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ガラスモユル

 必要とされてると思っていた。

 お役に立ててると思っていた。

 お側によれることが信じられない程だった。

 偉大にして高貴なる始まりの世より存在する種『竜』の中でも『皇』と呼ばれる我が主君。

 焔の色。赤の似合う我が皇。

『風の竜皇』様と『大地の竜皇』様の間にお生まれになられた『焔の竜皇』様。

 鮮やかな真紅の髪。穏やかさと激情を秘めた海老茶色の瞳。

 この方が『竜』へと変貌を遂げたならどれほど美しいのだろう?

 今は幼く、無邪気に我にすら微笑みかけてくださる我が君。

『竜皇族』に仕えることが許される『竜種』であることをどれほど感謝したことだろう。

 なのに、我が身がいたらなかった故に貴方は道を誤られた。

 下等な種、寿命も短く儚いほどに脆く、僅かな時の流れにも心の揺らぎやすい気紛れな種。『人間』。

 そう呼ばれる種に貴方の心は奪われた。

 許せない。

 下等な種ごときに心奪われた貴方が。

 許せない。

 貴方の澄んだ心を汚した人間と呼ばれる種の女が。

 許せない。

 時の流れの向こう側、異なる時の向こう側から訪れた種どもが。

 始まりの時よりこの世に存在した存在を脅かす愚かな下等種ども。

 ほしい。欲しい。力がほしい。

 滅ぼす力が。

 復活させる力が。

 異界より訪れた種を総て排斥し、再び始まりの世には居た彼らを呼び戻す力が。

 この身が如何様に汚れようと…………ただ力が、力が必要だ。

 我が皇の正気を取り戻すためにも。



 硝子玉


 ぶら下がった幾つもの硝子玉。

 うっすらと発光する硝子玉を納めた広い部屋。

 光ることを止めた硝子玉は床に砕け散り、ただ、光る硝子玉の光を反射させるだけ。

 ありとあらゆる色の硝子玉はまるで命の輝き。いや、その硝子玉は命の輝きそのものだった。

 暗き魔力に縛られ、ある者はその肉体ともども硝子玉に閉じ込められ、ある者は魂のみを奪われ硝子玉に閉じ込められている。

 生きている限り硝子玉は淡い発光を続け、死ねば砕け散る。それだけ。

 今は『刻嘆の魔王・ゾルゾバ』と呼ばれる竜種の男は薔薇色の光と焔のように熱を放つ緋色の硝子玉をゆっくりと撫でた。

 ちりちりと焼けてゆく爪を見ながら魔王は笑う。

「ああ、我が君。もうじきです。もう少しばかりお待ちください。貴方に相応しい時代。世界をこの私が造って見せます。貴方が皇として君臨するに相応しい世界へと戻して見せましょう。伝説となりし、あの時代の再建を!」

 硝子の間を出た魔王は謁見の間へと足を向けた。

 聞きたくもない言葉を聞くために。

 色彩豊とも言えるが悪趣味の極みな謁見の間で膝まずく黒いマントと黒い衣装に身を纏った男を魔王は見下ろしていた。

 緑色の毒々しい液体を男は魔王に差し出した。

『隷属する種であることを嫌悪するならばこの薬を飲めばいい。力を得ることが出来よう。報復する力。嫌悪する者の力を上回る力を得れることを約束しよう。』

 藍の髪を揺らし、男は囁きかける。

『力が、欲しい、のだろう……。』

 そのあまい誘惑に魔王は屈した。

 力が欲しかった。滅ぼし、再興することの出来る力が。

 カドア将軍が討たれた。そう男は言った。

 判ってたことだ。あれは生きることを望んでいなかったではないか。

「カドア将軍が落ちたと?! 優れた将軍ではなかったのか! おい! ソルス、何とか言え! あれを選んだのはお前じゃないのか!」

 そう、死を望んでいるのを判っておきながら。

 死んだのは愚かなる者達のため、決して理解されず、永久に呪われた名になることすら厭わなかった武勇の将であることを。魔王はその男に好感を持っていたのだから。

 認めたくなかった。その者の死を。

「そうはおっしゃいますが魔王様。彼は事実優れた将軍、武人です。」

 そんなことはわかってる! 我が望む答えはそうではないのだ。

「ゼノが竜国ウルディアの樹精を落した後、向かうと自分で言っていたことですし、お気になさる事も有りますまい。」

 気にするな。だと?

「それにもし将軍が落ちたのだというのならしばらくの間、手を出さぬという彼との約束…………。」

 男の言葉を遮らず、耳を傾けず、魔王はソルスに下がるように命じた。

 魔王は息を吐く。

 あの男は何もわかっていない。

 隷属する身であることを喜びこそすれ、その立場を嫌悪したことはない。

 誇りを持っていた。仕える身であることに。

 わかるまい。だからこそ許せなかったのだ。

 我が皇を誑かした人という種が。

 下賎で正しくなく傲慢で生まれながらに汚れた種。

 許せぬ。そのような生まれでありながら、汚れを知らぬ高貴な竜皇である我が皇を誑かすなど!

「だいすきだよ。…………。」

 そう言って我が名を呼んでくださる我が皇。

 我が名?

 何と呼んで下さっていた?

 我が名は魔王ゾルゾバ。

 しかし、我が皇はこのような汚れた名でなく、もっと別の名で呼んで下さってた気がする。

 かまうまい。

 不要な記憶。名など関係ない。必要なのは皇に相応しき世界を作り上げることのみなのだから。

 不要だ。

 何もかも。そう、自分自身すらも。必要ではない。

 わかるまい。あの男には。

 わかって欲しいなどと誰に対しても思いはしない。




 

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