
「・・・・帰ろ」
心なしか暗くなった要弧は大人しく帰った。
要弧の家
「ただいま〜」
要弧が玄関に入ってくる。
「おかえり兄貴!」
するとかわいい顔をしたいまいち性別のわからない子が出迎えた。
そして要弧は何も言わず殴る。
「兄貴じゃないお姉ちゃん!!」
「ご、ごめんお姉ちゃん」
「ったく、この女顔の弟が」
機嫌悪く二階に上がる要弧、それを弟の辰来が追いかける。
「浴衣買ったの?見せて見せて!」
「買ってない!」
「え〜なんで?じんさんに自慢するんじゃなかったの?」
「どうせ似合わないからいい」
「またまた〜、そんな事言ってるから男の子っぽくなっちゃうんだよ〜」
「・・・・」
「ご、ごめん、言い過ぎた」
「いいよ、どうせ本当のことだし」
「・・・どうするの、今夜の夏祭り?」
辰来の問いかけに、要弧はうつむきながら答える。
「・・・いつもどうりの服装で行く」
「それじゃあ、他のお姉さん方には勝てないね」
辰来がわざと嫌味っぽく言う。
「・・・仕方ないじゃん、私外出たら男っぽくなっちゃうし、短髪だし、行動は完璧男だし、女らしくないし、愛嬌ないし、胸はいまいちだし、もう女の魅力ってやつがほとんどないし」
「でもかっこいいっていう魅力があるじゃん!」
「・・・・それでもじんは振り向いてくれないもん」
そう言って要弧は部屋に入ってしまった。
「・・・あ〜あ、お姉ちゃんも勇気を出してメイクすりゃいいのに」
辰来は仕方なく下の階へ降りていった。
≪・・・はぁ〜≫
ぬいぐるみでいっぱいの要弧の部屋、
大抵の人間には裏と表があるというが、ここまではっきりとした裏表のある者も少ないだろう、外では気の強い男勝りな性格だが、家では極普通の女の子である。
≪・・・・どうすればいいのかな?≫
思いつめる要弧、どうやら狼のことで頭がいっぱいのようだ。
≪・・・・あ〜あ、大体、じんのためにこんな性格になったのに≫
そう、要弧がこんな性格になったのは、狼と初めて会った幼稚園の時、
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『じんくん!あそぼ!』
幼い日の要弧が狼に声をかける。
『うん!いいよ!』
初めて会ったとき、そりゃもう二人は仲良かった。
恐らくこのままうまく行っていれば、この二人の恋物語はシリアスな物になっていただろう、
問題はこの次、
『おいじん!女の子とばっかり遊んでかっこ悪いぞ!』
出ました、よくいる見栄っ張りな悪がきです。
『そんなことないもん!ようこちゃんはかっこいいから僕もかっこよく見えるはずだもん!』
何気に要弧を利用している魂胆が見えた気もしますが、
特に要弧は気にしていない様子、だが、ここからが問題なのだ。
『うるせ〜!この!』
『いたいいたい!殴らないでよ!助けてようこちゃ〜ん』
はいでたー!女の子に助け求めちゃったよ。
『じんくんをいじめるな!』
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てなわけで、弱かった狼を助けていたら、自然とこんな性格に、
≪しかも・・・じんが中学生の時、じんが他の女に取られるのが嫌で邪魔ばっかりしたから、なんだか嫌われちゃったからなぁ、今はただの友達としてしか見てないよね≫
悲しい顔をする要弧、
正直、ここまで一途に思ってくれる女の子が近くにいながら狼は何も思っていないどころか一時は恨んですらいたのだから、これはもう最低な男としか思えない・・・。
≪・・・・あ〜ぁ、どうしよう≫
そう思いながら、思考にふけっていると、
「ようこ〜、お友達がきたわよ〜」
母が声をかける。
「ん?あ、わかった」
階段を下りる要弧、すると、玄関にいたのは羊だった。
「あぁ、ひじりか」
「うん、じつはある届け物をね・・・あれ?寝てた?」
要弧がいまいちさえない顔をしていたので羊がそう思った、
「ん、うん、まぁね」
≪じんの事考えてたなんて・・・言えないな≫
「さ、あがってあがって」
「あ、ありがとう、おじゃまします」
そして要弧の部屋へ、
「・・・ここ、ようこちゃんの・・・部屋?」
「うん、あ、ギャップがありすぎて驚いてる?そりゃそうだよね〜」
まぁ、普通の女の子ならギャップ程度ですむが、
何せこいつは狼なのだから・・・通常の人の何倍と驚いている。
「で、届け物って?」
「あ、これこれ〜」
そういって取り出したのは、淡い青色のかわいい浴衣だった。
「・・・・え?」
「いや、ようこちゃんはいつも浴衣着ないってじんから聞いてね、だから、着て欲しいなって思って」
「・・・いやいやいやいや、似合わないからイイよぉ」
そういいつつも着たくてたまらないという表情の要弧、
「いいからいいから!ほら、着てみて!」
「う、うん」
そういって要弧は上着を脱ぎ始める、
「ひゃ!ごめん!」
「え?」
顔を赤くして背を向ける羊、
≪あぁ、恥ずかしがっているのか、かわいいなぁ、これが女の子らしいっていうんだ≫
要弧は完全に羊を女だと思っているようだが、まさか自分の思い人狼だとは、想像すらしていないだろう。
にしても、確かに反応は完璧女である、
むしろ、ここまで完璧に女だと思わせるとは、狼も只者ではないと思われる。
とにかく試着
「うわ〜・・・・かわいい」
羊が要弧を見て素直にそう言う、
「ほ、本当?」
「うん!すっごくかわいいよ!」
確かに、いつもの要弧とは全く違ってかわいかった。
≪・・・・これなら・・・じんも、振り向いてくれるかな?≫
そんな淡い期待を持ちながら、要弧は静かに笑った。
夏祭り
「えぇ〜、じんはバイトで来れない〜?」
雫が声を上げる、
「本当ごめん!マジでゴメン!!あのバカ!本当にごめんなさい!」
「いや、ひじりがそこまで謝んなくてもいいよ」
辺りが暗くなって雰囲気が出てきたのに、要弧の気持ちは下がり気味だった。
「全く、折角ようこが別人になってかわいくなったのに」
奈絵美が要弧をからかうように言う、
「・・・ま、仕方ないさ、じゃ、帰る」
「えぇ〜、ようこ遊ばないの〜?」
「浴衣だと動きにくくて遊べないから帰る!」
そう言って要弧はみんなと別れた。
≪・・・あ〜ぁ、つまんない≫
要弧はむくれながら一人寂しく帰っていた。
お祭り騒ぎの場所から一気に寂しい場所へ来たので、なんだか不気味に感じる夜道、
そこへ、ヤンキーの二人組みがたむろっていた。
≪うわ・・・めんどうな事になりそう≫
案の定、二人が寄ってくる。
「か〜のじょ、一人?俺らと遊ばない?」
「いや、いい」
「あれ〜?冷たいなぁ〜、でもこんな夜道、他に誰もいないからね〜」
「だからなんだ?」
「何されても、誰も助けてくれないってことだよ」
そう言って手を掴んでくるヤンキー、
≪やばい!浴衣だから!うまく動けない!≫
初めて、恐怖を感じた、いつも強気だが、今回はそうも行かなかった。
「じん!!!」
無意識に呼んだ名前、よくわからないが、助けてくれそうな気がしたから・・・。
「ブロォオオオオン!!!!」
突如聞こえたバイクの音、
そして配達用のバイクがヤンキー達に突っ込んだ。
「ぐおっ!!」
「あぶなっ!!なにすんだよ!!」
「邪魔だ、消えろ、死ねカスが!」
狼がめっちゃ怖い顔でヤンキーを一睨みして追っ払った。
「大丈夫か?ようこ」
「・・・え?」
要弧はいきなりの展開に固まっていた。
≪え?なんでじんがここに?・・・てか私だってなんですぐわかったの?≫
混乱している要弧を狼はじっと見て、そして笑う。
「どうした?そんなにヤンキーを追っ払えなかったのが悔しいのか?」
「ち!違う!!」
「そうか、にしても、浴衣、似合ってるぜ」
「・・・む」
顔を赤くする要弧、
「こ、こんなもの、動きづらくて適わない」
「ひでぇなぁ、折角俺が選んだのに」
「え?」
「・・・似合うぜ、とりあえず俺はそう思う」
その後、狼に家まで送ってもらった要弧、
「じゃあ、また明日な」
「お、おう」
バイクで走っていく狼、
それを見ながら、要弧は堪えきれず笑顔になった。
≪・・・今年は、特別な夏祭りになったな・・・≫