まだまだ森の中
主人公の名前を
『鬼頭義孝』から『鬼道義孝』に変更しました。
スライムを倒し終えた俺は、ドロップアイテムを拾った。
「……このゲル状のものは何なんだ?」
目の前にあるのは、猪のときと同じように丁寧に葉っぱに包まれたゲル状のナニか。
首を捻りながら、一応確認してみると……。
【スライムゼリー】
と、表示された。……ゼリー? 食えるの? これが?
疑念たっぷりの目を向けながら、匂いを嗅いでみる。……おぅ、なんか爽やかないい匂いがするぞ。
ソーダ系の、どこか鼻を通り抜ける爽やかな匂いが、スライムゼリーからは嗅ぎ取れた。……スライムって、どれもこんな匂いがするんだろうか?
指で少しとると、恐る恐る口に入れてみた。
「……普通にゼリーだ」
うん、普通にソーダ味のゼリーだった。美味いぞ、これ。
思いのほか美味しかったので、グリンとインプにも分けてみることにする。
「グリン、インプ、おいで。美味しいから食べてみな」
「ゴブゴブ~!」
「キキィ!」
俺がそう呼びかけると、二匹とも両手を上げて喜びながら俺に寄ってきた。……可愛い。
そして、俺が平等に3つに分け、グリン達も食べると、その美味しさにまた喜びの声を上げる。
「ゴブゴブ!」
「キキッ!」
「はは、美味しいか。そりゃよかった」
二匹の様子に、俺も思わず笑顔になる。
スライムゼリーを仲良く食べ終わったら、今度はクリスタルに目を向けた。
スライムゼリーと同じように鑑定してみる。
【召喚ポイント:10】
「おお! 二桁もあるじゃん!」
思わず、その召喚ポイントの高さに喜ぶ俺。
猪の方が、スライムより手ごわかった気もするが、スライムの方が召喚ポイントが高かったことに疑問を覚える。
……何の違いだろうか? ……もしかして、普通の獣より、魔物とやらに分類されるモノの方が、召喚ポイントが多く手に入るとか?
一応、何てことない仮説を自分の中に組み立ててみるが……。
「……ま、いいか。情報が少なすぎて、判断のしようもないしな」
早々に考えることをやめた。だって分からないんだから。
考えることをやめた瞬間、手にしていたクリスタルは輝き俺のスマホの中へと吸い込まれていった。
「そんじゃあ、お待ちかねのスライムを召喚……といきたいが、その前に……」
「キキィ?」
俺はインプのほうに視線を向けた。
すると、インプは可愛らしく首を傾げる。
スライムの召喚も待ち遠しが、それよりも普通の戦闘でレベルが果たして上がるのかどうかという実験の確認をしたかった。
まあ、まだ一度しかインプは戦闘をしていないため、レベルが上がらないということも考えられるが、一応な。
早速インプのステータスを表示してみる。
【小悪魔:N】
Lv:2
魔力:15
攻撃力:4
防御力:4
俊敏力:5
魔攻撃:7
魔防御:7
覚醒回数:0
スキル:≪風属性魔法:1≫
俺は表示されたステータスに驚き、そしてやはりというか、普通の戦闘でもレベルが上がることが分かった。
「よかったな、インプ。ちゃんと強くなってるぞ?」
「キキィ? キキッ!」
俺の言葉に、インプは素直に喜んだ。
すると、グリンはインプに近づき、何やら訴える。
「ゴブ! ゴブゴブ、ゴブッ!」
「キキ? キキキッ!」
……おそらくだが、『自分の方が先輩だからな!』ということをグリンは伝えたかったらしく、自分をさしながら可愛らしく胸を張っている。
それに対して、インプも文句はないらしく、素直にうなずいていた。……可愛い。
っと、二匹のほのぼのとしたやり取りでスライムの召喚を忘れるところだった。
頭を振ると、俺はすぐにスライムを召喚させる。
手にしたスライムのカードが光ったかと思えば、俺の手に、先ほど食べたスライムゼリーと同じ感触の物体が、収まっていた。
ただし、ゼリーのようなベタベタ感はなく、単純につるつるのプニプニである。
手に収まるゲル状の物体に目を向けると、真っ黒い小さな黒曜石のようなものが二つ、目のように並んでおり、俺のことをじーっと見上げているのが目に入った。
「えっと……スライム、でいいんだよな?」
鑑定で確かめてみても、スライムとしか表示されないので、間違いはないのだが、俺の言葉を受けたスライムは、小さく体を縦に振った。……首肯してる、ってことだよな?
俺の問いに答えたスライムは、再び俺をじーっと見つめてくる。……ヤベェ、コイツも可愛い。
青色の半透明な体に、くりっとした丸い黒い目。それに、おそらくスライムの核……つまり、心臓だろうと思われる白色の球体が、半透明な体から確認できた。
「まあ、さすがにスライムはしゃべれないだろうなぁ……口ないし」
「……(コクコク)」
俺の言葉に、また可愛らしく首を縦に振る。
可愛いなぁと思いつつも、まだステータスを確認していなかったので、俺はスライムのステータスを表示させてみた。
【スライム:N】
Lv:1
魔力:3
攻撃力:3
防御力:3
俊敏力:3
魔攻撃;3
魔防御;3
覚醒回数:0
スキル:≪体術:1≫
うん、やっぱりグリンよりバランスもいいし、スキルもあるし……スライムの方が強いわ。
俺の心の声が聞こえたのか、グリンはガーンといった効果音が付きそうなほどショックを受け、手にしていた棍棒を落とした。
「そんなに気にすることないって。今は、レベルもステータスもグリンが圧倒的に強いし、それに、俺はグリンが大好きだからな」
「ゴ、ゴブ……!」
俺の言葉にグリンは元気を出すと、落とした棍棒を拾って、目元をぬぐった。……いちいち反応が可愛すぎて、いろいろ辛いんだが。
ただ、意外だったのは、スライムなのに≪体術≫を習得しているということ。もしかして、あの体を縮めての体当たりとか、スライムからすると体を使っての攻撃なわけだから、体術に分類されたのだろうか?
「ま、いいや。確認したいことも終わったし、そろそろ出発しようか!」
「ゴブ~!」
「キキッ!」
「……(コクコク)」
新たな仲間を手に入れ、俺たちは再び森の中を歩き出した。
そろそろ森を抜けられると信じて。
◆◇◆
あれから2時間ほど、休むことなく歩き続けてる俺。
……もうそろそろいいだろうか?
とうとう俺は我慢できず、その場に立ち止まると叫んだ。
「いつになったら森を抜けられるの!? 全然出れる気配がないんだけど!?」
広すぎるだろ、この森! 人里に辿り着ける気配が微塵もねぇよ!
いや、たしかに広大な森もあるだろうさ。でもそろそろ辛いよ? 体力的な意味じゃなくて、精神的な意味で。
げんなりとした気分のまま、再び歩き出そうとしたときだった。
長年、修行を続けてきた俺は、微かな気配の動きを感じとった。
「……? 何だ? グリン、インプ、スライム。一応、俺のそばを離れるなよ」
俺がそう言うと、三匹は急いで俺に駆け寄る。
そんな三匹をしり目に、周囲の気配を油断なく探る。
しかし、妙なのだ。
かなり近い位置で気配を感じ、その方向に視線を向けるのだが、ただの樹が立っているだけ。
……何か潜んでるのは間違いないんだが……。
このまま警戒し続けても先に進めないため、俺はインプに指示を出した。
「インプ。あそこの樹に向かって魔法を放て」
「キキッ!」
俺の指示を受けたインプは、すぐにその場に飛び上がると、風の塊を出現させ、樹に向かって射出した。
かなりの速度で飛び出した風の塊は、樹に強い衝撃を与えた。
すると、突然、ただの樹だと思っていたら、その樹がのそっと地面から根を抜き、まるで二本の足のようにして樹を支え、動き出した。
「なっ……こいつも魔物なのか?」
急いで鑑定のスキルを発動させてみると……。
【ウッドマン】
そう表示された。
「……間違いなく魔物だな」
しかし、コイツはCSのときにも見たことのないヤツだった。……やっぱり、異世界なんだなと改めて実感する。
そんなことを考えていると、ウッドマンは、予想以上のスピードで俺たちに迫ってきた。
「げっ……結構早くないか!?」
ウッドマンのスピードに驚く俺だったが、すぐに思考を戦闘に切り替え、指示を出す。
「スライムは思いっきりアイツの腹に体当たりしろ! インプは、スライムがアイツにぶつかった瞬間、アイツの足元を魔法で攻撃して、転ばせろ! グリンは、転んだところを全力で殴れ!」
稚拙ともいえる俺の指示だったが、グリン達は表情を引き締めると、俺の指示通りに動きだした。
まず、スライムが思いっきり体を縮めると、一気に解放し、ウッドマンの中心部分に強く体当たりした。
その衝撃の瞬間とピッタリのタイミングで、インプはウッドマンの足元に強い風の塊をぶつける。
風の塊は、ウッドマンの足元を強く抉り、突然足場が悪くなったことで、ウッドマンはその場にひっくり返った。
すかさずグリンが倒れたウッドマンに近づくと、棍棒を振り上げ、全力で振り下ろした。
「ゴブッ!」
ゴスッ! っと、鈍い音を響かせたが、それでもまだ、ウッドマンはやられる気配がない。
「グリンはそのまま殴り続けろ! インプとスライムは魔法と体当たりで追撃だ!」
再び俺の指示を受けた三匹は、それぞれの方法でウッドマンに追撃する。
「オォォ!」
どこに口があるのか分からないが、ウッドマンはグリン達の攻撃を受け、苦しそうな声を出した。
すると突然、一心不乱に棍棒を振り下ろしていたグリンが、急に洗練されたような動きで、棍棒を素早く、そして強い一撃をウッドマンに振り下ろした。
その一撃はかなり強力だったらしく、ウッドマンの体からミシリッと軋む音が聞こえてきた。
「オオオオオオ!」
より一層、苦し気な声を上げたウッドマンだったが、やがて力尽き、光の粒子となって消えていった。
粒子が消えた後、その場にはドロップアイテムが散乱した。
もちろん、ドロップアイテムも気になるが、それ以上に、突然動きがよくなったグリンの方が、俺は気になった。
何かグリンのステータスが変化したのだろうか?
それを確かめるためにも、俺はインプたちを含めて、もう一度全員のステータスを確認することにした。