表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者としての流儀  作者: イヅ弥也
第一章 街の冒険者
3/17

第三話

 しばらく歩いて二人はようやく目的地である森林の手前に着いた。

 近くに大きめの山がありうっそうとした森は来るものを拒むように草木が生い茂っているが、見たところ中の方は背の高い木が多めに生え、低い部分は日光が当たらないので邪魔な枝などは殆ど落ちて歩くのにはさほど困らないだろう。


「なんかもう、始まる前から妙に疲れた……このまま帰りたい……駄目?」


 森に入る前に装備の確認を軽くしながらテンションが下がっているノアが愚痴る。

 いくら手ぶらで来たとは言え回復ポーション等の補助品などは有無はそのまま命に直結するのでしっかり常備するのは冒険者の中では常識だ。ローブの中の試験管のような細長いガラス瓶の数をしっかり確かめてからアルノルトに向き直る。


「駄目に決まってるだろう。いきなり人に魔法をブチかますから疲れるんだ、危ないから今度からはやめてくれよ」

「うるさい、ちゃんと外したからいいじゃねぇか別に。ああもういいや、さっさと行こう日が暮れそうだ」

「あいよ」


 道中のやり取りは暇つぶしの軽いじゃれ合いみたいなものなので、二人はさっき起こったことなどはだいたい何時もの事なので気にせず森のなかに入っていく。


「あ、そうだコレが終わったらしっかり話し合うからな! 忘れんなよおっさん!」

「へいへい、別にいいじゃないか漢がロマンに生きたって……。ましてや俺達は冒険者だぜ? すでにロマンに生きてるようなもんじゃないか」

「うるせぇよ! だからって割に合わない使い方するのはやめろよな!」


 言い合いはしながらも周りの警戒は怠らず注意深く探りながら二人は森のなかに分け入っていく。






「─────いたな」


 森の中を散策して中ほどまで来た頃、複数の気配を感じ取り木々の間に静かに身を潜める。

 視線の先、自分たちより離れたところにゴブリンが5、6匹ほど見回りだろうかこちらに気づいた様子はなく辺りを警戒しながら歩いている。


「どうする坊主? 見たところ巡回中のようだが。ありゃあ群れが別のところにいるな、もしかしたら結構大所帯の群れかもしれん」

「そうなのか? 簡単に終わると思ってたんだけどなあ……。しょうがねぇな、後のことを考えるとできれば気づかれる前に仕留めておきたいか。それと確認しておきたいんだが確かこの辺には本来ゴブリンはいない筈だったんだよな?」

「ああ、全て討伐済みだったという話だ。どこからか流れてきたのかもしれんがここはまだ人の生活圏に近すぎる、ひょっとしたら何かに追われたのかも知れん。よく見てみろ、あいつら全員手負いだ」


 そう言われてノアは魔力で視力強化をしてよく観察してみる。

 アルノルトが言うように全身に最近できたような怪我が目立ち、すでにボロボロな状態で各々が武器を手に取り怯えた様子で辺りを警戒しながら森の中を進んでいる。


「あんな状態で見回り……その元凶が近くにいるのか……?」

「今現在はあいつら以外他の気配はないが、警戒は必要だ。それで、アイツらに仕掛けるのか?」

「討伐もクエスト内容に含まれているからなあ……。しょうがない、俺がやる」


 銃だと音が非常に目立つためアルノルトは万が一のためにバックアップにまわる。魔法で遠くから仕留めるにしても複数いるため気づかれて応援を呼ばれる危険性もあり、その為に一切気づかせることなく仕留める必要がある。


「やるったって大丈夫なのかいお前さん、魔法を使うにしても場所が悪いぞ」

「ここから魔法でやってもいいんだが、木が邪魔だな。……余り使いたくなかったんだけど、まあ近づいて一気に確実に仕留める方法はあるさ。じゃあちょっと行ってくる──『インビジブル』『サイレントフィールド』」


 自身の姿を消すことのできる『インビジブル』と指定したものの音を消す魔法『サイレントフィールド』の同時発動によりノアの姿が掻き消え、自らが出す音を聞こえなくして完全な隠密状態にはいる。

 これで発見されるリスクはぐっと下がったが慎重を重ねて息を殺し、気配を消して少し回り込むように後ろからゴブリンたちに接近する。






 ゴブリンたちの近くまで見つかることなく進み、距離が3メートル、2メートルと飛びかかればまとめて一息にいけそうな位置につく。

 姿を消しているノアの位置からすると互いに距離を離して入るが、木々の生えた森を進むためにだいたい一直線上でまばらにゴブリンが展開している形だ。


「──ギ?ギギャ!キー!」


 感の鋭いやつがいたのだろう、警戒の声を上げたゴブリンに反応して残りも一斉に周囲をことさら警戒しだした。

 これ以上騒がれて仲間を呼ばれては困ると、ノアは両手足を魔力で強化、一足飛びで音もなく矢のように一気に接近する!


「ギッ──!」


 瞬間的な魔力の高まりを近かったから気づけた最後尾のゴブリンが振り向くが、その時にはすでに首が胴体から切り離された後だった。

 宙を舞うゴブリンの頭をよそに更に踏み込み他のゴブリンへと躍りかかり、右腕を横薙ぎに振るう。すると対象になったゴブリンは同じように音もなく、実にあっけなく首が胴体から跳ね飛ばされる。


 そのまま進み、木が他よりも生えてなく少し開けたところに固まっていたゴブリンたちに向けて勢いを殺すことなく両腕を広げてコマのように回転させて通り抜け、首と胴体を切り離されたばかりのゴブリンたちの死体を残して跳躍、眼前に迫った木を蹴り飛ばし無理やり方向転換して上空から残ったゴブリンに襲いかかる。




 そのゴブリンが仲間たちの異変に気づき、振り向いた次の瞬間には馴染みの奴らが見えない何かに音もなくバラバラにされ、声すら上げることなく血や臓物などを振りまきながら宙を舞う異様な光景だった。

 突然のことに思考が停止し、何かを考えるよりも先にそのゴブリンの意識は途絶えた。






 最後の一匹を倒すと同時に着地、足に制動をかけ地面を滑りながら停止する。一瞬の間で討ち漏らしがいないか周囲を警戒し、問題がないことを確認してから警戒を解く。

 後ろの方で宙を舞っていたものが次々に地面に落ちる音を聞きながら両腕を振り払い隠蔽に使っていた魔法を解除する。


 消していた姿を表し一息つくノアの両腕の先にはゴブリンたちを屠った、およそ1メートルほどの長さの魔力を圧縮して作られた刃が形成されており、仄かに暗い森のなかで淡く発光してその存在感を示している。

 それを軽く腕を振って魔力を散らし霧散させ、後方で待機しているアルノルトの方に向かう。


「終わったぞー」


 死骸を避けて歩きつつ相棒の方に向かえばジト目の出迎えが待っていた。


「……おい」

「なにさ」

「お前さん剣が無くても十分すぎるほど戦えるじゃねぇか」

「俺は別に出来ないとは言ってないよ? ただ、ちゃんとした剣のほうが使いやすいし魔力使うと疲れるんだよ、加減が難しいし」


 ため息を付いてこの話は終わり、と打ち切る。今倒したのはあくまで偵察で本命ではない。


「おっさんの推測が正しければ規模がでかい群れらしいがどうするんだ?」

「取り敢えずこのまま慎重に進んで様子をうかがおう。スキを伺いつつできるのなら奇襲がベストだな」

「わかった。で、そうでない場合は?」

「出来なきゃ後ろに下がりつつ遠距離でちまちま削っていくしか無いだろうよ、それが無理なら急いで撤退だ。こっちは数で圧倒的に不利だからな」

「こいつらがここに来た原因がいるとするならそいつはどうする?」


 その辺に散らばっているゴブリンの死体をで指し示しつつ一番の問題を聞く。

 今回のクエストはゴブリンの討伐とその原因を探ることなのでゴブリンを倒しておしまいではない。


「そいつの確認が取れればそれで問題ないが、攻撃を仕掛けている時に出くわさないかが問題だ。まあ、さっきも言ったとおりこいつらが流れてやってきたという可能性もある、周囲の警戒を怠らなければおそらく今の方針で問題ないだろう」


 ノアは戦闘前のやり取りのこともあり、自称ベテランだと思うようにしたが言うだけの事はありおっさんはこういう時頼れる、ということを再認識する。まだ駆け出しの自分には頼りになる存在はとてもありがたいのである。


「そう、じゃあそれでいこうか」


 方針を決め、先に進もうとした時それは起こった




「────────────────ッ!!」




 明らかにゴブリンのものではない森を揺るがす巨大な咆哮。


「何だ今の!?」

「わからん! ゴブリンではないがおそらくこれが元凶の……お、おい! 坊主走れ! 急いで逃げるぞ!」

「何だよ急に……オイオイオイ、嘘だろ!?」


 二人して急いで来た道を戻る。

 二人がいた更に後方、森の奥地が騒がしくなり数え切れないほどの複数の気配がこちらに向かって来ているのを感じ取ったからだ。

 やがて姿を確認できるようになった大量のゴブリンたちは皆が目を血走らせ、必死の形相で森の奥からやってくるソレから逃げている。


「ああもう! 冗談じゃない、巫山戯んなよ!? 何なんだよ一体! おっさんもっと早く走れ! 追いつかれるぞ!」

「わかってるが坊主のように早く走れねぇよ!」


 魔力を使って身体強化できるノアと違って素の能力で走らなければならないアルノルトでは差が出る。

 オマケに逃げるその間にも聞こえる何かが木々を粉砕して進む音や咆哮、ゴブリンの悲鳴や断末魔などが恐怖を煽る。




「─────────────────────ッッ!!」




 一際大きい咆哮の後、辺り一面に地面ごと粉砕するほどのとてつもない衝撃が走り、森や逃げ遅れていたゴブリンを吹き飛ばしながらソレらは現れた。




 ─────ソレはカバもしくはサイに似た姿をしているがその数倍は大きく、頭には2本の巨大な角を生やし、漆黒の毛皮に覆われた身体は逞しく引き締まり猛々しい。




「「─────ハアッ!?」」



 思わず足を止めて振り返るほどの驚愕が二人を襲う。

 逃げていた周りのゴブリンたちも先程の衝撃で足を止め恐怖に身を竦ませている。


 この世界の神話などで語られることもあるため認知度は高いがとても危険度のとても高い場所にしか生息しておらず、滅多に姿を見ることのないがその強さから冒険者ギルドが超高額の賞金を出すほどの危険なモンスター。




─────高ランク危険生物『ベヒーモス』




 その番が二人の前に現れたのである



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ