第八話
「そういえばアルノルトさん、ノアさんはまだ寝たきりなのです?」
アルノルトがしばらく4人組の冒険者パーティーと雑談していると、4人のうちの紅一点であるいかにも魔法使い、あるいは魔女といった格好をしまだ幼い感じが残る少女が今ここにいない相方について聞いてきた。
この魔法使いの少女は親しい人の中で突出して魔法を使えるのがノアだけということもあって、冒険者ギルドで会った時はよく二人で話をしていたというか色々質問攻めにしていたことなどを思い出す。
そしてそういえばこいつらには今日合流することをまだ言っていなかったと気づき、そのことを伝える。
すると普段ジトッとした目つきの少女はノアと同じ魔力を帯びた瞳の証である紫色の目を驚きに見開き
「えっ! もう動けるようになったのですか!? 瀕死の重傷を負ったと私は聞いてて、ノアさんが部屋を借りている宿屋にお見舞に行ったときも寝たきりの状態でしたよ?」
「いや、アイツ意識が戻ったときにはすぐ動き回っていたんだが……」
「ああ、その話は俺も聞いたぜ。大人しく寝ておけばいいいのにアイツ馬鹿だよなー」
まったくだと皆が同意して笑い合う。
「アルノルトさんの方は怪我は平気なのです?」
「俺の方は回復魔法で何とか治る程度だったからな、寝てればすぐ治ったよ」
怪我が治ったことを証明して見せるように軽く腕を広げてみせる。
「二人とも災難でした怪我が治って良かったです」
「まったくだ。ああいうのは二度とゴメンだねぇ」
今現在もギルドでは高ランクモンスターが出現したとして他の冒険者たちに街の周囲の警戒と探索を依頼している。聞けば同じテーブルに座って話している彼らも街の周囲の探索を頼まれちょうど帰ってきたという。
しばらく経って特に見つからないようであれば、ずっと冒険者たちに依頼しておくわけにもいかないので一旦周囲の探索の依頼は取り下げることになるだろう。
「───あん? なんだお前らみんな居るのか」
「ああ、やっと来たか坊主……って、その装備は」
「遅れてすまん。見ての通り新しい装備を鍛冶屋に受け取りに行ってたから遅くなった」
やっと待ち合わせに来たノアの格好はまだ完全に包帯が取れていないが、目立たない黒と赤を基調にした軽鎧にいつもの様に新品である灰色のローブを纏って背中には身の丈ほどもある細身の大剣を鞘に収めて背負っている。
事前にアルノルトから冒険者なら装備は地味な色の方が身を隠すことなどあるので何かと都合がいいと聞いていたため、ローブ以外は全体的に地味な色合いだ。
「まとまった金が入ったしね。ちょっと奮発して素材が良いの頼んだからもう少し時間が掛かるかと思ったんだけど、思ったより早く出来上がってた」
「おー、全部新品じゃねぇかよノア。いいなー、俺も新しい良いやつが欲しいぜ」
「お前も俺のように死ぬような目に合えば大金が手に入るかもしれないぞルーク」
ノアにルークと呼ばれたチンピラ風の男が顔をしかめ、とても嫌そうな顔をする。
金は欲しいが誰だって死ぬような目に合うのは御免だろう。
「お前じゃないんだし死にかけるのは御免だぜ、俺は」
「俺も嫌に決まってんだろ。───それでおっさん、募集の方はどんな感じになった?」
「あー…そのことなんだがな」
近くの空いている席に座ったノアが他のメンバーから回復したことへの言葉を受けながらアルノルトに募集の結果を聞き出すが、何も成果がなかったことと噂のことについて聞かされる。
「マジかよ。あー、じゃあ仕方ねぇな……。誰も来なかったんなら予定通りまた二人で地道にやっていくか」
話を聞かされたノアは呆れたように馬鹿じゃねぇの? とつぶやき、やる気無さそうに椅子の背に寄りかかる。現状で倒し切る火力や支援と人数が足りないのに何故わざわざ危険な奴らに挑まないといけないのか。
あちらは耐えるがこちらは一撃でもくらえば即死ぬのにそんなことはしたくない。
それに強いやつと戦いたいのなら今現在魔王軍と戦っている王都に行けばそのような相手はゴロゴロと居るだろうし、金や名声が欲しいだけならすでにそっちに行っている。
「じゃあこうしましょう、ノアさん達が私達のパーティに入ればいいのです。どうですかノアさん?」
「別にいいけどその場合はラウラ、お前が確実に居るだけのお荷物になるんじゃないか?」
「───え?」
魔法使い風の少女、ラウラが無い胸の前で両手を打ってノア達にそう提案するが、すぐノアに疑問で返される。
彼女たち4人の冒険者パーティーは剣士のルークと魔術師として見習いであるラウラ、残る二人はアルノルトと同じ狩人クラスだがちゃんと弓を使っているノーランとオネエのガレスとバランスの良い組み合わせのパーティーとなっている。
そこに二人が加わると狩人と魔法剣士が増えることになる。
狩人の方は二人になるが銃と弓なので用途が別れるだろうが、問題はノアとラウラである。
たまにノアに魔法の腕を見てもらっているラウラはまだ魔術師として未熟であり、一方ノアは魔法剣士だが魔法の腕は一応最上級魔法が使えて複数の魔法を同時に使いこなすことが出来る程とても火力が高く、普通の魔術師数人分の働きを一人でこなすことが可能でありラウラの出番は確実に減る。
前衛は剣士であるルークとオネエですでに埋まっているため、必然的に魔法を使うほうがメインとなるだろう。オマケにパーティが全体的が駆け出し冒険者のためまだレベルが低いので、二人が加わるとその辺りのモンスター相手では過剰戦力になる。
「なんだ嬢ちゃんがマスコットになるのか。ハハッ、カワイイからそれはちょうどいいな!」
「駄目です、それは駄目なのです! 今のは無し! 無しにしてください!」
アルノルトがラウラをからかい、皆もつられて笑う中で必死でラウラが手を振り回しながら今の話を無かった事にする。
「うう……なんですか、卑怯です。少し歳は離れているとは言え同じ駆け出しなのにどうしてそう無駄に優秀なのですか」
「いやそう言われても……才能? 無駄に優秀でスマンな───って杖はやめろ!」
涙目になりながら持っている杖を振りかぶるラウラとそれを止めようとするノアを見て周りで一層笑いがおきる。
「オイオイやめとけってラウラ。まあパーティー云々の話は後でいいじゃねぇか、丁度ノアの奴も来たことだし二人の回復を皆でお祝いしようぜ! ───もちろんノアの奢りで!」
「ああ!? 何でだよ!」
ラウラを止めながらいきなりそう提案してきたルークをノアが睨みつける。
「いいじゃねぇか別に。大金が入ったんだろ? たまには俺たちに奢ってもバチは当たらないぜ?」
「いや、だから治療費と装備の分で手持ちが……」
手持ちの金が少ないため渋るノアの肩をアルノルトが軽く叩く。
「心配すんな坊主、弾代で消えたとは言え俺も残りはあるから出してやるよ」
「おっさん……」
「───それにいいか? 俺たちは明日をも知れぬ身なのが常だ。だから金はあるうちに使って盛大に騒ぐってのが冒険者ってもんだ」
「おっさん……要は自分も飲みたいんだな?」
「おうよ!」
ぐっと親指を立てるアルノルトを見て相棒から呆れた視線を向けられるが気にせずに笑顔を見せる。
それに対してノアは深くため息をついて渋々と言った様子で了承を出す。
「ああもう……わかった! わかったから奢ればいいんだろ!」
「「「「「あざーすっ!!」」」」」
「え」
もうどうにでもなれと半ばヤケになって叫んだノアの言葉を聞いて、冒険者ギルド内にいた他の冒険者たちが大勢集まってきて感謝し、すぐに宴会を始める。
「───ちょっ!? お前らどこから湧いて出てきた!? ていうか多っ!?」
「おーし! お前ら肉だ! 肉持って来い!」
「今日はたくさん酒を飲んでもいいんですか! ヤッター!」
「面倒だからもうあるだけ全部持ってこさせようぜ!」
「それだけはやめろよなっ!?」
一人状況に追いつけずツッコミを入れるノアをよそに、他の冒険者たちは騒がしく食べ物や飲み物を注文し、あっという間に出来上がってしまっていた。
たくさん文句を言いたいことはあるがすでに始まっていてはしょうが無いし、みんな笑顔で笑いながら騒いでいる中、一人で白けているのも馬鹿らしいとノアも騒ぎの中に入っていく。
(……もういいや、どうとでもなれ)
きっと後で後悔するだろうが、今を皆で楽しく騒げるのならきっとその方が良いと思いながら騒々しい時間を過ごすのであった。