vs. 百戦錬磨の女帝(前篇) ~Game Start!!~
今回はひたすら面白さを追求して書きました。
新キャラが加わり、ますますにぎやかになった彼女たちの物語をどうぞお楽しみください。
「さあ、さあ、皆さんお待ちかね! ついにやってまいりましたガチンコ対決! 勝利を手にするのは果たしてどちらか!? 本日は見どころ満載の大規模バトルのご様子を、わたくし───放送部部長、千利清永が、実況と解説を交えながら皆さまにお届けしたいと思います。なお、この番組はロリコン同好会『みんなで希ちゃんを守ろう』・オタク文化研究部『オタクの嗜みEX』、そしてゲーム研究部『神ゲーと紙ゲーの違いは何なのか』の提供でお送りします」
「放送席」と書かれている用紙が貼ってある椅子に座って、清永先輩がマイクを握りしめて声を限りに叫んでいる。その様子は実況者というより、どちらかと言うと、カラオケボックスにでもいそうな現代っ子だ(興奮しつつも、視線はしっかりカメラ目線をキープしているところはさすがだけどね)
さて、唐突に物語が始まって戸惑っている人もいるでしょうから、少し私からも状況を説明するわね。
まず、この場所は、昨日の昼休みに廣野先輩から指定された視聴覚室。時間は昼放課。
私と廣野先輩は、希ちゃんを巡って激しい戦をすることになった(詳しい経緯は、前話『Are you ready?』を読んでね)
さて、この戦い。ほんとは私と廣野先輩の二人だけで密かに雌雄を決するはずだったんだけど、我がクラスメイトたちの介入により、観客が大勢集まることになった。
「真奈美ぃぃいいい!! 絶対負けんじゃねぇぞ! お前も希ちゃんのことを想っているなら、やるときくらい根性見せてみろぉお!」
最前列でロリコン同好会の会長、柴田君が両手でメガホンを作って吠えている。その凄まじいハイパーボイスに、彼の周りに座っていた人たちが、びくっとして柴田君から離れた。
彼の服装が、いつも部室で着ている特攻服ではなく、征服姿(あ、誤字変換されちゃった。正しくは制服姿ね。でも、あながち間違いじゃない気もするけど)なのは、せめてもの救いだろう。じゃなかったら、柴田君はとっくに生徒会役員(暗号名、サツ)に強制連行されていたはずだ。まったく、恥ずかしいったらありゃしない。
ロリコン同好会の皆さんからやや離れた所に、参道君や穂村さん、絵桐さんたちがいた。
その顔に縦線が何本も入っていることから推測すると、きっと誰かに脅されて連れてこられたのでしょうね……。可愛そうに……。
で、我がクラスメイトはと言うと、ギャラリー席の間をメイド服姿で行ったり来たりして、集まってくれた人たちに飲み物や菓子パンを配っている(ちなみに、これらの飲食物は購買でまとめて買ってきたものね。確か二十個以上買うと、少しだけ値段が安くなるのよ)
以前の文化祭において、男子がメイド服姿で飲み物を販売したら、売上がまったく伸びず、大赤字になった前科がある。今回はその反省点を生かし、メイド役に可愛い女の子を選んでいるが、見た感じ売上は順調のようだ(ほんと、どいつもこいつも欲望に忠実よね)
さて、ギャラリー席の様子はそれくらいにして、物語を進めましょうか。
「さて、今回は非常に強力なゲストにもお越しいただいております! オタク文化研究部部長、水野白夜さん。そして、ゲーム研究部部長、柳菜美里さんです! 皆さん、盛大な拍手でお迎えください!」
パチパチパチパチ!
途端に巻き起こる拍手と歓声の嵐。なぜか、クラッカーの破裂音まで聞こえる。
……これ、本当にバトルなのかしら?
バラエティ番組なみの、派手なエフェクトと効果音が撒き散らされる中、紹介された二人が視聴覚室に入って来た。
一人は、背が高く、学ランを肩にかけた男の人。二丁の拳銃(まさか、本物じゃないでしょうね)を指でくるくる回しながら、時折カメラに向けてポーズを取っている。一目で「ああ、この人とはお近づきになりたくないな」と分かるほど、濃いオーラを放出している人も珍しいんじゃないかしら。
で、もう一人は、やや赤みがかった髪を肩のあたりで切り揃えた女の子。自信に満ちた顔つきと、強い意志が感じられる瞳。ボーイッシュとまではいかないけど、活発的というか、エネルギッシュな雰囲気を纏った不思議な少女だ。
二人が放送席の隣に設けられた席に座ったのを確認して、清永先輩は続ける。
「続きまして、選手の紹介に移りたいと思います! まずはライトコーナーから。我ら二年生の間でも知らぬ者はいない、ご存じ、百戦錬磨の女帝!───廣野姫幸!」
途端に、ぱっとギャラリーが二手に分かれて廣野先輩のための道を作る。
その間を、毅然たる表情で堂々と進む廣野先輩。あの柴田君さえも威圧で黙らせるとはさすがだ。
「悠然と白衣を翻して、静かに登場しました。当局が調べたところによりますと、姫幸選手は中学時代、数々のトラブルを腕尽くで解決していたことから“火喰い栗鼠”と呼ばr……」
清永先輩の解説が途中で途絶えた。
廣野先輩が風のように動き、彼の喉元にツッとカッターの刃を当てたからだ。
「次、その名で呼んだらどうなるか……分かるわよね?」
コロコロと鈴が鳴るような愛らしい声が、視聴覚室を支配する。でも、その目は笑っていない。
清永先輩が、がくがくと頷いたのを見て、廣野先輩はカッターをしまった。
「どうぞ、続けてちょうだい」
先ほどとは打って変わって、ニコッ、と可愛らしく微笑む廣野先輩。相変わらず恐ろしい人だ……。
「で、では続いてレフトコーナー! 見目麗しいお嬢様、期待の一年生アイドル!───佐倉真奈美!」
私が進み出ると、観客から歓声が上がった。
「おい。あの子、すごい美人じゃないか?」
「ほんと~。あの姫幸に喧嘩売ったって言うから、どんな子かと思ったけど」
「気の強いお嬢様ってことか? なら、俺の守備範囲だな」
「でも、噂では“内面的に少し問題がある”とかなんとか聞いたけど……」
「問題って、どんな?」
「さあ……」
それらの会話が耳を掠める度に、私が内心冷や汗を垂らしたのは言うまでも無いだろう。
───どうか、ロリコンだってことが一般生徒にバレませんように!
というか、別に私は見目麗しいお嬢様でもなければ、期待の一年生アイドルでもないんだけどね……。
私は廣野先輩と握手する。
「お互い、全力で勝負しましょう。真奈美さん」
「ええ、望むところです。それで早速ですが、第一のゲームとは何なのですか?」
「さあ。私も知らないわよ」
「え? だって、廣野先輩が種目を決めるのではなかったのですか?」
「それだと不公平じゃない。種目の選択権がすべて私にあったら、私の得意分野ばかりで勝負を行うことだってできてしまう。私はね、昨日の貴女の決意に感服して、この決闘をできる限りフェアに行うことを決めたの」
「ということは、種目の選択権は───」
「第一ゲームは、柳菜美里さん。第二ゲームは水野白夜さん。最終ゲームは、他ならぬ、あの小娘に与えてあるわ」
そう言って、廣野先輩は微笑んだ。
その可愛らしい笑顔には、黒さの欠片も感じられない。
「ありがとうございます! 廣野先輩はやっぱり優しい方だったんですね!」
「ふ、ふん。貴女にお礼を言われる筋合いはないわ。い、言っておくけど、どんな種目になっても私は手加減しないから、貴女もせいぜい頑張ることね」
赤面を見られないように、ぷいっとそっぽを向く廣野先輩。
その、らしくない様子にギャラリーから驚きの声が上がった。
「ば、馬鹿な!? あの姫幸がデレただと!?」
「あり得ねえ! ゴジラの化石が発見されたってくらいあり得ねえ!」
「なんだ、あの破滅的な可愛さは……っ! これが、“ギャップ萌え”というやつなのか……」
「そうだ兄弟。前から言ってただろ? 姫幸はツンデレだと」
「奇遇だな、俺もそう信じていたよ。どうやら、お前とは美味い酒が飲めそうだ」
「いや、酒はマズイだろ」
と、その時。
「解説席」に座っていた白夜先輩が“片手をついて長テーブルを飛び越える”という無駄なアクションを決めると、廣野先輩の前に跪いてその手を取った。
「マドモアゼル。僕は貴女のような人をずっと探していた。魔界よりこの地に召喚されて幾星霜……我がパートナーに相応しい女性を探し求めていたが、刻ばかりが無駄に過ぎて行く日々だった……。しかし、ついに君に巡り会えた! 闇の勢力に対抗できるだけの力を持った君に!」
「………………」
目の前で、痛々しいほど厨二くさい設定をばら蒔く白夜先輩に、私たちは何も言えない。
この人、頭大丈夫なんだろうか……。
「フッ、緊張のあまり言葉が出ないのか。やれやれ、恥ずかしがり屋さんだなあ」
恥ずかしいのは白夜先輩だ。
誰か、病院に連れて行ってあげたほうがいいんじゃないだろうか。
廣野先輩は何も言わない。けど、その頭の中で、様々な薬品や針などが出番を今か今かと待ち望んでいるのが、透視能力がない私でも見て取れた。
あーあ、どうなっても知~らない。
自分の世界に浸りきっている白夜先輩は、廣野先輩が爆発一歩寸前まで怒っているのに気付かず、さらに続ける。
「照れ屋なお嬢さん。どうか、僕と一緒に魔界に来てくれないk……」
白夜先輩は最後まで言い終えることができなかった。その顔面に、廣野先輩の渾身の右拳が叩きこまれたからだ。
ぶち抜くような快感なヒット音と共に、盛大に吹っ飛ぶ白夜先輩。
私たちは廣野先輩に拍手した。
しかし、鼻血を垂らしながらも「ありがとうございます!」と頭を下げる白夜先輩は、どうやらM属性も備えているようだ。まったく、どうしようもないわね!
「さあ、盛り上がってきたところで、次のゲストを紹介いたしましょう! 今回のキーパーソンとも言える人物……そう、この決闘の原因ともなった少女、朧月希さんです!」
さらにテンションを一オクターブほど上げて、実況する清永先輩。
さっきからずっと叫びっぱなしだけど、喉枯れたりしないのかな?
「お、ついに噂の転校生のお出ましか」
「あたしもまだ見たことないんだよねー。どんな子なんだろう」
「ロリコン同好会メンバーがあれほど狂喜乱舞しているところを見ると、おそらくロリっ娘なんだろ」
「うぉぉぉおおおおお!! 希ちゃぁぁぁあああああん!!」
野太い雄叫びを上げたメンバーが、生徒会役員(通称、サツ)にやんわり連行される。
「なぜだ!? 理由を説明しろぉお!」
「お前らみたいなのがいるから、ロリの良さが伝わらないんだ!」
「そうだ、そうだ! ロリは日本の宝なんだぞぉおお!」
ドップラー効果を残しながら、強制送還されるロリコン会員たち。観客の誰一人として、彼らに同情の目を向ける者はいない。
「会長……っ! 後は頼みます!」
「任せろ。お前らの意志、この柴田陽炎がしかと引き継いだ」
ロリコン同好会による茶番劇が終了したところで、扉の向こうから希ちゃんの声が聞こえてきた。
「ねえ、穂花ちゃん。やっぱり止めよう。この格好、恥ずかしいよ……」
「そんなことないって! 真奈美じゃないけど、今の希ちゃん、とっても可愛いよ!」
「で、でも……」
「いいから。ほら、入った、入った。もう呼び出しかかっちゃったからね、覚悟決める!」
「うわっ、押さないで!」
がらっと扉を開けて、希ちゃんと穂花が入ってきた。
その姿を見た瞬間、私は思いっきり鼻血を噴出して、その場に倒れた。
「わああああああ、真奈美ちゃんが!」
「おおっと、真奈美選手、いきなり鼻血を出して倒れました! 一体どうしたというのでしょうか!?」
突然の出来事にざわつくギャラリーたちの間をすり抜けて、希ちゃんと柴田君が駆け寄ってくる。
「真奈美……。今のお前、最高に幸せそうな表情してるぜ……」
柴田君は私の顔を覗き込んで、ため息交じりに呟いた。
「の、希ちゃんのメイド姿……」
そう。夢にまで見た、私の理想郷。
濃紺のワンピースと、フリルのついた白いエプロンを組み合わせたエプロンドレスに、同じくフリルのついたカチューシャ。
それらを完璧に着こなしているだけでも充分な破壊力があるというのに、さらに追い打ちをかける兵器が希ちゃんの小さな頭の上にちょこんとついている。
「猫耳メイド……だと……!?」
「隊長。俺は……俺は、いまの自分の気持ちを表現できるだけの言葉を持っていないのが悔やまれます……っ!」
「きゃ~!! なに、あの子、すっごく可愛い~!」
「我が人生に、一片の悔い、なし……」
ギャラリーの熱気が爆発的に高まった。冬真っただ中だというのに、この教室だけ真夏のように暑苦しい。
とりあえず、希ちゃんから受け取ったティッシュを鼻に詰め、私は彼女にお願いした。
「希ちゃん。こ、こんなこと頼むのもあれなんだけど……『お帰りなさいませ、ご主人様☆』って言ってください!」
「ええぇぇぇえぇぇぇえええ!?」
「真奈美!? 目をしっかり覚ませ、この変態が!」
柴田君に肩を揺さぶられ、私はようやく我に返る。
え、えっと……私、今なんて言ったんだっけ?
必死に自分の発言を記憶から消去しようと試みるも、時すでに遅し。
「おい、聞いたか、いまの?」
「ああ、確かに俺のログに残されているな」
「なるほど。“内面的な問題”とは、このことだったのか」
「気の強いお嬢様かと思ったら、立派な業界人でもあったか。だが、それでもまだ俺の守備範囲だな」
ギャラリーの視線の色が変わったのに気付いた私は、両手をぶんぶん振って必死に否定する。
「ち、違うの……。こ、これは、えっと、その、わ、私の父の遺言で……」
しかし、観客の「うんうん、無理しなくていいんだよ」という生暖かい視線は変わらない。
あ、う……やってしまった……。
公開処刑にも似た絶望を味わっている私に、やや空気化していた廣野先輩までもが追い打ちをかけてくる。
「あら、真奈美さん。貴女、そんな趣味をお持ちだったの。知らなかったわ」
その背後に、どす黒いオーラが、ゆらゆらと立ち昇っている。
白夜先輩も得心がいったように、
「なるほど。さっき、ハニーが鼻血を出して倒れた理由が分かったよ。とどのつまり、君はロリk……」
「いぃぃぃいいやぁぁぁぁああああ!!!!」
私は神速で白夜先輩に駆け寄ると、そのまま“全体重を右拳に預ける”気持ちで、ぶち抜くようなアッパーカットを放った。
本日二度目の強烈な攻撃により、ついにHPが尽きた白夜先輩は、そのまま生徒会役員の手によって保健室へと運ばれた(だんだんこの教室がサバイバル化してきたような気がするけど、気のせいよね、きっと)
そんなこんなで色々あったけど、清永先輩は即座に気持ちを切り替えて実況モードに戻る。さすが、放送部部長は違うわね。
「えー、皆さまにはお見苦しい場面を多々お見せしてしまったことを、深くお詫び申し上げます。今後、当局ではこのような事態が起こらないよう、より一層警備を強化して対応に当たりたいと思います。───さて、では本日のメインイベント! 廣野姫幸選手 vs. 佐倉真奈美選手のガチンコ対決に参りましょう! それでは、柳菜美里さん、第一ゲームのルール説明をお願いします」
美里先輩は、きびきびとした動作で立ち上がると、
「既望、蒼人! 部室にあるノートパソコンを二台持ってきなさい!」
超命令口調で、二人の男子生徒に指令を下した。
後で分かったことなんだけど、既望先輩と蒼人先輩もゲーム研究部に所属していて、二人とも部室ではそれなりの発言力を持ち合せているらしいのだが、美里先輩には逆らえないという。
まったく、どうしてこう、どこの部活も女子が権力を握っているのかしらね。『女子生徒優先の法則』は都市伝説だと思っていたけど、一部の地域では案外まだ根付いているのかもしれない。
でも、ノートパソコンで一体どんな勝負をするというのだろう……?
あれこれと考えを巡らせていると、美里先輩が運ばれてきたパソコンを起動させ、デスクトップ上に表示されたアイコンの中の一つをダブルクリックした。
小型ウインドウが開き、ゲームタイトルとメニューが表示される。バックに流れている音楽は、一昔前の家庭用ゲームを思わせるようなチープな音源だけど、軽快なメロディはプレイヤーの気持ちを引き立てるのに充分だ。
「これは、私たちゲーム研究部が昨日完成させた新作STGよ。シューティングには色々なタイプのものがあるけど、これは俗に“弾幕系”と呼ばれるものね。あなたたち二人には、このゲームのテストプレイも兼ねて、最も難易度の高いステージをクリアしてもらうわ。初期残機は3で固定。途中、いくつかエクステンド(残機アップ)ポイントがあるけど、弾消しとボムも効率良く使っていかないと、クリアは難しいわ。もちろん、残機をすべて失ってゲームオーバーになったら、その時点で負け。二人ともクリアできた場合は、スコアの高いほうを勝者とします」
弾幕シューティング。
数あるSTGの中でも、膨大な敵弾から構成された「弾幕」を避けることを、ゲームのテーマに据えたシューティングゲームのことだ。
画面を覆い尽くすほどの弾幕を回避しやすいように、自機の当たり判定が異常に小さく設定されていることも大きな特徴の一つとなっている(素人には被弾したように見えても、実際には当たっていないことが多いのは、このせいね)
で、ここが一番重要なんだけど、”敵弾はランダムに発射されているのではなく、ある程度の規則性を持っている”ということ。
パソコンゲームである以上、敵の出現タイミング、弾の初速度、発射間隔、発射数、角速度、振幅、周期などのパラメータは、すべてプログラムで書かれている。その法則さえ見破れれば、回避不可能に思える弾幕だって、さらっと抜けれてしまうこともある。
各弾幕の攻略法も、今では専門のWikiを見れば、画像付きの詳しい解説と共に書かれている時代だ。
“ただ回避する”だけなら、初心者でも少し練習すればできるようになる。
では、初心者と上級者の違いとはなんなのか?(少し謎解き口調になってしまうのは、私の癖だから気にしないでね)
それはずばり、上級者は各々の“パターンを作っている”こと。
例えば、ステージ開始時は画面右上に待機、敵が出てきたら速攻で撃破して、そのまま自機狙い弾をチョン避けしつつ、画面左下に移動……という具合だ(「日本語でおk」というツッコミは受け付けません。あしからず)
本当に上手い人は、ドット単位でパターンを作っているというのだから、シューティングの奥深さが分かるでしょう。
で、これだけどね。裏を返せば、“上級者でもパターン化できていないうちは、下手なの”。
何回も何回も同じステージを繰り返しプレイすることで、徐々に体が慣れてくる、という感じかな。
だから、お互いに“初見勝負”という意味なら、私でも廣野先輩に勝てる余地は充分にある。
「そうそう。本試合の前に、一度だけシナリオをプレイさせてあげます。その一回のプレイで、ご自分のパターンをお作りください。序盤でゲームオーバーになってしまったら、後半は実質初見プレイとなってしまいますので、残機には充分ご注意を。では、両者ともスタンバイしてください」
美里先輩に促され、私たちはそれぞれのパソコンの前に座る。
コントローラーがないところを見ると、どうやらキーボードで操作するみたいだ。
「Zキーでショット、Shiftキーで低速移動、Xキーでボム、各十字キーでキャラの操作となっています。道中のアイテムは、Pがパワー、点が得点、Bがボム、1upがエクステンドアイテムです。───それでは、テストプレイスタート!」
ステージの開始と同時に、超高密度の弾幕の嵐が降り注ぐ。
美里先輩が言ったように、これは確かに難しい……。この一回で、しっかり敵の出現位置と弾幕の性質を把握してパターン化しないと、相当厳しい戦いを強いられるだろう。
私は気合を入れ直して、画面上に素早く視線を走らせる。
「……一体、なにが起きているんだ……」
「見ろ、弾幕がゴミのようだ」
「これが、通称“俺が安地(安全地帯の略)だ!”というやつか……」
「あれはきっと、弾のほうが避けてくれているんだよ! そうに違いない!」
「弾幕仕事しろ」
「いや、むしろ当たり判定が仕事しろ」
「避ける場所がおかしいだろ……」
「一方的にやられるボスが可哀想に思えてきた……」
「人間止めましたシリーズだな」
「なんだ、ただのNew-Typeか」
ギャラリーから様々な感想が呟かれているが、要するに一言でまとめると、
『あんな弾幕を避けられるお前らは変態だ!!』
と言いたいのだろう。
でしょうね。私もSTGを始めたばかりの頃は同じ気持ちだったわよ(ちなみに、私のSTG歴は今年で三年目になる)
ギャラリーの呟きに交じって、美里先輩の解説も加わる。
「基本的な方向弾に加えて、旋回加速渦巻弾、円形弾、密集n-way弾、波状n-way弾、領域弾、ワインダー、拡散弾、追い越し弾、誘導弾、軌跡弾、空隙弾、設置弾などなど、各種取り揃えているわ。ボスの体力が減ると、発狂して弾幕密度が大幅に上がるから、できるだけ速攻を心がけることが必要ね。あと、内部難易度も設定してあるから、弾多そうな箇所の直前でわざと被弾することで、一時的にゲーム難易度を下げることもできるわ。もちろん、そうなると弾速が遅くなって、画面上に弾が残りやすいから気を付ける必要があるんだけど───」
清永先輩からマイクを奪って、得意げに語っているけど、ぶっちゃけSTGを知らない人にとっては呪文にしか聞こえないだろう。
観客の表情は、明らかに理解することを放棄した顔だ。
私は、その中から必要な情報をインプットして、頭の中でパターンを構築する。
───うん。これならいけるかもしれない!
「はい、テストプレイ終了~。二人ともかなり上手なのね。初見で最後のボスまで倒すなんて思ってなかったわ」
ちゃっかり放送席の座まで奪った美里先輩が褒めてくれる。
「あの~、そこ僕の席なんですけど……」
という清永先輩の訴えは、
「うるさい! いま良いとこなんだから邪魔しないで!」
美里先輩の前で跡形もなく霧消した。
「さて、では本試合始めるわよ。二人とも準備はOK?」
私と廣野先輩は頷く。
「では、スタート!」
私は組み立てたパターン通りに自機を動かす。
まずは、敵を速攻で倒しつつ、パワーを回収。とにもかくにも、ショットの威力を強化しないと固い敵は撃ち落としづらい。ボムを打つと画面内の敵弾がすべてアイテムに変わることも利用して、順調に操作していく。
そして、中盤にさしかかった辺りで、最初の被弾。
「おおっと真奈美選手。被弾してしまいました! わたくしはシューティングのことはよく知りませんが、このミスは最後の残機ボーナスに影響してきそうです。果たして、大丈夫なのか!?」
マイクと席を奪われても、なお実況者魂を見せる清永先輩は、放送部の鏡だ。
一方、美里先輩は何も言わない。一つのミスが精神的余裕を崩すことはあるが、それだけで勝敗が決まるほど、STGは甘くない。
「一方の姫幸選手はステージ終盤に突入した現時点でノーミス! 迫りくる弾幕をあり得ない動きでかわし続けています! すでに二回も被弾している真奈美選手との差は開いていく一方です!」
私は、清永先輩の実況を軽く聞き流す。
大丈夫。このペースで行けば、“勝利するのは私だ”。
ステージラストのボスをほぼ同時に撃破し、私と姫幸先輩は、ふーっと息を吐いた。
「さて、お待ちかねのスコア発表! まず姫幸選手は……987,352,680! そして、真奈美選手は……1,038,956,200! な、なんと10億点を突破した真奈美選手の勝利です!!」
「な、なんですって!? そ、そんなのあり得るはずが……」
驚愕の表情を浮かべる廣野先輩に、美里先輩が謎解きを始める。
「あなたの敗因は、被弾しないことだけにこだわった点にあるわ。確かに被弾しなければ、コンスタントに点数は伸び続ける。でも、それだと、どう頑張っても10億には届かない」
「で、でも、真奈美さんは二回も被弾したのに……」
「ええ、そうよ。彼女はね、“ボムを手に入れるために、わざと被弾したの”。そして、敵弾の多い箇所でボムを打つと、それらがすべて得点アイテムに変わり、スコアに加算される。所謂、“稼ぎボム”というやつね。本当にSTGが上手い人は、被弾も視野に入れて、いかにスコアを稼ぐか考えるものよ」
その言葉に、がっくりと肩を落とす廣野先輩。
ふぅ~。どうなるかと思ったけど、とにかく一勝できて良かったぁ。
「真奈美ちゃん、おめでとう!」
と、その時。
猫耳メイド姿の希ちゃんが、私に抱きついてきた。その抜群の破壊力に私の意識は再びブラックアウト。
「おい、真奈美! しっかりしろぉおおお!!」
「やれやれ……。最後の最後でまたサバイバル脱落者が出たか……」
でも、希ちゃん。明日も頑張るからね。
後半のSTGの知識の大半は、東方をプレイしたときの体験談と(ちなみにHardシューター)、弾幕シューティングの専門書によるものです。なので、あまり鵜呑みになさらないようにご注意ください。
次は、第二ゲームのお話ですね。今度は校庭のグラウンド全体がバトルフィールドになる予定です。どんな対決なのか、推理してみてください(笑)
では。