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白い夢2

 ん?何処だここ?


 気がつくと一面白く塗られた天井、壁、床、そんな建物の通路に立っていた。白いのは建物だけじゃない、そこを歩いているのは男も女も白い服にやけに白い肌をした人達ばかりだ。美白ブームだろうか。

 改めてこの場所について記憶を手繰り寄せてみるが、やはり覚えが無い。もしかして…と一つ思い浮かぶ。


「夢の中か?」


 そう考えると、何と無く現実離れした様なこの場所にも合点がいく。それに、体の感覚も全く無いわけではないが、起きている時より少し鈍い様に感じる。頭の方はやけにはっきりとしているが…はっ、明晰夢てやつか⁉︎


 明晰夢、自分で夢と自覚しながら見る夢だとか、ネットで読んだ覚えがある。何でもその中では自分の思い通りの事が出来るとか…

 したならっ!やっぱ最初はベタに空を飛ぶだな、これは外せない。よし飛ぼう!とワクワクしながら頭の中で浮かぶイメージしたり、実際にジャンプしてみたり、両腕を羽ばたかせてみたり、どこぞのヒーローの様に腕を高らかに掲げシュアッ!とか言ってみたが何も起きない。俺の胸の高鳴り返して…


 さて、どうするか。夢と自覚したはいいが特に変わった事が出来るわけでもなく、イベント的な事が起こるわけでもない、やる事が何も無い…

 只、この通路を全体的に白い人達が往来しているだけ。中には数人で楽しげに会話をしながら通り過ぎていく…ん、楽しげ?何か違和感…何かおかしい…何か気持ち悪い…

 周囲を見回し、それに気付きギョッとする。

 …皆同じ目だ。確かに笑って者もいる。だけどそれは只、口の端を上げ笑みの形を作っているだけ、瞳は虚ろで何の感情も灯していない、とても人間のする目には見えなく、もうそれを人としてみる事はできなくなる。


 何これ…怖いっ怖いっ怖いっ怖いっ


 それ気付くとそこはとても奇妙で恐ろしい場所へと変貌する。今の所それらが何かをして来る事はないが、得体の知れないモノの中1人という恐怖に早く目が覚めて欲しいが状況に変化はない。

 それから逃れるよう、出来るだけそれと目を合わせぬ様にしながらその場から歩き始める。


 早足で白い通路を進みながら、改めてこの場所について考える、病院だろうか幾つか部屋があり扉にはネームプレートの様なものがついている。だが、そのネームプレートは殆ど白紙で扉も開かず中を確認する事は出来ない。

 だが暫く建物内を徘徊しているうちに、白紙では無いネームプレートのかかった扉が目に入る。擦れて何と書いてあるのかは分からないが、漸く訪れた現状を打破してくれるかもしれない変化に躊躇いも無く、その扉を開く。


 ガラッと音をたて開かれる扉の向こうもまた、白一色の部屋、置かれている物も白いベットだけというとても簡素な部屋だ。その部屋の片隅に小柄な少女が膝に顔を埋めて座り込んでいた。侵入者に気付いた少女が顔を上げる、あの目が向けられることに息を呑み身構えるが、少女が向けてきた視線は予想していた空虚な視線では無かった。


 その瞳に宿るは、恐怖、恨み、怒り、憎悪、嫌悪あらゆる負の感情をごちゃ混ぜにした様な、それでも強い意思は感じる感情を灯した瞳だった。

 ここにきて初めて人間らしい感情をその目に宿した少女に出会えた事に一瞬ホッとしたが、その明らかにこちらを拒絶する視線の迫力に「し、失礼しましたっ」と慌てて扉を閉める。

 学生だろうか、自分より明らかに年下であろう少女、だがその相手を射殺さんとする鋭い眼光はとても幼い少女が出来るとは思えぬほど苛烈なものであった。


 再び白い通路へと戻るが前と何も変化のない状況に茫然とフラフラ歩くことしか出来ない。

 数分?数時間?時間の感覚もない中、そのまま当てもなく彷徨っていたが


「えっ?」


 今窓の外を人が落てくのが一瞬見えた気がする。咄嗟に近く窓を開け下を確認するも、白い地面に白い花壇が見えるだけで、人が落ちた様子はない。気のせい…?


 ふと、この世界で唯一人間らしい瞳をしたあの少女の事が頭によぎる、彼女に何かあったのではないかと。何故そう思ったかは分からない、だが、あの少女の事が気になりあの部屋の前に戻って来た。しかし、戻って来ただけだ、その扉に手を伸ばす事が出来ない。

 ここに戻ってどうしようというのか…そもそも、普段、人との関わりを日常生活や仕事に支障のない程度にしかとっていない自分。だが、本当はもっと他者と仲良くおしゃべりをしたり遊びに行ったりしたいという願望もある。それが出来ないのは、怖いのだ…自分が喋る事により相手を不快な気持ちにさせてしまうのではないか?自分なんかが皆の輪に入る事で不快に思われるのではないか?


 怖い、他の人が自分をどう見てくるのか怖い…それは、只の、自意識過剰であるのだろう。それを頭では理解しつつも、いざ人前に出ると無意識化に言葉を抑制し結果何も喋れない男が出来上がる。何度、人の目何か気にするな、相手はそんなお前の事なんて気にしてないと自分に言い聞かせても、人前では体の震えが止まらない。

 そういうものを、ネットのSNSやゲームで解消する方法もあるのかもと思った事もあったが、例え顔の見えぬネット上で匿名の掲示板等でも、そこに相手がいると思うと何も書けない、ネットゲームでもその特性を生かさず只の1人プレイという重症っぷりだ。

 次第にそんな自分を受け入れ、人と極力関わらずにするのが自分にとって1番だと作り上げたのが今の生活だ。


 そんな自分に、隠さず強い敵意を向けてくる少女に自ら会いに行くなんて出来る訳ないのだ。現実だろうが夢だろうが意識がはっきりしている以上それは変わらない事実、自分は只々扉の前で立ち尽くす事しか出来なかった。


 ◇


 こんなに、はっきりと覚えてる夢は初めてだ…

 朝の小鳥のさえずりで目が覚め思う。

 明晰夢なのか?中では夢だと認識しつつも現実と同じ様に自ら物事を考え感じる事も出来た。そして、あの少女の瞳…あの憎悪に満ちた目が脳裏に焼きついて離れない…

 頭を振り軽く両頬をパンパンと叩き、所詮夢の中の出来事だ、と気を引き締め直す。

 そうどうせ夢の中の事、すぐに忘れてしまう事だ。


 この時はまだそう考えていた…

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