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冒険者としての流儀  作者: イヅ弥也
第一章 街の冒険者
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第九話

 すでに夜は更け、騒がしくも楽しかった宴会もお開きとなったので二人は冒険者ギルドから出て、人通りは無くなったが、まだ起きている人達がいるのか静かだがそれなりに騒がしく、月明かりだけが頼りの暗い道を歩いている。


「ああもう面倒くせぇ……重てぇし酒臭い!」

「すまねぇな坊主……」


 騒ぎすぎて酒を飲みすぎたため、足元のおぼつかないアルノルトの肩をあまり飲んでいなかったノアが担いで、街を囲む高い街壁のそばにあるアルノルトの家まで送っている最中である。

 ノア自身は街の中心部辺りにあるギルドから少し離れた、他の冒険者も利用している宿屋に泊まっているが、アルノルトは遠いところに自分の家を持っており、しかしアルノルトが酔っ払って一人では歩けなくなったために自分より身長の高い相棒を引きずる形で運んでいるのだ。


「大丈夫かよおっさん。……頼むから間違っても今吐かないでくれよ」

「うう……ああ、気持ち悪いが大丈夫、大丈夫だ。──────うっ!?」

「うおおおおおおおおっ!?」


 突然動きを止め、口元を押さえたアルノルトをノアはその辺の道端に急いで投げ捨てようとするが何とか胃からせり上がってきたものを飲み込むことで堪え、事なきを得る。


「頼むから吐くなよ! 絶対に吐くなよ! 吐きそうなら捨てていくからなおっさん!」

「……わかった、わかったから、そう声を出さないでくれ、頭に響く……」


 気持ち悪そうに顔を青ざめさせながらアルノルトがノアに懇願する。

 それにはいはいとノアがおざなりに答えてしっかりと肩に担ぎなおし、歩みを再開する。


「それにしてもどうすっかなぁ……。すっかり元の金欠に逆戻りしてしまったぞ」


 死活問題なのでしっかり宿代は確保しておいたが宴会で参加人数もあり殆んど使い果たしてしまっていた。


「……金なら、またいくらでも稼げばいいさ。それに今度何かあれば次は俺達が他のやつに奢ってもらうこになるしな」

「そういうものなのか」

「そういうものだ。ああ、冒険者同士の繋がりは結構便利だぞ? 色々な情報が貰えるからな」


 それから少しの間、二人は無言で歩き続ける。


「─────それで、どうだった?」

「どうって、何が?」

「宴会だよ。お前さんには無理やり付き合わせた形だったからな」

「……………」


 そう言われてノアは先程までのことを思い出す。


 始めは人の金でふざけるなと思っていたが、すでに自分ではどうしようもないこともあり参加して、それまで顔はよくギルド内で見るが話たこともなかった冒険者たちとも一緒になって騒いでいた。


「……楽しかったさ。ああいう、他人と馬鹿騒ぎするのは初めてだったしな」

「そうかい、それならよかったが」

「いや、よくねえよ」


 金の持ち合わせの問題もあるから大人数でああいったことする場合は先に言えよと愚痴をこぼし、アルノルトはすまんすまんと笑って返す。

 歩きながらノアが愚痴をこぼし酒で酔っ払っているアルノルトがさっきまでの吐き気はどうしたのやら上機嫌に笑って歩いていたが、アルノルトの言葉で雰囲気が変わった。




「しかしそうか、楽しかったか。─────お前さんの父親はああいったことは教えなかったのかい?」

「─────────」


 その言葉を聞いてノアが動きを止める。


「お前───」


 そこまで言いかけて続きを飲み込み黙る。

 自分の肩を借りているアルノルトを横目で見て沈黙していたが、ややあって不貞腐れたようにそっぽを向いて歩きだす。


「別に、昔のことを話すような人でもないし。何かと忙しい身でもあったのだし仕方のないことじゃないのか? ───それに、知っていたのか俺のこと」

「知っていたというか何と言うか、そりゃあ、ねえ? お前さん命がかかっているから手を抜かずに実力とか隠さず全力だし。ほら、俺は最近復帰したが元々冒険者だって知ってるだろ? その時のツテとか長生きしてれば色々と情報が入ってくるものさ、例えば坊主の父親が冒険者だったこととか」


 アイツもアイツで有名だったからなと笑うアルノルトを見て、今までアルノルトに合わせていた歩みを早めて強引に引き摺っていく。


「拗ねんなよ俺が悪かったから。後、もうちょっとゆっくりで頼む。マジ吐きそう」


 舌打ちして強引に引きずるのをやめる。


「別に拗ねてねぇよ。……俺と組んでいるのもそれでか?」

「ああ、別にそれは関係ないぞ」


 無いのかよ! と思わずツッコミを入れてしまうノアとそれを見て笑うアルノルトの声が夜の道に響く。


「ハァ……だったら何で─────ッ!?」


 ため息をつきながらそこまで言って、周囲を最大限に警戒する。




「オイオイオイ、街中だぞここ」

「マジかよ勘弁してくれよ……、手を離すぞおっさん」


 肩から離れたアルノルトは酒によりふらつく身体に活を入れ、無理やり酔いを覚まし、二人は辺りを警戒しながらそれぞれの武器を抜いて構える。


 ノアが今まで自分たちが通ってきた方の道に向けて両手持ちの細身の大剣を片手で軽くを降るうが、見えない何かに阻まれ途中で止まってしまう。

 オマケに深夜であるとはいえ無人ではないのでさっきまで聞こえていた周囲の音が一切聞こえなくなっており、今は自分たちが出す音しか聞こえないという異常事態に緊張感を高める。


「これは……結界、か? 完全に閉じ込められたな。オマケに簡単に出れそうにもないなこれは……」


 周囲から感じる魔力からノアが検討をつけて対策を練ようとするが、強力な魔力で作られたそれは頑丈というよりはそこを通過しようとする物体を完全に止めて押し戻すといった性質を持っているようで、物理的にどうこう出来そうなものではなかった。

 魔法ならとも考えたがここは街中で、これだけのものを突破するには上級魔法以上を数発当てる必要があり、もし結界を破っても周りに被害が及びかねないのでもしもの時の最終手段にしておきたい。

 この結界を貼ったヤツにも心当たりはないし、わかることといえば自分たちが突然閉じ込められたということだけだ。


「どうするおっさん」

「相手がわからん、下手に動きたくないが……警戒しながら進むか?」


 月明かりはあるが殆んど暗くて見えない、何時もは歩き慣れた道を見ながらその言葉に頷くことで返し、慎重に歩を進めようとするが




「─────あら、こんばんは」




「「───ッ!?」」


 二人は驚きとともに動きを止め、いきなり目の前に現れた人物に向けてすぐさま武器を構えて警戒を露わにする。

 確かに相手から声をかけられる瞬間まで、自分たちの目の前には誰もいなかったはずなのだ。


 その人物はとても美しい、男性であれば誰もが目と心を奪われるほどの女性だった。




─────それこそひと目見て、一瞬で人ではないと判断できるほどに恐ろしく整った姿であり、妖艶な雰囲気を纏っている。




 二人の目の前に現れた女性は、金色の美しく長い髪に豊満な躰はとても質の高そうな深紅のドレスで包まれている。

 その美女は少しつり目気味の、ドレスと同じ紅色の瞳でこちらを妖しく笑いながら見ている。


 月明かりがあるとはいえ、夜の闇で視界が悪い中、こうもしっかり相手の存在を認識できる程の存在感を放っており、それが二人の警戒心をさらに引き上げる。


 急に現れたことから相手はテレポートの魔法が使えると判断するが、それだと二人が歩いてくる場所を登録しておくか、自分たちのすぐ近くで発動したことになる。

 これほどの存在を放つ相手が街中で誰にも見つからずに場所を登録することは無理だろうと思うし、わざわざそんなことをする様な相手でもないだろう。

 であれば、この目の前の存在がすぐ近くにいながら、酔っているとはいえ警戒していた二人に気づかれずにいたということになる。

 どうであれ、目の前の女性は二人に気づかせること無くずっとこちらを見ていたということだ。


 二人はそのことに思い当たり、夜の帳の中、冷や汗を流し、さらに緊迫した面持ちで対峙する。





「─────スマン坊主、やっぱ気分悪くて気持ち悪い、吐きそう」

「ちょっと待てよ近くで吐くなよ!? ───え、ちょ、うわっ! タイム、タイム!」


 冷や汗を流し、さらに緊迫した面持ちで対峙する!

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