もやもやした気持ち
ぱちくり、シーナが目を瞬かせる。
目を擦っても目の前には見慣れた天井があり、少し視界を動かせば、不機嫌そうなフィフラティエの姿がある。
さっきまで街にいたはずじゃ、とシーナは混乱して周囲を見回した。
「……ゆ、め……?」
「おつかいのことを言ってるの? それなら夢じゃないよ。ガーティエラが意識の無いシーナを連れ帰ってきただけ」
「ガーティエラ様が……? ……私は……」
「何かがあって、気絶でもしたんじゃない。……それより」
フィフラティエはどうでもよさそうな態度で話を切ると、シーナの目を覗き込んだ。
そして、少し嫌そうな声で訊ねる。
「ラクネには会った?」
「……らくね……? 誰かのお名前……ですか?」
「ふぅん……会ってないならいい。記憶を消されてる可能性も無いわけじゃないけど……まぁいいか。僕が寄越したってわかってるなら、下手な真似はしないでしょ……」
「?」
「起きれる? ガーティエラが怪しんで帰らないんだよ。おかしいところが無いならさっさと会って。早く帰したいから」
フィフラティエの言葉にシーナは不思議そうな顔をしながら頷くと、そっとベッドから降りた。
服は外出時から変わっていて、着替えさせてくれたのかな、とシーナはフィフラティエを見る。
「……このお洋服、初めて着ます!」
「ずっとクローゼットにあったよ。……やっぱり、顔が整ってるから何着ても似合うね。眺める分には好きだよ、美術品みたいで。後で部屋においで、話聞くついでに髪も結んであげる」
「はぁい! じゃあ、ガーティエラ様に会いに行ってきます! どこにいらっしゃいますか!」
「あ〜……出てすぐの曲がり角の奥。右ね。はい、行ってきて」
フィフラティエは雑にガーティエラの位置を伝えると、シーナを送り出した。
シーナは言われた通りに廊下を歩き、曲がり角からひょこりと顔を出してみる。
するとそこには、壁に背中を預けて腕を組んでいるガーティエラがいた。
「ガーティエラ様! あの、運んでくれたって聞きました! ありがとうございました!」
「ん? おー、シーナちゃん。何事も無かったようで何よりだ。身体はもう大丈夫なのか?」
「はい! 元気です!」
「おー、そーかそーか、そりゃ良かった。……フィフラティエから、ちょっとは話聞いてるか?」
ガーティエラに質問されると、シーナは先程までのフィフラティエとの会話を思い出す。
そして、小さく頷くと、フィフラティエが言っていたことを繰り返した。
「ガーティエラ……様が、怪しんで帰らない……って、言っていました。私と会ったら、ガーティエラ様は帰るんですよね?」
「おー、一応なぁ……別にどうでもいいっちゃいいんだが、気になったことがあってな。シーナちゃん、自分が怪我したら俺が実験されるのかって、怯えてたろ? シーナちゃんは、フィフラティエに実験されてんのか?」
「実験はされていません! お薬を作るお手伝いをしています!」
「ふーん。じゃ、なんで怯えてたんだ?」
「……フー様の作るお薬は……怖いものです……」
事故とはいえ、シーナはフィフラティエが作った薬の影響で呼吸困難に陥ったことがあるので、上手く説明できないままシーナは顔色を悪くした。
そして、口元をまごつかせた後に、シーナはガーティエラになんとか説明をしようとする。
「……あの……えっとっ。私が、悪くて……フー様の言いつけを破ったから……」
「シーナ」
説明しようとするシーナに、後ろから声が掛けられた。
振り返ると、そこにはやれやれと言わんばかりの仕草をするフィフラティエが立っている。
ぱちぱちとシーナが目を瞬かせていると、フィフラティエはじっとりとシーナを見つめながら言った。
「説明の仕方が悪いにも程があるよ……ガーティエラ、絶対勘違いしてるよ……まぁ、それはそうとして、ガーティエラ。そこまでシーナを気に掛ける理由は?」
「ん? シーナちゃんは、お前のことを慕ってるんだろ? 俺はその理由が気になってるだけだよ」
「刷り込み。どうせ、新薬を開発したとでも思ってたんでしょ。何に使うつもりだったのか知らないけど、そんな都合のいいものないよ」
フィフラティエは肩を竦めると、不思議そうな顔をしているシーナの顎を撫でた。
目線を合わせることもなく、上から見下ろしながらペットにするようにシーナの顎を撫でるフィフラティエは、ふっと小さくその口元に笑みを刻んでみせる。
「シーナに、薬の実験はしない。他に実験するべきことがあるからね……ふふ。それまで、悪影響が無いようにしないと」
「……ああ、なんだ。シーナちゃんに情が湧いたわけじゃないのかぁ……」
「は? そんなわけ……あ、お前、また何か企んでるのか。シーナを人質にしようとでも思ったの?」
「俺はお前に興味があるんだよ。だから、情が湧いたお前がどんな行動をするのかにも興味がある。それだけだ」
「あ〜〜、本当面倒くさい……もういい、報酬はやるから早く行け。ほら……ああ、シーナ。先に部屋戻ってて、この性悪鳥追い出してくるから」
「えっ、あっ、はい……!」
フィフラティエに指示され、シーナは慌てて頷くと部屋に戻った。
二人だけの会話をフィフラティエとガーティエラが繰り広げていたことに対する疎外感と、急に屋敷に戻ってきたことに対する不満で、もやもやした気持ちを抱えながら。




