エピローグ
遠くからじっと隼人はひとつの建物を見つめていた。そう、朔良がいる大きな総合病院。
「良かったな」
口元に自然と笑みが溢れた。
朔良の感情の変化が分かる幼なじみはここにはいない。だからこの言葉は、朔良の心身のことというよりはもっと漠然としたものだった。
「俺も頑張るか」
そうひとりごちると、サングラスを掛けた。
あれから新聞や週刊誌にあのときの車内の写真が載ったが、幸い誰にもまだばれていない。
自分だけならいくらでも警察に行ってやる。嫌いだけど。
しかしケイは駄目だ。
ケイは二日続けて外泊してことになってしまい、母親に軟禁されている。
それを向かいに行くのだ。本人の実家に向かいに行くなんて変な話だ、と隼人は思うが仕方ない。
ケイの両親はいつも怯えている。もはやそれは力だけではなく、ケイそのものに。
それが周りにばれないように異常なまでに隠すのだ。それは大学に進学すると決めただけで、大騒ぎしたほどだった。
両親から見れば、隼人はケイを連れ出す悪となっている。
ずいぶん昔から酷いことを言われた。
しかしいくら苦手な人種でも、引き下がるわけにはいかない。
(朔良があんなに勇気あんだ、俺だって出来る)
初めて起こす反乱。ケイを自由にする、なんて今までは頭によぎっても出来ずにいた。
いくら自分が嫌悪感しか持てない存在でも、ケイにとっては実の親だ。しかしケイも変わろうとしているのが今回分かった。
「待ってろよ。ケイ」
天高く腕を伸ばすと、隼人は駆け出した。
空が蒼かった。冬ももうすぐ終わる。いつまでも同じ処にはいられないのだ。
―――季節も、人の想いも。