調査報告
「ただいま」
僕は誰も居ない空間に挨拶をする。
ぼろぼろになった制服を脱いでゴミ箱へと捨てた。
シャワーを浴びる為浴室へ。
蛇口を捻って熱めのお湯をだす。
「いっ…!痛っ…」
殴られた部分が痛む。
これは全身を洗うのにも苦労しそうだ…。
ふぅ…。すっきりした。
熱いお湯を浴びるのは好きだ。
頭がクリアになる気がする。
居間のテレビを付けて、適当に寛いでいるとチャイムが鳴る。
「はーい、今出ますー」
そう言いながら玄関に向かおうとして、
自分がパンツ一丁なことを思い出し、素早く着替えた。
「すみません、お待たせしました!」
「いえいえ、大丈夫で…」
ん?
あ…しまった…。
殴られた顔、そのままだった。
配達員さんが完璧に引いているではないか。
「神代…コウさん?で宜しいですか?」
僕は苦笑いを浮かべてそうです、と答えた。
「ではこちらに印鑑かサインをお願いします」
「はい。ペンをお借りしていいですか?」
「どうぞ。お使いください」
「どうも」
もう書き馴れた神代の姓を記入する。
「はい、確かに。有難うございました。」
「御疲れ様です」
はぁ…。滅茶苦茶訝しげな目線を向けられてしまった…。
こんな傷だらけの顔じゃ仕方がないけど。
僕は箱の中から制服を取り出す。
今日仕掛けてみる予定だったから、元から頼んでおいたものだけど。
事前に頼んでおいて正解だったな。
あのぼろぼろの制服じゃ学校いけないもの。
さて、と。
傷を治そうかな。
僕が浴室へ再度向かおうとすると再びチャイムが鳴った。
そして次の来訪者は、僕の返答を待たずして部屋に入ってきた。
「邪魔するよ、甲」
一瞬その人物を注視し、すぐに警戒を解く。
「なんだ、随分な顔だな」
「元からこんな顔です」
「いじけるなよ、こっちにきな。私が治してあげるから」
そう言って、冴さんに手招きされる。
僕が冴さんと向かい合う形で座ると冴さんが僕に手をかざす。
「そうね、この程度なら…。水よ。彼の者の傷を癒し給え」
優しく包まれるような感覚と共に顔から腫れが引いていく気配があった。
「うん。いつも通りの可愛い顔に戻ったぞ」
「…からかわないで下さい。相変わらず、お見事です」
そう言うと冴さんはえっへんと胸を張る。
「伊達に水守の名は背負ってないのさ」
僕が使う水の術とは段違いな性能だ。
それも手元に水さえ必要としない。
「それより…今の傷を見る限り、仕掛けてみたのか?」
「はい、今日学校内で接触してみました」
彼等に絡まれるように行動したのは正解だった。
お陰で大体の状況は読めた。
「それで、首尾は?」
「何者かが彼に接触を持った可能性がありますね」
僕を今日殴っていた錦戸武君。
彼は五行の内の金の術を使う金剛家の従者の家系。
「彼は確か金の術しか使えなかったな」
「そうです。ですが僕は異なった力を感じました」
冴さんは顎に手を置いて考え始める。
「一応、根拠もあります」
「聞こう」
「僕の体は金の低級強化術程度では、傷がつきません」
「言うね」
「事実ですから」
僕は頑丈さにかけては自信がある。
それだけの事はしてきた。
「…ふむ、分かったよ。ご苦労様。後は私の方で調査してみよう」
「はい。余り力になれずすみません」
「いやいや、こちらこそ助かった。私も別件で忙しくてね」
今回は珍しく冴さんの個人的な調査依頼だった。
何時も冴さんには世話になっている僕は快く引き受けた。
それが今回の始まり。
僕の学校は一応対魔関係の者達の集う学校であり、
依頼を受けた調査対象が生徒であったため僕は多少戸惑ったが。
身内を疑うようなものだからいい気がしなくて当然だ。
「冴さん…、一体何を調べているんですか?」
「…時期が来たら教えるわ。今はまだ言えない」
わかりましたとだけ僕は答える。
「今回は助かったよ。私個人が接触したら警戒されそうだったからね」
誰に、と聞きたい衝動に駆られる。
だが、聞いても今の時点では教えてはくれないだろう。
「いえ、お役に立ててよかったです」
「ありがとう。また寄らせて貰うわ」
そう言って冴さんは帰って行った。
さて、僕もご飯を食べて寝る事にしよう。