同日 PM7:11 警備詰所 中央ホール
「おお、やっときたか。話は連れて来た彼に聞いたよ
なんでも自分より大きな犯人を体術のみで倒したそうだね?
いやはや、ある程度は分かっているつもりだったが、会ってみれば
なんとまあーかわいらしいお嬢さんたちだったもんだ」
詰め所の場所を聞きながら道の途中で感謝されたり何故かサインを頼まれたり
本当に色々ありながらもやっとの思いで着いた俺たちを出迎えたのは
頭が天井につくかどうか、と言うほどの大きさの竜。
その頭には相対的に見て小さすぎる帽子を被っている
「いやいや、俺ともう一人は合っているが一番後ろのはれっきとした男だ
確かになよなよしているしひょろいから分からない事も無いわけじゃないが・・・」
「いや絶対わざとだよな?どう見ても俺は細くないぞ
つかふざけるにしても何でそう本当の事言いました的な目してるんだよ」
「おおう?年かのう?いやはや近頃目が遠くなってきていてな
ま、近頃とは言っても数百年前からじゃが、の」
ほっほっほ。そう笑っているが見ているこっちとしては
大きな身体が揺れる様は圧巻で
出してもいない威圧感がばりばり飛んできているような気がする
そんな事を考えている事も気にせず、竜の話は続く
「おや・・入れ方、もとい使い方が分からないと言う事はもしかして
この都市群に来るのは初めてかね?基本的にこの腕輪
名前は・・・なんだったかの
まーそれは使う分には関係もありゃせんし どれ、もうちと近づいてくれるかな?
使い方をレクチャーしてやろう」
そういいながらこちらの前に出された腕にはやはり腕に着けるのは小さすぎるのか右、三本の指の
真ん中の指に自分達のより年季の入った傷のある腕輪がついている
「まず、腕輪の主な機能からいこうかね
一つ、荷物入れ 二つ、財布 三つ、魔力バッテリーじゃな
一と二は同じようなもんじゃが人用のものだと確か、旅行バッグ2つ程度らしいの
・・・分かると思うがワシのとかは別じゃからな。これだけ体が大きいとそれじゃ入りきらん」
反対の指で腕輪を軽く二回叩くと時計としての文字盤が消え、変わりに体の正面に
(人の)顔と同じくらいの半透明のホログラムのようなウィンドウが起き上がる。
文字は読み取れないがいくつかのメニューが選択できるようになっているようだ
「物を入れるにはまず使おうと意識しながら腕輪を二回叩く
すると"めにゅー"が開くから一番上のアイテムと書かれた枠を指で押す
その後別にもう一つ、体の正面に窓が出るから、出したまま
・・・何と言えばよいかの? まぁー力を込める感じかのう?
そうすれば持っているものがリスト化して枠内に入る。
一度入れたものはリストに書かれた名前を思い浮かべながら
同じように今度は出そうとすれば良い。それだけじゃ」
説明しながら竜は器用にウィンドウを操作していく
そして近くの机の上にあったマグカップを手に取ると軽く力を込める様に
それを持つ指先が微かに揺れる
すると、一瞬にしてマグカップは消えてしまった
代わりに浮いているウィンドウ・リストの一番下に文字列が一個増えている
多分、これがマグカップという事なんだろう
もう一度、軽く振るとさっき消えたマグカップがまた手元に出現していた
それを竜は元の場所に戻して、
「論より証拠と言う様に感覚で出来ると言っても
感覚というのは説明が難しい、だから考えるよりも自分でやってみると良い
そして一度出来れば後は簡単、いつでもどこでも出来るようになるじゃろ」
「ええと、こうだよな?・・・オープン!」
絶対必要も無く関係無さそうな合言葉的なものを言いつつ
見よう見まねで同じように叩き、リストを出す
自分のものは左詰の日本語と右に薄く英語でも書いてある
(アイテムならITEM、設定だとConfigと)
順々に操作してリストまでは出せた。次はアイテムを
入れるだけだ
何か入れる物は・・・と考え、
取り敢えずとズボンのポケットにあった10円玉を取り出す
親指と人差し指で持ち、手に持っているコインが消えるイメージをしてみる
最初は上手くイメージが固まらなかったが考えるより慣れろ。
逆に力を抜いて無心、手に何も持っていないつもりでやってみると
上手くは言えないが、何故だか出来るような気がしてくる
勘に従い、意味も無くそれを上に指で弾き、落ちてくるコインを
途中で逆の手で横振りに手に・・・入らなかった。いや、正確には消えてしまった
代わり、コインはリスト欄に追加されている、成功したらしい
反対に取り出そうと念じると手の中ではなく今度は顔から少し離れた所に出、
コインはそのまま地面に落ちる
一旦全部のウィンドウを終了ボタンで消し
もう一度と、コインを・・・今度は拾おうと手を出した瞬間に消え
消してあるはずのリストを出して確認するとちゃんと入っている
説明と違うような気もするがとりあえずこの方法でしまえるのだから良いか?
何が良かったのか分からないが何となく大体"感覚"が掴めた様な気がした
もしかしたらこの腕輪は不良品なのかもしれない可能性もあるが壊れたりするもんで無いなら
別に良い。
自分のばかり気をとられて、桜と伊坂の二人を完全に忘れていたが
既に出し入れをコンプリートしたようだ
伊坂は最初の店で買ったらしい物の入っている紙袋を早速突っ込んでいる。
(という事は俺が最後に出来たってことかよ。街に来た時の順応速度と言い
女勢ってそういうものに慣れるのが早いもんなのかね?)
「こいつは良いな、デスクトップパソコンが持ち運べるようになるってんのは
楽だぜ まー代わりに外付けバッテリーかなんかが必要だけど。
・・・なあなあ、帰りにまた店に寄ってもいいか?もしかしたら使えそうなものが
他にもありそうだし」
「別にいいが、もうそろそろ日が暮れるぞ。真っ暗の中一人で帰ることになっても
いいのなら止めないが」
「私はそんなに力が無いからこういうのは本当に助かる。
そうだ、さっき会った犬っぽいのをこれに入れて持ち帰――」
「馬鹿言うな、あの二足歩行の犬・・・っぽかった何かを
勝手に持ち帰る権利はどこにも無いぞ?それと、
俺に対して放ったパンチといい、ほぼ確実に俺なんかより筋力あるだろ」
あんな良く分からない生き物を持ち帰られたら親がどんな顔すると思っているんだ
それは全力で止めるとして
――何で俺だけアイテムのしまえ方が違うのだろうか
その理由を竜に尋ねると答えはすぐに出てきた
「それはじゃな、言っていなかったが実は道具の収納には記述魔法を使っているんじゃよ
出す方法は他にもあって回りくどくしようが、やり方さえ合っていれば出る。
そして使い方、考え方によって幾重にも効果なんて変わる」
なにを言っているんだ?まさかあまりにも歳をとりすぎて脳まで乾燥しきったのか?
聞かれたら一瞬で消されそうな事を考えたが聞こえるはずも無く
今度は"魔法"について説明し始めた
「三人とも分からないか、・・・一般に魔法なんていうのは無意識下で作り出される
空想の"当たり前"を外の世界へ取り出す、ある種の妄想みたいなものじゃ
違いは現実に作用するかしないか、たったそれだけの差しかない」
「え?だからと言ってもまだ実際に魔法を見たことも聞いたことも無い私たちが
そんなに簡単に使えるようになるものですか?」
「自分でやっているのに気づかなかったのかい?
簡単に言えば"出そう"という思考を腕輪が読み取って対応する
記述魔法を再現しとるだけよ。
そっちの女おと・・のは、別で創造魔法を使って収納していたがな
多分、そっちの二人の収納の仕方が似通っているのは先に成功した方を見て
出すために必要な魔術系統を認識した結果じゃろう」
絶対に女男とでも言おうとしたんだろ
だがそれを言って説明が聞けなかったり変に刺激して消し炭にされるのは勘弁願いたい
色々飲み込んでおとなしく話を聞く。
「うーむ、説明が難しいのじゃが、あの腕輪は稼動させる為のオカルト的、非科学的な
要素が入っているから魔法や魔術の媒体に近い。更に魔法的なアイテムと言うだけで
ある程度 "魔法などありえない" 、という概念を中和する働きもあるから
"魔法が存在すると言う大前提を部分的にこちら側に引き寄せる"
という感じか・・・普通なら科学と非科学と言う概念は対極をなしているのだがね
そして境界線が曖昧、限りなく0に近づく事で科学概念の影響下でも使えるようになるわけじゃが
そもそも魔法と言うカテゴリーの中でもイメージを魔力で補強し実際に取り出すのが魔術と言うので
あって使い慣れた武器ならその性能を超えて力が出せるのと同じようなもの、そして広義的に魔法と
言うものには他にも様々な種類、系統があり大だっぱに分けると
魔方陣や詠唱、触媒を必要とする昔ながらの無印の魔術、イメージを力にする創造魔術、
詠唱等の手順を腕輪に覚えさせて言葉や思考一つで代理演算させて行使する
記述魔法と更に―――・・・」
「ああ もう良い、簡単に言うと腕輪ってのは魔法、今やっているのだと魔術――とやらを
使えやすくするブースター、或いは補助具ってことだろ?」
なにやら段々離れていく上に話が長くなりそうだったので適当なところでこっちから区切る
竜はちょっと不満そうだったが、自分でも3人が面倒そうな顔しているのが分かったのか話を止め
纏めると首をすくめて、そうじゃな。と言った
「だからと言って簡単なものじゃったらやり方さえ覚えれば
"ここなら"大体の人が腕輪無しでも使えるが、危険度Bマイナス以上の
魔法になると補助なしで行使できるのはかなり限られる
――ワシが若い頃は魔法を使える者が少なかったが一人一人がかなりの腕じゃった
逆に、今ではちょっとしたものなら誰でも使えるが腕の立つものが減った。そう考えると
腕輪は実際ははたして良い物じゃったのか?たまにそう考える時があるよ」
最後に代わりと言ったら増えた分、全体的に戦闘で死ぬ者が少なくなったがと、付け加えた
腕輪に竜には思うところがあるようだ
「死ににくくなった分全体の生存率が上がったっていうのは言う事じゃない
代わりにその一握りの凄腕が他の分まで頑張れば良い
いや、寧ろ私たちが頑張りますよ!」
「いやそんな簡単に習得出来るもんでも『わかった、俺たちは魔術マスターになる!』だからなんで
俺が言いきる前に勝手に決めるんですかね。分かるか? どう考えても1日2日で
『おお、頑張ってもらうとしよう』ってあんたもかよ!?」
二人は何に感動したんだか大声でよし、ならば魔術マスターだ的なことを言い、
伊坂はペケモンのペケモンリーグを制覇するぜと意気込む少年みたいなこと言うし
それをう飲みにする竜もいて、何ともいえないカオス空間となっていた