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現代高校生の反抗記  作者: 鳥頭:β
序章:夏
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序章:Episode1 暑い日

━━━「属性」、というものをご存知だろうか。

火、水、土、風、みたいなファンタジーな非現実的なものを思い浮かべたか。

それともお姉さん属性、みたいな性格をデフォルメ化したような今時のものを思い浮かべたか。

ここでいう「属性」は後者に当たる。

と、いいつつもこの話は単なる日常系ラブコメディなんかではない。

この世界は性格をデフォルトしたような「属性」を持つ者がチカラを持ち、ファンタジーな「属性」を持つ者が一般人としてその他大勢に紛れている。



何故そんな歪な世界に変わってしまったのか。

まずはそこから話そう。


あれは━━━そう、八月の初め、夏休みも二週間程過ぎた頃の話。
















その日は珍しく暑かった。

都市部からも離れ、周りが山に囲まれた標高の高いこの田舎では本当に珍しく。


わかりやすく例えるなら、スポ根ものの主人公が青春の汗を流して練習に励み、それを幼馴染みのマネージャーがスポーツドリンクを持って見守っている感じである。


だがしかし残念なことに俺、加藤優佑には幼馴染みの可愛い女の子はいないしそこまで部活に情熱は注いでいない。


一応野球部に所属してはいるが、入った理由が「マネージャーが可愛いから」の俺にとって真面目にやる要素はなく、毎日グラウンドの隅の木陰で同じく非ガチ勢の同級生達とともに筋トレやら走り込みやらを適当にこなす日々だ。

もっともその非ガチ勢の同級生もだいぶ少なくなってきており、今では練習に来てるのは3人が限界である。


それでも俺が毎日練習に行くのはある理由がある。


俺と同じ高校一年生の野球部マネージャー、佐々浦 麻衣。

黒髪ショートボブのまだあどげなさの残る顔立ちに、優しい性格が合わさって男子から隠れた人気を誇る。


彼女には重度のブラコンという噂があったりするのだがそれは見て見ぬ振りだ。


部活に挫折した奴と思われたくなくてだるいのを我慢して夏休み中の練習にも参加している。

他人から見たら下らない悩みかも知れないが、その下らないことに真剣に悩めるのが男子高校生というものである。


━━━容姿は普通。身長も高くない。運動神経も特別いいわけでもないし勉強なんて平均以下だ。


そんな一般的な男子高校生の俺と比べ、彼女は容姿が良くて性格も良くて人から慕われていた。


皆が憧れて好意を寄せていた。

だから俺も好意を寄せる。

流れに逆らわない。

それが楽だと知っているから。


その流れに逆らえない自分が、俺は嫌いだった。


そんなありふれた高校生の俺に転機が訪れた。


部内での立場最底辺の俺は朝早くから家を出発し、そう遠くない公立高校に入っていき、今日の練習の準備を行う。

肩掛けのエナメルバッグに入れてきた最近よくある異世界ファンタジーのラノベを今日はどこでサボって読もうか、などと考えながらグラウンドに入った。


そこには違和感があった。

具体的にはグラウンドの中心。

そこに男が立っていた。

肌から髪まで真っ白の。


夏休みの練習に来た俺から見て、その男は端的に言って不審者だった。

先生に言いに行こう。

そう思い職員室に向かおうとグラウンドに背を向けると。


「君にしよう。」


男が呟いた。


俺の意識はそこで唐突に途切れた。







━━━目が覚めると、見知った天井が視界に広がっていた。


・・・夢だったのだろうか。

夢にしてはかなりリアルだったが。

頭の隅に何となく違和感を残しつつ部屋のカーテンを開ける。


そこに広がっていた景色は。


綺麗に四角く切りそろえられた町。

外壁のようなものの外でうろつく異形の怪物達。


・・・そこにはファンタジー世界、のようなものが広がっていた。


「・・・は?」


俺はリビングへ走る。

大した距離でも無いのに息を切らしてリビングのドアを開ける。


椅子に座っていた母を見つけ、外の状況について話そうとしたが、上手く言葉が出てこない。

なにせこんなことは生まれて初めてだ。

まず何から話せばいいか、考えていると母━━加藤孝子は少し微笑みつつ俺に話しかけた。


「目ぇ覚めたんだね、良かったよ。」

「・・・いや母さん外っ・・・!」

「あぁ、見たんだね。びっくりしたろ?」


・・・・・・何を言っているのだろうか。というか、


「なんでそんな落ち着いてんだよ・・・」


俺の問に対し母は乾いた笑いと共に、


「もう1週間だからねぇ、慣れちゃったよ。」

「・・・・・・は?」

「いやーこのまま目覚まさなかったらどうしようかと思ってたんだけどねぇ?医者に行っても気失ってるだけだって言われて」

「まって、えっ1週間?」

「そうだよあんた1週間もずっと寝たきりで。もう死んじゃったかと思ったよ。」


の割に随分軽い気がするが。


これはつまり、あれはやはり夢ではなく。

あの日から一週間俺は気を失っていた、ということだろうか。





俺は気を失った後何があったのか、母に聞いた。


あの日俺が気絶した後、世界は唐突にこのようなファンタジー感溢れる世界に変形してしまったらしい。

当然世界中で大混乱が起こった。


そこへ全世界のテレビ、ラジオなどの媒体を通して、ある男の声が聞こえてきた。

肌から髪まで真っ白の男の声が。


「よぉ。世界中の人間、こんにちは。あるいはおはよう、こんばんはの所もあるか?

唐突で悪いけど俺は神だ。

さっきまでの世界が平凡でつまらなさ過ぎてな。

お前ら人間の考える刺激的で面白い世界へと変えさせて貰った。

信じるか信じないかは自由だが、現実として世界は変わっている。」


世界中の人々は、これを唯の妄言と言うほど自分の状況が分からない訳では無かった。


ある人は泣き喚き、ある人は激怒した。

未だ現実を受け入れられずに呆然とする人もいた。


「だが、俺はお前ら人間に絶望して欲しい訳じゃない。

だから神として、お前ら人間に救いをやろう。」


そこまで言ってその神は楽しそうに1拍置き、


「アフターケアというやつだ、まぁ楽しんでくれたまえ。」


━━━これはお前らの望んだ世界なのだから。


そう言ってその神は消えた。

その横暴過ぎる神に憤りを覚えた人々は神を殺してやろうと躍起になって探し回った。


しかし変えられた世界は、人々に優しくなかった。


神を殺すために立ち上がった人々は、一人残らず町の外の怪物に殺されてしまったのだ。


人々の反抗の意志は消え失せた。

本能的に人々の中で世界を変える程の力を持った神のアフターケアとやらを受けた方が安全だという結論に至ったのだ。


誰だって自分の命は惜しい。

当然と言えば当然の帰結だった。






















「━━それが・・・俺が寝ていた一週間で起こったこと・・・」


正直まだ信じられていない。

世界が一瞬で変貌したことも。それに人々が既に順応しつつあることも。


だが実際に世界は変貌を遂げているし、目の前の母は変わり果てた世界にしっかりと順応している。


ならば俺一人がここで事実を認めなかった所でなんの意味もない。

俺は無理やり言葉を飲み込んで、現実を受け入れた。


俺はまた、気づかぬうちに流されていた。




「ところで、そのアフターケアってのは?」

「私達の身の安全の最低限の保障、今のところはそれだけだよ。」

「つまり?」

「お前は本当に馬鹿だね」

「うっさい」

どうせ俺は成績不振(バカ)だよ。

「・・・まぁ要は町の中にあの怪物達は入ってこないようになってるのさ。あの外壁がある限りね。」

「・・・それだけ?」

「今、怪物達以外に私達が命を落とす理由なんかあるかい?」

「いや、折角ファンタジー感溢れる世界なのに・・・なんか、こう」


少し口に出すのが恥ずかしく吃っていると、母は何かを察したようで軽く口角を上げながら教えてくれた。


「それなら明日の臨時登校で説明されるさ。」






読んでくださりありがたき幸せ

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