Contact.0-0 はじまり、はじまり
8-5と同日投稿になります。
[最新話]から飛んできた方はご注意を!
『木崎 日向』は法的に死亡した。葬儀は最小限だけで済ませられ、木崎家には新たに『木崎 陽向』という11歳の少女が加わる事となった。つまり、僕のことだ。
言いたいことはあったけど、相談の結果、再来年の入学を目指すためにこの年齢にする事に決まったのだ。「正直16歳は無理がある」なんて言われては返す言葉もなかった。
そして僕の新しい戸籍が出来てから程なく栄司は退院した、告白からは少しだけ気まずい期間があったけど、努力して平常通りに振舞っていたら前と同じ……という訳には行かなかったけど、ほんの少しだけ違う形で友人関係に戻ることが出来た。
一番大きく変わったことは……栄司が僕を男の子扱いしなくなったこと。完全に気持ちの切り替えを終えた身としては女の子として扱ってもらえるのは嬉しいけど、前よりも距離感が開いてしまったのは辛いところだ。
だけど、ミィの「女の子として意識し始めてる証拠」というアドバイスを素直に受け入れて開き直ることは出来た。
勿論それだけじゃなくて、他にも僕自身に起きた変化がある。
おんらいん☆こみゅにけーしょん
Contact.00-0 『はじまり、はじまり』
胸元にあるリボンの飾りとして付けられたグングニルのエンブレムがついたブローチが、再現された陽の光を反射してきらめく。またしても新しい街に移された溜まり場の扉を開ける。中に揃っているのは現実での顔を知る者達は少なくても、友達と呼ぶに相応しい人たちの姿。
そんなグングニルの面々の顔を一人ひとり今日も眺めて、最近やっと出来るようになった笑顔を向ける。
『おはよう』
僕の打ち出したチャットに、皆が微笑んで口々に挨拶を返してくれる。
そう、僕は栄司の退院を機に正式にグングニルのギルドメンバーになった。といっても実質的なポジションは相変わらずマスコットで、武器に付与をしたりギルメンの皆にお菓子を分けてもらったり。
ギルメンってこんな感じでいいのかなと思ったけど、攻城戦の一件以来、姉妹であることを知られていないにもかかわらず姉とセットで扱われる事が多くなってしまった僕が所属しているだけで十分な利益があるらしい。
どういう利益なのかは気になるが、正直聞きたいような聞きたくないような複雑な気持ちだ。
いつものメンバーの中で独りだけ栄司の姿は見えない。それは当然だ、今日は退院して初めて栄司がログインするので、その復帰祝いの為に集まったからだ。テーブルの上には料理がところ狭しと並んでいるし、其々が手にはクラッカーを持って主賓の到着を今や遅しと待ち構えている。
「ここだ」
溜まり場のドアの外から声が聞こえた。迎えに行ってきた伊吹が栄司を連れて戻ってきたようだ。タイミングを伺い気配を殺すメンバー、きしんだ音を立てて開く扉。
「せーの……」
ギルマスの合図に合わせて、一斉にクラッカーの音が鳴り、色とりどりのリボンが飛び交う。
「「退院おめでとう!」」
栄司がドアを開いたままきょとんとしていた。サプライズは大成功のようだ、隣に居たミィと目が合い、どちらからともなくハイタッチをする。
「おかえりペド野郎!」
「聞いたぞ! サンちゃんから手厚い看病受けやがって! 無事で良かった!」
「お前ら死ぬ思いをした人間に対する態度がそれか!?」
自重しない変態達が早速とばかりに栄司に絡みテーブルの、僕の横へと連れてくる。皆も本当に変わらない……いや、普通はほんの数日で変わるはずもないか。
「はぁ、全く……」
『おつかれさま』
椅子に座るなり腕を組んでため息を吐く栄司にねぎらいの言葉をかけると、誰のせいだとまたため息を吐かれてしまった。多分……僕のせいかなぁ?
「さて、主賓も到着したことだし……皆さんグラスを手に!」
栄司が席について暫くして、ギルマスの音頭を受け給仕役に徹していた人たちがジュースの入ったグラスを配り始める。僕もオレンジジュースの入ったグラスをもらい、横目で栄司を見ながら合図を待つ。
「こほん、ちょっとしたゴタゴタはありましたが、
エースの退院及びゲームへの復帰と、サンちゃんのギルド参加を祝いまして……」
まさかここで僕の名前が出てくるとは思わず、少しびっくりしてしまった。ミィとメイリが悪戯っぽく笑っている事から、きっと計画済みだったんだろう、まさかの二重とはしてやられた。
「乾杯!」
「「乾杯!!」」
勢い良く腕を突き出してグラスを打ち鳴らす。栄司も文句を言いつつも嬉しそうだった。
「えー、皆さんご心配おかけしました!!」
「このイケメンが!」
ジュースに口をつけた後、立ち上がって行った挨拶に、一人が野次を飛ばして何を言ってんだと皆が笑う。僕もそろそろ、誰にもバレないようにずっと練習してきたことの成果を発表してもいいかもしれない。
指で触りながら咳払いして喉の調子を確かめて、立ち上がる。ヴァーチャルだから意味はないんだけど、なんというか雰囲気作りみたいなものだ。急に行動したことで微妙に注目を集めたのか、ちらほら視線が飛んでくる。
あまり見られる前に済ませてしまったほうがいいだろう。深呼吸して、お腹に力を入れて、口を開く。
「み、なさ、ん、よ、ろし、おね、が、しま、ぅ」
言えた……! かなり辿々しくて、言い終わるまでに随分時間がかかったけれど、確かに自分の声で、話をすることが出来た。達成感に打ち震えていると、グラスが床に落ちて割れる音がした。
「さ、さんちゃんが、今、しゃべ……」
「良かったねぇ、良かったねぇ」
メイリが泣きそうな顔で口元を抑えて、ミィが目尻に光る雫を浮かべながら僕を抱きしめてくる。……うん、ちょ、ちょっと大げさじゃないだろうか。と思ったが事情を知ってるギルメンは軒並みぽかんと口を広げていて、栄司と伊吹に至っては鳩がスナイパーライフルで狙撃されたかのような顔をしている。
揃いも揃って驚き過ぎじゃないかと……全く失礼な奴らだ。
「今日はめでたい日だぁー!」
「飲め飲め!」
盛り上がる変態どもを尻目に、ミィの腕をすり抜けて固まっている栄司の傍へ行く。やっと再起動を果たした僕を見下ろした栄司が、戸惑ったように何か言おうとするのを手のひらで制した。
「ね、えー、じ」
「な、なんだ?」
栄司にだけに聞こえる程度の声量で名前を呼ぶと、少し動揺したようだった。これからするのはある意味では宣戦布告というか決意表明というか、そんなものだ。
「あき、らめな、ぃ、から、ね?」
「……へ?」
にっこりと笑って、そう告げた。この中身は予想していなかったのだろうか、呆けた顔をしている。
――悩んだけれど、結局、僕は諦めないことにした。少なくとも、栄司が本気になれるほど好きな子が出来るまでは絶対に。出来ればそれは僕でありたいけど、流石に人の心まではどうしようもない。
努力は常にして、それでもだめなら……すっぱりと諦めて栄司の幸せを願おうと思う。親友としての"木崎 日向"の最後の遺志として。
「サンちゃん、こっちにチョコアイスあるよ!」
「たべ、る!」
スカートを翻して、手を振るメイリ達の方へと足を踏み出す。僕の、"木崎 陽向"の、本当の意味での最初の一歩は、"僕"が始まった場所でもあるこの電子空間の中で軽い足音を立てた。
―おしまい―
以上で『おんらいん こみゅにけーしょん』は完結となります。
思えば一年近く続いた連載、拙い部分や荒い部分ばかり目立って何度も挫けそうになりました。
オンラインゲームがメイン舞台のはずなのにいつの間にか現実パートが!?
コメディだったはずなのに何でこんなにシリアス展開が!?
とか書きながら阿鼻叫喚でした、制御できないのは未熟の極みですね。
初作品ということを抜きにしても、色々と拙い作品だったとは思います。
それでも過分な評価を頂き、多くの方に応援して頂けたおかげで何とかここまで辿りつけました。
皆様がいなければきっと完結サせることは出来なかったと思います。
頂く感想やレビューを読む度に、頑張らなきゃと奮起しておりました。
この場を借りて、応援して下さった全ての方に感謝の言葉を述べさせて頂きます。
本当に、ありがとうございました!
あと、もし少しでも気に入った部分があれば、評価をぽちっと押して頂けると嬉しいです。
……えぇ、一度やってみたかったんですポイント乞食。
でも完結してからと我慢していましたので、ここぞとばかりにお願いしてみます!
◇エンディングについて。
ここから先は"女の子になってしまった男の子が四苦八苦する話"ではなく、
"小さな女の子が恋を実らせるために頑張る話"になってしまうので、
ここできちんと終わらせようと思ってこのような結末になりました。
ハッピーエンドなのかどうかは解りませんけど、
少なくとも私としては納得の行く終わらせ方だと思っています。
果たして陽向は無事に栄司を落とすことが出来るのか、それは……神のみぞ知る?
後は活動報告なんかでちょこちょこと裏話やら設定やらを語ることもあるかと思います。
気になる方がいらっしゃれば、たまに覗いてみてください。
さて、長々と書いてしまいましたがこのへんで〆にしようと思います。
それでは皆様、今後も良いなろう生活を!
記:2013年8月31日 とりまる




