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異端少女と魔界の箱  作者: マキタ&イオ
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プロローグ

「母さん、行ってきます」


青いマントに身を包んだ身体の小さな少年は、町の郊外に建てられた真新しい墓石の前でそう呟いた。


その墓には少年の母親が眠っている。

優しかった母、唯一の家族を病で失ってもうじき1月が経とうとしていた。

少年は軽い足取りで墓地を後にすると自宅へと向かった。


町の中心に近い住宅街の古い小さな家が少年の我が家だ。この小さな家での一人暮らしももう慣れ初めてきてしまっていた。


「ただいまー」


家に入ると無意識に出てしまう言葉。しかしそれに対する返事はもう二度と聞くことは無いのだろう。


少年は自宅に着くと、すぐさま身支度を始めた。

出発の準備はできていて、あとは荷物を持っていけばいい。大きなバックパックに両手一杯の荷物。少年はその身体の何倍もの重さの荷物を抱えながら裏庭へと出る。


裏庭には1頭の馬が居た。黒い毛並みの美しいその馬は、少年に気が付くと嬉しそうに声を上げる。


「さぁ、仕事に行こうメリア」


少年は愛馬に荷物をくくりつけると、彼女を馬止めから解放した。少年に引かれるメリアは嬉しそうに彼に従う。

裏庭を出て、愛しの我が家に鍵を掛ける。当分は戻って来られない、いつもより多くの仕事を今回は請けているからだった。


少年の仕事は請け負いの商人だった。託された品物を他の町で売り捌く仕事だ。母が亡くなってから今回で4度目の仕事になる。


我が家を離れると、町の西門へと向かった。今回は王都『エルティス』に向かう予定だ。


「毎回ご苦労さん、今回も頼むよ」


小さな町ではすぐに依頼主と会う。今回の依頼主の老人の一人がにっこり笑って少年を送り出す。


「はい、行ってきます!」


少年は老人に手を振りながら別れを告げた。


西門を潜り抜けると、どこまでも続くような草原が彼を迎えた。少年の住む町『ニスク』の周囲は広大な草原が広がっていて、果ての町とも呼ばれるほど長閑な町だ。


少年は街道を歩む。草原を吹き抜ける風がとても心地よい。長くなるだろう旅路も、少年にとっては好奇心を揺さ振る冒険の様なモノだった。



日が少し傾く程歩いたところで、街道を歩いて来る人影が3人見えた。遠くからでも分かる、図体の大きな影だった。


「おいで、メリア」


人影が近づくにつれ、メリアの手綱を握る力が自然と強くなる。少年は迫る集団に嫌な感じ覚えた。


ゲラゲラと笑い声を響かせながら迫ってきたのは3人の大男だった。身に着けている鎧は薄汚れていて、皆が腰に剣をぶら下げていた。

男達は少年とメリアの進行を阻止するように街道に立ち塞がった。


「おっとボウズ待ちな。ここを通るには5ゴールド掛かるってよ」


大男の1人がそう言った。


「ハハハ・・・面白い冗談ですね」


少年が苦笑いしながら返事を返すと、男は眉をひそめた。


「ほら、通んならとっとと払いな!」


男達はニヤつきながら少年を囲む。獲物を逃がさぬよう、逃げ道を塞いだ。


「痛い目見たくないだろうボウズ?、その馬と背負ってるバック置いてお家に戻りな」


男達はやはり盗賊だった。こうして商人から物という物を奪い取る。奴らに従わなければ恐らく殺されるのであろう。


少年はズボンのポケットに手を忍ばせた。今みたいな最悪な状況を予測して、いつもポケットの中に煙幕弾を入れておいてあるのだ。


「盗賊なんかに渡す物なんか・・・無い!!」


少年は地面に煙幕弾を叩きつけた。すると一瞬にして濃霧のような濃い煙が周囲に立ち込め、男達の視界を奪う。


「ゲホっ!、クソガキがっ!調子に乗りやがって!」


男達が怯んでいる隙に少年はニスクに向かって走り出した。メリアを引き、全力で街道を駆ける。


「待ちやがれガキぃ!」


男の1人が煙幕を上手く逃れ、少年を追いかけてきた。


逃げていたが町まではあまりにも遠すぎた。町はもう地平線の彼方、見えない所まで進んでしまったところで盗賊に絡まれてしまった。


猪のように迫る大男からは逃げ切れそうにない。

「行くんだ、メリア!!」


少年は捕まる寸前で手綱を放した。メリアは危機を感じ取ったのか、スピードを落とすことなく駆けて行く。


「逃がさねぇよ!!」


大男は少年の背後から強烈なタックルを繰り出した。少年はバックパック越しにタックルを喰らい、無造作に石が敷き詰められた街道に勢い良く倒れ込む。


「クソガキが!ぶっ殺してやる!」


男が背後で剣を鞘から引き抜く音がした。少年は急いで立とうとしたがバックパックの上に大男に馬乗りされ、身動きが封じられる。


ーこのままじゃ殺される!


キーン


男が少年の首元目掛けて剣を振ろうとした時だった。バックパックの中から大きな音がして、その直後に馬乗りしていたはずの大男が後ろに大きく吹き飛んだ。


「一体何が?!」


少年が背後に目を向けると、足元に一人の女性が立っていた。長い黒髪で奇妙な服装をしている女性。

一体何が起きているのか理解できなかった。










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