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問題は立て続けに起こる

「駄目ね、全然駄目。赤音あかねと呼べと言ったでしょ。へたれ」

朝からきつい事を仰る方だ…。

「…名前の呼び捨てはご遠慮させて頂きます」

「はっ。仕方のないへたれね。じゃあせめて名前で呼びなさい」

「分かりました、赤音様」

ここは素直に呼んでおこう。

普段私生活の時以外は巫女様と呼んでいるのだが。

朝から不機嫌なところを見ると、

また何か厄介事を押し付けられたのだろう。

「けっ、お似合いだぜ。出来損ない同士な」

「あはっ、本当。お似合いね」

「どっかよそでやれよ」

「全く、あんなのを従者にして恥ずかしくないのかしら」

僕らの会話を聞いてそんな声が上がる。

赤音様の顔を伺っていると、ピクリと眉が動いた。

おいおい、今そんな事を言ったら…。

「あら、誰か知らないけど、羨ましいのかしら。

 良かったわね甲。出来損ないのへたれでも妬まれるものなのね」

これである。

火に油を注ぐようなことは本当にやめて頂きたい。

誰が被害を受けると思っていらっしゃるのか。

僕は何を言われようと構わないし、無視を決め込むが。

赤音様も普段は無視をするのだが、機嫌が悪いとこうやって反撃をする。

誰が赤音様の機嫌を取ると思ってるんだ。

仕方がない、何があったか聞くことにしよう…。

「赤音様、何か御座いましたか?」

またピクッと眉を動かして、赤音様はこちらを向く。

「甲」

「はい」

「今携帯を持っているかしら?」

「はい、持っております」

「見てみなさい」

ん…?

あれ…もしかして…?

慌てて携帯を見る。

着信八件。

携帯から顔を上げると赤音様はすでに腕を振りかぶっていた…。



「冴を手伝っていた事は知っていたけど。

 随分私の従者は忙しかったのね。

 携帯を見る暇もないほど」

「申し訳御座いませんでした!」

現在、お昼休み。

僕は赤音様に平謝りしていた。

頬に紅葉を称えながら。

あの後休み時間に話しかける度に、ビンタのお仕置きが僕を襲った。

「深く反省しております。以後気を付けますのでお許しください!」

昨日の放課後から今日の朝まで携帯をチェックしていなかったのは、

完全に自分のミスだ。

しばらくの間土下座を続けていると、頭上から溜息が降ってくる。

「…はぁ、もういいわ。隣に座りなさい、甲」

「はい…」

屋上のベンチに二人で座る。

「…それで、何の御用だったのですか?」

「私達の資金提供が打ち切られるわ」

「なんですって…!?だってこの前の会合では…!」

「状況が変わったのよ」

僕と赤音様は独立して活動させられている。

赤音様は複雑な家庭事情をお持ちである。

赤音様の家は由緒正しき巫女の家系である。

年の初めに神託の儀式によりお告げを賜り、その年の行動方針を決める。

長女は十歳の時に、託宣の巫女としての力を持つ為の儀式をする。

元来は姉妹が居てもその力は長女の身にのみ宿る。

しかし、今代の巫女は双子で、何故か赤音様にも力が宿った。

今までに無かった事例に混乱した周囲は、

家を傾かせる存在などと言い、

わざわざ忌み言葉である赤を含んだ名前をつけた。

家には居場所も立場も無かったことだろう。

そして十歳にして家から厄介払い同然に家から出され、

そこからは住み込みの家政婦さんと二人暮らし。

僕も同じようなものだ。

三年前に起きた事件で家は勘当。

天涯孤独の身となったところを赤音様に拾われたようなものだ。

まぁ、僕の事については今はいい。

「状況が変わったとは…?」

「私の事を目にかけてくれていた、土の家の当主であられる土門様が

 引退してその座をお譲りなさったわ」

「土門様が…それは聞き及んでおりませんでした」

「そんなわけで、私達は後ろ盾を無くしたわけね」

何という事だろう。

はみ出し者として扱われている僕らの面倒を見たがるものなど、

そうそういない。

実際、人格者として知られる土門雄作(どもんゆうさく)様と、

昔から弟のように可愛がってくれている水島冴(みずしまさえ)さん。

そして幼馴染である鏑木草太(かぶらぎそうた

桐生真樹(きりゅうまきちゃん。

この二人と家政婦である大林千夏(おおばやしちなつ)さん以外には、

僕と赤音様に積極的に関わろうとする者などいなかった。

それでも僕ら二人が何とかやってこれたのは、

土門様による後ろ盾と冴さんのフォローがあってこそだった。

「もう一つ、問題があるわ」

「と、いいますと」

「次の練武会、姉様の新しい従者と戦ってもらうわ」

「またですか…」

問題は山積みであった。

今日は厄日の様だ…。

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