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冒険者としての流儀  作者: イヅ弥也
第一章 街の冒険者
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第五話

「え、ちょっと待って! 何で!? 何で俺だけ見てるの!?」


 試しに、とノアが左右に少し歩いてみる。

 それをむしゃむしゃとベヒーモスを食べながらドラゴンの目が追う。


「─────…………」

「完全にお前さんだけ見てるなアイツ。ははっ、モテるじゃないか坊主。……ん? おい坊主! おい!」


 アルノルトが少しでも緊張を解そうと軽口をたたくが相手からの反応がない。

 なるべくドラゴンから目を話したくないが急に大人しくなった相棒を訝しみながら隣を見てみる。




「─────…………」

「し、死んでる……」




 白目をむいて立ったまま気絶していた。


 ベヒーモスの問題は目の前で悠長に何か飯食ってるドラゴンが片付けたとはいえ難易度がさらに跳ね上がった。

 いくら優れた魔法の資質を持っていたとしてもまだ駆け出し冒険者である。立て続けに高ランクモンスターの相手が務まるほど慣れてはいない。

 先程の魔法だってアルノルトに軽く取り繕ってはいたが、実は恐怖に負けての多重発動である。

 最初はあそこまでやるつもりはなかったがいざ改めて相対すると生きた心地がせず、本命の一つとは別に目眩まし用や牽制用に発動待機させていた残り4つの魔法を急遽本命と同じ上級破壊魔法に無理やり書き換えるという器用なことをしていた。

 そのせいで唯でさえ制御が難しいと言われている上級破壊魔法を5つも維持する羽目になり、魔力で身体強化していたとはいえ素の状態でベヒーモスから逃げ回ることになったのだが。

 すでに精神が一杯一杯だったのだ、そんな所にコレである。


「寝てる場合か起きろ! おい! 冗談やってる場合じゃないぞ!」


 流石に元ベテランの冒険者であったため比較的落ち着いているアルノルトがノアを揺さぶったり顔を叩いたりして目を覚まさせる。


「……ハッ!? ど、どうしようおっさん! なんか俺目をつけられてる!」

「とにかく落ち着け! こんな時こそ落ち着いて行動するんだ!」

「あ、ああ、わかった、わかったよ。大丈夫、俺は大丈夫……」


 現状はお手上げ状態だ。今は食べることに夢中なのか動く気配はないのが救いだろう。




「ていうか何で俺を見てるんだ……」

「何か心当たりはないのか」


 そう言われ考えてみるがいまいちピンとこない。ドラゴンは頭がよく、人前に滅多に姿を表さない伝説のモンスターであり、記憶の中を探してもノアの目の前にいる深紅のドラゴンと関連付けるものはない。


「うーん……? まあ、強いて言うなら魔力……かなぁ……?」

「あー……、多分ソレだな」


 丁度上級破壊魔法を放ったばかりである。現れたタイミングからして見ていた可能性は非常に高い。

 おまけにノアは元魔術師の魔法剣士であり、魔法に関する能力は上級魔法をポンポン撃ってピンピンしてる当たりから一線級で活躍できるほど最初から高いのである。いや、高すぎるのである。


「相手からしたら魔力に富んだいい餌か。ハハハ……」

「おい元気出せよ、何とかなるって。お前さんの悪いところは普段強気のくせに急に弱気になるところだ、いい機会だ今克服しろよ」


 乾いた笑いをあげるノアを励ます。今現在この街でノア以上の火力を持っているやつはいないとアルノルトは確信しているためやる気を出してもらわないと困るし、年長者であるため若者を引っ張っていくのも役目だと思っている。


「ああ、逃げたいなあ……」

「まあ、すぐ追ってくるよな」

「だよなぁ……」


 テレポートで逃げたとしても長距離用に唯一登録してある街はすぐそこである。ドラゴンなら飛んですぐの距離だ、それだけはマズイ。


「しょうがねぇなあ。ま、やるしかないか。失敗したらその時はその時だ、やれるだけやってみるか」


 ここでグダグダ言っていても変わらない、気持ちを切り替えて相手を睨みつけ、魔力を開放して全身に纏う。


「その意気だ。心配すんな、俺も最後まで付き合ってやるからさ」


 自慢である特別性の長銃を構えてノアの隣に立ち、ドラゴンに銃口を向ける。




 二人が戦闘態勢を取ったのを見てそれまで余裕を見せて食事をしていたドラゴンが待っていたと言わんばかりに勢い良く羽を広げ、天を貫くように雄叫びを上げてやってみせろと向かい撃つ姿勢を見せる。


「ハッ───、やる気を出すのを待ってたって訳か。余裕だねぇ」

「余裕なんだろ、油断するなよ?」

「そっちもな」


 言うが早いか魔力放出(バースト)、まるで間欠泉のように青白い魔力を勢い良く噴出させ勢い良く飛び出していく。

 地面を滑るように接近しつつ右手に魔法陣を展開、相手に向けて解放。


「まずはっ! 『フレイムボルト』ッ!」


 中級魔法である炎の矢が展開されている魔法陣から矢継ぎ早に発射され、ドラゴンに殺到する。

 並の相手なら一発だけで焼き殺す事のできる威力だが、ドラゴンは意に介さないというように静観している。




 炎の矢が次々とドラゴンに着弾した。──いや、着弾する前にただの無害な魔力となり霧散していく!




「チッ! 『魔力干渉』か! ということはやはり『長寿(エルダー)』以上か!」


 ドラゴンの後ろにそのまま回り込んだノアが別の魔法を展開しながらやはり、といった様子で叫ぶ。


 ドラゴンは年月を重ねるごとにその力を増していき、幻想の長である彼らは世界と一つになると言い伝えられている。故に年を経たドラゴンほど世界に干渉するのはたやすく、同じ幻想や超常の産物であり世界に溢れる魔力に対し絶大なアドバンテージを得ることなど容易なことなのだ。

 それこそ、今のように意識しなくても魔法に干渉し無効化する程には。



 後ろに回ったノアに対しドラゴンがその巨大な尻尾を振るう。

 巨体に見合わず風や音を置き去りにするほどの鋭く重い一撃はテレポートで避ける暇を与えず的確にノアを捉えて粉砕し、ガラスが割れるような音とともに周囲の地面ごとえぐり飛ばした。






「───ノアッ!? くそッ!」


 尻尾に粉砕された相棒を見てアルノルトが驚愕とともに叫ぶ。

 引き金を引いて銃を撃つが一枚一枚が岩のように分厚い鱗に弾かれて効果をなさない。スキルを使用して攻撃を試みるも鱗をほんの少し削るだけでその顔には焦燥を隠せない。


「クソッ! クソッ! 坊主、生きていたら返事をしろ!」

「───何?」

「うおわぁっ!?」

「危ねぇっ!?」


 意図せず背後から話しかけられたアルノルトが驚いて反射的に銃を向け、間髪入れずに発砲する。

 正確に頭を狙った銃弾を咄嗟に仰け反るように躱し、髪の毛を数本犠牲にしながら地面にノアが倒れ込む。


「あ、危ねぇな!? いきなり撃つなよ! 死ぬかと思ったぞ!」

「え、いや、まあ、すまんかった。───いや坊主!? 無事だったのか!?」


 涙目になりながら起き上がるノアに対してアルノルトが急いで詰め寄る。

 彼は確かにノアが尻尾で地面ごと吹き飛ばされたのを見たのだ。


「一応魔法が効かないことを確認してから撹乱するために『ミラージュ』の魔法使って待機していてよかったぜ。───生きた心地はしなかったけど」


 『ミラージュ』、鏡で出来た幻影を作り出し相手を惑わす魔法である。特性の一つとして対象を鏡像と入れ替え、鏡写しのように別の場所に転移させることが出来る。つまるところ、一種の空間転移のような使い方もできるということだ。


「本来なら割れた鏡で相手を攻撃できるんだけど、あの鱗じゃねぇ……」

「そうか……無事で何よりだ」


 ほっと安堵の息を吐きたいところだが状況は最初と何も変わっていない。

 二人共ボロボロではあるが、アルノルトはドラゴンがノアを狙っていることもあって攻撃を受けるということもなく、ノアに至っては狙われているが無駄に魔法が充実している上に達者なので逃げたり避けたりすることは得意なため早々に一撃をもらうようなことはない。


「魔法効かないなら無理じゃね?」

「俺の銃も効かないしな……」


 なるほどドラゴンを倒した者が英雄呼ばわりされるわけだと、二人で深く実感する。

 わかりきったことではあったがこちらの攻撃が一切通じないお手上げ状態だ。


 どうしたものかと目の前のでかいドラゴンを見る。

 ドラゴンは自分の攻撃が避けられたことが癇に障るのかノアを見ながら尻尾を苛立たしげに打ち付けている。

 それだけで地面が割れ、振動が立っている場所まで響くほどであるが一層強く尻尾を叩きつけ、一瞬でその姿を消す。


「「─────ッ!?」」


 二人の第六感が最大限に警鐘を鳴らし、心臓を握りつぶすようなプレッシャーが二人を襲う。


(───空間転移だと!? マズイッ!)


「おっさん!」

「うおっ!?」


 加速された思考の中でノアが見失った相手の行動に検討をつけ、咄嗟にアルノルトを掴み急いでその場を離脱する。

 



 ─────直後、二人の視界を埋めつくす程の炎が辺り一面を焼き払った。








 ノアが使用したエクスプロージョンかそれ以上の威力を持った業火の残滓が時間が立ってなお消えること無く燃え盛っている。

 それを成したドラゴンは満足そうにその口から炎の残滓を溢れ出させている。


「グッ……づぁ……! や、野郎……やってくれるじゃねぇか!」


 炎を撒かれた土の中からアルノルトが身を起こす。炎を受け、装備の大半が焼けているが奇跡的に軽傷ですんでいる。それというのも─────


「クソッ! 坊主! おい、しっかりしろ!」


 ノアが庇ったお陰ですぐ動ける程度ですんでいたのだ。

 ローブは焼け焦げ、いたるところから出血しておりとくに左半身を主に怪我がひどく、左腕に至っては表面の皮膚が炭化している。


 一瞬の判断で離脱したまでは良かったのだがブレスの範囲が広く、炎にすぐ飲み込まれてしまい魔法で相殺したが抑えきれず押し切られてしまったのだ。


「確か、ローブの内側にポーションが……!」


 森に入る前に装備の確認をしているのを見ていたので記憶を頼りに懐を探る。

 割れずに無事だったものをすぐに見つけ、急いで栓を外し中身を全部振りかける。


「おいしっかりしろ!」

「……痛っ…うっ…くっ……」


 ノアは呻き声を上げていたがやがて意識がはっきりとしてきたのか身体中に魔力をまわし、無理やり体を動かして浅い呼吸をしながらもすぐに受け答えできるようになる。


「……街からの増援は?」

「いや、来ていない。おそらくは───」

「街の守備と、住民の避難を優先させたか……」


 ギルドでもこちらのことは確認したのだろう、妥当な判断だと思う。街の冒険者では束になっても勝てない程の強さだ。それならば万が一のことを考えて住民の避難が最優先とギルドは判断したのだろう。


「ああ、まったく嫌になる日だ」


 痛む体に鞭打って立ち上がる。


「お、おい、動いて平気なのか?」

「動くのなら問題ないだろ。─────ヤバイ、左腕が動かない。っていうかついてる? 俺の左腕ついてる?」

「一応ついているが……無理するなよその体で」

「そうは言うがアレをなんとかしなきゃいけないだろう」


 そう言って今の今までとどめを刺そうとしなかった遠く離れたドラゴンを見る。

 そもそも相手がやろうと思えば自分たちを何時でもやれた筈だ、まるで自分たちに合わせるかの様なその不可解な行動には疑問しか浮かばない。


「まったく……何がしたいんだかアイツは。遊んでやがるのか、舐めやがって」


 激痛が走る中、残った魔力を総動員して魔法を構築を始める。

 自身の内側と外側から魔力を収束し、それら全てまとめて圧縮していく。


「……魔法は効かないんじゃないのか」

「ああいったものは完全に無効化される前に押し通せばいけると理論上は言われてた、気がする。それにほら、よく言うだろ? ほら、あれ、……………なんだっけ?」

「オイオイ、本当に大丈夫なのかよそんな調子で。 出血しすぎたんじゃないのか」

「ああ? 知らねぇよんなもん。……それにまだ、クエストの途中だろ?」


 魔力放出(バースト)、青白い光を放出させながら魔力を高めていく。


「クエストの途中……、調査して出来るなら解決するのも仕事のうちか、なら仕方ねぇな」

「仕方ないさ、こう見えて真面目なんだ。───ホントダヨ?」


 ノアを中心に唸りを上げて高まる魔力に今更身の危険を感じたか、ドラゴンがこちらに向かって翼を大きく広げ低空を飛び上がり、巨体に似合わぬ速度で向かいながらその質量で押しつぶそうとしている。


「───おっさん」

「あいよ───」


 アルノルトが銃を構え『オールワン』とつぶやきスキルを発動、手持ちの弾薬全てを消費して威力を限界まで高め、空気を震わせるほどの轟音と衝撃を伴って弾丸を放つ。


「これで俺は看板だが、なんとまあ、呆れるほど丈夫だねぇ」


 狙うまでもなく命中し、ドラゴンを後ろに吹き飛ばしたがその鱗には傷一つ無く、何事もなかった様に起き上がっている。


「俺もこれで品切れさ。あ、失敗したらごめんね」

「おい今なんて言った」




 ─────魔力集中(コンセントレイト)




 左手をぶら下げたまま軽く構えたノアを中心に直径100メートル程の魔法陣が浮かび上がり、紫電を伴い青白く発光していた魔力光が黄金色に変わり、空気を震わせ近くの地面を砕きながら一気に勢いを増していく。


「仕方ねぇだろ! 俺も初めて使うんだからさ! 『オーラ・フォトン・レイ』ッ!」


 解き放たれた黄金色に輝く巨大な光の奔流が標的ごと飲み込もうとするが、ドラゴンもブレスを吐いて拮抗する!


「───う、そだろ! お前ぇっ!」


 ノアが知っている中でこれ以上はないという程の最上級破壊魔法なのだ、あちらも全力なのだろうが只のブレスで拮抗している辺りただのドラゴンじゃない、もっと別のナニカだ。


 両者の間でぶつかり合う力と力の余波で、色々あってもまだ形を残していた森林を見る影も無く完全に消し飛ばしていた。

 限界を超えて魔力を絞り出すが競り合ったまま変わらず、急激な魔力の消耗によって意識が遠のくのを必死でこらえる。

 やがてぶつかり合う魔法は頂点を越え、二人の間で凄まじい轟音と光を放ち爆発。


『─────────────ッ!?!!!!』



 すでに限界であったノアは光に飲み込まれると、あっさりと意識を手放した。


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