おつかい完了?
それからしばらくの時間が経ち。
シーナは時々美味しそうな匂いに釣られつつも、なんとか誘惑に打ち勝ち、おつかいは順調に進んでいた。
そうして残るは、最後のお店である。
理由はわからないが、メモにはここは最後に行くように、と書き添えられており、シーナは緊張しながら最後のお店へと足を進めていた。
「……こ、ここ、で、合ってる……うん……。……ほ、本当にここで最後……? 全部買った……? ……えっと……調味料と、パンと、お野菜と、お肉……それから、お薬を作る材料の、変な色の水、よくわかんない粉……それと、乾燥した種……? みたいなやつ……うぅ、重たい……えっと、メモ……お水がこれで、粉が……この長い名前のやつ……それで……うん、全部買ってある……」
シーナは最終確認をすると、目の前の建物を見た。
少し古びているものの、建物自体は周囲のものとそう変わりなく、怪しい雰囲気は無い。
ただただ、メモに書き添えられていた一文が不穏なだけだ。
大丈夫、大丈夫、とシーナは心の中で繰り返し、覚悟を決めると、そっと扉を開けて顔を覗かせた。
「いらっしゃいませ」
穏やかな女性の声が聞こえてきて、シーナは少しほっとしながらお店に入る。
中には大量の薬草が並べられており、色んな匂いが混ざっていて、鼻の奥がツンと痛くなった。
う、と顔を顰めそうになって、シーナは慌てて失礼だからと頭を振る。
「あの、えっと……おつかいに来たんですけど! ええと……うぅ、変な名前がたくさん……」
「おつかいに来られたのですね。メモに欲しいものが書いてあるのでしたら、見せていただければ全てご用意できますよ。どういたしますか?」
「あ、えっと……じゃあ、お願いしますっ」
シーナはちらりとメモを見て、ぺこりと頭を下げてからメモを手渡した。
店員に座って待つよう言われたので、シーナは周囲を眺めながら大人しく座って待つ。
少しすると、作業中の店員が話しかけてきた。
「お客様。もし間違っていたら申し訳ありません、もしかして、フィフラティエ様のところからいらっしゃったのでしょうか」
「えっ……? フー様のこと、知ってるんですか!?」
「はい、いつもご贔屓にしてくださっています。フィフラティエ様のおつかいなのでしたら……少し、サービスしておきますね。よく買っていかれる薬草も入れておきますので、どうぞフィフラティエ様にお伝えください」
「わあ、ありがとうございます! ちゃんと伝えますねっ!」
「はい。……袋に詰め終わりましたよ、こちらをどうぞ。お代金、頂戴いたしますね」
シーナは頷くと、言われた通りのお金を払い、しっかりと薬草の入った袋を抱えた。
そして、笑顔でぺこりと頭を下げてからお店を出る。
後は、重たい荷物を街の外まで運び、ガーティエラと合流するだけだ。
そうすれば、行きと同じようにガーティエラがフィフラティエの元まで送り届けてくれるだろう。
「……あと、もう少し……頑張らないと……!」
シーナは気合を入れると、メモを片手に荷物を抱え直し、街の出口へと向かった。
複数のお店に寄らない分、道は行きよりも幾分か簡単である。
お菓子は買わない、買わない、と言い聞かせながら、シーナは誘惑に抗いつつ進んでいく。
「美味しそうな、匂い……うぅ……だ、だめだめ。フー様に怒られちゃう……」
そんな風に、必死に誘惑に抗っていたからだろうか。
シーナは、すぐそこで起きている騒動に気付かず、そこに足を踏み入れてしまった。
大荷物を抱えて必死に歩くシーナに、人の良さそうな青年が近付いてくる。
「お嬢さん、少しいいかな?」
「えっ? ……あっ、はい、えっと……?」
「お嬢さんは、どこから来たのかな? 街の外かい?」
「……え……と、そうですっ。おつかいに、来ました!」
青年の質問にシーナは無邪気に答えると、不思議そうに首を傾げた。
街に入る時にも同じようなことをもう答えているから、きっとフィフラティエにも怒られないだろうと思って答えたが、どうしてここでそんなことを聞かれるのだろう、と不思議に思ったのだ。
と、そこでシーナは、やっと周囲が少し騒がしいことに気が付いた。
空気がピリピリしていて、街の人達は少し怖がっているように見える。
何かあったのかも、と不安になって、シーナはフードの奥で不安そうな表情をする。
「……あの……何か、あったんですか……? 怖いこと……?」
「ああ。実は、街の近くに人外……化け物が出たんだ。お嬢さん、街に頼れる人はいるかな? いるなら、怖い化け物がいなくなるまでここにいるといい」
「……えっと……大丈夫です! 街のすぐ外に、私を街まで送ってくれた人がいるんです! 帰る時も一緒なので、安全です!」
「ああ、なるほど。街の外に頼れる人がいるんだね。でも……人とは懸け離れた姿をした怪物だそうだから、その人と一緒に街に居た方がいいんじゃないかな」
青年の話を聞きながら、シーナはどうしよう、と考える。
街の近くに怖いものがいるのなら、ガーティエラも一緒に避難した方がいいのかも、と。
だが何にせよ、先ずガーティエラと合流して、相談をしないといけない。
ガーティエラならその怖いものについても知っているかもしれないし、とシーナは次の行動を決め、別れる前に青年に一つの質問をすることにした。
その怖いものがなんなのか、後でガーティエラに質問できるように。
「あの、その怖いのって、どんな見た目をしているんですか?」
「ああ、とても恐ろしい姿をしているんだそうだ。なんでも、頭部が鳥のつば――」
ぷちん、とシーナの視界が暗転し、その思考が一瞬で深い闇へと沈んだ。
一瞬で眠りに落ちたような、そんな感覚。
シーナは自分が意識を失ったことにも自覚がないまま、目を開ける――
「……ああ。おはよう、シーナ」
そして目に映ったのは、見慣れた天井。
気が付けばシーナは屋敷に戻ってきていて、傍にはフィフラティエが佇んでいた。




