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転校生は天才魔術師!?

 希ちゃんの本格的な物語スタートです!

 最初は彼女の一人称で話を進めるつもりでしたが、作者の脳内で新キャラが暴れ出したので、その子を語り手にすることに決めました。割と面白くなっている…はず。

 ある少年が少女に恋しました。

 なんとかその子と仲良くなりたいと思った少年は、少女のあとを追いかけました。

 少女は街角を曲がりました。

 一歩遅れて、少年も同じ街角を曲がりました。

 しかし、少女の姿はどこにもありませんでした。




 すでに冬の気配が感じられるようになった、十一月のある朝のHRの時間。

 五組の教室では、生徒たちから漂う眠気と倦怠感が冷え冷えとした空気に充満していた。

 先の十月に行われた文化祭では、クラスが一致団結してパビリオンを見事成功させたのだが、それを過ぎれば行事らしい行事はなく、生活習慣は負の方へ転がり落ちて行く一方である。

 今朝も、缶コーヒーを片手に眠気と戦っている者、友達同士で話題のゲームの最新情報を交換し合っている者、少年雑誌を読んでいる者、机に突っ伏して寝ている者……みな、思い思いに朝の気だるいひと時を過ごしていた。

 ───ある小さな闖入者が現れるまでは。


「今日はみなさんに転校生を紹介したいと思います」

 眼鏡をかけた、キリッとした顔の女教師。いかにも真面目そうな雰囲気を醸し出している沙尾鳥さおとり先生の第一声に、クラスのみんながバッと一斉に振り向く。その様子はよく訓練されたパブロフの犬を喚起させる。

 こういう時って無駄に統一感があるよね。

だって、転校生よ、転校生! それはもう一つの学校行事メインイベントじゃない!

「男の子かな?」

「女の子だといいなあ」

「かっこいいかな?」

「いや、俺は目元涼やかな美少女だと思うね!」

「それはお前の願望だろ」

「ああ、ついに俺にも春が……」

「黙れ、エロゲ脳に汚染された変態野郎が」

 ワイワイがやがや。クラスは一気に騒がしくなる。

 私は自分の描く転校生の理想像を声に出しては言わないけど、内心ではみんなと同じ。これからなにかが始まるような、ワクワクドキドキ感が胸の内側から込み上げてくる。

 あっと、自己紹介が遅れたわね。私の名前は佐倉真奈美さくらまなみ

 まだまだ受験とは程遠い高校一年生。俗にお年頃と呼ばれる乙女だ。

 え? 外見と中身のつり合いはうまく取れているのかって?

 フッ。ご心配なく。これでも、中学の頃は男子全員から憧れの目で見られていたのよ。もし私がバレンタインデーの日にチョコを用意していたら、クラスはきっと血で血を洗う戦場と化していたでしょうね。


 ※正確に言うと、中学の男子連中は麻奈美を“憧れ”の目ではなく、“恐れ”の目で見ていたのだが、鈍い(と言うか自分に都合のいいように解釈する)彼女はそのことに未だ気付いていない。なぜ彼女はそこまで恐れられていたのか。その答えはきっとすぐに分かるだろうから、いまは物語を進めよう。


 教壇では相変わらず、沙尾鳥先生が「静かにしなさい!」と声を張り上げているけど、みんなの興味テンションはそんなのでは収まらない。

 沙尾鳥先生良い人なんだけど、まだ若いからちょっと経験不足感があるのがネックかな。

 よし、ここは五組の学級委員長であるこの私がなんとかしてあげようじゃないの。

 私は立ち上がると、パンパンと大きく手を叩いた。みんなが私に注目する。

「はい、みんな静かに! こんなに騒がしかったら、その転校生もきっと入りづらくなっちゃうでしょ。無駄話は止めて、あくまでポーカーフェイスを心がけること。特に、そこのニヤついている男子連中!」

「なんだよ、真奈美。ロリコンのお前にそんなこと言われる筋合いは───」

 不満たらたらで文句を返してきた男子の声が途絶える。私が投げたシャーペンが彼の耳の数ミリ横を通過し、壁に突き刺さったからだ。ビイイイィィン……と突き刺さった威力の余韻を残すように振動するシャーペン。それを見た男子の表情が一瞬で恐怖の色に染まる。

 私は彼に笑顔を向けて言った。

「な・に・か・言ったかしら?」

「い、いえ、なんでもありmsん」

 もげるんじゃないかって勢いで、首をぶるんぶるんと横に振る男子。最後のほう日本語になってなかったけど、気にしないようにしよう。

 私は笑顔のまま、クラスのみんなに向き直る。

「男子は紳士的に、女子は淑女然として転校生を迎え入れてあげること。良いわね?」

『Hai!!』

 素晴らしい発音で返事をするみんなに私は満足する。

 教壇では、沙尾鳥先生が呆然とその様子を眺めていた。


 私の制圧攻撃によって、ようやくクラスが静かになったのを確認して、沙尾鳥先生はコホンと咳払いをする。

「で、では、早速みなさんに新しいお友達を紹介します。朧月希おぼろづきのぞみさん、入ってきてください」

 沙尾鳥先生がドアのほうを見る。どうやら転校生は廊下で待たせていたようだ。

 ごくり……! 

 二つある時限爆弾のコードのうち一方を切るときのような緊迫感が教室全体を包む。

 ……。

 …………。

 ………………。

 そのままの姿勢で数分ドアを凝視しても何も起こらない。

「先生。ほんとに転校生、外で待たせているんですか?」

 じれったくなった女子の一人が手を上げて質問する。

「ええ。そのはずなんだけど……」

 沙尾鳥先生の顔が曇る。みんなもドアから視線を外して、周りとのおしゃべりを再開する。

「ほんとにいんのか? 転校生」

「もしいるとしたら相当シャイなやつだな」

「あるいは病弱属性かもしれないぞ」

「黙れ。エロゲ脳に汚染された変態野郎が」

 うーん……。ほんとにどうしたのかな、その子。新しいクラスに入りにくい気持ちは分かるけど、思い切ってアクションを起こすのも必要じゃないのかな。

「とにかく、みなさんはそのまま座って静かに待機していてください。先生は転校生を呼んできますので」

 沙尾鳥先生がドアを開けて教室を出て行った……と思ったら、不思議そうな顔ですぐに引き返してきた。

「どうかしたんですか、沙尾鳥先生」

 クラスを代表して私が質問する。

「それが……廊下に転校生がいないのよ。先生が教室に来る時、確かに外の廊下まで一緒だったはずなのに……」

 え? それってやっぱり、このクラスに入るのが嫌になって逃げちゃったってことなのかな……。なんか、すごくショック……。

 私の中で滾っていたワクワク感が急激に冷めていく。まるで心の風船がパンと割れてしまったような、そんな気持ち。その子がこのクラスをどう感じたのかは分からないけど、逃げ出すほどってことはよっぽど嫌われたってことだよね……。

 気がつくと、みんなも口を閉じてお互い気まずそうにしている。

 シーン……と水を打ったように静まり返っている教室に“異変”が起きたのは、沙尾鳥先生がもう一度教室の外へ出ようとしたそのときだった。

 唐突に、ポンッ!というポップコーンが爆ぜるような音が聞こえたかと思うと、教室全体が深い煙に包まれた。不測の事態にパニックに陥るみんな。

「うわっ!」

「何だ、火災か!?」

「とりあえず窓を開けろ!」

「落ちつけよ、お前ら。ただの煙幕だろ?」

「ふむ。ミステリではよくある場面ですね。会場を一瞬で包み込む深い煙。パニックに陥る客たち。そして、煙が晴れるとそこには死体が───」

「黙れ。探偵気取りのミステリヲタクが」

 実家で合気道を教え込まれた私は、充満する煙の中、ここと定めた目標まで風のように動く。一瞬だけど、教卓に向かって小さな影が走っていくのを目撃した。なにを企んでいるのかは知らないけど、私の教室で好き勝手はさせないわ!

 私は犯人?だと思われるその小さな人物の腕を掴むと、素早く足を払った。思ったよりも体重が軽く、あっけなくその場に倒れた犯人は、

「きゃうっ!」

 と可愛らしい叫び声を上げた。

「え?」

 私はその高いソプラノの声から、相手がまだ小学生くらいの女の子と判断した。どうして、小学生がこんな時間に私たちの学校にいるんだろう……?

 胸中に漂う疑問とは逆に、煙はゆっくり拡散していく。そして、そこには───

「か、可愛い……」

 真新しい制服を着た、小さな女の子が尻もちをついていた。身長は145cmにわずかに届かないくらいだろうか。パッと見、小学生がコスプレしているように見える。長い髪を赤いヘアゴムでツインテールにまとめていて、それだけで思わず抱きしめたくなるくらいのアクセントだ。さらに、私のハートを鷲掴みにする、僅かにうるんだ瞳。それがまた小動物っぽさを強調していて、守ってあげたくなると言うか、いっそ家に持ち帰りたくなるくらいの───

「委員長~。なにその子と見つめ合ってんだよ」

 はっと気付くと、クラスの全員が私たちに注目していた。

 し、しまった……。あまりの可愛さについしげしげと観察してしまっていた……。

「あ、えと、こ、これは違うの……! 私はそんなのじゃ……」

 女の子を優しく抱き起こしつつ必死に否定する。そんな私をニヤニヤ見ていた男子が、

「まあ、仕方ねえよな~。佐倉はロリk……」

「きゃぁぁぁぁあああああ!!!!」

 それ以上言わせまい!と私は近くにあった教卓をそいつに向かってぶん投げた。危険を察知した第六感の鋭いクラスメイトたちは、さっと彼から離れる。空を切り、重力の影響を受ける間もなく高速で飛翔した教卓の直撃をモロに受けた彼は盛大に吹っ飛び、後ろの壁に、ばあんっ!!とぶち当たって撃沈した。……あとで救急車を呼ばなくっちゃね。

「なあ、委員長。その子、思いっきりお前のこと怖がっているけど、そっちのほうがマズかったんじゃないか?」

「え?」

 横目で女の子の様子をそろ~っと窺うと……。

 やばい! やってしまった! まるで般若を前にしたような目で見られているよ、私!

 ぴしり、と私の中で何かが壊れるような音がした。漫画なら背景にでかでかと、ガーン!!って文字が書かれているはずだ。

 生きる石像と化した私の呪いを解いたのは、沙尾鳥先生の声だった(そういえば、先生も教室にいたんだっけ。忘れてた……)

「えー……みなさん。彼女が新しい転校生、朧月希さんです」

 沙尾鳥先生に紹介され、みんな改めて彼女に視線を集める。女の子は私の奇行を記憶から消すようにぶんぶん頭を振ると、急に強気な表情になって、

「あたしが超天才魔術師、朧月希よ! よろしくね!」

 見事なウインク付きで自己紹介した。あぁ……なんて可愛い生き物なの……。

「真奈美。口からよだれが出てるぞ」

 男子に指摘され、私は慌てて口の周りを拭く。

 転校生───希ちゃんが珍獣を見るような目で私を見る。しかし、彼女は知らない。このクラスには私のほかにもたくさんの“業界人”がいることを。

「おい、見ろよ、あの子。滅茶苦茶ちっちゃくて可愛いぜ」

「ロリ属性は確定だな。あとは妹属性とドジっ子属性が加われば……」

「お兄ちゃんと呼ばれたら、俺萌え死ぬかも……」

「あぁ……あの子に踏まれてみたい……」

「ロリ+ツインテール。はあはあ……」

 あちこちから聞こえてくる変人の願望。なにを隠そう、このクラスには先月の文化祭でメイド喫茶を臆面も無く敢行した勇者が揃っている。……これは希ちゃんが危険ね。私が守ってあげないと(お前が一番アブねえよ!という外野の突っ込みが聞こえたような気がしたけど無視!)

 私は希ちゃんに向き直る。

「えっと、希ちゃん。さっきは驚かしちゃってごめんなさい。私はこのクラスの学級委員長を務めている佐倉真奈美。よろしくね」

 おずおずと彼女に手を差し出す。希ちゃんは一瞬ためらってから、きゅっと私の手を握ってくれた。

「うん! こちらこそよろしく、真奈美ちゃん!」

 そう言って天使の微笑みを浮かべる希ちゃん。

 あぁ……幸せ……。目がイッちゃってる私の肩をがしっと掴むと、沙尾鳥先生は強引に私と希ちゃんを引き離した。

「それで、希さん。どうして煙幕なんか使ったのですか。体に害がないものとは言え、やっていいことと悪いことが───」

「あたしは魔術師だから、観客をびっくりさせようとしただけよ。真奈美ちゃんが止めなかったら、もっとかっこよく登場できたのに」

「ご、ごめんなさい。つい……」

 沙尾鳥先生の言葉を遮って文句を言う希ちゃんに謝りながらも、魔術師というワードが脳を刺激する。

「希ちゃん、魔術師なの……?」

「うん! あたしの家が代々魔術師の家系で、いつかパパを越えるすごい魔術師になるのが夢なの! その傍ら、イカサマをして悪事を働くやつを懲らしめる探偵でもあるよ」

「探偵……」

「いまは、まだパートナーがいないけど……」

 探偵……パートナー……。それは幼い頃からずっと変わらない私のミステリ心に深く、深く響いた。

 夜遅くに、幽霊が出るという噂の建設中のマンションに忍び込んで怒られたこともあった。

 二時間ドラマの謎解きの部分で、探偵の真似をして推理を披露して家族に笑われたこともあった。

 大人になるにつれて、そんな思い出も色褪せてしまっていたけれど。

 もし、もう一度あの頃の輝きを取り戻せるのなら───

「ねえ。そのパートナーって私じゃ駄目かな?」

 クラスのみんなも、沙尾鳥先生も、大真面目な私の発言に驚いている。でも、私は自分の心に嘘はつきたくない。

 そんな想いが伝わったのか、希ちゃんは笑顔で、

「うん、いいよ! ただし、あたしの足を引っ張らないようにね!」

 私をパートナーとして認めてくれた。


 ───こうして、私たちは数々の事件に立ち向かうことになるんだけど、それはもうちょっと先の話。


 めちゃくちゃ濃いクラスですよね~(笑)

 僕の通っていた高校ではここまで露骨にヲタクをアピールするクラスはありませんでしたが、それでも文化祭のときは実際にメイド喫茶やったりはしました。

 ってか、真奈美が希ちゃんより遥かに目立っているんだけど、さてどうしようか。

 ではでは。

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