初めての宿
主人公の名前を
『鬼頭義孝』から『鬼道義孝』に変更しました。
俺が助けた少女は、カード化した熊のカードを拾いに行った。
それを眺めながら、俺も周囲に散らばるカードを拾い上げてみると、そこには先ほど殺した盗賊たちが、絶望したような表情で写っていた。
「……本当に訳が分からん」
「え!? 本気で言ってる!?」
俺が本気で首を捻っていると、近くに来た少女がさらに驚いた。
「『カード使い』が対象を殺せば、その対象は低い確率でカード化される……それは人間にも言えることで、人間もカード使いに殺されれば、カードになることもあるのよ。実際に目にするのは初めてだけど……」
「ふーん。……で、君は誰だい?」
「それ私のセリフなんだけど!?」
俺の言葉に、鋭く少女はツッコんだ。
「それもそうか。俺は鬼道義孝。義孝でいいよ」
「え!? き、貴族様だったの!?」
「は? 何で?」
「何でって……家名を持つのは貴族様だけだし……」
おっと、ここにきて異世界常識ですか。困りますね。
「いや、俺は貴族なんかじゃないよ。たぶんね」
「たぶん?」
「……実は俺、名前以外の記憶がないんだ」
唐突過ぎると思うだろう?
でも、この設定が一番楽なんだと思う。情報がなくても、怪しまれにくいからだ。
「そ、そうだったの……ごめんなさいね?」
「いや、別にいいよ」
予想通りというか、少女は気まずそうな表情を浮かべ、謝罪してきた。
「私はアンリよ。助けてくれたお礼もしたいから、何でも聞いて」
「ありがとう」
よっしゃあ! 情報源ゲットォ!
ゲスいって? 生きていくためには大切なんだよ! 許してください!
内心で勝手に盛り上がっていると、初老の男性が、俺たちに近づいてきた。
「アンリよ……そちらの方は……?」
「あ、村長! 彼は、ヨシタカ。どうやら、記憶喪失らしくって……ヨシタカ? この人はこの村の村長よ」
「村長をしております、ガーダです。ヨシタカ様……この度は、我々の村を救っていただき、本当にありがとうございました……!」
アンリが紹介してくれた、村長であるガーダさんは、そう言いながら頭を下げた。
「いえ、頭を上げてください。たまたま俺が通りかかり、見過ごせないことをしていたので……」
「たとえそうであったとしても、助けてもらったことには変わりありません。残念ながら、この村にお礼の品となるような大層な物はないのですが……」
「本当に気にしないでください! 偶然ですから! ただ、無事でよかったです」
本心からそういうと、ガーダさんは感極まった様子で、何度もお礼を口にしてきた。
そんなガーダさんに、俺はふとカード化した盗賊を思い出し、それを見せる。
「あ、ガーダさん。これ、さっきの盗賊たちがカード化したのですが……」
「何と!? 人間がカード化するとは……ヨシタカ様の記憶を失う前は、ご高名なカード使いだったのではないでしょうか?」
「どうでしょう……一応、カード使いって言うか、カードマスターって職業なのですが……」
俺がそういうと、二人はポカーンと間抜けな表情を浮かべた。
「よ、ヨシタカ……それ、本当?」
「え? ああ、本当だよ」
「……ヨシタカ様。貴方様は、本当に名のある方だったようですね」
「へ?」
感動したような視線を向けてくる二人に、今度は俺が間抜けな表情を浮かべた。
「カードマスターって言うのはね? カード使いの頂点みたいなものよ。世界に4人しかいないって言われてたんだけど……」
「そのカードマスターの中に、ヨシタカ様の名前はございません。ですが、本当にカードマスターであるのなら、ヨシタカ様は5人目のカードマスターということになります」
「……」
おい、神様!? カードマスターって一般的な職業だったんじゃないの!? 人気があるって言ってたよねぇ!?
もしかして、人気があるって、憧れの職業的な意味なの!? ヘルプもしっかり仕事してほしいね!
「い、いや……そんな大層な存在じゃないと思いますよ? 実際、この村に来るまでに召喚したのも強くないですし……」
「またまた、ご謙遜を」
「そうよ! ヨシタカ、盗賊を一瞬で倒しちゃったし、記憶が無くなる前は絶対にすごい人だったんだわ!」
誰だよ、記憶喪失が一番楽って言った奴! 俺だよ!
キラキラと光る目を向けられ、居心地が悪い俺は、話題を逸らすことに。
「そ、そうだ! 俺は記憶を失って、なぜか森の中にいたのですが……こうして人里を求めて、ゆっくり休める場所を探していたのです。宿屋などはないですか?」
「それが……宿屋は先ほどの襲撃で壊されてしまいまして……」
「そうですか……」
ブサイクどもめ。こんなところでも俺の邪魔をするか。
殺して手元にある盗賊のカードに、軽い殺意を抱いていると、アンリが口を開いた。
「それじゃあ私の家に来なさいよ」
「え?」
「助けてもらったお礼もしたいし、何より記憶がないんでしょ? なら、この国とかのことも知らないだろうから、教えてあげるわ。幸い、私の家は襲われてないから大丈夫よ?」
「そうか……じゃあ、お言葉に甘えて」
若い男女が同じ家にいていいのかって? 残念ながら、俺は据え膳は食うタイプなのでね。てか、そんなこといちいち気にしないし。
こうして俺は、しっかりとした寝床を確保する事が出来たのだった。
……あ、盗賊のカードのこと結局忘れてた。
◆◇◆
「ここが私の家よ」
「おぉ」
案内されたのは、村のなかでも少し離れた方にある、小さな家だった。
村の中を歩いているときも思ったが、全体的に木造だし、レンガ造りの家とかは街とかに行かないとないのかな?
「狭いけど、部屋が一つ空いてるから、そこを使ってちょうだい」
家の中に入ると、必要最低限の物しか置いていない部屋だった。
俺が使わせてもらう部屋も、ベッドと机、椅子があるくらいだ。
部屋を見せてもらった後、そのままリビングで俺とアンリは少し会話することになった。
「今何もないって思ったでしょう? 田舎の家なんてどこもそんなもんよ」
「ここは田舎なのか?」
「そうね……このアーノ村は、グランセント王国と隣国のルノーア帝国の間にあるのよ。別にルノーア帝国と仲が悪いわけでもないから、その点攻め込まれる心配はないけど、それでも王都から遠く離れてもいるし、何より強い魔物や討伐して利益が出やすい魔物とかがあまり出現しないから、冒険者も滅多にはやって来ないわ。おかげで、今回みたいに盗賊が出ても、ここら辺の村は王都の兵士たちを頼ることもできないの」
「兵士たちの巡回みたいなのはないのか?」
「ないわけじゃないけど、都合よく国の兵士たちがいる時に、盗賊と出くわしたりしないわよ」
予想以上にこの村は田舎だったようだ。
街に行くのにも苦労しそうだなぁとか考えていると、アンリは真剣な表情になる。
「だからこそ、私が王都でカード使いの試験を受けて、この村を守れるようになりたいのよ」
「ん? カード使いになるために試験とかいるのか?」
「いえ? カード使いって別に適性がないとなれないわけじゃないのよ。魔物のカードさえ持っていれば、誰でもなれるわ。中には、人のカードを操る人もいるけど……」
「あ、このカード化した盗賊どもって使えるのか?」
「使えるわ。それも、召喚者の命令は絶対で、召喚者には危害を加えることもできない、完全な奴隷よ。だからこそ、人のカードは高値で売買されてるんだけど……」
真っ黒だね! ビックリするほど黒いわ!
恐ろしいな……普通の奴隷より質が悪いんじゃないか? 何せ、カードになったってことは、永遠に誰かの奴隷であり続けなきゃいけないわけだし……。
……ってあれ? じゃあ、俺のCSに入ってる、今は使えない美少女キャラたちは……? どういう経緯でカード化したんだ?
「まあいいや……盗賊のカードなんていらないし、合成しようかな……」
「合成!? ヨシタカ、自力で合成できるの!?」
「え? うん。普通に出来るもんじゃないのか?」
「さすがカードマスターね……いい? カードの強化合成や進化は、そう簡単にできるモノじゃないのよ」
「へ?」
「特殊なアイテムがないと合成も進化もできないのよ。さっきの話に戻るけど、合成や進化をするためのアイテムを手に入れるには、カード使いの試験を受けて、A級以上の資格を手に入れなきゃダメなのよ」
「A級? ってことは、他にもクラスがあるのか?」
「そうね。一番下がE級、D級、C級、B級、A級と上がっていって、最後にS級があるのよ。そのS級のなかでも、一握りの存在が……カードマスターの称号と職業を得られるわけ」
予想以上に俺のカードマスターの名前は重かったようだ。
「カード使いの試験は『カード協会』に登録することで受けられるわ。カード協会は、いわゆるギルドとほとんど違いがないから、両方に登録するのが一般的ね」
つまり、冒険者兼カード使いってのが一般的なのか。
ギルドと変わらないってことは、依頼とかあるんだろうな。
「私はそのカード協会で登録して、そのまま有名になってこの村にもカード協会やギルドの支部を建てるのが夢なのよ」
そう語るアンリの表情は、キラキラと輝いていて、とても綺麗だった。




