同日 "晴れ" PM6:48 第2231都市 広場端
一瞬の浮遊感はあったが、今足を付いているのはちゃんとした地面だ
―――プラスチックの様なのっぺりとした床を地面と言っても良いのならばだが
そして今いる場所が若干広場のようになっていて横に右と左に一本ずつ大きな道があり
更にそれを縫うようにして細い横道が奔っている
これだけならば映画の撮影にでも迷い込んだのかと思うが自分の知っている現実とかけ離れたものも
混ざっていて
例えば、上を見れば曇りの無い青空だが雲の代わりに所々穴が開いたような黒い場所があったり
他にも遠くに見えるのはロンドンの時計塔っぽいもので上には・・・・ドラゴン?
今まさに自分の感じているのはジェネレーションギャップとでも言うのだろうか
もしくはディメンション・ギャップか
「これは異世界、としか言いようが無い・・・が普通に街だし安全の様だし、あいつらを呼んでくる――」
か、という前にほぼ同時に二人がむこうからジャンプで飛び込んで来る
二人はきょろきょろと辺りを見回し、この別の世界とも言えるくらいぶっ飛んだ街並みを端から見ていく
暫くして
一通り見て安全を確認したのか二人は好奇心に任せてバラバラに行動し始めた
(とは言っても、見える範囲でだが)
というか伊坂なんてもう機械か何かのパーツを売っている店にダッシュで直行しているし
何でそこまで適応能力が高いんだ・・・?
――俺だって昔にあんな体験してなけりゃ直ぐにでも逃げ出してただろうし...な
そんな俺の思いを知らずに二人はマイロードをひた走る
「何だこいつは・・・サイバータロン社の256コア 57.6GhzCPU!?何に使うんだよ
しかもこれで手のひらサイズとか...おい、おっちゃんこれ値段は?」
「犬が二本足で歩く上に人語を話したり、人型ロボットみたいなものも歩いてるし
・・・ファンタジーねー、うりうり」
慣れたんだか、桜はその辺にいた犬(のような二足歩行の何か別の生き物)
とじゃれ始めた
その辺りから『あんまし触るな、倒れる倒れる』とか聞こえたが聞かなかったことにする
・・・よく出来た犬だな
サクラと伊坂は放っておいても何処かにいなくならなそうだし、自分も近場を見てくるか
「俺としては二人とも入ろうとしてる時は押し付けてたくせに、いざ入ってみると
"ふーんこんなんだったの?"で済ませられる方がファンタジーだよ・・・
俺の勇気とか色々返せよ」
俺の独り言に返事は返ってくるはずも無く、声は虚空に消えていく
まぁ、二人が重荷にならなくてラッキーぐらいに考える事にするか
期待しようが人生なんてそんなもんさ、"なるようにしかならない"。
というわけで放置しつつ、この不思議な街を見歩いてみる
歩いてみると結構面白い、少し先の別の広場では人と同じくらいの小さなドラゴンと一緒に
大道芸人らしきケットシーのような生き物が口から炎を吐いている・・・仕掛けも無しで
足元を小さな子供達が走っていくと思えばそのまま空に浮き上がり、今度は
屋根の上で追いかけっこを始めたり。
言葉だけ聞くならばそうでもないが実際に見てみると、慣れたつもりでも一瞬ビックリする
地面はアルミの様な軽い金属のようだがよく見てみると、かすかに向こう側が透けている
透けた地面の向こう側には今度こそちゃんとした地面のようなものがずっと下に見える
「ジェフも言っていたが、『あの光は異世界への扉で、空間の繋ぎ目』とかなんとか
地球の空にこんな変態みたいにデカイものが浮いてたらとっくに
テレビに出ているだろうし本当に異世界って事で良いんだろう、そうじゃなきゃよく出来た夢だ」
そんな事を考えていたらいつの間にか遠くまで行ってしまったらしい、最初の所がかなり遠くに見える
時計を見ると街に来てからゆうに1時間は過ぎている。つまり1時間放置しっぱなしと言う事だ
「いけねぇ、俺が一人で何処かに行ったとなればどやされるだろうし
気が付いていないと良いんだが」
道の端を小走りに駆ける。道中、通行人(人?)にぶつかって謝ったりとかしながら
目的の場所(最初の広場)に辿り着く。
広場の先のもう一つの道の方がいくらか騒がしい、喧嘩だかのようだ
「あっちが何か騒がしいけど、何かあるのか?」
一度固まっていた二人の所に着いた後、そのまま騒がしい方に歩きながら話す
「やっと戻ってきたか。かれこれ3分前ぐらいからこんな感じになってんだが
経緯は知らんが、何か昼間から酔っ払ったサラマンダーみたいな奴があちこちぶっ壊して回ってる」
「殆ど要点は伊坂が説明しちゃったけど、周りの話を聞いた感じ
この場所は街の端っこの方なのと通りに人が集中する時間帯なんで
ここの街の警備の人が人ごみに引っかかって中々来れないらしいんだって。」
こっちで話している間にもサラマンダー(仮)の破壊活動はエスカレートしているらしい
あちこちで『まだ警備の奴等は来ないのか!』『誰か止められる奴はいないか?』
『出来てたらとっくに収まっているよ!』etc、etc…
取り敢えず、このままだと人身事件にまで発展しそうだ
奴は二足歩行で身長も人程度それとパンチが壁にヒビを入れる位
だが、パワー勝負じゃなければギリギリ対処できるか…?
「・・・伊坂、やるぞ」
「マジかよ?なら、俺は正面以外な」
阿吽の呼吸じゃないが、俺が言おうと動き出した時には既に騒動の際に崩れたのだろう拳大の石を
いくつか拾っている。そして話し合わせたように野次馬に隠れて俺は暴れている奴の左に、伊坂は右に。 俺、奴、伊坂の順に線を引くと二等辺三角形の形に立ち位置を定める
「注意を引くのに最初に一発投げる、その後は動きに合わせて投げてくれ
間違っても俺に当てるなよ」
「俺がそんなヘマする訳ないだろ? 三、で投げるからな一・・二・・」
伊坂が三と言って石を投げ、そして少し遅れて俺が野次馬の群れから飛び出す
手が届くまで大股で7歩程度、3歩目で放射線を描いて飛んでいた石がサラマンダーの頭に当たる
奴が反射的に伊坂の方を向いた、作戦通り、更に2歩進む
もう1歩進んだ時やっとこっちに気づいた、さっきの石はフェイクだと分かったかも知れないが遅い
最後の1歩、完全に懐に入った俺は一発だけ殴って離れる
一撃で落ちる訳は無いのだから回数を当てるしかないので最初の一発は伊坂から
注意を逸らす為だけの物だ
ここからは俺の集中力が切れるてやられるかこいつが地面に膝を付くかの勝負だ
二手目、今度は向こうからパンチが飛ぶ。そうして繰り出される腕の下を潜る様に再度接近し、
カウンター気味に顎に向けてアッパー。
当たった際に微かに胴体が揺れるが、まだまだこれからだ
下がるタイミングでまた石が飛んでくる ちゃんと俺のタイミングを汲んでいるようだ
三手目はこちらから仕掛ける、一旦横をすれ違いざまに右足の指を踏んでから
回り込み、一度蹴りを入れてまた下がる
蹴り、こぶし、こぶし…蹴り。所々後方から飛んでくる石で奴の気を散らしつつ
向こうの繰り出す攻撃をギリギリでその攻撃を避けながら少しずつカウンターで削っていく事十数手。
それを何度も繰り返し、疲れか生まれた一瞬の攻防の延滞の後、痺れを切らしたのか今度は当たれば
肋骨が全部折れるような蹴り。しかも先までの手のどれよりも早くこちらの胴の中心を狙うように出される
『丁度、こっちも終わらせたいと思っていたところだ』
不敵な笑みと共にそう言いきった俺は
そいつを俺は反射的にジャンプしてそのままその足の脛に乗り再度ジャンプ。
そしてジャンプした勢いのまま相手が人間ならば下手をすると頚椎が折れる位の勢いで頭の頂点に
踵をを思い切り入れる
流石に今度のは堪えるらしい。さっきよりも大きなぐらつきの後、地面に倒れ伏した
そんな奴の上に両足をそろえて着地し、手を叩きながらその背から降りる
この場を収めた英雄に周りの人がおお、と盛大な拍手をする中、少し含みを持たせつつ
俺は高らかに勝利宣言を・・・
「ここは俺のシマだ!悪さする輩はどんな奴だろうが容赦しね――」
「馬鹿言ってんじゃない、殴るわよ?(ズン)」
「ぐふぅっ・・殴ってから・・・言うなよ」
背後から近づいていた桜に思いっきり殴られ、30秒ほど地面をのた打ち回る。
落ち着いてから立ち上がり、女のクセしてどんな馬鹿力だ、絶対俺よりあるだろ…と考えたら
また肘を入れられた。二回目は理不尽すぎる・・・本当の事じゃないか
(俺は悪い事は別に何もしていな・・・くも無い、最後のはちょっとは悪ふざけが過ぎたかもしれない)
流石に本気でそう言ったわけじゃないのとそれに、結果として暴走が止まった事だし
ここでちょっと位ふざけても実際に言葉通りの意味でとられる訳はないだろう
・・・そもそも女に鳩尾殴られる人物が街を掌握できるとでも?
とまぁ、やはり嘘だと分かっているのか特に街の人達の敵対値も上がらず
二人でコントの様な事をしているうち、いつの間にやら到着していた警備員
(今度は豹みたいな顔の人だ)は素早く...とは言っても、もう気絶しているようだが、
暴れていた奴を拘束しどこかへ連れて行った。そして去り際に
「ありがとう、どうやって止めたんだい?」
「素手、ですけどそれが何か?」
「え・・・自分らでも3人はいないと止められないようなのを素手で?
はっはっは、本当かどうかはさておき、君は面白い事言うねぇ そうだ、お礼とか
色々あるから後で警備詰め所に来てもらえるかな?すぐ済むから」
「分かりました詰め所、ですね」
「最近の人間って、下手すると自分達みたいのよりずっと、強いのかもしれないねぇー
今度警備隊に入って・・・と言うのは冗談だけど、また何かあったらよろしくねー」
ちょっとした世間話のようなことを言い合って、警備の人は去っていった
話を聞いていた二人も
「確かに、あれは見ないと信じられないでしょうね見ているこっちはヒヤヒヤしたけど
っていうか普通あんなのとやり合おうって考える頭なんてどこにあるの?」
「ヒヤヒヤと言うより、いつ攻撃が当たるかワクワクして見てたのによ
まるで隣の奴が大穴当てたみてぇだ。まー馬券もパンチも当たってないけどな
・・・あー損した」
「俺があんな攻撃で落ちるわけがないだろう、イラクでやりあった時の方が――じゃない。
今さっき『損した』って言ってたが・・例えといいさては伊坂、賭けてたな?」
「さ、サアナー?いったいぜんたい何の事でしょう?」
「うわ絶対賭けてただろ!しかも、俺の負ける方に!
だから、ちょっと待ってろ・・・でっけぇお灸をすえてやるから」
「サっちゃん!助けてくれー!コロサレルー」
「誰がサっちゃんかっ、・・・ってだから足にしがみ付くな!
ス、スカートが捲くれるじゃない!」
一度は収まった雰囲気はどこへやら、また騒ぎ出した3人を
観客たちは温かい目で見ていたのだった・・・