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立脚点

「仰る意味が分かりません」

取り敢えずとぼけてみる。

無駄だろうけど。

「ほう…とぼけるのかい?私相手に?」

う…。

「いい度胸だ。流石は(なずな)さんと

 (つよし)さんの子だ」

あら…?

「もうとぼけて隠す必要さえないわよ甲。

 とっくにばれているわ。

 貴方が馬鹿なせいで」

「も、申し訳有りません」

「これ以上恥を掻かせないで頂戴。

 お馬鹿さん?」

「はい…」

そんな僕達のやり取りを見て、

鷺谷様はくつくつと笑っていた。

「くっくっく、面白いな、君たちは」

こっちは気が気ではないんですが。

「さて、改めて聞こうか、甲君」

「はい」

「君の体には釘を何本埋め込んであるんだい?」

「8本です」

僕の体に埋め込まれた戒め。

僕が生まれた金の家特製である、

力を隠し、抑える為の釘。

封釘(ふうてい)

今の不完全な僕には必要な処置。

自分の力で自分を壊さぬように。

暴走する力で他人を傷つけぬように。

父さんが作った特別製。

自分の意志で自在に抜き差しが可能になっている。

「8本!?」

鷺谷様の顔が驚きに変わる。

「何という事だ…。それでは薺さんはやはり…」

僕は思わず下を向いてしまった。

「……」

母さんは、僕の為に…。

「甲君…」

「…そうです。甲の力を抑える為、普段より幾重にも結界を張り、

 自身の死の間際に結界を更に上乗せしたのです。

 薺様の死後、結界は2年も保たれました。

 剛様の釘の完成が間に合わなければ、甲は恐らく…」

赤音様が俯いて答えない僕の代わりに答えてくれる。

そうだ。

僕は、母さんの死と、父さんの努力の上に立って生きている。

あれから5年の月日が流れたが、

未だに自分の力を抑え込む事さえまだ出来ていない僕は、

母さんの死を悼む妹に顔向けなどできない。

「そこまで深刻な問題を抱えながら、

 薺さんは何故相談して下さらなかったのだ…」

「母さんは…家族の問題として、他人に迷惑はかけたくないと。

 これは私達と大事な息子の問題だからと、

 常々口にしていたと聞いています。

 僕の前では、弱音さえ吐いてくれませんでしたが」

「そうか…」

鷺谷様と両親に深い交流があったらしい事に驚きだ。

「君は…君達は、強い人間だな」

違う。

僕は強くなんか、ない。

赤音様は強い人間だと思う。

僕よりも遥かに辛い思いをしてきたはずだ。

生まれた時から家中敵だらけ。

そんな状況に耐えてきたのだから。

「鷺谷様」

「なんだい?」

「私と甲は強くなる必要があっただけです。

 現状を憂いていても、何も変わりはしない。

 この状況を打破すべく、少しでも強く。

 少しでも前へ、進む必要があったのです」

赤音様がはっきりとそう告げる。

その言葉に、僕は赤音様に声をかけられた時の事を思い出す。


父との話し合いの末、結局家は出ていく事になった。

これが一番穏便な方法だと。

勘当という扱いにして、僕を遠ざけた。

これも父の配慮。

だが、僕は途方に暮れた。

何から始めればいいか分からなかった。

僕は当時12歳。

今夜泊まる場所さえないこの状況。

親戚も最早頼れない。

一人、俯いて公園のベンチに座っていた。

人の気配を感じ顔を上げると、

そこには赤音様の姿があった。


「甲。貴方は立ち止まるの?

 それとも、立ち向かって進むの?

 進む気があるのなら、ついてきなさい」


「答えなさい。今決めなさい。

 力を持つ者の責任を果たす気があるのか、

 それとも力を持ったまま腐って行くのか。

 選びなさい!甲!」 


「…進みます」


「そう。ならばついてきなさい。

 それと、これから貴方を私の正式な従者とするわ。

 いいわね?」


今思えば、父さんが赤音様を寄越してくれたのだろう。

感謝してもしきれない。

父さんには迷惑をかけてばっかりだ。

僕は進み続ける事を選び、

赤音様の従者となった。

そうと決めたなら、

立ち止まって居るわけにはいかない。

母さんの死に報い、

父の思いを胸に秘め、

己の悔しさと悲しみを糧にして、

僕は必ず強くなる。

そう3年前に誓ったのだから。


「さて、気を取り直して2つ目の質問だ」

忘れていた。

恐らくこれから質問責めに遭うであろう事を。

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