先行き不安な練武会
「ふっ!しっ!はっ!」
僕は一人、真夜中の道場で体術を磨いていた。
あの後、僕と赤音様は僕の自宅へと話し合いの場を移し、
今後の行動方針を決めた。
取り敢えずは目先の問題として練武会。
五行を司る五家とそれを取りまとめている
巫女の家と守護者の家の計七家が一同に会し、
武や術の練度を高めるのを目的として
三ヶ月に一度開かれるのが練武会である。
当然、集まる方々に僕らの味方など居る筈もなく、
波風を立てぬよう振る舞う必要がある。
しかし、あっさりと負けるとその弱さを糾弾され、
僕と赤音様は更に立場が悪くなるだろう。
僕は出来る限り善戦をする必要がある。
そしてもう一つの可能性。
僕が勝ってしまってもあちら側の面子を潰すことになる。
まぁこちらの可能性については気にする必要もないだろう。
今の状態の僕が満足に扱える術など、水の力を使った治癒程度だ。
術を起点に戦われると厄介だな。
避ける事だけに集中するならばある程度は何とかなる。
だが避けてばかりでは何の意味もない。
こちらからも攻撃を仕掛け、尚且つ当てていく事。
善戦を演じる為にはそれが必要不可欠だ。
相手は火の家の次期当主である火鳳竜也様。
二回ほど戦いを拝見させて頂いたことがある。
既に次期当主に遜色ない実力を身に着けていて、
戦闘に関してはバランスのとれたとても優秀な人物であった。
ただ、性格に難がある。
その才覚は幼い頃から頭角を現していた為、
他者を見下している節があり、自分の実力に驕っている。
そこに付け入る隙があるはずだ。
僕に出来る事は開始直後に近距離の攻防に持ち込み、
できるだけ有効打を当てた後に敗れる事。
これしかない。
そもそもやるやらないではなく、やるしかない。
これ以上赤音様の立場を悪くするわけにはいかない。
「はぁ…全く…穴だらけにも程がある…」
相手が始まった瞬間から遠距離で戦い始めたらどうする?
相手に迫れないほどの術を撃たれたら?
相手に自分の体術が全く通じなかったら?
思わず口をついて出てしまうほど、作戦は穴だらけ。
それでもやるしか、ない。
「すぅ………はぁ」
雑念を振り払うために一度大きく深呼吸をする。
時刻は三時半を回ったところだった。
せめて四時には寝ないとな…。
―――――二日後 練武会会場
「これより練武会を開会する。皆の鍛錬の成果を存分に発揮するように」
施設や人員を提供し、練武会を取り仕切っている
鷺谷桔梗様から開会が告げられる。
ピリピリと空気が張り詰めていくのを感じる。
自分の試合は今日の最終試合。
まだ一時間以上は時間がある。
僕は黙々と体を解していた。
「おはよう甲。調子はどうかしら」
「赤音様、おはようございます。
まずまずといったところです」
「まずまずではお話にならないわ。
120%の力を出すつもりで臨みなさい」
「いやいや、赤音様?それで勝ってしまっても問題では?」
「知らないわよ。その時は貴方が何とかなさい」
こりゃまた何か言われたな。
機嫌が悪そうだ。
「返事は?」
「…ご期待に添えますよう頑張らせて頂きます」
「…そう」
納得して頂けたのだろうか。
「甲」
「はい」
「勝てとは言わないわ。貴方の力を見せなさい」
僕の力、か。
「……分かりました」
精一杯、足搔いてみせよう。
更に気合が入った。
「あら、久しぶりね。赤音」
「…お久しぶりです、お姉様」
そして一瞬で意気消沈しそうになった。