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冒険者としての流儀  作者: イヅ弥也
第一章 街の冒険者
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第七話

 さっそく翌日から冒険者ギルドの掲示板にパーティー募集の張り紙を出して、建物内の酒場とは別に待機所となっているスペースの片隅に陣取りお茶をしながら募集を見た人が来るのを待っている。

 ギルド内には様々な冒険者がおり、皆それぞれ談笑したりギルドが張り出しているクエストなどを吟味したりと思い思いに過ごしているようだ。

 中にはノア達が張り出した募集の紙を見てこちらに来ようとた者もいるが、こちらを見るなりあからさまに視線を外し、何も見ていないフリをしながら離れていく。


「───あん? 何だよ、またかよ」


 元から目つきの悪いノアがさらに鋭くして苛立たしげにテーブル頬杖をつき、足を組んでイスに座わりながら不機嫌そうに呟く。

 その姿は傍から見るとガンを飛ばしながら周りを威嚇しているようにしか見えない。


「皆お前さんを見てどっか行っちまってるじゃねぇか。どうしたんだよ今日は、何時にも増してガラが悪いが」

「ああ?」


 同じテーブルに座り、暇そうにお茶を飲んでるアルノルトの言葉にノアが機嫌悪そうに反応して目だけそちらを見ながら心底億劫そうに言った。


「………………朝、痛み止めを飲み忘れたんだよ。体中がメチャクチャ痛い……」

「だったら大人しく宿屋で寝てろよ……ていうか何でその状態で動けるんだよ……」


 アルノルトは呆れたようにため息を吐き、頭痛をこらえるように片手で頭を押さえる。

 重傷だった人間が昨日今日で包帯がとれるわけも無く、ノアは今日もミイラ男をしている。

 今朝も絶対安静の身でありながら、昨日のうちに話し合ってまとめた募集要項を書いた紙を顔なじみのエルフの受付嬢に持っていった所、とても叱られるというやり取りもあったのだ。


「お前さんがそんなナリで凄んでいるから人が寄ってこないじゃねぇか。昨日は情報を得るため仕方ないとは言え、今日は大人しく寝てろよ」

「えぇー…、だってこういう新しい仲間が出来るのってワクワクしない? そう思うと寝てられなくてさ」

「今の坊主の状態だと誰も寄って来ねぇよ。今日出来るとも限らないからしっかり身体を治してこい」


 しっしっと追い払うようにアルノルトが手を振りノアを追い払う。

 それに対してノアは不満そうに顔をしかめるが言っていることも理解できるので文句を言いながら大人しく席を立って渋々と冒険者ギルドの建物から歩いて出ていく。

 本人もちょっと無駄に無理しすぎているという気持ちはあったのだ。

 

(……ああ、その前に鍛冶屋に行かないと。まあ、ちょっとくらいの時間なら別にいいだろ)


 ノアは自身が泊まっている宿屋に向けて街の大通りを歩いていたがその前にやっておくべきことを思い出し、宿屋とは反対の方向へと歩きだす。

 新しい武器や防具を鍛冶屋に作って置いてもらわないと怪我が治ったとしても私服で、しかも丸腰でクエストを受けることになる。そういうのは避けたいのだ。

 今から頼んでおけば怪我が治る頃にはおそらく用意出来るはずだ。


 街の外は比較的安全だと言ってもその辺にいるモンスターでも連携すれば音を突破してる速さで体当りしてくるような物騒なのも偶にいるし、運が悪ければこの前の様に不意打ちで高ランクモンスターと連戦という本人達からしたら巫山戯んなと言いたくなるような事態も起こりかねない。

 もしそんな事態になったら装備自体は無意味に終わるかもしれないが、無いよりはマシであろう。


 そんなことをノアは考えながら、激痛を訴えてくる身体を無視して鍛冶屋へと向かっていった。






 募集の紙を張り出してから数日経ったがあまりよろしくない状況だなと、アルノルトは思案する。


 最初こそチラホラと募集を見てくる人は居たが、どうせ仲間にするのなら信頼できる能力を持った奴がいいと、少し選り好みしていたら人がまったく来なくなった。

 アルノルトが不思議に思って冒険者ギルド内での噂を耳にすると、どうやら自分たちは先日のこともあってとても危険な高ランクモンスターも相手するパーティーだと誤解されているらしい。

 もちろんそんなことはないのだがアルノルト自身が冒険者内でも名の知れていた元ベテランということと、駆け出しのくせに初めからやたらと戦闘力だけは高いノアの存在が噂の信憑性に拍車をかけていた。


 アルノルトは元ベテランとは言ってもブランクが相当空いているし、ノアに至っては冒険者としては本当に駆け出しで、それなりに自分で考えて動けるが経験不足ゆえに自分のアドバイス等を聞くことも多いのだ。


 誰も来なかったのはしょうが無いとして、今日は完治とまではいかないが医者に出歩いても良いと言われたノアが合流する日だ。瀕死の重傷を負っていたにしてはものすごく回復が早いが元から動き回っていたようなやつだ、きっと魔法か回復薬か何かで無理やり回復を早めたのだろうとアルノルトは考える。


(平気で無茶するようなやつだからな……。それはそれとして絶対なにか文句言ってくるだろうな……)


 募集に関しては来なかったら来なかったで今まで通りやっていくと決めているので問題ないが、小言の一つくらいは言ってくるだろうなと軽く溜息をつく。




「あれ、どうしたんすか溜息なんかついて。ひよっとしてアイツがまた何かやったとか?」


 ギルド内の空いているテーブルに座って溜息を付いていたアルノルトに、知り合いの冒険者が声をかけてきた。見るとクエストからの帰りだろうか、ノアと同じ17か18才くらいの金髪のいかにも軽そうなチンピラと言った感じの青年とその冒険者仲間たち4人の集団であった。

 彼らは相方であるノアと同じ若い駆け出しの冒険者ということもあって、暇な時によくノアが彼らとつるんでいてその縁で歳は離れてはいるが、アルノルトも彼らと談笑する程度には仲良くしている。


「いや別にそうじゃない、アレだよアレ。お前さんたちも噂は聞いているんじゃないか?」


 そう言ってアルノルトは紙が貼られているギルドの掲示板を指差す。


「ああ、アレね。何でも聞いた話じゃ、高ランクモンスターに挑むために仲間を募集してるって。この街じゃ駆け出しかアルノルトさんのような再起組しか居ませんしねー、誰も来ないんじゃないすか?」

「将来的にはどうなるかわからんが、流石に無理だし別に好んで挑むわけでもないんだがな……」

「そうなんすか? でもノアのやつがドラゴン相手に最上級魔法ぶっ放して相打ちになったってギルド職員の奴らも言ってて、それで仲間募集してそのリベンジをするんだって」


 なんでそんなことをわざわざしなければならないのかとアルノルトは思う。

 あのドラゴンのようなこちらの攻撃が通用しない存在など出来れば二度と相手をしたくない。

 

 相手にそう告げて噂をやめるようにいうとアルノルトはまた溜息をついたのだった。

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