一章:Episode4 スキル
今、俺は第五会場の入場口前にいる。
見える範囲でしかないが、この会場はかなりでかい。
会場はドーム型で、学校の体育館くらいの広さだ。
学校の施設なのだから当たり前、と思うかもしれないが、ここは学校の体育館とは大きく異なる。
まず、観客席がある。
壁沿いにぐるりと一周観客席にどでかい電光掲示板。
ちょっとした野球場のようである。
まぁ野球場の様に騒がしさに溢れかえっている訳では無いのだが。
これも異なる点の一つだ。
会場内には誰もおらず、あるのは大量のカメラ。
ここから見えるだけでも眠くなってしまうほどの数のカメラがあるのが分かる。
恐らく試験官はあのカメラ映像から勝敗の判定をするのだろう。どれかに向かって変顔でもしてやろうか。
そしてもう一つ、俺のいる場所。
会場に入る為の入場口、その手前にあるちょっとした空間。
ここには机と椅子があり、自動販売機もある休憩スペースのようなところだ。
俺が開始の放送があったにも関わらずこの場所にいる理由。
それは・・・
「武器どれにするかなぁ・・・」
━━━使う武器の選択。
試験内容にも大きく関わってくるであろう重要な選択だ。
はっきり言って俺、加藤優佑という人間は不器用である。
初めて使う道具などまともに扱える自信はない。
ならば拳で戦え、グローブを手に取れ、と言われるかもしれない。
だがしかし、俺のステータスには適正武具に拳の欄がない。
基本武器のはずの七つすら十分に整っていない俺のステータスには剣か槍か斧か、この三つのみが選べることになっている。
まず斧ってどうやって使うんだよ。もともと絶対戦闘用じゃないだろ。
ということで斧を除外。
すると剣か槍になる訳だが、ここで迷う。
正直言って至近距離での戦闘は怖い。
だから極力近寄りたくないので槍にしたい、が。
「扱える気がしないよなぁ・・・」
槍は基本的に一定の形があり、定型とも言える体運びがある。
ただ振り回すだけではむしろこちらが振り回されてしまう。
この話は剣にも当てはまるが、剣はRPGの初期装備でお馴染みの比較的扱いやすい装備だ。
少なくとも槍よりは勝負になるだろう。
至近距離での戦闘に、恐怖さえなければ。
見れば相手の選手は既に準備を終えており、俺のことを待っている。
もう時間はない。
俺は覚悟をまだ決めていないまま、木製の模擬剣を手に取り入場口から会場内に入った。
Eブロック第一試合
加藤優佑 対 山本桜雅
電光掲示板に表示された文字を視界の端に捉え、徐々に緊張感が高まっていくのを感じる。
見れば、相手の選手━━━山本とやらも顔が強ばっている。
名前負けしてるぞお前。
そう心の中で笑ったと同時に開始のブザーがなった。
試験、開始だ。
山本桜雅、俺の第一試合の相手だが、高校一年生にしては体が大きい。
服の上からでも分かるほど筋肉質で明らかにパワーでゴリ押しするタイプだろう。
手には長めのハンマー、棍とやらを持っている。
両手で少し感覚を開けながらハンマーの柄を握るその姿はなんだか様になっている。
こいつはもしかしたら棍道とか棍術とかそんなかんじの経験者なのではないだろうか。
棍道ってなんだよ・・・近藤さんかよ・・・。
近藤は、じゃない山本は柄を力強く握りしめ前に構え、1歩左足を前に踏み出したかと思うと両腕を唸らせて下に振りおろ━━━
「うぉおッッ!?」
空気を切る轟音と共に隕石のごとく降ってきた棍を、ギリギリで右に転がりながら避けた。
下手すれば死んでしまう、まともに当たっていたら確実に入院レベルの一撃を躊躇なく打ち込んできた。
山本の顔は依然として強ばったままだ。
恐らく緊張で、殺してしまうかもしれないなど考えられていないのだろう。
「こんなとこで命懸けかよ・・・ッ!」
オークのようにただ振り回しているだけならば一本くらい取れただろうが、今回は緊張しているとはいえその道の経験者。
楽にはいかないだろう。
そうなるとさっき言われたようにスキルを使うのが最善策なのだろうか。
俺の持っているスキルは二つ。
『物理法則操作』と『反撃』だ。
どちらを使えば勝てるかと言われたら『物理法則操作』の方だろう。
俺のスキルの中ではチート的な存在だと思う。名前的に。
だがこれを今すぐ使えるかと聞かれたら答えはノーだ。
そもそも使い方よく分かんないし。
熱量操作、水圧・水流操作、気圧・気流操作、光量操作、電圧・電流操作のいずれかから選ばないと使えないわけだが、選び方が解らない。
「選択ッ!『電圧・電流操作』ァ!!」
・・・何も起こらない。
山本もこちらを困惑した目で見ながら棍を横薙ぎに振る。危ねぇ。
と、いう具合で選び方が解らない。
てか今の何気にすげぇ恥ずかしかったんだけど。
『物理法則操作』が使えないとなると必然的に『反撃』になる。
これは任意でカウンター攻撃をすることができるらしい。
一見、これなら一本入れられるんじゃないか、と思うかもしれない。
だがカウンター、ということはつまり攻撃を一度受ける必要がある。
これは精神的になかなかキツイ。
何せ相手の山本はゴリ押しのパワータイプ、当たれば死んでしまうかもしれない。
その攻撃を避けずに受け止めるのは精神的に難しい。
「うらァッ!!」
山本の攻撃が上から来る。
だが、それでも。
やらなきゃ勝てない。
怖い、でも。
「根性見せろよ俺・・・ッ!」
模擬剣を受け止める角度で構えた、その時にはもうすぐ上まで棍が迫っていた。
剣と棍がぶつかるその瞬間。
何か根拠があった訳では無い。
ただの感覚。
山勘といって差し支えないだろう。
ただそのときは、
『ここだ。』と。
そう思った。
頭の中で強く念じる。
━━━反撃!
その時は、一瞬だった。
脳内にビジョンが浮かぶ。
筋肉が収縮し、関節が曲がる。
もはやそれは条件反射に近かった。
ほぼ意識とは無関係に体が沈み、回り、跳ねる。
降ってくる棍を必要最低限の力で軌道をずらし、そのまま腕が伸びる。
気づけば俺の模擬剣は山本の腹を抉るように薙いでいた。
俺の右横で山本が仰向けに倒れている。
そのことを認識するのにかなり時間をかけた気がする。
意識を置き去りにされたような感覚だった。
『勝者、受験番号258番、加藤優佑』
スピーカーから無機質な音声が聞こえる。
あぁ、そうか。
俺は試験に来ていたんだっけか。
そう思ってしまえるほど俺は何も考えていなかった。
いや、一つのことに思考を奪われていた、と言うべきか。
「これが・・・スキル・・・?」
初めてスキルを使った感覚。
それはなんだか不思議な気分だ。
まるで自分の体じゃ無くなったような、奇妙な感覚。
少し気持ち悪さすら残る感覚だが。
とても、強力な力だ。スキルというものは。
休憩スペースに次の受験者がきている。
俺は立ち上がったところで、全身が汗だくなことに気づいた。
緊張と勝たなければいけないという重圧で体中が強ばっていたのだ。
解放とともに脱力と汗が噴き出してきた。
見れば、既に山本はいない。帰ったのだろう。
負けたら帰る。
それがこの試験のルールだ。
俺は帰るわけにはいかない。
このままおめおめと佐々浦に顔向けなどできない。
次も勝つ。このスキルで。
俺はゆっくりと出口の方へ歩いていった。
━━━どこか、薄暗いモニターの沢山ある場所にて。
「今のはスキルか?」
「もうスキルを使っている人がいるとは・・・」
そこにいる人は誰しも驚きを隠せないでいた。
モニターに映っている映像を見ながら。
いや、二人だけ動じない人物がいた。
その一人、金髪碧眼の男は独り言のように呟く。
「彼はもしかしたら、属性持ちなのかもしれないね。」
その声は、驚く程に冷たかった。
今日彼を初めて見た人が聞けば、思わず怯えてしまう程には。
動じなかったもう一人の人物、髪を茶髪に染めた今どきの女子高生、といった雰囲気の少女は男に答えるわけでもなく、静かに言葉を洩らす。
「言ったこと、そのまま守ってる・・・かーわいっ」
その口に、微笑を浮かべながら。
加藤優佑
第一試合、突破。
第二試合へと。
短い。
と、思うじゃん?
これがこの話の普通なんでよろしくお願いしゃす。