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薄幸少女はジョウシキを疑わない  作者: 木に生る猫
第一章

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8/10

おつかい完了?

 それからしばらくの時間が経ち。

 シーナは時々美味しそうな匂いに釣られつつも、なんとか誘惑に打ち勝ち、おつかいは順調に進んでいた。

 そうして残るは、最後のお店である。

 理由はわからないが、メモにはここは最後に行くように、と書き添えられており、シーナは緊張しながら最後のお店へと足を進めていた。


「……こ、ここ、で、合ってる……うん……。……ほ、本当にここで最後……? 全部買った……? ……えっと……調味料と、パンと、お野菜と、お肉……それから、お薬を作る材料の、変な色の水、よくわかんない粉……それと、乾燥した種……? みたいなやつ……うぅ、重たい……えっと、メモ……お水がこれで、粉が……この長い名前のやつ……それで……うん、全部買ってある……」


 シーナは最終確認をすると、目の前の建物を見た。

 少し古びているものの、建物自体は周囲のものとそう変わりなく、怪しい雰囲気は無い。

 ただただ、メモに書き添えられていた一文が不穏なだけだ。


 大丈夫、大丈夫、とシーナは心の中で繰り返し、覚悟を決めると、そっと扉を開けて顔を覗かせた。


「いらっしゃいませ」


 穏やかな女性の声が聞こえてきて、シーナは少しほっとしながらお店に入る。

 中には大量の薬草が並べられており、色んな匂いが混ざっていて、鼻の奥がツンと痛くなった。

 う、と顔を顰めそうになって、シーナは慌てて失礼だからと頭を振る。


「あの、えっと……おつかいに来たんですけど! ええと……うぅ、変な名前がたくさん……」

「おつかいに来られたのですね。メモに欲しいものが書いてあるのでしたら、見せていただければ全てご用意できますよ。どういたしますか?」

「あ、えっと……じゃあ、お願いしますっ」


 シーナはちらりとメモを見て、ぺこりと頭を下げてからメモを手渡した。

 店員に座って待つよう言われたので、シーナは周囲を眺めながら大人しく座って待つ。

 少しすると、作業中の店員が話しかけてきた。


「お客様。もし間違っていたら申し訳ありません、もしかして、フィフラティエ様のところからいらっしゃったのでしょうか」

「えっ……? フー様のこと、知ってるんですか!?」

「はい、いつもご贔屓にしてくださっています。フィフラティエ様のおつかいなのでしたら……少し、サービスしておきますね。よく買っていかれる薬草も入れておきますので、どうぞフィフラティエ様にお伝えください」

「わあ、ありがとうございます! ちゃんと伝えますねっ!」

「はい。……袋に詰め終わりましたよ、こちらをどうぞ。お代金、頂戴いたしますね」


 シーナは頷くと、言われた通りのお金を払い、しっかりと薬草の入った袋を抱えた。

 そして、笑顔でぺこりと頭を下げてからお店を出る。

 後は、重たい荷物を街の外まで運び、ガーティエラと合流するだけだ。

 そうすれば、行きと同じようにガーティエラがフィフラティエの元まで送り届けてくれるだろう。


「……あと、もう少し……頑張らないと……!」


 シーナは気合を入れると、メモを片手に荷物を抱え直し、街の出口へと向かった。

 複数のお店に寄らない分、道は行きよりも幾分か簡単である。

 お菓子は買わない、買わない、と言い聞かせながら、シーナは誘惑に抗いつつ進んでいく。


「美味しそうな、匂い……うぅ……だ、だめだめ。フー様に怒られちゃう……」


 そんな風に、必死に誘惑に抗っていたからだろうか。

 シーナは、すぐそこで起きている騒動に気付かず、そこに足を踏み入れてしまった。

 大荷物を抱えて必死に歩くシーナに、人の良さそうな青年が近付いてくる。


「お嬢さん、少しいいかな?」

「えっ? ……あっ、はい、えっと……?」

「お嬢さんは、どこから来たのかな? 街の外かい?」

「……え……と、そうですっ。おつかいに、来ました!」


 青年の質問にシーナは無邪気に答えると、不思議そうに首を傾げた。

 街に入る時にも同じようなことをもう答えているから、きっとフィフラティエにも怒られないだろうと思って答えたが、どうしてここでそんなことを聞かれるのだろう、と不思議に思ったのだ。

 と、そこでシーナは、やっと周囲が少し騒がしいことに気が付いた。


 空気がピリピリしていて、街の人達は少し怖がっているように見える。

 何かあったのかも、と不安になって、シーナはフードの奥で不安そうな表情をする。


「……あの……何か、あったんですか……? 怖いこと……?」

「ああ。実は、街の近くに人外……化け物が出たんだ。お嬢さん、街に頼れる人はいるかな? いるなら、怖い化け物がいなくなるまでここにいるといい」

「……えっと……大丈夫です! 街のすぐ外に、私を街まで送ってくれた人がいるんです! 帰る時も一緒なので、安全です!」

「ああ、なるほど。街の外に頼れる人がいるんだね。でも……人とは懸け離れた姿をした怪物だそうだから、その人と一緒に街に居た方がいいんじゃないかな」


 青年の話を聞きながら、シーナはどうしよう、と考える。

 街の近くに怖いものがいるのなら、ガーティエラも一緒に避難した方がいいのかも、と。

 だが何にせよ、先ずガーティエラと合流して、相談をしないといけない。

 ガーティエラならその怖いものについても知っているかもしれないし、とシーナは次の行動を決め、別れる前に青年に一つの質問をすることにした。

 その怖いものがなんなのか、後でガーティエラに質問できるように。


「あの、その怖いのって、どんな見た目をしているんですか?」

「ああ、とても恐ろしい姿をしているんだそうだ。なんでも、頭部が鳥のつば――」


 ぷちん、とシーナの視界が暗転し、その思考が一瞬で深い闇へと沈んだ。

 一瞬で眠りに落ちたような、そんな感覚。

 シーナは自分が意識を失ったことにも自覚がないまま、目を開ける――


「……ああ。おはよう、シーナ」


 そして目に映ったのは、見慣れた天井。

 気が付けばシーナは屋敷に戻ってきていて、傍にはフィフラティエが佇んでいた。

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