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Happy birthday!!

 潤とトワイライト、二人の頭脳勝負の行方はいかに!?

 そして、いままでの欠片を拾い集めた潤は、とある真相にたどり着く……。

 ───この世に奇怪な現象なんて存在しない。そこには必ず何かしらのタネがあるはずよ。

 ───落ち着いて考えろ、潤。事実を論理的に検証していけば、きっと答えが見つかるはずだ。

 真帆さんとリュウさんの言葉が脳裏に蘇る。

 思えば、花音が殺された時も、怪盗セゾンが美術館に現れた時も、僕の傍らにはリュウさんや真帆さんがいた。お互いの情報を交換し合い、一緒に推理を進めてきた。だけど、今は自分だけが頼りだ。魔術師トワイライトに一人で立ち向かうと決めた時から、そんな覚悟はとっくにできていた。

 なら───

 この頭脳勝負、絶対に負けるわけにはいかない!

 僕は推理を再開する。

 まず、あの百円玉は間違いなく僕のものだ。そして、物が空間を飛び越えるなんてことがあり得ない以上、彼女が指を鳴らした時にはすでに百円玉は手の中にあったんだ。

 とすると、考えられる可能性としては、缶の中に百円玉を入れたと見せかけて、実はそのまま手の中に隠し持っていたというものだろう。その手のトリックは手品では割と有名だし、おそらくこれで間違いない。

 ここで問題となるのが、彼女が缶を振ったとき、中からちゃんと音が聞こえてきたことだ。だから僕は、百円玉が缶の中にあると思い込んでしまったわけだし。後はこのカラクリさえ解ければ、彼女の魔術はただの手品に成り果てる。

 でも……あの缶には何も仕掛けはなかった。それは僕自身が確認しているし、間違いない。空っぽの缶を振って音なんて鳴るわけが……。

 いや、待てよ。

 ある可能性を思いついた僕は、頭の中で彼女の一連の動作を再確認する。

 そして、気付いた。彼女が、“僕の目をある部分から逸らそうとしていることに”。

 今、この場で“それ”を確認してもいいのだけど、ここは探偵らしく犯人を追い詰めようじゃないか。マジシャンにとって最も恐れる出来事───マジックの最中にトリックを見破られる屈辱を。


「仕方ないわね。もう一回だけだからね!」

 もう一度さっきのマジックが見たいと僕が申し出ると、希ちゃんはしぶしぶ承諾してくれた。でも、言葉の内容とは裏腹に声が弾んでいるところを見ると、多分内心では自分の手品を披露するのが楽しくてしょうがないのだろう。

 こんな無邪気な笑顔を壊してしまってもいいのだろうか……と、一瞬罪悪感にかられたが、委員長の安否がかかっていることを思い出し、僕は表情を引き締めた。

「じゃあ、また適当に文字書いてよ」

 僕は、百円玉の裏に『解』と書いて、彼女に渡した。それを見た希ちゃんの表情が変わる。

「ふーん。トリック分かったんだ」

「まあね。今からそれを証明してみせるよ。さあ、マジックを続けてくれ」

 希ちゃんは百円玉を缶の中に入れると、それを軽く振る。中からは、カン、コンという音。そして、缶をテーブルの上に置くと、三メートルほどの距離を取る。

「では……1(アン)、2(ドゥ)、3(トロワ)!」

 右指をパチンと鳴らすと同時に、その指先に『解』と書かれた僕の百円玉が現れる。そして彼女は、缶の中身が空っぽであること示そうとして、フタに手を伸ばした───ところで、僕は静止をかけた。

「ストップ。“その状態でもう一度缶を振ってみせてくれるかな”」

 途端、希ちゃんの顔が青ざめた。

 その表情の変化で僕は自分の推理が当たっていることを確信する。

 希ちゃんが震える手で缶を振ると……カン、コンと中から音が聞こえてきた。

「くっ……」

 タネを見破られた魔術師は、悔しそうに表情を歪めた。そして、涙目で僕を見る(やばい、めっちゃ可愛い……)

「……どうして分かったの? 缶の中にまだコインがあるって」

「君の一連の動作を思い返したら気付いたんだ。僕に“缶のフタを調べられないようにしている”ってことをね」

 そう。彼女はフタを外してから、僕に缶を寄越した。そしてその後も、僕がフタに触れないように立ち振る舞っていた。

「さて、そこでフタにどんな仕掛けが施されているか、についてだけど。おそらく中心に穴が開いている五円玉、それと糸を使ったものじゃないかと思うんだけど、どう?」

 僕が目で問うと、希ちゃんは『参りました』というように両手を上げた。

 仕掛けは簡単だ。まず、細くて短い糸を用意し、一方の端に五円玉(もしくは五十円玉でも可)を結び付ける。もう一方の端はセロハンテープでフタに固定。その状態で缶を振ると、五円玉が振り子のように揺れ、缶の側面に当たって音を立てるというわけだ。

「む~、バレちゃったら仕方ないか。この勝負、あたしの負けよ」

「それじゃあ、約束通り委員長の居場所を教えてくれるんだよね」

「───成田探偵事務所。絵桐時葉はそこにいるわ」

 勝負に勝って、すっかり安心し切っていた僕に冷水を浴びせるように、彼女は衝撃的な事実を口にした。驚きのあまり声を失っている僕を眺めて、幼い魔術師はクスクスと笑う。

「そこにすべての答えがある。もっとも、潤君ほどの推理力があれば、着く前に真相が分かってしまうかもしれないけどね」

「……どういうこと?」

「さあね。ただ一つ言えるのは、このあたしでさえ一介の道化に過ぎなかったってこと。後は自分で考えることね。推理に必要な欠片は至る所に散らばっていたはずよ」

 希ちゃんはそのまま背を向けて去ろうとして……もう一度こちらを振り返り、

「そうそう。魔術師は絶対に観客を傷つけるような真似をしてはいけないの。それは美学というより、暗黙のルールに近いものだけどね。だから、もし潤君が暗号を解けなくても絵桐時葉に危害を加えるつもりなんてなかったわ。そこだけは誤解しないでほしい」

 誇り高い表情で観客ぼくに一礼して、消えた……。


「あ、参道君! 時葉は!?」

 車に戻ると、だいぶ回復したらしい穂村が僕に駆け寄りながら聞いてきた。

「トワイライトとの勝負には勝ったよ。委員長の居場所も教えてもらった」

「良かった~……。じゃあ、早くその場所に向かわないと」

 再び我が担任の車に乗り込み、国道を引き返しながら僕は彼女の言葉について考えを巡らせていた。

 ───成田探偵事務所。そこにすべての答えがある。

 ───このあたしでさえ一介の道化に過ぎなかった。

 ───推理に必要な欠片は至る所に散らばっていたはずよ。

 希ちゃん……いや、魔術師トワイライトは本当の犯人じゃなかった。この事件の真の黒幕は別にいたんだ。しかもあの口調……まるで僕に推理させるためにわざと手がかりを残しておいたような言い方だった。

 そういえば、委員長が消えた現場を見たとき、妙な違和感を覚えた。いや、それだけじゃない。視聴覚室のスピーカーから音声が流れたときも、モニターに委員長の映像が映されたときも、どこかおかしいと感じた。それは、二枚のそっくりな絵から間違いを探し当てるような、ほんの些細な差異。けど、見落としてもおかしくない違いだからこそ、そこには重大なヒントが隠されているに違いない。

「ねえ、参道君。さっきから黙り込んでどうしたの?」

 穂村が心配そうに顔を覗きこんでくる。

「いや、なんでもないよ。……けど、ちょっと疲れたかな。探偵事務所に着くまで一眠りすることにするよ」

 もちろん嘘だ。僕は目を閉じて、頭の中で情報を整理する。

 この二時間弱で感じた違和感かけらをすべて洗い出し、正しい解答カタチになるように組み合わせていく。

 そして、二十分後。

 ───すべての欠片が一本の線で繋がった。


 成田探偵事務所───。

 安楽椅子探偵としてその名を轟かせる成田真帆さんの事務所で、僕やリュウさんもお世話になっている。探偵たちの砦と言ってもいいかもしれない。

 そこに到着したのは午後七時半過ぎ。さすがの我が担任も、夕ラッシュ時の混雑の中を猛スピードで突っ切ることは不可能だったらしく、帰りは渋滞に揉まれながらゆっくりと走行した。我が担任は不満顔だが、僕と穂村は道が混んでいたことを神に感謝した。

「しかし、参道。本当に先生たちもお邪魔して大丈夫なのか? もし、事件の調査とかで立て込んでいる最中なら遠慮しておくが」

「いえ。先生も是非来てください。お見せしたいものがありますので。もちろん、穂村も」

「私も?」

 僕は足を止めて、二人のほうを振り返った。

「うん。むしろ、探偵として絶対に逃がさないよ───黒幕さん」

 我が担任と穂村は驚いたように顔を見合わせた。そして、二人揃って頭をかく。

「いやあ、参った。参道にはもうすべてが分かっているようだな」

「でも、参道君。事務所に入ったら、ちゃんと驚かなくちゃ駄目だよ?」

 潔く自分が犯人だと認めた二人に僕は苦笑する。

「分かってるって。みんな、僕のために企画してくれたことだからね」

 僕は事務所の前に立つと、きちんとチャイムを押してからドアを開けた。

 途端、パン! パン! パン!と盛大に炸裂する、クラッカーの破裂音。

 そして───

「潤君、誕生日おめでとう!!」

 真帆さん、リュウさん、委員長、そして鈴笠、太谷さん、宝生までもがにこやかな笑顔で僕たちを迎えてくれた。その背後のテーブルにはお菓子や飲み物がたくさん置かれている。

 色とりどりの紙テープや紙ふぶきが舞う中、僕はこんなに刺激的なバースデープレゼントを用意してくれたみんなに最大限の感謝を込めて、

「ありがとう!」

 心の底から笑った。


「さあ、みんな! たくさんあるからどんどん食べてちょうだい!」

 真帆さんが追加の料理を運んできては、あっという間にみんなの胃袋に消えていく。

「うまい! 真帆さんって料理上手なんですね!」

 ナイフとフォークと箸とスプーンを両手でいっぺんに使うという、実に器用な芸を見せながら鈴笠は運ばれてくる料理を次から次へと消化する。

「ちょっと鈴笠君。一応このパーティーの主役は参道君なんだから、少しは遠慮ってもんを……」

「まあまあ、時葉。今日はそんな固いこと言わないで、みんなで盛り上がろうよ」

 説教モードに入ろうとした委員長を穂村がやんわり止めた。

 その隣では……

「はい、知景、あーんして」

「あーん」

「どう? 美味しい?」

「うん、悪くない。だが、ちょっとお前のスパイスが強すぎたかな」

「もうっ、知景ったら」

 見事なまでのバカップルぶりを遺憾なく発揮している二人がいた。場所問わず、恋人同士の熱い空間を作れるこいつらはある意味称賛に値するだろう。フランスあたりにいてもおかしくないほどの甘いラブコメ展開を繰り広げる彼らから僕は目を逸らす。

 ……この二人はなるべく視界に入れないようにしたほうがよさそうだ(それでも、ラブイチャの会話は聞こえてきてしまうんだけどね……)

「いやあ。こんな美人と一緒に酒が飲めるとは、この企画に参加したかいがあるってもんです!」

 で、我が担任はと言うと、仕事がひと段落した真帆さんと楽しそうに酒を飲んでいる。そして、さり気なく真帆さんの年齢を聞こうとして華麗にスルーされた。僕は、もういい年になる独身男性の悲しさを目の当たりにした。

「何と言うか……潤のクラスの奴はみんな個性的なんだな」

 僕の隣に座っているリュウさんが苦笑しながら感想を述べる。僕はリュウさんに微笑み返して、

「でも、とっても楽しいクラスなんですよ。普段、あんまりまとまりがないように見えますけど、合宿や文化祭のときは一致団結してバカ騒ぎして……一人一人がみんなのことを考えて行動しているように思えるんです」

「『一人はみんなのために、みんなは一人のために』……か」

「ええ。今回の企画は後者だったみたいですけど」

「俺は正直、潤にはちょっと悪いことしちまったかなと反省している。この計画を悟られないように今まで騙していたのは事実だし、やり方も行き過ぎたかな……って」

「そんなことないですよ! 暗号だって面白かったですし、トワイライトとの対決だって……」

 と、その時。

 ポンッ!というポップコーンが爆ぜるような音と同時に、事務所内が煙に包まれた。そして、辺りに響き渡る“ソプラノの声”。

「ボンソワール! 探偵諸君。魔術師トワイライトこと超天才美少女探偵、希ちゃんの……きゃうっ!」

 高らかな笑い声が、変な悲鳴を皮切りして唐突に途絶える。

 煙が晴れると、そこには憐れにも酒瓶につまずいてすっ転んでいる希ちゃんがいた。

 ……この子、もうちょっと普通に入ってくることできなかったんだろうか……。

 見かねた委員長が彼女を優しく抱き起こす。合宿のときも思ったけど、委員長はきっと無意識に母性本能が働いてしまうんだろうな。

「あら、希ちゃん。そろそろ来る頃だと思っていたのよ。いらっしゃい」

「えっ!? 真帆さんってこの変z……じゃなくて、この子と知り合いなんですか?」

「うーん。知り合いだけど、会ったのは随分と昔のことだからね~。しかも、お互い会話らしい会話はあまりしなかったし」

「?」

「そのあたりの事情は複雑だから、あたしから直接話すわ」

 希ちゃんの説明によると、彼女は代々手品師として活躍していた家庭に生まれ育ったらしい。彼女は物心ついたときからマジックが大好きで、偉大なマジシャンとして名を馳せていた父や兄の背中を見ながら、自身もマジックの知識をどんどん吸収していった。

 ───いつか、パパを越えるような魔術師になってやるんだ!

 幼い頃の彼女はそんな夢を抱き続けて、毎日夜遅くまでマジックの練習に明け暮れていたという。

「でもそんな時にね、事件は起こったの」

 舞台上で起きた殺人事件。観客参加型のマジックの最中に、客の一人が殺されたのだ。

 現場の状況的にも、そのマジックを周りで見ていた観客の証言からも、犯人は彼女の父親しかあり得ないと判断されたらしい。牢に入れられ、舞台から退いた魔術師の名声は一夜のうちに地へ落ちた……。

 希ちゃんもまた、魔術師になる夢を諦めざるを得なかった……。

 しかし、そこに突如として闖入者が現れた。

「───この事件の真犯人は別にいます」

 中学生くらいの女の子を連れてやってきたその男性は、警察の推理をことごとく引っくり返し、あっという間に事件を解決してしまった。

「もしかして、その女の子と男の人って……」

「そう。当時まだ中学生だった私と、お父さん───成田賢吾だったのよ」

 僕は事情の奥深さに身震いした。

 希ちゃんがどこか遠くを見るような目をして語る。

「あたしが“探偵”を意識し始めたのはその頃よ。もちろん、魔術師になる夢も捨ててはいなかったけど、『世の中にはこんなすごい人もいるんだ……』ってちょっと憧れちゃってね」

 だから彼女は、魔術師と探偵───まるで陰と陽のような二つの顔を持つと決めたんだ。

「希ちゃんは来月からこっちに引っ越してくることになっていてね。彼女を今回の企画に採用したのは、潤君との顔合わせの意味が大きかったの。けど、ただ紹介するだけじゃつまらないし、希ちゃんも一応探偵の端くれということで、折角だから頭脳バトルしてもらうことにしたの。驚いた?」

「ちょっと待ってください、真帆さん。今、来月からこっちに引っ越してくると言いました?」

 にこにこと聖母様のような笑顔で真帆さんは頷く。なんか……すごく嫌な予感がする……。

「それって……」

「あ、あたし今度から潤君の高校に通うことになったから、よろしくね!」

 そして、見事なウインク。僕は頭がクラクラした。

 ……今度からは学校でも、“魔術師の美学”とやらに付き合わされる羽目になるんだろうな……。

 青汁を百杯くらい飲みほしたような顔をしている僕の肩を、真帆さんはポンと叩く。

「まあまあ、潤君。これでも希ちゃんは、手品のタネや相手のイカサマを見破ったりすることにかけては右に出る者がいないくらい鋭いのよ。時には敵同士、時には同じ探偵同士、仲良くしてあげてくれないかしら」

「うん! 仲良くやろうよ、潤君!」

 そう言って天使の微笑みを浮かべる希ちゃん。

 ……うん、まあ、こんな笑顔が見られるならちょっとくらいはいい……かな?

「あの~、三人で盛り上がっているとこ悪いんですけど、私たちのこと忘れてませんか?」

 希ちゃんのきらきらした笑顔とは対照的に、梅雨時期の湿気をありったけ含んだようなジト目で僕たちを見る委員長ら。

「参道。そろそろお前の出番じゃないか」

 我が担任に促され、僕はその場に立ちあがった。事務所にいる全員が僕に注目する。

 希ちゃんが加わったことで、この場に事件関係者はすべて揃った。

 ───なら、やることはたった一つ。


「さて───……」


 楽しくにぎやかな雰囲気を書きたい!と思い、潤のクラスメイトたちにも登場してもらいました。こんな誕生日があったらいいなあ、という僕の願望を思いっきり反映している作品となっております。

 最後の一文から分かるように、次回潤が推理を語ってひとまずこのお話は終わります。

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