彩りの無い日常
…昨日は良く寝れたなぁ。
今日も特に変化のない街並みを眺めながら歩く。
「おはよっす!」
後ろから肩を叩かれる。
「おはよう、草太」
「おはよ~、甲君」
「おはよう、真樹ちゃん」
僕と校内で普通に話すことが出来る数少ない存在である二人。
「遅刻しそうになったぜ。昨日術式の練習をずっとしていてなぁ」
「草君全然起きないんだもん。置いていこうかと思った」
「ははは、相変わらず起こしてもらってるんだ?」
「…おう」
照れて目を逸らす草太。
「草君、私が居なかったら絶対遅刻するよね?」
「そ、そんなことねえよ」
「いや、草太は遅刻すると思う」
「甲~!裏切ったな~!」
「あははは」
楽しく会話しながら歩く。
この二人には本当に感謝している。
三年前、ある事件で僕は力を無くした。
今まで自分が築いてきたものが一気に壊れたとき、
僕は本当にどうしていいか分からなくなって自棄になっていた。
僕はその時多くの人に迷惑をかけてしまった。
幼馴染である二人は、そんな僕を励まし続けてくれた。
感謝してもしきれない。
話していたら学校まではあっという間だった。
「じゃあ、また」
僕は短く別れの挨拶を口にした。
「おう、またな~」
「またね、甲君」
二人と廊下で別れる。
残念ながら一緒のクラスではない。
一緒のクラスだったら、ここの学校生活も多少は彩りがあっただろうか。
私立宵ヶ丘高等学校は歴史こそ古いが、
度重なる改築や増築の甲斐もあり小奇麗だ。
軽く、開けやすい筈の扉が重い気がする。
僕自身の気が進まないというだけで、全くの気のせいだな。
からりと小気味のいいと音を立てて扉は空いた。
僕を見て一部から突き刺さる様々なものを含んだ視線。
「おはようございます」
ここでも僕に答える声は無い。
くすくすと笑う声が耳に入る。
僕が笑われているのかは分からないが、余りいい気はしないな。
まぁ、これもいつもの事だ。
思えば二ヶ月前…。
「神代甲です。得意な術はありません。
水の治癒を多少使えるだけです」
僕の自己紹介を聞いて教室がざわめく。
「あの子が噂になってた子…?」
「可哀想…」
はぁ…。
まぁ、良くも悪くも僕は昔から有名だったみたいだからね…。
最初の自己紹介の後の休憩時間に早速絡まれる。
「おい、お前ろくに術式を操れなくなったってのに、
何でこんなところにいるんだよ?」
「元天才君何てお呼びじゃないよ?」
「これもあの巫女様のコネかい?」
げらげらと笑われ、馬鹿にされる。
「まぁ、君たちには僕は必要でなくても、
僕にはここでの勉強が必要だから」
入学して一日と立たず、教室は僕にとって居心地の悪い空間と化した。
…いつの時代だって、こんなものなのだろう。
異端なものは受け入れられないものなのだ。
そう身をもって痛感する。
さて、今日は上履きがなくなっていなかったから、
机の上に落書きでもしてあるのかな?
自分の机へと僕は向かう。
お、珍しく落書きもない。
あの日からほぼ毎日何かしらの嫌がらせがあった。
上履きを隠されたり、体操着を汚されたり。
典型的ないじめだ。
よくも飽きないものだと思う。
相当暇なんだろうな。
ま、もう慣れたけどね…。
ふと、向けられている視線に気づく。
僕の前の席に座っている、クラスの中で一人だけ僕に話しかける人物。
「ふふっ、おはよう甲。今日も惨めね?」
「…おはようございます。巫女様…」