表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おんらいん こみゅにけーしょん  作者: とりまる ひよこ。
Contact.05 太陽に恋をして
25/46

Contact.5-6 にゅるにゅる討伐大作戦-2☆

※勢いでそのまま掲載したけど、少し悩んで挿絵を間接掲載に切り替えました。

 あとがきに挿絵のURLを載せてますので気になる方はそちらからどうぞ。


「いやいやこれ凄いんだよ!

 水中ペナルティ完全無効! 窒息だけじゃなく水中での鈍化まで無効化出来るんだよ!

 しかも水属性の耐性も激高、防御力も高いというすぺさる仕様!」


 必死にセールスを掛けてくるギルマスを睨みつけながら再びハリセンを構える。なんでこの人はこういう所ばかり全力を出してしまうのか。僕には一生理解出来そうにないし理解したくもない。


『じゃあ自分で使えばいい!』


「女の子専用装備なんだよ、これ!」


 男なのに何でそんなものを買ったのか、誰に着せるつもりだったのか、まさか僕とか言うんじゃあるまいな、もしそうだとしたら恥を忍んで通報する事も辞さないぞ割と本気で!


「と言ってもなぁ、誰が着て湖底に行くんだ?」


 ゴードンさんの発言を聞いて全員が言葉に詰まる、エミリさんは顔を赤くしてハガネさんの背中に隠れてしまい、ルカさんは正面から「あああ、あんたがどうしても着てほしいっていうなら、その、考えてあげなくもないわ」とマニュアル通りの対応を行なっている。ハガネさんは達観したような顔をして遠くを見ていた、レースの時は結構表情豊かな人だったんだけど何だか随分と印象が違う。


「メイリはタンカーだからダメだしなぁ……」


 メイリは唯一の盾役なので行動不能になるのは論外。現実的な候補としては、付与さえしとけば居なくても戦力に殆ど影響が出ない僕が筆頭で、次点で必須仕事のない抹茶さん、アークウィザードで被っているルカさん、同じく職被りのエミリさんかミィ。


 ただし僕以外は誰が抜けても戦力に影響が出るという現実がある。でも、あれを着るのは抵抗がある、先日のプールを考えると手遅れな気がしなくもないが、欠片とはいえ残っている男のプライドをコレ以上削りたくないのだ。かといって他の女の子にあんな格好をさせて、得体のしれないモンスターの人質役をやらせるというのも……。


「リアルでも着たことあるんだし今更だろ……、

 そもそも、それ以外で他に仕事ないんじゃないのか?」


 ずっと悩んでいたのが悪かったのか、栄司の空気読まない発言で何となく僕が行く空気になってしまう。悲しいかな集団からいじめを受けた事がある被害者の卑屈な精神は、こういう空気に酷く弱いのだ。せめて話題が逸れたら押し付けることに罪悪感を抱きつつもフェードアウト出来たというのに。


 ……ほんとに、栄司の馬鹿!!



   おんらいん☆こみゅにけーしょん

        Contact.05-6 『にゅるにゅる討伐大作戦-2』



「それじゃあ頼むな、ちびっこ」


 最終的に僕が折れる事となり、全員の武器に性能アップ。防具と装飾に水耐性をつけたあと、水着に着替えた。露出が多い衣装はやっぱり落ち着かない。


 白いスクール水着を身に纏った僕を無遠慮に見る視線が二つある。一つはメイリ、一つは抹茶さん。ギルマスはミィに目隠しをされて「畜生!!」と叫んでいる。ハガネさんは紳士的に目を逸らしてくれていた、隣で僕に向かって殺気を撒き散らすルカさんが怖いのかもしれない。安心して欲しい、僕も怖い。


「ほれ、さっさと行って来い」


 半眼で面倒くさそうに、まるで追い払うように僕に向かって栄司が手を振る。


 それにしても、最近妙に栄司が冷たいのは気のせいだろうか。姉に言われた言葉に反発するようにからかい過ぎたのが原因だろうか。今日に関しては特にそうだ、僕に対して酷く素っ気無い。


 まさかやりすぎて、嫌われてしまったのだろうか……?


 男とか女とかそういうの抜きにして、小さい頃から一緒に馬鹿やって、今でも本当の意味で心を許せる友人はこいつと伊吹だけなのに。僕ならイライラする事はあってもきっと嫌うことはない、でも栄司は僕じゃないわけで、最近の生意気な言動が鼻に付いていたのかもしれない。


 この状態が続くなら、今まで通りの関係なんて望めないのはわかっている、解っていても実感したくはなかった。栄司にとっては僕はもう同い年の木崎日向じゃなくて、知らない女の子になってしまったのだろうか。


 一度ネガティブに傾いた思考は自分の制御も及ばなくて、悪い方へと際限なく落ち込んでいく。


 不意に視界が滲む、ステータス画面には脳波が乱れているという黄文字の警告が表示された。だめだ、感情が暴れて落ち着かない。この身体になってしまってから日に日に酷くなっていく、感情の制御が効きにくいという症状が再発してしまった、やっと落ち着いていたのに。


「ぐっ!?」


 栄司の方へ近づいて、縋るように服の裾を掴んで見上げると、何故か途端に顔を引き攣らせて視線を周囲に配った。そんなに僕に近づかれるのが嫌なのかと思うと、視界の滲みが酷くなる。


「いやいやいやいや、お前その格好ですがりついてくるなよ!?

 解った、解ったから、俺が悪かったから! きつい事言って悪かったから!」


『僕も……最近ひどいからかいかたしてた、ごめんね……嫌いになった?』


「大丈夫だから、嫌いになってないから、

 自覚があるなら気をつけてくれたらそれでいいから、

 というか今の状態が一番やばいから、落ち着いてくれ」


 必死で宥めて来る姿に唇を噛む、嫌われては居ないみたいだけど何で急に冷たい態度を取ったんだろう。ちょっと本気でショックだった。でもちゃんと考えれば、僕みたいなひきこもりと違って栄司は外での交流もあるわけだし、あらぬ誤解を受けたら困るのは確かだった、今後はちょっと気をつけようと思う。


 姉に言われて気をつけてはいても、僕はまだ自覚が足りないらしい。改めて姉の少し強引なやり方を思い出して、有難かったと感謝の念を抱く。


「サンちゃん泣かせるとか本気で殺すわよエース?」


「今のはちょっと許せないわね、

 抱きしめて頭を撫でるくらい出来ないのかしら?」


「いやいやいやいや」


『よし、行ってくる』


「お前こういう時ほんとマイペースな!?」


 ちょっと落ち着いた所で何だか恥ずかしくなってしまったので腕で目元を拭って湖の方へと向かう。後ろでは何でか知らないけど栄司が抹茶さんとメイリに詰られている様子だった。


『二人ともエースをいじめないでね、今のは僕が悪かったんだから』


「くっ、サンちゃんに感謝することね……!」


「しょうがないわね……ふふ」


「……何故だろう、助かった気が全然しないんだけど」


 振り返ってフォローしてからしゃがみ込み、足の先から水につけてみる。濡れた感触があってしかも冷たい。ほんと無駄にリアルに作りこまれているゲームだ。意味は無いけど雰囲気的に軽く身体を動かしてから、湖の中へと歩きつつ入っていく。


 水深が肩くらいまで来た所で、意を決して息を大きく吸い込み水の中へ身体を沈める。目を開けてみると透明度が高いだけあって視界は良好だった、現実と違ってゴミなども一切浮いていない事もそれを助けている。


 一応確認してみたステータス画面には、満タンのままで減らない酸素ゲージが表示されていた。水着の効果か仕様かは解らないけど、何故か普通に息をしている感覚がある。口を開いてみると大きな泡が出て水面へと上がって行った。吸う時は口の入り口に膜でもあるかのように水は入ってこなくて、吐く時は白い泡が水の中に生まれる。ちょっとおもしろい。


 水中にいる感触は確かにあるものの、びっくりするくらい身体が軽い。水の中で尻尾を揺らし、ヒレのように脚を動かしながら奥にある薄暗がりへと向かってどんどん進んでいく、気分は人魚である。


 水着のお陰なのか水の中とはいえ、動き方は空を飛んでいる時の感覚に近い。自分の体で推進力を得ないといけないのが最も大きな違いだろうか、とにかくスイスイと湖底付近を中心らしき場所に向かって行くと、何やら壊れた祭壇らしきものが視界に入った。


 どれだけ深いのか、湖底付近は光も殆ど届かず薄暗がりだったが何故かその場所を暗視カメラのように鮮明に見ることが出来た。少し疑問を抱いて試しに護符だけを外してみると、途端に周囲は暗闇に包まれて祭壇らしき物も見にくくなる。


 護符を付け直すと、再び視界が開けて……恐らく隠し効果の中に暗視機能があるのだろう、付けているのはちょっと恥ずかしいけど効果自体は本気で便利な物のようだ。気になったことの確認が出来た所で祭壇付近を調べてみると、中央付近に朽ちかけた石版があるのが見えた。


 敵が居ないか周囲を確認してから石版に手を触れてみると『特殊クエストを開始しますか?』という確認ウィンドウが出た。すぐにパーティチャットで『クエスト発見、準備完了次第始動します』と打ち込んで数秒、全員から準備完了の返事が届いたのを見届け、承諾ボタンを押す。


「……?」


 ウィンドウが消えてクエストが開始されたはずなのだけど、何故か反応がない。不思議に思って首をかしげていると、突然湖底が爆発した。土埃が舞い上がり視界が塞がれる。パニックを起こしそうな心を必死で押さえつけると慌てて水面へ出ようと上へ向かって泳ぎ進む。


「!?」


 懸命に動かしていた足に何かぬるっとした物が絡みついた、下を見ると土煙の中から赤黒い、肉の蔓のような物が伸びてきていた。予想外の事態に思考停止した次の瞬間、土煙から一本や二本どころではない大量の触腕が現れて僕の身体を巻き取る。


「~~~~!?」


 暴れても藻掻いてもビクともしない触手に凄まじい勢いで引っ張り上げられると、突然身体に重力がのしかかり、水中なら感じるはずのない風を濡れた肌に感じた。どうやら化け物に捕まって水上へと釣り上げられてしまったようだ。


 見下ろす地上ではパーティメンバーが武器を構えたまま驚きに目を見開いてこちらを見ている。明るい場所で見るとなんともグロテスクというか何というか、触手の塊みたいなモンスターだった。赤黒い肉の蔓が粘着質な音を立てながら這いまわり、耐性の無い人間が見ればさぞ不快な思いをするだろう。


 そんな触手にミノムシのように簀巻きにされている僕の心情を理解できる人が居るだろうか、きっと居ないだろう。僕だって外から見ただけじゃこの言葉に出来ない気持ちは理解できる自信がない。


「な、なにこれええええええええ!?」


 未知の不快な感覚に顔をしかめる僕と、リアクションに困っていた面々の中で最初に復帰したメイリが、今この場で誰もが言いたいことを高らかに叫んだ。




 さて、メイリの絶叫を皮切りに戦闘が始まってしまった訳だが。今は空中を弓矢や魔法が飛び交うのを高い位置から眺めている。僕の方はまぁ気持ち悪いけど、簀巻きにされてるだけだし我慢できなくはない。


「――!!?」


 そんな風に暢気に構えていたのが悪かったのだろうか、突然触手が蠢きだして手足だけに巻き付いた。驚き暴れる僕に構わず奴は掴んだ手足を触手の中へ引きずり込もうとする、抵抗してみても異様に力強いしビクともしない。あっという間に手足を飲み込まれて固定されてしまった。


 ……いや、ちょっとまって本気で怖いんだけど!?


「っ!」


 触手の数本が身体を這いまわり、胸の下あたりから肉を押し上げるように押してくる。また別の触手が足から太腿に絡みついて、ほんの僅かだが無理矢理に脚を拡げさせられる。いやいや、おかしいって、こんなの絶対おかしいって!?


 このゲーム全年齢向けだよね、いろいろ厳しいからそういった機能存在しないんだよね!?運営本気で何考えてるんだ!! 内心では必死に叫びながらもやっぱり声は出ないまま、触手は僕の身体を蹂躙していく。


 怪物(テラーグリードと言うらしい)は両手両足の先端を飲み込んだまま、僕を半強制的に仰向けにしたあと、身体を撫でるように触手を這わせてきていた。いや、太腿とかお腹とか、二の腕とか、肋骨のあたりとかだけで、直接的な部分には一切触れないようにしているので多少マシなのだけど、得体のしれない物体に触られる感触はハッキリしていて、更に粘液でぬるぬるとした粘液を塗りつけられるのは非常に不快だ。


 ってちょ、まって、脇の下は、脇の下はダメくすぐったいから! 首もやめて! 耳と尻尾に触るなぁ!?


「~~~!!」


「あぁぁあぁぁぁぁ! ちょっとあたしのサンちゃんに何やってんのよ!!」


「ええい、サンちゃんを離せ! この触手野郎!!」


 どうやら下のメンバーからは僕の状態が丸見えらしく、メイリとギルマスの叫び声が聞こえる。頑張って早く助けて下さい、気持ち悪くてくすぐったくてやばいんです本気(マジ)で。気持ち悪さに泣きそうになっていると、何やら太い触手がゆらゆらと眼前までやってきた。


 脳裏に蘇る、ネットを巡回してる時にちらっと見た年齢的にまだ知っちゃいけないゲームのビジュアル。恐怖に固まったまま向けた視線の先に映った触手の先端は……良かった普通だ、変な形はしていない。


「サンちゃああああん!?」


「おいおいおいおい……」


 ほっと胸をなでおろしかけた途端、白濁した液体をおもいっきり顔面にぶちまけられた。花の蜜の香りがする液体がホースで水をかけるように胸元、お腹、下腹部と大量にかけられていく。人の身体を一頻り汚すだけ汚して満足したのか、触手は引っ込んでいった。


 取り敢えず言いたいことは1つだけだ、このイベント考案した奴もゴーサイン出した奴もまとめてクビになればいいんじゃないかな!!


 もうお家帰りたい、お風呂入っておふとんにくるまりたい。


「…………」


「サンちゃん待っててね、すぐ助けてあげるからねぇ!」


「この野郎! モンスターの分際でふざけんな、今直ぐ死ねもしくは俺と代われぇぇぇ!!」


 ギルマスもいい加減自首してくるといい、警察とかポリスとかその辺に。


 魔法が飛び交い、触手が吹き飛ぶ様を眺めながら、深く息を吐く。何だか身体が熱くてぼーっとしてきた、汗が溢れて息苦しい。ついでに身体に力が入らない、先ほどの謎の白い液体のせいだろうか。まさか感覚的な嫌がらせじゃなく変な効果でもあるのだろうか。


 恐る恐るステータスを確認してみる……。


 ステータス画面には状態異常を示すアイコンが3つ、1つは『発熱』、1つは『麻痺』、1つは『粘液』。


 ……何となく運営の遊び心だということは解った。確かに身体は熱くて息苦しいけど、心を落ち着けてみると心音も普通だし別に変な気分にはなってない、暖房の効き過ぎた部屋に居たがごとく"熱くてだるい"だけだ。


「あぁぁぁ、ダメぇ!」


 視界の端っこでメイリが顔を赤くして叫ぶ。


「サンちゃんダメだよ、その状態でその表情だけはダメだよぉ!!」


 そう思うならできるだけ早く助けてほしい。顔を真赤にしながら片手剣に持ち替えて、時折発射される白い液体を避けながらヘイトスキルを利用し攻撃を集めるメイリ。横の方では栄司とハガネさんが触手を斬り飛ばしながらこちらに向かっているのが見える、しかし数の多さから攻略は難航しているようだ。


 火力勢のうち抹茶さんは真剣な表情だが何故か頬を赤らめて僕をガン見しつつ、飛行装備である鷹の翼をはためかせて触手を回避しながら、空中から矢を射掛けている。技術的にも凄いと思うけど何故僕から目を逸らさないのか、拘束している触手よりもあの視線に身の危険を感じる。


 ゴードンさんは竜の翼を利用し急降下しつつ斧をぶち当てていた、その度に足場が激しく揺れて触手のライフゲージがガッツリと減っていくが、特性上連射はできない上、核らしき蒼い球体の近くで捕まって居る僕を気遣っているのか有効打にはなっていない。


 最悪なことにこの怪物はライフが自動回復するようになっているらしく、全員の猛攻で一気にライフを2割近く削ったというのに、次の大技までのインターバルでほぼ全快と呼べるまで自己回復を終えている。恐らく弱点である核に大打撃を与えようにも、核の近くにいる僕に当たると大技はシステム的に防がれてしまう。僕は文字通り人質なようだ。


「まずいな、あいつ助けないと勝ち目薄いぞ!?」


「く、うぅぅぅ、エース! あんた全力で助けなさい!」


「さんちゃーん、すぐ助けてあげるからもうちょっと頑張ってねー?」


 業を煮やしたメイリが叫び、ミィが暢気な声で手を振る。全年齢向けのゲームなわけだし変なことにならないと解っているんだろう。実際に触手の触れる位置を考えてもきちんと配慮されてる事が伺えるし、恐らく僕が見た目通りの小さな子どもだったとしても、普通に怪物に捕まってくすぐられた、怖い思いをしたーで終わる感じだ。


 僕も色んな意味での安全は確保されてるはずなのでそこまで取り乱しては居ない。……うん、平気だ、さっきからちょっとずつ太腿を撫でてる触手が上に近づいているのは気のせいだろうし、肋骨付近を抑え付けていた触手がいつの間にかぺったんこな下乳あたりにあるのも目の錯覚だろう。


 これは発熱の状態異常が見せる幻なのだ、そうに違いない。まったく恐ろしい状態異常である、困ったものだ。はっはっはっ……早く助けてぇぇぇぇぇぇ!?


「俺達が活路を開く! 突っ込め!」


「頼んだ!」


 竜の翼をはためかせたハガネさんが、自らのハーレムメンバーの助力を得て突っ込んできて触手を吹き飛ばす、後に続く栄司が両手剣を振り回して触手を踏み越えながら、一気にこっちまで近づいて飛び移ると、僕の真横に支えにするかのように剣を突き立てた。


 間近に迫った栄司を見つめながら、視線で早く助けろと訴える。


「――!」


「っ……とっとと逃げるぞ!」


 一瞬僕の姿に躊躇したものの、意を決したように僕の腰を強く掴んで全力で引っ張る。僕も動きたかったが状態異常のせいか全く力が入らない。解放には何か条件でもあるのか、一人で暴れていた時はビクともしなかった触手は、栄司に引っ張られるとあっさりと僕の手足を解放した。栄司は剣を引きぬいて背中の鞘に戻すと、粘液まみれになった僕をお姫様抱っこしたまま、暴れる触手の上を駆けて湖畔へと降りる。


 おかげで何とか手遅れになる前に無事脱出する事が出来た……いや、ほんとに手遅れにならずに良かった、ありがとう栄司、ありがとう。




「はい、もう大丈夫だよー……あれって状態異常攻撃だったんだねー」


 脱出後、ミィによる状態異常を治療する魔法のおかげで危機は脱した。しかし『粘液』の状態異常だけは消えず、まだ粘液でべちょべちょになってて気持ち悪い。手足がぬるぬるして戦えそうにはないので、ちょっとおとなしく見学していようと思う。


 因みに嫌そうな顔をしていた栄司からミィへと僕が手渡された瞬間、栄司の服についていた粘液は蒸発するように薄くなって消えた。どうやら『粘液』はぬるぬるべとべとした状態を維持する状態異常らしい。


 シモネタかよって思う人は多いと思うが、これが結構怖い効果を持っている。何しろ手がぬるぬるして武器を持つのも一苦労で、脚もぬるぬるしているので踏ん張りが効かないのだ。前衛がかかったらかなり厄介だろう。それだけじゃなく接触している間はぬるべとが相手の服や身体にもひっつくので、仲間から敬遠されるという恐ろしい効果も付随する。


 そんな恐ろしい能力を持つテラーグリードの攻撃方法は触手による乱舞などの物理攻撃の他に、僕も食らった謎の白い液体を飛ばしてくる攻撃や、単発式の水魔法の3種類があるようだった。鞭のようにしなる触手の連撃は意外と攻撃力が高いらしく、長いリーチもあって思い切った攻撃はできずに居るみたいだ。


 ついでに言うと僕の状態を見て白い謎の液体を怖がっている節も見受けられる、主に女性陣が。


「「≪ライトニングセイバー≫!!」」


 メイリが受け止めた横で、ギルマスとルカさんの声がハモる。青紫色をした魔法陣から紫電を撒き散らす大剣が飛び出して触手の一部を大きく吹き飛ばした。


「おらぁ!」

「ちっ!」


 怯んだ触手に追撃するようにハガネさんと栄司が本体へと躍りかかる。時折縦横無尽に暴れる触手に当たっているが、すぐに体勢を戻してラッシュを止めない。エミリさんは触手から逃げ回りつつ、前衛組を中心に回復魔法を使っている。


 人質の僕が居なくなり、真価を発揮できるようになった抹茶さんは隙を縫って核らしき蒼い球体に次々と矢を突き立てている。それ自体のダメージはそこまでではなさそうだけど、怯んだ瞬間にゴードンさんが急降下を合わせた大技を打ち込むことでごっそりとライフを削っていく。


 このまま行けるかと思ったが、さすがにこのレベル帯のボスは甘くはなかったようだ。パターンを見きりながら行なっていた戦闘でライフを3割まで減らした瞬間、触手はプルプルと震えはじめて奇っ怪な咆哮を上げた。蒼い球体は燃え上がるような光を放ちながら紅く染まり、密集した肉の蔓に閉じられていた身体の中央が翼を広げるように大きく広がり、口のような物の中から様々な形状の触手が溢れ出す。


 ……一応言っておくが卑猥な形状の触手は一つもない。剣のようなものや槍のようなもの、先端にギザギザの歯が生えた口のようなものばかりだ。狂奔状態に突入したようだ。


 因みに、高レベルのボスの中には狂奔時に特殊な行動パターンに変化するモノや、能力自体が変わるモノが結構な数居る。こいつもそのうちの一体のようで、ライフゲージを見る限り自動回復の能力が消えている。つまり新たな能力に変化した可能性が高い。


「うげぇ……」


「うぅ、もーやだー!」


 メイリはあからさまに顔をしかめ、ルカさんはこういうのは苦手なのか、泣きそうな顔をして杖を握りしめて叫んでいた。嘆いている余裕はなさそうなので僕も水晶槍を装備して、お馴染みとなった魔法符や雷属性をエンチャントした投擲用ナイフを取り出す。


――さて、ちょっとはお返しさせて貰おうか!


 表情を引き締めながら一歩踏み出そうとした瞬間、けたたましい音を立てて顔の横を謎の白い液体の弾丸が駆け抜けた。背後で轟音が響き、土埃が巻き上がり白い粘液でべとべとになっていた髪の毛に汚れが付着する。


 恐る恐る横を向いてみると、着弾したと思われる地面にちょっとしたクレーターが出来ていた。


「 」


 なにこれこわい。いやいや、さっきまで可愛らしくびゅって出てるだけだったのに、状態異常くらいしか怖くないなとか考えてたのに、何この威力。


「きゃあっ!?」


「!!」


 固まっていると聞こえたミィの悲鳴、慌てて前を向くと横薙ぎに迫る鞭型触手が見えた。咄嗟にしゃがみ込もうとしたら思いっきり脚を滑らせて尻餅をついてしまう、僅かな衝撃を感じてライフゲージがちょっぴり削れた。


「あたたた……」


 横では避けそこねたミィが地面から身体を起こしていた。すぐに自分に回復魔法を使っているが、結構ダメージは大きかったようだ。


「二人とも大丈夫!?」


「こっちはいいから、前衛しっかりだよー!」


 振り向かずに声をあげるメイリにミィが力強く返す。僕も何度か手足を滑らせながら立ち上がると、改めて符を持って込められていたライトニングボルトを起動、横に移動しながらテラーグリードに打ち込んでいく。ボス相手となるとダメージは殆ど入らないので牽制目的だ。


 一応攻撃は功を奏したらしく、触手は届かないものの一部の攻撃……特に白い液体がこっちに飛んでくるようになった。


「うきゃぁ!?」


 離れた位置で回復魔法を使っていたエミリさんが謎の白い液体の直撃を受けてふっ飛ばされるのが見えた。液体自体のダメージは大した事ないようだけど、強烈な状態異常を食らって地面に倒れたまま動かない、そこに無数の触手が迫る。


「ひぃっ、や、いやあぁぁぁ!?」


「エミリ!!」


「クソッ!」


 エミリさんは絡め取られて僕と同じ目に遭いそうになったものの、取って返したハガネさんとルカさんからの援護によって地面に落とされた。ハガネさんはエミリさんを気遣ってか、その場に立ち止まって二本の剣を器用に使い向かってくる触手を受け流したり切り払ったりしている。


 しかしながら相手の方の手数が多く、分が悪いのか少々圧されている。空中戦を挑んでいるメンバーもテラーグリードの持つ攻撃方法の射程に苦戦してフォローに入れてはいない。僕もフォローに入るべきか?


「!?」


「しまっ、サンちゃん!」


 突然衝撃が走り視界が回転する。他所見したのは大失敗だった、僕も高速で飛んできた謎の白い液体の直撃を受けて吹き飛ばされたのだ。見た目通りと言っていいのか分からないけど、水属性だったらしく水着効果も含めた高い水耐性のお陰でダメージ自体は0に近い。


『僕より先にエミリさん』


 気を取られそうになるメンバーにすぐにチャットを送り、打ち下ろされる触手を自由の効かない身体に喝を入れて寝返りを打つように回避する。最悪の場合は見捨てて貰うしかないのだろうなぁ。


「ぐぅっ!」


 エミリさんを復帰させたミィがこちらに戻ってくる、その背後でハガネさんが斧型の触手に薙ぎ払われるように吹き飛ばされた。空中で翼を使ってすぐに体勢を立て直したが、ダメージは浅くないみたいだ。


 粘液のせいで激しい運動が出来ないエミリさんは無防備なままだ、スイッチするように栄司がカバーリングに入り、ハガネさんが今度は攻勢に出る。そんな彼等を横目で見ながら状態異常を解除してもらい、立ち上がって触手の攻撃範囲から距離をとり、白い液体にだけ気をつけて投擲用の道具で攻撃を続ける。


 みんな大きな攻撃こそ出来ないものの、少しずつ削って残りのライフが2割まで到達した瞬間、テラーグリードが広げていた触手を閉じて丸まってからぷるぷると震えはじめた。凄く嫌な予感がして慌てて距離を大きく取る。


 他のメンバーもそれを察したようで空中組も地上組も一斉に攻撃を止めて後退を始めた。大きく身体をぐねらせたテラーグリードがまるで鳥が翼を広げるように触手を展開する。かなりの速さで繰り出された大量の触手と白い液体の弾丸が轟音を立てて雨霰のように地面へと突き刺さっていく。


「ぐおぁ!?」


「くっ!」


 軽装組や盾持ちのメイリはなんとか凌いでいるが、まず重装のゴードンさんが弾き飛ばされるように森の中へと墜落して行くのが見えた。抹茶さんはこんな状況でも触手の雨を回避しつつ正確に核へ射撃を行なっている。


「きゃあああ!?」


 何度となく降り注ぐ触手の攻撃を必死に避けていると、甲高い悲鳴が響く。反射的に視線を向けると足を絡め取られたエミリさんがテラーグリードの方へと勢い良く引きずられていくところだった。恐らく粘液のせいで避けそこねたのだろう。


「ちょっと、エミリを離しなさい!!」


「待ってろ、すぐ助ける!」


 ルカさんとハガネさんが攫われそうなエミリさんを助けようと、彼女を捕まえている触手へと攻撃を行うが、誘拐を企てている触手とは別に度を越した猛攻を繰りなす武器触手によって思うようにいかない。


「ひっ! いや、いやぁぁあぁ! 助けて、たすけてえええええ!!」


「うわぁ……」


 手をこまねいているうちに、テラーグリードは口らしき部分を大きく開けて、大量の触手が犇めくそこへエミリさんを引きずり込もうとしていた。誰かがドン引きしたような声が妙によく耳に響いた。


「あ、ぁああ……いやああああぁぁぁぁぁ――」


「エミリ!! いやぁぁぁぁ!!」


「これなんてエロゲ……?」


 絹を裂くような絶叫は触手に飲み込まれて消えてしまった、口を閉じた犯人は解りやすくモグモグと擬音が付きそうな動作をしてから猛攻を止めて通常動作に戻った。……ギルマスの呆れたような言葉に同意する訳じゃないが、これ作ったスタッフはこのゲームが全年齢向けだと解っているんだろうか、帰れなくて数ヶ月禁欲するはめになって暴走したとかじゃないよね?


 スタッフの趣味はともかくとして、回復役が一人欠けてしまった訳で、余計に奴の謎の白い液体を受けるわけには行かなくなった、最悪の場合は僕が盾になってミィを守ろう。


「あ、あれはさすがに嫌かなー?」


『無事だといいんだけど、色んな意味で』


 ある意味さっきの僕より遥かにダメージがでかそう……ん? あれ、もしかして救出遅れてたら僕も同じ目にあってた? よし、今度栄司に何か奢ろうそうしようと、飛んでくる白い液体を回避しながら決意する。


『ううぅぅぅ、出られないよーーー(;ω;)』


 そんな中、悲しげな顔文字付きの慟哭がパーティチャットに響き渡った。エミリさんが言うにはどうやら特殊な死亡扱いになるようで、死に戻りが出来ないらしい。死体が確認できないので復活も難しそうだ。取り敢えず元気そうではあるので安心したけど。


「この野郎、よくもやりやがったなぁぁぁぁ!」





 復活したゴードンさんが大声を出しながら空高く飛びあがり、そのままの勢いで急降下する。飛んでくるアレに当ってしまったのか白濁した粘液まみれになりながら。


「得体のしれないもんぶっかけやがって、誰得だゴラァ!!」


 まぁ嫌だよね普通に、見る側も謎の白い液体まみれのガチムチさんとか直視しかねるのだけど。そんな自他共に認める正視に耐えない姿を獲得したゴードンさん怒りの連撃もあって、ついにテラーグリードのライフは1割を切った。


 行ける……そう全員が確信した時、追い詰められたテラーグリードは今度は一切のモーションを挟まずに先ほどの猛攻を繰り出し始めた。


「なっ……くぅ!?」


「ぐお!」


 今までクールに狙撃を繰り返していた抹茶さんが初めて驚きの声を上げた。触手に打ち払われて落下していく彼女を横目で見送り回避行動をとっていると、地面を音を立てずに這いまわる2本の触手に気付く。


『あしもと、ほかくよう触手がある!!』


 僕のチャットに反応して全員が足元を見ると、慌てて距離を取った。上を見てると足元を掬われて丸呑みにされ、足元に気を向けると今度は上からの触手で圧殺される……全く酷い恐ろしい相手だ。


「ぬあ! ま、待ちやがれ! 待て待て待て待て!?」


 2度目の捕食、最初の被害者は哀れにも一番近くで戦っていたゴードンさんだった。


「俺にそういう趣味はねえええ!? ち、畜生、せめて一撃入れてやらぁ!」


 男にあれは色々辛いものがあるよなぁと同情に近い気持ちが生まれる。覚悟を決めたらしいゴードンさんは涙目で斧を振りかぶって引き寄せられる勢いで核に強烈な一撃を加えると、哀れな悲鳴を上げながら飲み込まれていった、合掌。


 もう1人の犠牲者は誰かと足元に注意を払っていると、明らかに僕を目指して追って来る触手が目に入った。ひょっとしてあの白い液体を食らった相手を優先して追尾するのだろうか?


 必死で逃げ回っている僕に気づいたのか、メイリが急に立ち上がる。


「こ、のぉぉぉぉ! サンちゃんは渡さないわよ!」


 盾で降って来る触手を払いながら、接近して剣で本体を切りつける。捕獲用の触手はやっぱり僕だけを徹底して追いかけてくる、ぬるぬるのせいで走ると転んでしまうので、捕まるのも時間の問題かもしれない。


 飲み込まれる瞬間のエミリさんの、恐怖に引きつった顔を思い出す。焦りながら触手のライフを見るとゴードンさんの一撃が効いたのか残り僅かになっていた。


「一気に押しこむぞ!」


「エミリ……仇は討つわ、

 ハガネくんのことは私に任せて安らかに眠って!」


『復活したら覚えてなさいよ!?』


 栄司の声に合わせてハガネさんが飛び出して、触手を掻い潜りダメージを与えていく。ルカさんが決意の言葉を叫びながら杖を掲げると、内部にもちゃんと聞こえていたのかエミリさんのツッコミが入った。


「最大火力で行く! サンちゃんもうちょっとだけ頑張ってくれ!」


 一方でギルマスは射程外から詠唱を始め、大きな魔法陣が構築されていく。因みに"詠唱"は選択した魔法を発声やハンドサインで発動できる"待機状態"にするもので、魔法名以外を言葉にする必要は無い。それでも中にはロールプレイとして自分で考えた詠唱を行っちゃう人もいるのがゲームの楽しいところだ。


 そういえば敢えて女の子っぽく振舞っている僕もある意味ではロールプレイなんだろうか? 現実でも同じ感覚で居るために色々と侵食されている気がするけど、そこはやっぱり演技ってことにしておきたい、なのでロールプレイということで一つお願いしたい。


 …………何故思考がこんな横道にそれたのか、それは僕が見事に捕獲用触手に捕まってしまったからであった。水晶槍を地面に突き立てて堪えようとした努力は虚しく、にゅるんっと手を引き剥がされた。後は凄い勢いで大口開いた触手の塊へと引きずられていくだけだ。恐怖と絶望に彩られる心のなかで1つだけ救いがあるとすれば、それはここが全年齢向けゲームの中であるという事実だけだろう。


「この、離せ、離しなさい!!」


「あぁもう、世話のやける!」


 栄司が粘液まみれの僕を抱きしめるように引っ張り、メイリが庇うように上からの触手を防いでくれる。おかげでちょっとだけ引っ張られる速度が緩まった。しかしぬるぬるの僕を抱えるのは骨が折れるだろう、ほんの少し寿命が長引いただけだ。


「≪サンダーランス≫!」


「はあああっ!」


 開かれた口の中へルカさんの放った雷の槍が叩きこまれ、ハガネさんが度重なる被弾に左腕の力を無くしながらテラーグリードの核に肉薄し、剣による連打を浴びせる。それでも僕を引き寄せる触手の力は衰えず、栄司とメイリごと引っ張られていく。


 もうだめかと思った時、ギルマスの叫び声が聞こえた。


「よっしゃぁ、これでトドメだぁぁ! ≪トールスマッシャー≫!!」


 同時に青白い雷で出来た極太の柱が触手のいくつかを飲み込みながら突き進み、核にぶち当たる。暫くせめぎ合った結果、雷柱は見事に触手をぶち抜いて湖に巨大な水柱を作り出した。僕を捕らえていた触手も力を失って地面に落ち、それからテラーグリードは動かなくなった。



「お……おっつかれぇー……」


 動かなくなったテラーグリードが光になって消えていくと、飲み込まれた2人が湖にぷかぷかと浮かんでいた。力なくその場にへたり込むメイリの声に続くように、みんなが口なりチャットなりで「おつかれ」と唱和する。


 完全に終わったことを判断したミィが湖に入ってエミリさんを蘇生させると、まっすぐこっちへ戻ってくる。


「二人とも粘液落ちてたし、水に浸かると落とせるんじゃないかなー?」


 他のメンバーの治療をしながら教えてくれたので、身体が自由になったことを確認してから僕も湖に飛び込む、水着なので躊躇はいらない。水の中でバシャバシャと暴れると、意外なほどあっさりと粘液の状態異常は解除された。


 綺麗になったのを確認してから水面に顔を出すと、全てのメンバーが集まって負傷者の治療やらドロップ品の確認やらをしているようだった。今回は臨時パーティの主流であるランダム分配拾った物勝ちなので、ログを見ると僕の方にもいくつかアイテムが来ていた。


 湖から上がるとすぐに濡れていた状態は解除され、髪や水着が乾いていく。地形の方はどうしようもないので時間経過で修復されるまで待つ事になるだろう。


「それにしても、精神的に疲れる相手だったわ……」


 さすがのメイリもアレはやばかったようで動けないようだ。攻撃の苛烈さと卑猥さで女性陣の精神的な消耗が結構激しいように見受けられる。ついでにいうと僕の精神的な消耗も相当なものだったりする。


「うぅ、ひっく……ぐすっ」


「いつまで泣いてるのよ……」


「だって気持ち悪かったんだもん!!」


 ハガネさんのハーレムメンバーさんたちも今回はだいぶ精神的な疲労が大きいようだ。残念ながらレアアイテムは手に入らなかったものの、新素材がそこそこ手に入ったからよしとしたい。


「サンちゃんは平気? 身体変な所ない? 変な気分になったりしてない?」


『してない』


 擦り寄ってマントを肩にかけてくれたメイリは、ただ純粋に心配してくれているんだと思いたい。この子は変態だけど空気は読めるのである。


「あー、ひどい目にあった……」


 げんなりしてるゴードンさんも疲労の色が濃いようだ、気持ちは良く分かるけど、僕と違って嬲られなかっただけマシだろうと思う。



『そういえば、アレの人質って男キャラでも同じ目に合うのかな?』


 戦闘後のまったりとした空気の中で不意に浮かんだ疑問を口にしてみると、男性陣が露骨に硬直した。ゴードンさんが眉をひそめてキーボードを操作する仕草をする、誰かと連絡を取っているようだ。


「最初に発見した俺のダチなんだが、

 そっちのちびっこと同じ目にあったらしい、

 …………勿論、男だ」


 重苦しく口を開いたゴードンさんに対して、あからさまにほっとする男性陣。大方自分がやるとか言い出さなくて良かったと思っているのだろう、もしギルマスが持ってきたのが女性用の装備じゃなかったら男性陣が"ああなる"可能性があった訳だし。


「……ごめんねー、サンちゃん」


 何となくそんな空気を感じ取ったミィはちょっと泣きそうになりながら抱きしめてくる。自覚はあるのかその場に居た男連中は全員揃って僕から顔を逸らした。心なしかちょっと頬が赤いハガネさんを見るエミリさんの目が酷く冷たい。


 そしてルカさんは僕のことを「この泥棒猫……あれ、泥棒犬?」みたいな眼で見てくるのはやめてほしい。完璧な冤罪だ。


「まぁなんというか、大変だったな」


 なんとなしに漂う空気でバツが悪くなったのか、隣に座った栄司が労いの言葉をかけてきた。普段なら反論してるところだけど、今までの態度もちょっと反省してるし、今回は栄司に助けられたのでできるだけ素直に対応しておこうと思う。


『とりあえず……助けてくれて、ありがとう』


「あ、あぁ……」


 ……なんで微妙に身構えるんだ。



 ゲーム内時間が昼間だったため認識していなかったが、時計を見るともう23時を回ろうとしているところだった。特に大きなレアも出なかった為その場で解散する運びとなり、フレンド登録を済ませて、森の出口まで一緒に歩きながらお別れを済ませた。


 因みにゴードンさんは友人に情報をくれた御礼(ふくしゅう)をしに、抹茶ラテさんは僕の『今度、ちょっとでいいから僕を抱えて空を飛んで欲しい』という申し出を良い笑顔で承諾すると、「自慢してくるわ」と言って去って行った。一体何をどう自慢するのかは解らなかったが、まぁ隠しボス倒したのだから話のネタにはなるだろう。クールな外見に似合わず案外おちゃめな人なのかもしれない。


 なおゴードンさん及び友人さんからボス情報は拡散させてもいいと言われている。しかし今回のメンバーで少し話し合った所、伝えるのは出現方法だけでボスの特性は伏す方向で会議は全会一致を見せた。みんな悪い笑顔だった。


 ハガネさんからは別れ際に「いつかまた別の機会で勝負ができるといいな」と言われ、ルカさんからは「負けないから」と威嚇された。エミリさんが言うには「凄く良い動きをするちっちゃい娘が居た」と、レースから暫くハガネさんが僕を話題にしていたため、ルカさんが嫉妬しているのだと謝られた。


 頼むから僕を君たちのハーレムの修羅場に巻き込まないでほしいという台詞はすんでの所で飲み込んだ。僕は大人なのだ。


 そんなこんなで他のメンバーを見送った後、なんだか僕に気を使って何か言いたげな友人連中に、気持ちを切り替えろ、僕は気にしてないという意思を込めて明るく言う。


『よし、溜まり場まで競争だ!』


「は? いや、待てっ」


「え、あ、ちょっとまってサンちゃん!」


 待ちません! 門はもう見えている、軽い足取りで街まで一直線に入ってそのまま溜まり場を目指す。そんなに大きな街ではないので移動時間は数十分、それなりだ。勢い良く扉を開けて入ると、中にいるメンバーが何事かと目を見開いてこっちを見る。


『とと、こんばんわ、ちょっとギルマスたちと門から溜まり場まで競争中で』


 いきなりだったからびっくりさせてしまったかと文章を打ち出すが反応がない。首を傾げていると奥から焦った様子のすあまさんが飛び出してきて僕の肩をつかんだ。何があったのかと表情を強張らせると、彼女は僕にマントをかけた。


「さ、サンちゃん? まさかその格好でここまで来たの!?」


 …………え?


 恐る恐る自分の体を見てみると、自分の体を覆っているのはいつものローブではなく、肌にピッタリとフィットした純白のスクール水着だった。あぁ、うん……。



 その後、即座にログアウトして丸まってシーツを被っていたらそのまま寝てしまい、栄司やメイリから届いていた心配しているという内容のメールに気付いたのは翌朝になってからだった。


 なお水着は最初こそギルマスに返そうとしたが、アレに一度着た物を渡すのはなんか凄く嫌だったので有り金全てで僕が買い取る事になった。おかげで財布がすっからかんになったので暫くはお金稼ぎに集中することになりそうだ……実にしょんぼりな結末である。



というわけで、一旦間接的な挿絵掲載にしました。

日向が捕まって謎の白い液体をかけられたシーンとなります。


http://6198.mitemin.net/i79113/

性器の露出や性的な表現はしていませんが、

少々グロテスクな触手、液体表現がありますのでご注意を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ