Contact.ex-1 [off]突撃となりのお兄ちゃん
※【番】【外】【編】
基本不定期で一話完結の小ネタ話。
思いついたものをぽんっと投稿するかんじです。
満足したら再び完結済になります、れっつすたーと。
『おにいちゃんのおへやなう!』
登録だけして完全に放置していた、WEB上で短文を投稿できるSNSの一種、『つぶやいたー』で、久しぶりに呟きを投稿する。九月に入ってから妙に増え始めた付与依頼を捌くためにはじめたブログのおかげで、フォロワーも結構な数になっている。
『@sunsun mjd』
『@sunsun お兄ちゃんいるのか……』
『@sunsun こんな妹がいるとか勝ち組すぎる』
次々とレスが返って来る、僕の素性はハッキリさせてないため素直に"兄"の部屋にいるのだと思っている人が多いようだ。
『@sunsun 何ですって!?』
そんな中、極少数だけが僕のつぶやきの意味に気がついたらしい。矢継ぎ早に飛んでくるメイリやギルマスのつぶやきを見て口元を緩めながら、抱きしめていた枕に顔を埋める。
今、僕は栄司の部屋に潜入しているのだった。
◇
栄司が学校に復帰してもう一週間近く経ち、九月も終わりに近付いていた頃の休日のこと。僕はノリと勢いで作った甘さ控えめのバタークッキーをおすそ分けしようと栄司の家に持って来ていた。
しかしながら貢ぐべき本人は買い物に行って留守にしており、しょんぼりしつつクッキーだけ渡して帰ろうとしたら矢島のおばさんに「すぐ戻ってくるだろうから、あがって待っていたら?」と引き止められて家に上がらせて貰ったのだ。
おばさんとは僕が毎日お見舞いに行っていた関係で比較的親しくなっていて、僕にまつわる複雑な事情についても、取り敢えず"木崎さん家の新しいお子さん"と認識してあまり詮索する気はないみたいだった。
だからあっさりと栄司の部屋に入れた訳だけど、認めがたいけど今は小さな女の子である僕をあっさり思春期の息子の部屋へ入れてしまうのは母親としてどうなんだろうかと思わなくもない。
栄司の部屋はいかにも男の子っという感じだった。あいつの部屋には久々に入るけど全然変わっていない、少年漫画の並ぶ本棚、何故か部屋の隅に転がるサッカーボールとバスケットボール、壁に立て掛けられた竹刀と木刀。ブラックカラーのパソコンとモニター……壁に張られた巨乳グラドルのポスター。
何故か沸き上がってくる破りたい衝動を抑えながら、部屋をぐるりと見回した後ベッドにダイブする。胸いっぱいに空気を吸い込む……栄司の匂いがした、少し汗臭いけどなんだか落ち着く。女の子が男の人の匂いが好きっていう理由が解る気がする。
そして、ベッドでごろごろしているとつい湧いてきた悪戯心に促されるままに、僕は携帯を手にとって『おにいちゃんのおへやなう!』と呟きをしたのだった。
次々と飛んでくるレスポンスを捌きながら枕を抱きしめていると、突然携帯が鳴り始めた。画面をみると栄司から電話が来ていた、着信ボタンを押して携帯を耳に当てる。
「まさか俺の部屋じゃないだろうな!?」
開口一番大きな声が携帯のスピーカーから聞こえた、悪戯の大成功を確信して、口元を緩めて返事をする。
「せー、かぃ」
まだ長い文章は喋れないものの、単語単位でゆっくりとならおしゃべり出来るようになった。やっぱり自分の声で話すのは楽しい。
「どうやって入った! いやそれはいい、変なことするなよ!」
「へん、な、こと?」
変なことって例えば何だろうか、洋服ダンスの下から三段目を開いて、収納されているズボンをかき分けて底に隠されていたレースゲームの箱を開く。中のディスクは……ふむふむ。
「きょ、にゅー、びょう、と」
「だああああ!!」
いきなり大声を出さないでほしい、びっくりするじゃないか。
「こん、ど、なーす、ふく、きて、あげ、よう、か?」
笑いをこらえながらそう言ってからかうと、栄司はますます焦った様子だった。
「誰得だよ!! いいから静かに座ってろ!
すぐ戻るからこれ以上余計な事すんな、いいな!?」
電話が切れる、女の子として男の子をからかうのって、意外とおもしろいなぁ。待機状態になっていたつぶやいたーのアプリに戻り文章を打つ。
『えっちなでぃーぶいでぃー発見なう!』
数秒後、携帯がけたたましく鳴った。
◇
「お前ほんと何考えてんの!?」
"お兄ちゃんのお部屋のベッドの上で正座させられなう"なんて呟いたら皆どんな反応するだろうかと考えながら、割と本気で怒っているっぽい栄司の顔を見る。ついからかってしまったけど嫌われるのは避けたい。
「ごめ、な、さぃ」
「泣きそうな顔しても無駄だからな?」
素直に頭を下げたのに、据わった目で睨まれてしまった。冗談が過ぎたせいか信用がないみたいだ。
「……見てみろよこれ」
しばらく見つめ合っていると、栄司がずいっと携帯を差し出してきた。表示されているのは着信履歴で……名里と牧田という見覚えがありすぎる名前がずらっと並んでいた。
「うわぁ」
「うわぁじぇねーよ! お前は俺をどうしたいんだ!
女の子になるって決めたんだろ、自覚してくれ頼むから!」
どうしたいって、出来ればこのままぎゅっと抱き合えるような関係にはなりたいけど、ってそれは置いといて。
「じかく、した、うえ」
「なおタチが悪いわ!」
だって外堀から埋めていかないと栄司を落とせる気がしないんだもの、僕だって自分の外見が可愛いに該当してる事はわかってる、でも見下ろす身体は胸はぺったんこでお腹はぽっこりな幼児体型……というか幼児そのもの。
この体に発情されてもそれはそれで困ってしまうし、栄司は何だかんだでモテる。成長するまで悠長に構えていたらフラワーガールをやるはめになりかねない。こう見えても結構必死なのだ、普通の女の子のアピール方法とかわからないし、正攻法で行っても"大人になったら結婚しようね"の約束で回避されそうだし。
「今は解ってる人間のほうが少ないからいいけどな、
もし誤解を受けたら俺の人生が終了するんだから、気をつけてくれよ……」
「げん、き、だし、て?」
妙なタイミングで鳴ったチャイムの音を少しだけ気にしながら、ついにうなだれてしまった栄司の頭を撫でる。
「陽向……お前誰のせいだと思ってる!
取り敢えずいつまでも持ってないでそれ返せ!!」
不意打ちで伸びてきた手を反射的に避けてしまった、当然ながらそれを追いかける分栄司の移動距離は増えて、途中にあった僕の身体はベッドに押し倒される形になってしまった。
DVDの入ったケースが手元から離れてベッドの上に転がり、フリーになった手の首を栄司が押さえ付けてくる。完全に伸し掛かられた状態、逆光で栄司の顔が見えなくてちょっと怖い。
「栄司ー、名里さんが来たわよー」
「お邪魔します!!」
「な゛っ!?」
階下からおばさんとメイリの声が聞こえたのは、まさに絶妙と言うべきタイミングだった。ドタドタと誰かが階段を駆け上がってくる音が聞こえる。そしてここで栄司は見事にそのラブコメ体質を発揮した。
動揺のあまり焦って体を離そうとしたのだろう、滑った手が僕の着ていたワンピースの肩紐をずらして、体勢を保てなくなった大柄な身体が僕にのしかかってきた、体温と栄司の匂いをダイレクトに感じて、心臓の鼓動が早くなる。
このまま抱きついてもいいのかな、走って帰ってきたのかほんのりと汗ばんだ身体からは、ベットから感じるよりも強い匂いがしていた。男だった時はあんまり好ましくないというか、臭いと感じていたはずのそれが、今は嗅いでいて安心するというか落ち着くんだから不思議で仕方ない。
目を瞑って抱きつこうとした時、ドアがガチャリと開く音がした。
「栄司! いるんで……」
「名里待て、これは誤解だ! 事故だ!!」
薄目を開けてドアの方を見ると、メイリが完全に固まっていた。どうしようか悩んで、やっぱり起き上がろうとする栄司に抱きつく。
「だぁぁぁ!? 陽向、何してやがる!?」
力尽くで引き剥がそうとする栄司だけど、ひょっとして僕の状態気付いてないんだろうか。今身体を離されると結構色々まずいんだけど。
「離……れ、て、ください?」
でも力では勝てるはずもなくて、あっさりと肩を掴んで僕の身体は引き剥がされた、当然肩紐が外れていたワンピースはそのままストンと起伏のない僕の体を滑り落ちて、暑いからという理由でブラもキャミも着ていなかったため、当然のようにぺったんこな胸が顕になった。
僕の胸を見て固まる栄司だったが、事態は無常にも動き出す。
「い……い、いやぁぁぁぁぁ!!」
そして凍りついた時をぶち壊すかのような絶叫が、メイリの口から飛び出た。うーん……ここで責任取ってねって言ったら、既成事実扱いになるかなぁ?




