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とある記憶のアラカルト  作者: 月夜見幾望
絶叫スペシャルランド強盗事件
21/39

ロリコン×ロリコン=家族団欒?

 ロリコン節150%でお届けする今回は、ついに真奈美の父親が登場します。家族団欒の楽しいひとときかと思いきや、会話の内容は強盗事件の考察だったり希ちゃんについてだったり。

 そんなお馬鹿?なノリの中にもさりげなく今後の伏線をしのばせているのでご注意を。

 終業式の翌日。春休み初日。

 日数的には夏休みに劣るものの、課題がない分、気兼ねなくのんびりできるという点ではこちらに軍配が上がる。同級生の中には、今日から早速レジャー施設や行楽地に出かけている人もいれば、クローゼットの奥からとっておきの洋服を取り出して彼氏との待ち合わせ場所に急いでいる友達もいる。与えられた時間を有意義に使うのは素晴らしいことだとは思うけど、あまり密に計画を詰め過ぎると、かえって体調を崩しそうな気がする。

 スロースタート&マイペースで無理のない休暇プランを! これが私のモットーだ。

 春眠暁を覚えずという言葉が示す通り、もう朝十時を過ぎたというのに未だ布団の中でごろごろしていた私は、いかに希ちゃんと春休みを楽しく過ごすかについて思案していた。

 せっかくの春休みなんだし、私の家でお泊まり会なんていうのもいいかもしれないわね。昨日はちょっと色々あったけど、お母さんには好感触だったみたいだし。問題はおじいちゃんだけど、確か一週間ほど山籠りで家を空けるはずだからこちらも心配はいらない。

 もう七十を超えているのに無茶なことを……と普通の人は思うでしょうけど、うちのおじいちゃんは仙人だから何も問題はない。長寿を願うなら神社の御守りなんかより、おじいちゃんを奉ったほうが遥かに効果的なのではないかと私は真剣に考えている。とは言え、不死ではないと思うので、私がおばあさんになる頃にはさすがに他界していることを祈ろう。

 さて、ここからが本題よ。希ちゃんを泊めるのはいいとしても、それだけじゃ味気ないわよね。日中はやっぱり一緒にお出かけしたいじゃない。

 でも、希ちゃんの好きそうな場所ってどこかしら……。

 保育園の遠足で行った動物園? 希ちゃん、兎とかペンギンが好きそうなイメージがあるし。だけど、うーん、あそこは相当敷地が広かったから二人だけで行くのは少し寂しいわね。一応園内の一角に子供向けの遊具もあるけど、もし希ちゃんが同年代の子と仲良くなっちゃったら私の入る余地がなくなってしまう。この計画の目的は希ちゃんとさらに親睦を深めることであって、そんな展開になったら本末転倒だ。却下。

 じゃあ、近場の浜下第二公園はどうかしら。あそこなら池に沿った遊歩道もあるし、散歩にはうってつけ……いや、待って! あの場所には時々、超大型犬のものと思われる犬のフンが落ちていることがある。もし希ちゃんが”犬のアポロン神”グレート・デーンに襲われでもしたら……。

 私の頭を嫌な想像がよぎる。

 ふぅ、危なく好感度を落とす選択肢を選ぶとこだったわ。けど、私だって探偵の端くれ。徐々に希ちゃんの好感度を上げていって、最後には二人でベッドに……きゃっ! ダメダメ、私ったら何を考えているの! で、でも一緒にお風呂に入って背中を流し合ったりするくらいなら……きゃあああ!!(以下、妄想暴走により自主規制)。

 しかし、至福の時間は長くは続かなかった。

「いい加減、起きんか真奈美いいいいいい!!」

「へ?」

 唐突に体がふわっと宙に浮いたかと思うと、そのままくるっと一回転して背中から床に叩き付けられた。ダーン!と床が抜けそうなくらい派手な音が響き、一瞬息が止まる。全身を凄まじい衝撃が走ったけど、幸い骨の折れる音は聞こえなかった。

 まだ半分星が飛び交っている視界の中心には、我が佐倉家のラスボス、おじいちゃんがたいそうご立腹な様子で私を見下ろしているのが見えた。その鋭い眼光に、さっきまでの妄想(百合路線まっしぐら)が一瞬にして吹き飛ぶ。

「お、おじいちゃん! えっと、その……おはよう」

「うむ、おはよう。して真奈美。早速じゃが、こんな時間までベッドの中で妄言を吐きまくっていた理由を聞かせてもらおうかのう」

「えっ!?」

 あれ、もしかして知らない内に声に出しちゃってた!? ど、どうしよう! 正直に話したら、きっとおじいちゃんに殺されちゃう……。それだけはなんとか回避しないと……。

 よ、よーし、こうなったら一か八か……。

「さ、殺人事件が起きる夢を見ていたのよ。とある山奥の別荘に閉じ込められた八人の人間が、その地方に伝わる民間伝承に見立てて次々に殺されていく事件でね。私はなぜか探偵役だったんだけど、ついに容疑者全員集めて謎解きをしようってときにおじいちゃんに起こされたの。だからその推理の過程が自然に口から――」

「ほお。ならば、そのベッドの中にあるモノはなんだ」

 おじいちゃんの目尻がさらに吊り上がった。ドクン!と心臓が跳ね上がる。恐る恐るベッドへ視線を移すと、毛布がずり落ちたせいで、今まで隠していた“私特製:等身大希ちゃんスペシャル抱き枕!”がその全容を露わにしていた。ちなみに予算のほとんどは希ちゃんのベストショットを写真部から買い取ったときに消えている。つまり、それだけの(値段的)価値と希ちゃんへの愛が、この抱き枕には詰まっているのだ。たとえおじいちゃんと対立することになったとしても、これだけはなんとしてでも死守しなければ!

 ――と思うものの、私の声なき気迫が、おじいちゃんのそれを上回ることはあり得ないわけで……。

「さ、弁明がないのならたっぷり扱いてやるかのう」

 いつも通り首根っこを捕まれて、私は道場へと引きずられていくのだった……。


 おじいちゃんの鬼のような折檻が終わって、私はボロボロになりながら居間へと向かった。

「あら、おはよう、真奈美。まったく、春休みだからって寝坊しちゃって。せっかく、お父さんも帰ってきているんだから、もっと規則正しい生活を心がけなさい」

 ダイニングテーブルの上に朝食(いや、この時間ならもう昼食ね)を並べていたお母さんが、ソファーのほうを顎でしゃくる。

「え、お父さん帰ってきてるの?」

 それは一大事だ。非常事態だ。ともすれば、私の立てた計画が一発でご破算になりかねない。

 大急ぎでソファーを回り込むと、果たしてそこにはコタツの中で幸せそうに眠っているお父さんがいた。両手にはなにやらキャンパスノートのようなものを抱えており、頬はだらしなく緩んでいる。そして第一声がこちら。

「ああ、希ちゃん可愛いよ希ちゃん! はぁはぁ……」

「…………」

 間違いない。お父さんだ。紛れもなく私がロリコンに目覚めた元凶であり、また家族の中で唯一私の趣味を理解してくれる同志でもある。お母さんの監視の目がなかったら、いつかお父さんとロリの魅力について一晩中語り合ってみたいと私は本気で思っている。

 そしてどうやら、あのキャンパスノートは私が記録していた『希ちゃん観察日記(仮)』であるらしい。お母さんに返してもらってからは、わざわざ「超難関国立大学入試対策 数学編」という問題集のカバーでコーティングして本棚の片隅に紛れ込ませておいたはずなのに、お父さんの嗅覚の前には無力だったみたいだ。

 なるほどね……。どうりでおじいちゃんの機嫌があんなに悪かったわけだ。

 娘が呆れているとは知らず、お父さんに寝言はさらに続く。

「やはり、ロリとツインテの組み合わせは最高だ!」

 でしょでしょ! もう希ちゃんの可愛さは止まるところを知らないのよ!

「夏になったら、是非海水浴に連れて行ってあげたいな」

 それはいいわね。今度はスク水姿の希ちゃんを抱き枕カバーにしてみようかしら……。きゃっ! ダメダメ、一体どれほど私の理性を乱す気なの希ちゃん!

 想像を絶する精神攻撃に思わず鼻血がこぼれそうになる。

「小さい頃の真奈美も可愛かったけど、希ちゃんには勝てないな」

「…………」

 一瞬ぶん殴りたいほどの衝動に駆られたけど、ぐっと我慢する。

 そりゃあ、私だって希ちゃんの方が可愛いと思うけど、実の父親にその事実を指摘されると、なんとなく虚しさみたいなものが込み上げてくる。

「ほら、あなたも起きてください。ご飯にしますから」

 さらに希ちゃんへの愛を呟くお父さんの頬を容赦なくビンタするお母さん。バチン!という強烈な一撃に(あるいはお母さんから放たれる殺気に)、ようやくお父さんは目を覚ました。

「んん……? おお、真奈美おはよう。ずいぶん見ない間にまた髪も伸びて可愛くなったなあ。どうだ、彼氏はできたか?」

 瞬間、翼お兄ちゃんの顔が脳裏をよぎったけど、慌ててかき消した。

「い、いないわよ、そんな人」

 そう、一応翼お兄ちゃんにバレンタインチョコを手渡すことはできたものの、頭が熱くなりすぎて肝心の言葉が出てこなかったのだ。あのときの自分のテンパり具合を思い出すと、恥ずかしやら情けないやらで今でも床を転げ回りたいほどの衝動に襲われる。あう……ほんと何やっているんだろう、私……。

 お父さんは、そうか、と呟くと、私の頭に優しく手を置いた。

「頑張れよ。応援しているからな」

 ……もう、たまに帰ってきたかと思えば、すぐ子供扱いするんだから。これでも高校生になったんだから、少しは娘を信頼してほしいものだ。

 でも、その何気ない一言がいつも温かくて――。

「うん、ありがとう……」

 やっぱりお父さんはかけがえのない家族なんだ。


『――では、次のニュースです。昨夜七時半ごろ、浜下町にある焼肉専門店の駐車場で、若い女性が覆面を被った三人組の強盗に現金やカードの入ったバッグを盗まれる事件が発生しました。警察は、ここ最近、名須川市の各地で相次いで盗みを働いている強盗グループの仕業と見て捜査を進めています――』

 久々に家族四人揃って食事をしていると、気になるニュースが耳に飛び込んできた。テレビを見ると、番組の現地レポーターが例の『網焼き屋』の前で中継を行っていた。

「ええ、ここが事件の起きた現場です。今も警官の方が並んで、辺りは物物しい空気に包まれています。なお、付近の住人に話を事件当時の話を伺ってみたところ、昨夜午後七時半ごろ、こちらの『網焼き屋』の駐車場から突如きゃあ!という若い女性の悲鳴が聞こえてきたそうです。この『網焼き屋』の前の道路は国道と直結していることもあり、普段は人や車が頻繁に行き来しているそうですが、事件発生時は辺りに人気はなかったということです。また被害者の女性は、自分を襲ったのは覆面を被った三人組の怪しい人物で、うち一人は髪が長かったことから恐らく女性だろうと話していました。

 これまで四件の強盗事件で得た犯人に関する情報を照らし合わせてみますと、犯人は三人組で男性が二人、女性が一人だと推定されます。また二件目で襲われた被害者の男性は空手のインターハイ出場経験があるにも関わらず、犯人の暴力に反応できなかったとコメントしています。このことから、三人の内少なくとも一人は相当腕の立つ人物であると予想されます。――以上、現場からお伝えしました」

「まったく最近は物騒よね。特に昨日の現場は真奈美たちの高校からすぐの場所でしょう。学校側はこの事件をどのように考えているのかしら」

 画面が別のニュースに切り替わると、お母さんはため息混じりに呟いた。言外に私を心配する気遣いが感じられる。

「新聞にも今報道された内容以外のことは書かれてないな。敢えて付け加えるなら、四件とも夕方~深夜の時間帯に犯行が行われていることと、ある程度計画性を伴った犯行なのではないかということくらいだな。分からないのは、対象が個人だったり企業だったり一貫性がない点だ」

 お父さんも真剣な表情で新聞に目を通している。元々、お父さんとお母さんの交流は、推理小説好きが集まるネット上のコミュニティで知り合ったのをきっかけに始まったらしく、二人とも細かな疑問でさえ見逃さない。

「ふん。コソドロの真似事をするような奴らなんて、どうせろくでもない連中に違いないわい。儂なら即座に一捻りにしてやるのにのう」

 一方、おじいちゃんの思考はとってもわかりやすい。相手が誰であろうとまず技をキメる――これだけだ。

「でも、この強盗犯割と大胆よね。大企業やインターハイ出場経験のある人を狙ったり、わざわざ人通りの多い道路で犯行に及んだり……。犯罪となれば、普通その行いを少しでも世間の目から隠そうとするものなのに、彼らは逆に自分たちの力量を誇示しているような印象を受けるわ」

「ふむ、真奈美の指摘は案外この一連の事件の核心をついているかもな。彼らは自分たちの犯行に絶対の自信を持っている。世間が注目を集め出しても、むしろ臨むところだと言いたそうな感じを受けるな。こりゃ、近い内にもっと目立つ場所で犯行に及ぶかもしれないぞ」

「あなた、そんな楽しそうに言わないでください。真奈美が巻き込まれる可能性だってゼロではないんですから」

「うむ。犯人の一人はかなりの手練れだと言っておったしのう。真奈美ではまだ太刀打ちできまい」

「いや、おじいちゃん。そもそも、私戦う気ないから」

 おじいちゃんは私を女戦士にでも育てたいのだろうか。随分と迷惑な話だ。

「ま、誰かと一緒に行動すれば襲われることはないだろう。真奈美は希ちゃんをしっかり守ってあげるんだぞ」

「うん!」

「ただし、くれぐれも手は出しちゃダメだぞ」

「わ、分かっているわよ」

「どうだか……。真奈美は今でも希ちゃんのオリジナルグッズを次々と開発しているみたいだしねえ……。お母さんは強盗事件よりもむしろそっちが心配よ」

「まあまあ、母さん。真奈美は小さな子供が好きなだけであって――」

「あなたは黙っていてください! それに希ちゃんは真奈美の同級生です!」

 はい、ごもっともでございます……。

「儂が気になったのは真奈美の部屋に飾ってあるカレンダーじゃが、三月十六日に“絶叫スペシャルランドで希ちゃんとデート!”とハートマーク付きで書かれておったんじゃ」

 きゃああああ!! いつの間に私のスケジュールをチェックしてたの、おじいちゃん!?

 案の定、お母さんが険しい目つきで私を見る。

「真奈美、デートというのは――」

「まあいいじゃないか、母さん。さっき新聞に挟まっていた警備バイトのチラシで見たんだが、『絶叫スペシャルランド』はアメリカにある“絶叫フリークの聖地”、シックスフラッグス・マジックマウンテンに匹敵するほどの巨大遊園地らしいじゃないか。そんな凄い所にはやっぱり一番仲の良い友達と行くのがベストだと父さんは思うけどね」

 そうフォローして、お母さんに気付かれないよう私にウインクするお父さん。こういうときの仕草は無駄にかっこいいから困りものだ。

「しょうがないわね。行ってもいいけど、あんまり羽目を外しすぎないようにね。あと夕飯までの時間には帰ってくること。いい?」

「それと、希ちゃんの写真も数枚――」

「あなた、いい加減にしてください!」

「はい……」

 ショボーンと神妙な顔つきになるお父さん。そんなに希ちゃんの写真に期待していたのだろうか……。でもまあ、確かに騒がしいけど、これも家族団欒よね。

 そんなこんなで無事お母さんの許可も下り、私の遊園地行きは正式に決まった。

 まさかお母さんの杞憂が現実になるとは知りもせずに……。


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