Contact.0-6 また明日
「何をやってるんだお前は!?」
伊吹の叱責する声を受けて、こちらへ向かい走っている栄司が片手だけ上げて「すまん!!」と叫びを返す。彼に何か言いたげにしながらも今はそれより優先すべき事があるとメイリと伊吹は戦闘準備を始めた。文句を言うよりも現実に起こってしまったこれに対応するのが先決だとは僕も思う。
「悪ぃ! 敵が見付からなくてさ、森に近付いた時に見付かっちまった!」
「ほんと何やってんのよ……まぁいいわ、
とにかくあれ何とかしないと! サンちゃんは危ないから下がっててね!」
言われるまでもありません、僕は既に休んでいた木の陰に隠れて見守る態勢をとっている。ここで自分も戦うなんて言えば役に立たない僕を守る為、余計に動かざるを得ない栄司とメイリの負担がとんでもない事になる。まだスキルも取っていないレベル1のエンチャンターに出来る事なんて無いに等しい。
しかもアレは範囲攻撃もち、体力の低い僕なんかは当たり所次第では一発で寝転がる事になってしまうだろう。そうなれば僕を守ろうとしてくれる彼等の心意気は無に帰す事となる。という感じで理論武装を終えた僕は早々に観戦の構えに移行するのだった。
◆
盾を構えたメイリが前に出て、本を手に持った伊吹がその背後で詠唱を始める。もう敵は目の前まできており、栄司は息を切らせながらメイリの横をすり抜けた。間髪入れずにそれを追うフォレストウォーカーが枝を振り上げながら迫ってくる。小さなビル並の大きさがある為、近くで見ると凄まじい迫力だ。
「頼むっ!!」
「≪マッドエクスプロージョン≫!」
「でりゃぁぁぁ!」
しかし先手を取ったのはこちら側、地面に出現した魔法陣が伊吹の声に反応して泥を噴き上げた。モロにそれを浴びて怯んだのか攻撃のモーションを止めたウォーカーに対して、今度はメイリが接近し盾を振りぬく、すると白い半透明の盾のエフェクトが発生してその巨体を大きく仰け反らせる。あんなでかいものを一発で仰け反らせるとか、どんな腕力をしているのだろうかと若干の怯えを禁じ得ない。
「いや、これ強制ノックバックさせるスキルだから! 力技じゃないからね!?」
隠れて様子を伺う僕の表情に気付いたメイリが声を荒げた。戦闘中に僕を観察する余裕があるあたり彼女も相当場慣れしているように見える。2人とも戦闘に対する気負いはなさそうだ。
……あぁ、よく考えれば解る事だった、彼等は初日からやっているプレイヤーで現状の中ではレベルも高い方だろう。つまり、いくらフィールドボスと言っても初心者クラスの場所に居る程度の相手ならそこまで脅威ではないのだろう。
「ぜぇ、ぜぇ……サクっと倒すぞ!」
「いいからさっさと働く!」
呼吸を整えた栄司が長剣を振りかぶり、メイリの野次を浴びながら体勢を立て直したウォーカーに肉薄する。彼は剣先から白に近い黄色の燐光を放ち、そのまま無数にある枝のうち一本に叩き付けた。綺麗な切り口を見せながら太目の枝が宙を舞う。システム的に部位破壊も起こるようで、切り飛ばされた枝は一瞬の間を置いてから空中で光の泡となって消え去る。今の一連の攻撃だけでウォーカーの頭上に表示されたライフゲージは四分の一ほど減少している。
「スイッチ! 暴れさせるな!」
「任せて!!」
ウォーカーの身体を蹴った反動で一気に距離を取る栄司と入れ替わりで、メイリは盾を突き出し長剣を腰の脇に寄せるように構えて突進して行く。ウォーカーは迎撃の為に残った枝を無造作に振り回すものの、彼女の盾に阻まれてダメージには至らない。
「はああああ!!」
そうこうしている内に突き出された剣の切っ先がウォーカーを貫き数本の細い枝を切り飛ばす、またしても枝を失ったウォーカーは、スキル効果だろうか再びよろめいて体勢を崩した。
「よっし、畳み掛けるぞ!!」
「あ、馬鹿それは!?」
勇猛果敢に攻め入る彼女に続くのは先ほど引いた栄司、後先をを考えないようなフルスイングでぶちかまされた剣が、空中に光の残像を残しつつよろめく大木を弾き倒した。数メートルほど吹っ飛んでから派手な音を立てて地面に倒れると、その部分から千切れ飛んだ草と土煙があがる。地形は一定時間で自動修復されるそうだが、中々壮絶かつ派手な光景だ。
というかこのゲームの強制ノックバック凄いな、あの巨体をあんなに軽々吹っ飛ばす事が出来るのか。
ウォーカーの残りライフは半分を切っている、その上ゲージの左側にある状態を示すアイコンは黄色い鳥と星がくるくると回るものに変わっている事から気絶状態に陥ってるのが見てとれる。なんだ、心配する事なんて無かったのだろう。彼等が妙に焦るものだから僕自身もすっかり恐怖に呑まれてしまっていたようだ。
友人達の勝利を確信したことで、安心して目の前で繰り広げられるファンタジーな戦闘を憧憬を抱いて見守る。僕も早くレベルを上げて彼等と一緒に遊べるようになりたい、魔法を使ってみたい……!
我ながらゲームを開始するまで抱いていた憂いはどこへ行ったのだろうかと思わなくも無い。だけど、僕はここまで来てやっとこの世界で過ごす事が楽しみになってきていた。
「げ」
「あぁぁ馬鹿何やってんの! しかも残り半分切ったし!!」
そんな僕を余所目に妙に焦っている友人達の声が聞こえた。楽勝ムードに見えるのだが何か問題でも発生しているんだろうか。
「くっそ、もう一回コンボで……って駄目だクールタイムが残ってる!」
「こっちもノックバック系のクールタイムがまだ終わってないのに……リバー!!」
何故だか酷く焦ってこちらを見るメイリを見返して首を傾げる。視界の端で伊吹が慌てたように詠唱を開始しているのが見えた。
「日向っ!!」
「サンちゃん!!」
「…………?」
彼等の焦りの正体を知らないので、名前を呼ばれてもどう反応すれば良いのか解らない。そんな僕に、3人から単純明快な反応を求める声が重なって届く。
「「逃げろ!!」」
「逃げてぇ!」
焦ったように走るメイリと栄司が、起き上がったウォーカーの前に辿り着くより先に、気絶状態から目覚めた大木が全身から赤い光と煙を発しながら立ち上がり、こちらに向かって走ってくるのが見えた。
◆
『狂奔』、ウォーカー先生の最も厄介な点として上げられる能力。これは多くのボスキャラに搭載されている共通の能力でもある。具体的な効果はライフが半分を切った際に発動し、効果時間は3分間。発動中は移動速度と攻撃力が上がりノックバックが無効になる。更にはヘイト……攻撃対象を選別するシステムで使用される数値の増減や、挑発などの攻撃対象を強制的に自分にする効果も一時的に無効化され、ターゲッティングしている相手が倒れるまで攻撃を維持する。
このスキルのおかげで何も考えずに削っていると、暴走した先生にぼこぼこにされる事になるのだ。ウォーカーはプレイヤー達の最初の関門にして巨大モンスターとの戦闘方法、範囲攻撃や遠距離攻撃の捌き方、共通能力である狂奔の恐ろしさを物理的に教えてくれる教師なのである。
「~~~~~~~!!」
巨大なモンスターに追い立てられる恐怖とデスペナを持って、プレイヤー達は己の身の程と、戦闘という物がどれほど危険な行為であるかを学ぶのだ。涙目で逃げ回る今の僕のように。あ、今ちょっと掠った。
「減速かけるぞ! エース、メイリ! 頼む!
≪ヴィスコシティリキッド≫!」
「おらぁ! ……あぁもうピヨらねぇ!」
「てりゃぁぁぁああぁぁ!!」
背後から三人が必死で先生を攻撃する声が聞こえる。出来れば今後の参考に見学したかった所だがあいにくと走るのに必死でそれどころではない、ちょっとでもスピードを緩めたら追いつかれて枝での百叩きは免れないだろう。いや、魔法職の耐久力を考えれば三発も持たないかもしれない。
こんな事になった原因はただ一つ、先ほど栄司のスキルによって発動した気絶の所為だ。気絶状態から復帰するとヘイト値がリセットされるそうで、アクティブモンスターの場合は搭載されているルーチンによるターゲット選別が行われる。ボスは索敵範囲内に複数のプレイヤーが居る場合、最もレベルが低い者、最もライフが低い者、最も防御力が低い者の順に選定する。
……ここまで言えば解ってもらえるだろう、ウォーカーが気絶から醒めた瞬間ヘイト値がリセットされた。そして条件にこれ以上なく合致する僕を捕捉した瞬間、狂奔が発動して僕にターゲットを固定したまま動き出した。こうなってはメイリの挑発も効かないし、強制ノックバック技で引き剥がす事も出来ない。
「~~~!!」
僕が追いつかれるのが先か、パーティーメンバーがウォーカーを倒しきるのが先かの激しい攻防は、僕を追いかけるウォーカーが走り回る所為で難航していた。伊吹の使う足に粘性の液体を絡める魔法のおかげでウォーカーの移動速度が落ちているため、今のところは何とか逃げ切れている。たまに飛んでくる枝の攻撃で背筋が冷える思いはしているが。
「この……! 私の目の前で美幼女を傷物にさせてたまるもんですか!!」
気合の入ったメイリの声が妙に頼もしく感じる、こういうのを吊り橋効果というのだろうか。取り合えずウォーカーの残りライフはどのくらいなのか、僕はいつまで逃げ続ければいいのか解らず、ただ精神に負荷ばかりがかかる。スタミナが切れているのか妙な疲労感が身体を襲っているのも大きい。ゲーム中では緩和されてこそいるがスタミナ値が減れば疲労を、ダメージを受ければ痛みを感じるし、場合によっては怪我も再現する仕様となっている。だからこうやって走り続ければスタミナはどんどん減っていき、後が無くなっていくのだ。
「っ!」
そしてついにスタミナが切れてしまったようだ。元々体力が無い上に、身体に慣れていない僕がここまで捕まらず逃げれたのが奇跡なのかもしれない。だんだん力が入らなくなり、よろけた拍子に枝の一撃で抉れた土のでっぱりに躓いて身体が前に投げ出される。妙にゆっくりと流れる景色の中で背後を振り向けば、風切り音を響かせて襲ってくる枝の影が見えた。
「サンちゃんッ!!」
――――ドゴンッ
背中を強く打った枝が、肺から空気を搾り出す。そのまま地面に叩き付けられた僕は草の上をバウンドしながら転がっていた。緩和されていると言っても痛覚が無い訳ではない、背中を平手で叩かれたような痛みを感じる。これが緩和されていなかったらどれほどの物になるのだろうか、想像するだけで震えが走る。
「っ……っ……」
「日向ッ! しっかりしろ!!」
確認してみれば今の一撃で既にライフゲージは瀕死の領域に達している、一撃で倒されなかったのは幸運なのか不運なのか。咳き込みながら身体を起こそうとしても身体が思うように動かず、背中に鈍い痛みが走る。横目でステータスを確認すると現在の状態を示す項目の中、縁取りだけで描かれた人体を示す図に、赤でバツ印が書かれたアイコンが出現していた。
これは負傷状態を示すアイコン。このゲームにはダメージエミュレートという、一定以上のダメージを受けると負傷から骨折、部位欠損まで大小様々な損傷を再現するシステムが搭載されている。リアルさを出す為に、どんなに攻撃を受けてもライフが1でも残っていれば問題なく動けるという状態を阻止する為のシステムだそうだ。
痛み自体は骨折でも我慢すれば動ける程度……例えるなら筋肉痛に近いだろうか、なので大した事はないのだけど、稼働域はシステム的に制限される。脚が思うように動かないので暴れるウォーカーから逃げ回るのは無理そうだ。初クエストにして初ボス遭遇、初デスペナと盛り沢山な狩りだった……。いくらゲームと解っていても、怪物に追い詰められて殺されるのは気分が良いものじゃないという事だけは良く解った。
間違いなくあと一発で僕は倒れる。教会に転送される覚悟を決めて目を閉じた。そして――――何かとても大きな物が、地面に倒れこむ音が周囲に響いて、巻き起こる土埃を含んだ風が僕の身体に吹きつけた。
「…………?」
恐る恐る目を開くと、眼前にはあちこちが砕けて倒れるウォーカーの姿があった。先ほどまで僕を追い掛け回していた悪夢の権化が、完全に動きを止めて端々から光の泡へと変化していく。
「せ、セーフぅ……」
「ふ、普通にやるよりしんどいな……」
ウォーカーの身体に長剣を突き立てていたメイリと栄司が、その巨体に隠れるようにしてその場にへたり込んでいた。伊吹も少し離れた場所で疲れたように腰を降ろすのが見えた。どうやら、僕は無事に生き延びたようだ。
散々怖がらせてくれたウォーカーの身体が呆気なく空気に溶けて消えていくのを眺めて、やっと終わったのだと安堵する。なんだかどっと疲れが襲ってきた、ステータスを確認するとライフも無ければスタミナも完全に尽きている。もう動きたくない。
草原に寝転んだまま見上げる空は、陽が沈みかけ少しずつオレンジ色に染まり始めていた。
◆
「サンちゃん大丈夫? もう痛いところない?」
『大丈夫ですよ』
狩りを終えた僕たちは、クエストの完了報告を済ませると東門近くにあるオープンカフェで休息を取っていた。身体の方は分けて貰ったポーションのおかげですっかりと回復し、特に違和感もなくなっている。メイリは盾役として後衛の僕が死にかけた事に責任を感じているようだった。
『あれは事故みたいなものですから、
ちゃんと守ってくれたじゃないですか
それにここも奢って貰っちゃったし、このアイスでチャラって事で』
戻ってからずっと心配そうにしているメイリに、目の前の皿に乗せられたチョコアイスを指して微笑み返しておく。
たかがゲームに大袈裟な……なんて事は言えない。正確には言えなくなったというべきだろうか、冗談抜きで怖かったのは本当なのだから。実際の痛みはともかくとして、臨場感が凄まじいのだ。例えるなら怪物に殺されそうになるリアルな夢を見た心境。経験値が5%も減るというデスペナを抜いても、決して気分の良い物じゃない。
彼等もそれを身を持って実感しているから、初心者である僕を守ろうとしてくれたんだろう。そのおかげで無事に帰還する事が出来て、こうやってお茶を飲めているのだ。感謝こそすれ怒る理由は無い。
「うぅ、ありがとうサンちゃん……
盾騎士として目の前で小さな子にあんな思いをさせるなんて……修行し直さないと」
「あぁ、それは俺もだな……もうちょっと慎重に動くべきだった、怖がらせて悪かった」
『栄司も、もういいから。 あれは事故! 不幸な事故!』
落ち込んでいる二人を見てられなくて、半ば強引に話を終わらせる。まだ二人とも落ち込み気味ではあるが後は時間が解決してくれるだろう。全く、一番落ち込みたいのは暢気に眺めるだけで見事に足を引っ張っていた僕だというのに。
内心でほんの少しの憤慨を抱えてアイスを頬張っていると苦笑いの伊吹と目が合う、お前もフォローしろよという意思を視線に込めてぶつけてみる。
「まぁ、サンもこう言ってるんだ、あんまり気にしても仕方ないぞ」
流石は空気の読める男、僕に促がされるままにフォローに入ってくれたようだ。伊吹からも言われて2人もようやくネガティブモードを解除してくれたようだ。これで明るい話が出来ると人心地つく。
話も一段落した所で透明なグラスに注がれたオレンジジュースを飲む。このゲームの食べ物は味も忠実に再現されているよう、オレンジの瑞々しい甘さと爽やかな酸味が口の中に残るまったりとしたチョコの味を中和してくれる。他の料理系も同様にしっかりと味を感じる事ができるため、食べ歩きツアーという楽しみ方もあるようだった。現実の空腹が満たされないのだけが残念である。
因みに僕の分、アイスとジュースのセットは3人のおごりという事になった。栄司とメイリは守れなかったお詫び、伊吹は参戦祝いという名目だ。クエスト報酬でお金も手に入れていたので自分で出すと言ったのだが押しきられてしまった。伊吹の装備品で金を使う事になるから貯めておけという言葉に素直に賛同したのもある、実際に武器防具の相場を聞くとかなりカツカツになる事が予想されたので、お言葉に甘える事にしたのだ。
何よりも今後も頼りっぱなしになる訳にいかない事を考えれば、素直に装備に回したほうがお互いの為になると思うのだ。
「あ……やば、もうこんな時間!?」
突然メイリが席を立ち上がって叫ぶ、そういえばもう夕暮れだなと思ってシステム画面の時計を見ると現在時刻は十七時半を指していた。ログインしたのが十二時頃、体感的には一瞬だったような、丸一日だったような不思議な感じだが実際は五時間程経過していたようだ。
「うえぇ、ごはん食べて塾いかなきゃ」
「もうそんな時間か……」
「あぁ、俺も道場いかねーと」
メイリと伊吹は塾通い組、栄司も剣道の練習があるようでみんな今日はタイムアウトのようだった。かくいう僕も母が帰る前に一通りの家事を済ませておかないと一人で食事を取れなくなってしまう。
『僕も母さんが帰る前にお風呂掃除とか夕飯の準備しなきゃ……』
今日はここで解散の流れか。何だか小さな頃の、友達と遊んでいた一日の終わりの瞬間を思い出して変な郷愁を覚えてしまう。
「そっか、サンちゃんはちゃんとお母さんのお手伝いしてるんだねぇ、偉いなぁ」
…………あぁ、そうか、確かに良く考えたら小学生のお手伝いメニューに見えなくもないなこれ。彼女の中に取り返しのつかないイメージが刻み込まれていくのを僕は黙って見守るしかないのだろうか。かといって中身は高校生の男ですしかも別に女顔でも何でもありませんなんて言えばどんな反応をするか解らない。何よりも信じてもらえるかが解らない。
『うん、まぁいいや……』
「諦めたな」
伊吹よ、しょうがないじゃないか。弁明しようとすれば自ら墓穴を拡げる未来しか見えないのだから。喉まで出かけた溜息をぐっと我慢して残ったおやつを食べ終え会計を済ませると、皆で道の端に集まって別れを惜しむ。
「サンちゃん、明日もログインするかしら?」
メイリの言葉を聞いて栄司と伊吹がこちらを見る。僕の反応をうかがっているようだ。それに気付いて僕は少しの間逡巡するが、やっぱり答えは決まっていた。
今までもネットゲームに誘われてそこで遊ぶ事はあった。でもそれは画面を通しての事、所詮は文字でのやり取りだけ。現実での僕らは顔を合わせる事が月に数回といった程度まで距離が出来てしまっていた。
だから、また友人達と昔みたいに触れ合えるような距離で遊べたのが、本当に楽しかった。例えここが仮想空間で触れ合う事も計算で作られたものであったとしても、文字だけよりはずっと良い。
始めるまで散々悩みもした、ゲームの中で恥ずかしい思いや怖い思いもした、けれど久し振りに友人達と遊べた事が楽しかったんだ。だからまた一緒に遊びたい。これは間違いなく、嘘だらけになってしまった僕の偽らざる本音だ。
『はい、明日も遊ぶつもりです』
「そっか! じゃあフレンド登録してもいいかな?
私の友達も紹介するから皆で遊びに行きましょうよ」
『はい、よろしくお願いします!』
快く頷くとフレンドリストへの登録を済ませる。一覧に栄司、伊吹と並んでメイリの名前が表示される。今までは人を避けて避けて、二人以外とは組まずにソロの多かった僕にとって、こういった場所に彼等以外の名前が載るのは本当に久し振りだった。
「それじゃまた明日な、ひな……っと、サン」
「また明日だ」
「うん、また明日、絶対だからねサンちゃん!」
栄司と伊吹も僕と遊べて楽しかったのだろうか、それを聞く勇気は無いけれど、僕が再びここに来る意思を見せた事が嬉しいのか、安心したように微笑んでいる。僕は三人に向かって笑顔を返した。
『うん、それじゃ皆』
おんらいん☆こみゅにけーしょん
Contact.00-6 『また明日』
★2012年11月23日/誤字、表現の修正