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おんらいん こみゅにけーしょん  作者: とりまる ひよこ。
Contact.05 太陽に恋をして

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Contact.5-2 おふらいん こみゅにけーしょん-2

   おんらいん☆こみゅにけーしょん

        Contact.05-2 『おふらいん こみゅにけーしょん-2』



 動揺するメイリとギルマスさんを宥めすかすのに数分ほど使った結果、あんまり騒ぎ立てない事を約束させる事が出来た僕達は、折角出会ったのだからと何も食べずにプールへ向かっていた。というのも、どうやらメイリだけでなくギルマスさんも相当な姉のファンだったようで、「これからも妹と仲良くしてあげてね」という言葉をどう解釈したのか知らないが二人揃ってクレープとアイスを大量に貢いで来そうな気配を感じたのだ。


 普段の言動を見る限り姉のことがなくてもやってきた可能性はあるけど、勢いが二倍になると僅かなり恐怖を感じる。それにゲーム内のお金ならまだしも現実のお金を使われると気を使ってしまうし、僕の精神衛生のためにも移動したほうが良いということで親友二人とも意見の一致を見たのだ。


 移動中、意外なことにメイリは非常に大人しかった。ギルマスさんは僕をダシにして姉と積極的に会話をしていたようだけど、メイリの方はあんまり口を開かなかったのだ。この件について栄司は「お前に構いたいけど姉とも話してみたいって感じで迷って動けなかったんじゃないの、多分」と推測を立てていた、妙にそわそわして僕に声をかけたり、姉を気にしたりしていたので恐らく正解じゃないかと思う。


 しおらしいメイリという奇妙な物体に面食らったのは僕だけではないようで、後ろで話をしながら盛り上がるギルマスさんと姉を除いたメンバーは奇妙な沈黙の中で人工砂浜のある最大規模のプールへとたどり着いた。


 人のひしめくプールに入る勇気はないので、人工砂浜の空いている場所に陣取りつつ姉が持ってきていたビニールボールを膨らませていると、僕を見ていた栄司が笑いを堪えるようにしながら口を開いた。


「しかしお前、スク水って……」


 どうやら落ち着いた所で僕の格好に意識が向いたらしい、そのままずっとスルーしていればよかったのに。


「スク水の何が悪いのよ、滅茶苦茶似合ってるじゃない!」


「いや、名里、それはフォローじゃなくてトドメだ」


 予想通りの返答を返すメイリの流れ弾にビニールボールを抱えながら項垂れていると、隣に座ったミィが慰めるように頭を撫でてきた。途端に背後から責めるような声が上がる。


「あぁ、ミィずるい! 私も撫で撫でしたい!」


 全くリアルでもゲームでも全く行動パターンに変化がないこいつらはある意味ではきっと大物なんだろう。抵抗が無いのを良い事に二人がかりで頭をなでる。大人しくしている僕を、愉快そうな笑顔を浮かべた姉が見ていた。


「モテモテね」


 ちっとも嬉しくない。


「俺も撫で……」


「ダメだよー?」


 隙をついて近付いてきたギルマスさんが伸ばした手を、ミィが素早く払い除けた。メイリが庇うような位置に移動する。素早く防衛体制に入る二人と違って生温いリアクション返しているのは僕の中身が男なのを知っている三人だけだった。


「サン……日向ちゃんも、

 あいつに近付いたら妊娠しちゃうから、絶対に近付いたらダメだよ」


 何それ怖い。ギルマスさんはそんな超能力を保有していたというのか、若干怯えた視線を向けられたギルマスさんが慌てはじめる。


「お前ら俺を一体なんだと思ってるんだ!?」


「「「「変態」」」」


 姉と僕以外の声が重なった、ギルマスさんは弄られキャラなようだった。まぁ僕も男に触られて嬉しい訳じゃないし、ボディーガード達に有難く守られておこう。というか気になっていたのだがメイリ達はプールに三人で来たのだろうか? 3人の仲が悪いとは思っていないけど、この組み合わせはちょっぴり意外だ。


「? 日向ちゃんはどうしたのかな?」


「お前たちが何でここに居るのかって顔してるな」


 考えるような仕草をしていたからだろうか、疑問を投げかけてきたミィが伊吹の翻訳を受けて手のひらをぽんっと打つ。相変わらず便利なスキルで助かる。


「同じクラスのゲーム仲間と来たんだよ、あと男の子一人とすあまちゃんがきてるよ

 ほんとは栄司くんと伊吹くんも誘おうとしてたんだけど、別の用事があるって聞いてたから」


 何と言うか、中核メンバーはほんとに仲良しだったようだ。栄司と伊吹を誘ってしまったのは悪いことをしたんだろうか。でも一人だけ除け者になるとそれはそれで寂しい。


「栄司達を誘えばもしかしたらサンちゃんも来るかもしれないって思っていたからな」


 …………除け者になる心配はなかったようだけど、それ以上に不安になる事を口走られた。これは迂闊に栄司達について回ると一本釣りされる危険があるかもしれない。メイリも似たような思考なのかと思って顔を見れば、これまた意外にも心外極まると言いたげな表情をしていた。


「いや、正直引くんだけど……ゲームはゲーム、リアルはリアルよ?

 メッセンジャーならふざけてじゃれる事はあるけど、

 実際に無理矢理会おうとするなんてただの直結ヤロウじゃない」


「……そこで真面目に返されるとなんだか自分が酷く汚れている気がしてくるんですけど」


 引くわー、マジ引くわーと本心から言ってそうなメイリに割とショックを受けたらしいギルマスさんが砂浜に膝をついた。僕としてもついさっきまで全力で撫でる方向に走っていた人間のセリフとは思えないんだが。


「実際見た目そのまんまで本気でビックリしてつい撫でちゃったのは確かだけどね」


 ゲームのアバターは体格と性別こそいじれないが顔つきや髪型、体つきなどはかなり自由に弄ることができる、メイリ達も言われたら納得する程度には面影があるものの、一見で解らない程度にはいじってある。栄司や伊吹ですら多少はファンタジー映えするよういじってあるくらいだ、撮影データそのまま使うなんて事をやるのは全く知識の無い人間か、自分に対する自信で溢れすぎている人くらいのものらしい。


 そんな訳でメイリたちも僕のことは言動からしてあからさまに日本人だし、ランダム設定でやったのではないかと思い込んでいたようだ。


「サンちゃんがこんなに可愛い子だって知ったら、きっとみんなびっくりするねー」


 だから僕の現実での見た目に関しても実際の所そこまで気にしているというか、期待している人間は少なくともギルド内には居ないとミィが笑う。あくまで『サンちゃん』という虚構(ゲーム)内のマスコットキャラクターとして可愛がられているだけと分かって、安心したやら複雑やら不思議な気分に陥る。


「髪の毛もサラサラだし、肌も白いし……絶対すっごい美人さんになるよねー」


「何で俺を見て言うんだ」


 何故か栄司を見ながら言うミィに、不機嫌そうに栄司が返す。どうやら彼等の認識は覆せない所まで来ているらしい。実際のところ万が一戻れなかったら女として生きるしか無いわけで……一生独身という手も無い訳じゃないが、自分の外見を客観的に見ればどうしても男性関係はついて回るくらいは解ってる。


 今のところは女を感じさせる要素が少なすぎて一部の変態しか招いていないが、そう遠くないうちに身体が成長すればさぞやうざったい事になる事は想像に易い。男に言い寄られる光景を想像してしまって背中を怖気が走る。


 有象無象に近寄られるよりは栄司か伊吹とくっついた方がかなりマシだ、あの二人となら……うん、特に栄司とは気心が知れてるし、僕が入院してる時も毎日通って励ましてくれてたのを、漠然とだけど覚えてる。見た目だって……。


「そしてお前も何で俺を見る」


 ――――いや、やっぱないな、うん、ない。


「何で顔青くしてんの、何想像してんの、お前マジ何なの」


 脳内で描きかけた危険な想像を払拭する、これ以上はいけない。気分転換に別のことを考えよう。お題はすあまさんのリアルでの姿だ。実はとんでもない美少女とか、胸がぺたんこだったりすると面白いなんて不謹慎なことを思った所でふと気づく。メイリたちは僕らについていて大丈夫なんだろうか、戻った方がいいんじゃ?


「ん……日向ちゃん、どうしたの?」


「こっち側についていていいのか気になってるみたいだ」


 翻訳機と化しつつある伊吹がいると本当に楽で助かるんだけど、思考を読まれてる感じがして少し怖いんだよね、リアルでは更に精度が上がってる気がするし。怯える僕を横において伊吹から翻訳を受けたメイリは「あぁ」と小さく笑った。


「大丈夫よ、さっき携帯でメールしたからそのうち二人も来ると思う」


 って呼んだんかい! 内心でのツッコミは声にならず、僕のさりげなく儚い抵抗は背後から聞こえてきたメイリを呼ぶ声に掻き消されてプールの波に溶けて消えた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「はじめまして、お会いできて光栄です!」


「わぁー、ほんとにそのまんまだねぇ、

 撫でていい? わ、髪の毛サラサラだぁ……」


 人懐っこそうな表情を浮かべた、ライトブラウンの髪の青年と、ダークブラウンの髪をサイドテールでまとめた胸部装甲の分厚い女性が目の前に立っていた。そう、合流した残りのメンバーこと、先日の肝試しで猫の祟りの話をした青年とすあまさんだ。


 リアルすあまさんは見事なまでに胸部の戦闘力が高く、道行く男たちがちらちらと見ては連れている女性に睨まれて慌てている。青年の方は僕には目もくれず姉へ挨拶していて、すあまさんは逆に姉には軽い挨拶だけで後は恐る恐る頭を撫でてくる。


 なんで女性陣はこう、僕に対して小動物的な接し方をするんだろうか。抱えているビニールボールに口をつけて空気を送り込みながら、一般的に美少女と呼ばれるであろう女の子たちに囲まれては複雑な心境ばかり加速する。


「この子ったら変な所で男の子っぽいでしょ、髪の毛の手入れを教えるのも苦労したのよ」


 囲んで頭を撫で続ける女性陣に姉が余計な一言を告げてきた。


「えぇ、こんな綺麗なのに勿体ないよー」


 羨ましいと口にしながら髪を触る女性たちの手から逃れるために、膨らみかけたボールを栄司に投げ渡して囲いを抜け、姉の背後へ移動する。姉はそれとなく僕の肩を抱いて苦笑を浮かべた。


「あんまり撫でられるの好きじゃないみたい」


「あ……ごめんね、調子乗りすぎちゃった」


「ごめんね日向ちゃん」


 今までは大人しくしていたが元々そんなに好きという訳じゃない、というか流石に三人でもみくちゃにされるのは疲れるので勘弁してほしいと言う意思表示だったのだけど、無事に伝わってくれたようだ。


 しゃがんで目線を合わせながら謝って来る三人娘に対して、気にしないと頭を振ると彼女たちもほっとしたようだ。


「行動までちびっこになっちまってまぁ……」


 栄司がそんな僕に対して哀れみを込めながら呟く、地味に気にしてるんだから傷口を抉らないで欲しい。腕力でも身体能力でも今の僕は三人娘の中でも一番小柄なミィにすら勝てないのだから、この状況を脱するには誰かの庇護に頼るしかないのだ。


 というかここで庇護を頼る選択肢なんて姉と栄司と伊吹の三択だし、いいのか? 栄司に頼ってロリコン疑惑を確固たるものにしてもいいのか!?


「……ん? ああぁぁぁぁぁ!!」


「ぶっ!? 何、何だ!?」


 情けなさに落ち込んでいるとメイリが突然奇声を上げて、引き継いでボールを膨らませていた栄司に掴みかかった。柔道か合気道だろうが、俊敏な動きで頭半分以上大きい栄司を引き倒すと完全な球体になったボールを奪い取った。


「お前何を……ッ!?」


 突然の奇行に呆気に取られていた全員の中で、いち早く復帰したギルマスさんがメイリに声をかけようとして、何故か僕の顔を見てハッとした表情になる。


「いや、ナイスだ名里! 良くやった!!」


「何なんだよお前らは!?」


 何をやっているんだこいつらは。僕が呆気に取られている事に気付いているのかいないのか悔しそうな顔をしてボールを睨んでいたメイリが急に笑顔を作って栄司が完成させたボールを僕に手渡してきた。受け取りはするものの、半分以上は栄司が頑張ってくれた結果なのでお礼を言おうと近付いた。


『あ り が と』


 といっても携帯は砂避けのためにバッグに入れてあるので、ちょっと悩んで倒れてる栄司の手をとって指先で手のひらに文字を書く。


「い、いや……それはいいんだけどな」


 何がどうなってるんだと不服そうにメイリのほうを睨みつつ、伊吹とミィに手伝ってもらいながら立ち上がる栄司。釣られて向いた方向にいるメイリは栄司を睨み返して火花を散らし、隣のギルマスさんは気持ち悪い動きで悶えていた。ほんとに何なんだこいつらは。


 これ以上バカ達に付き合っていられないので、ミィと伊吹の手を引いて水際まで移動する。泳ぐのは久し振りだしまずは慣らす方向で行こう。


「おっと」


 振り向き様に僕が投げたボールを受け止めた伊吹が、眼鏡のズレを直してニヤリと笑った。返答するように口元をゆがめた瞬間、距離を取った伊吹が宙に放り投げたボールを振り被った右手で強く叩いた。


 こうやって遊ぶのは本当に久し振りなのだ、手加減する気は無い。テンションに任せてパーカーを姉の方に放ると微妙に距離を取ると両手を組んでレシーブの容量で伊吹の打った軽めのスパイクを受ける、幸い人工砂浜付近はそこまで人が多くない為、結構遊ぶスペースを取る事が出来た。


 お返しに目の前まで落ちてきたボールを飛び上がって右手で打つが、力の関係かスピードが全然乗らず容易く打ち返される。左脇をすり抜けていこうとするボールに飛びつく様に左手を伸ばして打ち上げる、横っ腹から着地した付近の砂を蹴散らしながら素早く起き上がると、伊吹の右斜めを狙い落ちてきたボールに向かって後ろ回し蹴りを決めた。


「…………」


 ぽすんっと乾いた音を立てたボールが砂浜を転がる。思いっきり片足を振り抜き何も無い中空を蹴り飛ばしたまま固まる僕のなんと滑稽な事か。言い訳しておくと蹴りの位置は正確だった、ただボールまで届いていなかっただけなのだ。


 リーチの差が怨めしい……。


「……ぁー、日向ちゃん、その格好ちょっとはしたないからやめとこうねー?」


 ミィに言われて振り上げた脚を降ろすと、ぺたんと座り込んで砂を掻き集める。


「拗ねるな、第一いまのは反則だろ」


 腕の力が足りないんだから仕方ないじゃないか……。一方でミィは空気を読んでのか読んでいないのか、微妙な笑顔を振りまいてきた。


「えっと、日向ちゃん? スコップとかバケツ借りてきてあげようかー?」


 やめてください、泣いてしまいます。


「うぅん……じゃあお水の中で遊ぼう? 冷たくて気持ちいいよ?」


「…………」


 さっきからミィの気遣いと伊吹の入院中だった頃の僕を見るような視線と沈黙が合わさってとても痛い。記憶はないがきっとあんな感じな顔をしていただろう、なんて悲痛そうな顔をしていやがる。


 これ以上あの視線に曝されていたくない僕は再びミィの言葉に従うと、ボールを片手に波の起こるプールへと入っていくのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「はいっ!」


 メイリが柔らかく放ったボールが僕の目の前に落ちて水飛沫を上げた、目を閉じると顔に冷たい水がかかる。このプールの水温は低すぎず高すぎず、火照った身体には丁度良い。現在地はプールの半ばほどで一緒に居る女性陣にとって腰が水に浸かるくらいの水深なのだが、僕にとっては胸の少し下までの深さになる。


 僕はそんな場所で、世間一般で言うところの美少女たちとビニールボールを使ってきゃっきゃっと戯れている所だった。輪に入れない男どもが少し離れた場所で目を細めて僕達の様子を眺めている。男だった時は僕もあっち側の立ち位置だった事を考えると、今の状況にちょっとした嬉しさを感じてしまっているのが何だか悔しい。


「……いい眺めだ」

「全くですな……」

 

 比較的近い位置にいるギルマスさんと怪談さん(そういえば名前を知らない)から羨望に近い視線を感じる。微妙な優越感に浸りながら僕はボールを姉に向かって放り投げた。因みに栄司と伊吹は比較的人が少ないプールの奥で泳いでいる、メイリに因縁を吹っ掛けられるのを避けて距離を置く事に決めたらしい。


「それにしても」

「んー? ……あぁ、ちっちゃいなぁ、スク水似合ってるなぁ、可愛いなぁ」


 距離があるはずなのに妙に音を拾えるのは何故だろう、僕ってこんなに耳が良かったっけ? 多少の疑問はあるが聴覚が優れている分には構わないかと開き直る、おかげでギルマスさんの不穏な呟きも察知することが出来たし。受け取った姉からミィに、ミィがちょっと強めにメイリにボールを投げ渡す。


「あの二人姉妹なんだよね? サンちゃんは確かにすんごい美少女になりそうだけど

 ぶっちゃけ全然似てへぶっ!?」


 怪談さんがぽつりと呟いた言葉が彼の命運を絶ち切った。メイリが振り返りながら放ったボールは微妙に軋みながら顔面に突き刺さり、隣に居たギルマスさんから放たれた肘鉄が脇腹に突き刺さっていた。


「な……ぜ……」


 水の中へ崩れ落ちそうになる彼をギルマスさんが支えて砂浜の方へと連れていくのが見える。まぁ確かに姉は典型的な日本人だし、今の僕はどうみても外国人で訳ありにしか見えないけど。過剰反応しすぎだよ君たち。


「日向ちゃん? あのバカの言う事は気にしなくていいんだからねー?」


「そ、そうだよ、私にも兄貴が居るけど似てないって良く言われるから!」


「えーっと……?」


 なんだろう、ほんとに過剰に心配しすぎじゃないのか? 見た目的にはともかく僕としては姉はどう転んでも実姉である訳だし気にする理由はないんだけど。姉も微妙に反応に困ってるし。困り果てた僕達姉弟の元に答えを齎してくれたのは意外にも避難していた栄司だった。


「あー……悪い、お前がしゃべれない事説明する時にな、

 酷いイジメにあった事が原因だって喋っちまった」


 とは言うもののあまり詳しく話したがらないところを見るに、きっとペド野郎呼ばわりされて詰問されて誤魔化す為に色々言ったのだろう。こいつの口はそんなに軽くないことは知ってる。あとでなんか食わせろと視線で訴えると解ったのか解ってないのか頷いて水の中に沈んでいった。


 他のメンバーに何か言われる前に潜水で逃げるとはだんだん回避方法を覚えてきたようでお兄さんは悲しい。


 しかしそういう事か、姉とは明らかに違う日本人離れした容姿、口が利けなくなるレベルの酷いイジメにあった過去……これは誤解されてもしょうがないし、素直に話すわけにもいかないので訂正も出来ない、僕と姉で口裏を合わせてないから余計にだ。


「ご、ごめんね日向ちゃん……その、無理に知るつもりは」


「まぁ、妹も気にしてないみたいだから、ね?

 でもあまり突っ込まないであげてくれると嬉しいかな」


 気にするなと首を横に振る、翻訳機が傍に居ないのは不便だった。逆に突っ込まれないので安堵しているくらいだしラッキーというべきだろう。姉も僕の気持ちを察したのかフォローと予防を入れながら、抱きしめるように頭をなでてきた。同時に僕にだけ聞こえる声量で「もうちょっと弱々しい女の子演じておきなさい」と指示が飛んできた。


 全く抜け目のない姉である。


「さ、続きやろー!」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 気を取り直した僕たちは、その後もビニールボールで遊んで、少し疲れてきた頃にギルマスさんが買ってきてくれたジュースを飲みつつ休憩する事になった。勿論代金は割り勘だ。


 サイダーの泡が口の中で弾けるくすぐったさを楽しみながら今後の予定について話し合う。姉はジャグジーの方に行きたいらしいが、僕は久し振りにウォータースライダーで遊びたいと言った。待ち時間が長すぎるという姉を説得しようと言葉を重ねていたが、伊吹の「あのウォータースライダー、身長制限があるぞ」という言葉に折れて泣く泣くジャグジー組に混ざる事になった。


 なお栄司が「あれ前に身長は120センチちょっとって言ってなかったか?」とニヤニヤした顔でからかってきた事は絶対に忘れない。あいつには腕力や体力では敵わなくとも別の分野ではむしろ今の僕の方が圧倒的強者である事実を思い知らせなければなるまい。同時に僕も致命傷を負う事になるかもしれないが、痛みを恐れては人は闘う事など出来ないのだ。


 ジャグジーに行く事になったのは僕と姉さんの二人。ギルマスさんとメイリは栄司とミィとすあまさんに連れられて流れるプールへ向かっていった。すあまさんには「ちゃんと監視しとくから任せといてね」とウィンクされた、二人の認識はギルド内でも問題児(へんたい)で共通らしい。


 伊吹は疲れたと言ってフードコートに、怪談さんは美少女ウォッチングをしてくると言ってどこかへ旅立っていった。怪談さんはロリには微塵も興味がないらしく、僕を見て「後10年くらい経てばなぁ」と露骨に溜息を吐いてメイリにメンチを切られて怯えてたくらいなので、放置していても変態二人ほどは心配いらないのだろう。


 どうにもあのロリコン共がプールに来た目的は美幼女ウォッチングらしい、ミィとすあまさんは最初から監視目的で来ていたそうだし、変態(バカ)共の面倒は二人に任せておけばいいだろう。


 そんなこんなで騒がしいのが居なくなり僕と姉は人の少ないジャグジーに浸かっているのだけど。


「はああぁー」


 比較的温かい泡に身体を揉まれ、おっさんくさい溜め息を吐く姉の姿を見たら彼女のファンは一体どれだけ幻滅するのだろうか。円形のジャグジープールの縁に座りながら考える。


「……何よ」


 なぜ考えていることがばれたのだろう、剣呑な空気を纏った姉がにじり寄ってくる。


「言いたい事があるなら言ってみなさいっ!」


「?!」


 だから喋れないんだよという無言の抗議など何のその、両脚を掴まれてジャグジーの中に引きずり込まれる。後ろから抱きすくめた姉さんはニヤリと笑うとその両手を僕の……ってちょ、やめて、脇はやめて!?


「っ! ~~!!」


「ふふふ、敏感になっちゃってまぁ」


 ばっしゃんばっしゃんと足を暴れさせても、逃げ出せない。僕がぐったりして動かなくなったのを見計らって背後からお腹に手を回すと強く抱きしめてきた。


「……ねぇ、このまま男の子に戻れなかったらどうする?」


 温水ジャグジーの中なのに、笑わされて火照った身体の中心からひやりと冷えた、考えたくもない現実をつきつけられた気がして息が詰まる。


「あんまり、追い詰めたくはないけどね……心配なのよ、無防備な日向を見てると」


 心外にも程がある、これでも最近は女装のおかげで警戒心や羞恥心とか、仕草も身についてきたんだ。前ほど変態どもに接触を許してないし、多少は現状の認識だって出来て――


「不服そうだから一応言っておくけど、無防備なのは栄司君と伊吹君に対してよ?」


 まるで見えない手で心臓が鷲掴みにされた感覚がした。


「幸いまだ女を意識するにもさせるにも日向の身体は小さいけれど、

 それでも今は男と女なのよ?」


 な、何を言っているのだろう。栄司は少なくとも周りが考えてるようなロリコンでも変態でもない、あいつの好みの女性だってちゃんと解ってる、すあまさんみたいに胸の大きな子が好きなのだから、無防備でもメイリやギルマスみたいな心配はいらない。


「伊吹くんはちゃんと解ってるから、必要以上に日向と接触してない

 でも栄司くんは変な所で鈍いというか、遠慮がないからね……

 それが日向の救いにもなってるんだろうから、否定する気は少しもないけど」


 濡れた髪を整えるように頭を撫でてくる細い指、喧騒はいつの間にか届かなくなっていて、姉の良く通る声だけが響く。


「栄司くんは、日向のことをそういう対象に見ていなくても……日向はどうなの?」


 ――お願い。


「気付いてる? 無意識に栄司くんのこと視線が追っかけてる事」


 ――お願い、だから。


「フードコートで同級生の子たちと話してる栄司君を見た時、

 一瞬、すごく不機嫌そうな顔をしてたこと」


 やめ、て。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「何一人でしょぼくれてんだ?」

「っ」


 あれから一人、姉の手から逃れて行く宛も無くプールサイドを歩いていると突然身体に影が掛かった。思わず振り向いた僕の頬に突き出された指先が軽く刺さり、喉から小さな悲鳴が漏れる。


「大和さんが心配してたぞ?」


 何で栄司(こいつ)は、僕にこんな優しくするんだろう。僕以外にも友達なんていくらでもいるだろうに、何で僕なんかを構うんだろう……って、ダメだ、僕はなぜこんなネガティブになってしまっているんだ。


「まぁ、大和さんも色々悩んでるみたいだからさ、

 あまり傍には居れないからって焦りすぎた……って落ち込んでたぞ?

 ……あんまり責めないでやれよ?」


 その原因が、自分なのを、こいつはほんとに解ってるのだろうか。


「っと、そうだ、ちょっと来い」


 それでもきっと、いつもより反応が鈍い僕に気を使ってくれてるんだろう、突然手を引いて歩き出した。向かう先はこの施設で一番大きいウォータースライダー……僕は身長制限で滑れないのを知っての嫌がらせか?


「小学生の時、ここに来たら真っ先にアレを滑りに行ってたよなぁ、お前」


 今となっては、成長するまで叶わぬ夢になってしまったけれど。昔話を始めた栄司に手を掴まれたまま列に並ぶと、お昼も近いせいか空いている時間だったようであっという間に順番が回ってくる。しかし案の定身長検査用の線に頭頂部が届いていなかった。なんだか無性に悔しくて目元に込みあげて来るものを堪えて背を向ける。


 突然、栄司の手が肩を掴んで押し留める。


「保護者同伴なら大丈夫ですよね?」


「はい……100センチは超えてますね、大丈夫です。気をつけて下さいね」


 僕を押し出すようにそういった栄司に、一瞬横にある検査用の線に視線を向けた係員が笑顔で頷く。肩を押されるように滑り台の入り口まで来ると係員が隣に来て準備をしながら声をかけてくる。


「はい、それじゃお兄さんはしっかりその子の事抱っこして、

 離さないようにしてあげてくださいね、結構スピード出ちゃいますので」


「解りました……っとこら暴れるな、気持ち悪いだろうけど我慢しろって」


 気付いた時にはもう遅い、滑るために腰をつけた栄司の膝の上に座らされてしまった。正直ここまでしてやりたかった訳じゃない、というかこの体勢がすごく恥ずかしい。抱きしめるな、お腹に手を回すな、後頭部や背中が筋肉質な胸板に密着してなんか変な気持ちになる、なんか心音が変になる、やめて!


「それじゃあ、行ってらっしゃい」


「っと、おぉぉ!?」

「~~~~~~!!」


 その言葉で背中を押されたらしい、結局僕を抱きしめたまま出発してしまった。というか久しぶりで忘れて居たけどこれってこんなに速かったっけ!? 体格の違いか誰かに抱かれてるせいか感覚が違いすぎる。カーブする度に股がひゅんっとなる、正直言って結構怖い。亡霊祭りは平気なのに情けないとも思うが、現実で物理的に襲い来る恐怖まではどうしようもない。


「ていうかっ、二人分だからか、速っ、怖っ!?」

「―――――」


 怖いのはこっちのほうだ、ちびったらどうするんだ、責任をとれ馬鹿野郎! 無言の抗議は届くこと無くスリル満点のウォータースライドは数十秒だかで終わりを告げて、突然迫った水面に勢い良く沈む。


 安全のためだろう、準備されていたプールの予想以上の深さに動揺して一瞬泳ぎ方を忘れた僕の手を、栄司が引っ張り上げる。思わず小さな子供のように首筋に抱きつきながら岸まで運んでもらってしまった。


「はぁ、意外とスリルあったなぁこれ」

「…………」


 この野郎とジト目で睨む視界の端で次の挑戦者が立てた水しぶきが目に入る。僕の方を向いた栄司が不敵に笑うと、突然がしがしと頭を撫でてくる。


「……ちょっとは調子が戻ったか?

 捨てられた子犬みたいな顔しやがってからに、心配するっての」


 元気づけるにしても、もう少しやり方ってものがあるだろうに。全く不必要に恥ずかしい思いをしてしまったじゃないか。どうしてくれる……。


「おっと」


 感情に任せて掴みかかろうとしたら簡単に避けられてしまった。挙句の果てにまた頭を撫でられた。おのれ!!


「何やってるの……」


「名里!?」

「!?」


 突然聞こえた声に動揺した栄司の手が頭から離れ、押し返していた僕の身体が支えを失ってバランスを崩し、顔面を栄司の腹筋へと打ち付ける。メイリはそんな様子を見て忌々しげに「妬ましい」と呟いた。


「見てたわよ! サンちゃん……日向ちゃんと仲良くウォータースライダーやるだけでは飽きたらず!

 プールサイドでいちゃつくなんて私に対する挑発? 挑発なの?」


「落ち着け変態、目が怖い!?」


 据わっている眼のメイリが怖くて、栄司の影に隠れながらこっそり逃げようとしたのが悪かったのだろうか、目ざとく僕を捕捉したメイリは腕を引っ掴むとスライダーへ向けて階段を登って行く。


「日向ちゃん、私とも一緒に滑ろうね!」


 一回で十分なんですけどという主張は彼女には通らなかったようだ。震える僕の姿を見て苦笑した係員さんだったが止めることはせず、しっかりと抱え込まれたメイリによって二度目の恐怖を味わうことになった。ある意味栄司以上に背中や後頭部に感じる感触はダイレクトだったのだけど、何故かちっとも変な気分になることはなかった。


 ……これはきっと、あまりにもいつもと同じポジション過ぎて慣れてしまったせいだと思いたい。



まだ水着回は続きます。

スク水日向は絶対に挿絵つけるよ……!

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BLにしちゃうのかなあ? ………って、TSのBL書いてるヒトだった!?
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