序章:Episode2 普遍の日常
━━━翌日
俺は学校に来ていた。
体育館に全校生徒が集まっている。と言っても田舎の学校の全校生徒数なんてたかがしれているが。
世界のファンタジー化もあり、体育館内はかなり騒がしかった。
さして気にしていないようでそのまま校長が舞台上に立つ。
「皆さん、おはようございます。
夏休み中なのに集まっていただいてすみません・・・なんて状況でもありませんけど・・・。今日皆さんに集まってもらったのは一昨日政府からアフターケアについての話がありました。」
少しがやがやしていた体育館が一瞬で静まりかえる。
今この世界で外の怪物達から身の安全を守ってくれるのは、神のアフターケアだけなのだ。
自分の命に関わる話を聞き逃さないように耳を研ぎ澄ませている。
普段の校長の無駄な長いお話とは違うのだ。
「神から基本的なアフターケアとして保障されているのは、町の外壁がある限り怪物は町に入ってこないこと。次に町から町へ移動する列車の安全保障。」
移動用の列車とかあったのか。やばいすげぇ疎外感。
「最後に、これが少し特殊なのですが・・・怪物と遭遇した際の自己防衛能力の付与。」
体育館内に困惑の空気が流れる。
それは全ての人間に、ということだろうか。
そんなものいつ付与されたのか。
「えーその自己防衛機能なのですが・・・なんと言いますか、一人一人個人差のようなものがありまして。役所に自分の防衛機能の詳細が書かれている紙が届いているそうなので後で各々で取りに行って下さい。」
役所は町の中心にあったが、世界のファンタジー化の際に位置が町の端っこ、外壁のすぐ側に移動している。・・・めんどくさ。
「ここからが本題なのですが・・・急な話なのですが、来週から自己防衛機能の安定、強化をするための学校が東京で開校することとなったそうです。
その学校なのですが、開校するにあたって全国の高校に募集を掛けているそうです。」
それは神のアフターケアの一つなのだろうか。
だとすればそれはつまり、アフターケアとして力をつけてあげるから後は自分で生きてね!ということではないか。
神ならちゃんと最後まで面倒を見てほしいものである。
自力で生きる人間の姿を見て楽しむ趣向なのだろうか。神様すげぇ嫌な性格だな。
「その学校への転校を希望する人は明後日までに職員室に転校の書類を取りに来てください。以上でアフターケアについての話は終わりです。他に連絡事項のある先生がいたら舞台前まで・・・」
俺はクラスの奴らと話すこともなく体育館を後にする。
諸連絡の時に暫く部活動の禁止と言われたので部室に置いてある荷物を持ち帰るためだ。
・・・そういや結局ファンタジー感溢れるナニカについての話とか無かったな。母さんの嘘つき。
職員室から部室の鍵を取り、部室を開ける。
中はただでさえ狭いのにさらに棚を三台置いてあり、ほぼ物置と化している。
自分の棚から置いてあった本や着替えなどをエナメルバッグの中に乱雑につっこみ金属製のバットを専用の袋に入れる。
靴は・・・下駄箱に置いておくか。
持って帰るのはめんどくさいと判断し、運動靴を片手に持ち部室を出る。
そこには野球部の癒し兼一年マネージャー━━佐々浦麻衣が立っていた。
「あっ加藤くん!」
「・・・よう佐々浦。どした?」
「部室開けようと思って職員室行ったら鍵なくって、加藤くんだったんだね!」
「あ、あぁ。荷物取ろうと思ってな。・・・ん?佐々浦って確か部室に荷物とか置いてないよな?」
「あーうん・・・皆荷物だすかなーって思ったから、先開けとこうかなーって!」
佐々浦は俺の問に対し少しはにかみつつそう言った。
なんだその可愛いしぐさ。
「・・・優しいな、佐々浦は。」
「えぇっ!?そんなことないよ!マネージャーとして当然だよ!」
佐々浦は無意識的に他人のことを思いやれる優しい奴だ。
その優しさは世界が変わった今でも変わっていなかった。
「部室の鍵、任せていいか?」
「うん大丈夫だよ、ありがとう!」
俺は佐々浦に鍵を渡し学校を出る。
部室に置いてあった荷物が意外と重く自然と足取りも重くなっていく。
肩が疲れてくると、掛ける肩を変えて紛らわせる。
結局両肩疲れるのは解っているが、人間は目先の楽に目がないのだ。
交差点で信号待ちで止まっていると車の通りが少なくなっていることに気づいた。
町の外に車で出かけることはもう無いのだ。町の中だけでの移動なら車を使わなくともできる。必然的に車を使う人はなくなるのだ。
この交差点を曲がれば役所に出る。そういえば校長の話で役所で紙を受け取れとか言ってたっけ。
「・・・寄ってくか。」
俺は比較的小さめの役所に入り受付に聞く。
「すみません。自己防衛機能の詳細?ってやつを受け取りに来たんすけど。」
「はい?」
・・・なんか話違うんだけど。
役所に受け取りに行けって言ってたよなあの校長。
「えと、アフターケアで届いてるらしいんですけど・・・」
「えっあぁ!ステータスのことですか!」
ステータス?随分ファンタジー感溢れる言葉だな。そんなこと一言も聞いてないけど多分それの事なのだろう。
「あっはい多分そうです。」
「ではこちらにお名前と住所を記入してください。」
俺は言われるがままに名前と住所を書き込んでいく。
というか地形とかかなり変化してるみたいだが住所なんて意味あるんだろうか。
「・・・はい、加藤優佑様ですね。暫くお待ちください。」
そう言うと受付のお姉さんは奥に入っていった。
おばさんじゃない。お姉さん。
程なくしてお姉さんがA4サイズの封筒を持って帰ってきた。
「こちらが加藤優佑様のステータスとなっております。はいどうぞ」
「あ、ありがとうございます。」
俺は封筒を受け取るとそれをエナメルバッグに入れ、外に出た。
夕方になると外は少し涼しく、過ごしやすくなっていた。
「いつもと同じだな…。」
そんな訳は無いのだが。
しかし何故か、ファンタジーの世界になった今でも自分の日常は変わっていない気がした。いつもの日常に変化が無いように感じられてしまう。
それは多分、俺が変わっていないから。
世界が変わったって俺はいつだってただの男子高校生。
なんの面白みもないモブキャラのまま。
環境が人を変える、と言う。
だが、俺に限って言うならばそれは違う。
世界が変わったところで、俺が変わろうとしなければ俺は変わらない。
俺は今の変わらない自分に甘んじている。
変わらない方が楽だから。
楽な方へ、楽な方へ。
そのそんな甘くて淀んだ流れに逆らうことを怠けているのだ。
━━━心のどこかでは解っているのに。変われるのは今だけなんだと。今しかないんだと。
だから世界が変わろうが、俺はただのモブAのままである。
ドゴォッッ!!
突然の爆音に驚き、周りを見回すと。
そこには、外壁の一部に大きな穴が空いていた。
「・・・うぅ・・・あ・・・。」
よく見ると傍に柄の悪い高校生が数人倒れている。
何が起きたのかは分からない、がとりあえず。
自分の命が危ない、ということだけは俺は何となく理解した。
最後までよく読んで下さった
感謝感激の極みです