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薄幸少女はジョウシキを疑わない  作者: 木に生る猫
第一章

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7/10

甘い誘惑にご用心

 舌を噛んでしまい、静かに震えているシーナを目的地少し手前で降ろし、ガーティエラがやれやれと首を振る。

 ガーティエラは内心面倒に思いつつ、シーナと目線の高さを合わせると軽くその顎を掴んだ。


「ほら、シーナちゃん。噛んだとこ見せてみな〜……ん、軽く噛んだだけか。痛いのなんか、長引いても数日だ。あんま気にすんなよ」

「ふ、ううっ……ぅ〜。……はい……」

「泣くな泣くな。おつかいするんだろ? 泣いてちゃ怪しまれるぞー?」


 ガーティエラに言われると、シーナは袖で涙を拭って前を見た。

 少し離れた場所に、街の入り口が見えている。

 以前フィフラティエと街に来た時は、『フィフラティエが借りることができる身体』が手元に無くて、入り口を通らずに街に入った。

 だが、今回は、入り口から街に入ることになることだろう。

 シーナは緊張でドキドキする胸を押さえつつ、ぎゅっと唇を引き結ぶ。


「……」

「本当に大丈夫かぁ……? ……はぁ……シーナちゃん、よーく聞けよ? 俺はこれから離れて見守る。何かトラブルがあれば介入するけど、シーナちゃんからは見えない位置にいるからな。些細なことで呼んだりするなよ。怪しまれるし」

「は、はいっ! えっと……ガーティエラ様は、監視役……で……私が、一人でお買い物をするんですよね……!」

「そうだ。うし、理解はしてるな。いいか、トラブルは起こすなよ。怪我したら怒られるのは俺なんだからな……」

「……私が怪我をしたら……ガーティエラ様が、フー様のお薬の実験をされちゃうんですか?」


 少し顔色を悪くしながらシーナが尋ねると、ガーティエラは何も言わずにシーナを見つめた。

 その視線にシーナが首を傾げていると、ガーティエラは笑いながら頷く。


「ははっ、そーだよ。だから、くれぐれも怪我には気を付けるんだぞ。……よし、じゃあ俺は行く。街は向こうだからな? 見えてるな?」

「はいっ」

「じゃ、行ってこい。俺のことは気にすんなよー」


 ガーティエラはぷらぷらと手を振ると、一瞬でシーナの視界から消えた。

 ぱちぱちと目を瞬かせたシーナだが、こういう不思議な出来事はフィフラティエの近くに居るときも起きているので、大して気にすることなく街へと向かった。



 なんとか街の入り口、検問所らしき場所に辿り着き、シーナは息を切らしながらも短い列に並んだ。

 疲労故に少々ふらつきつつも、シーナはしゃんと背筋を伸ばして順番を待つ。


「え、えっと、入るの、お金、いる……? いらない……? は、入れる……? 門番さん、怖そう……うぅ……フー様ぁ」


 背筋こそ伸ばしているものの、シーナは緊張して泣きそうになっていたが。

 と、そうこうしている内に順番が来て、シーナはそっと門番と思わしき人を見上げた。


「あ、あのっ……えっと……街、入れますか……?」

「……子ども? 一人で来たのか? それとも迷子か?」

「あっ……おつかい、です! お買い物に来ました!」

「おー、そうかそうか。小さいのに偉いなぁ。ちょっと待ってろよ、念のため手配書との照合を……顔、一瞬だけ見せれるかー?」

「か、顔っ……?」


 フィフラティエに外さないようにと言われていることを思い返しながら、シーナがぎゅっとフードを握り締めた。

 シーナの様子に門番が首を傾げていると、シーナはおずおずと説明する。


「えっ……と……あの、外さないようにって……言われてて……は、外さないとだめ、ですか? 入れない……?」

「……んー。ちょっと待っててな……手配書に、子どもはいないな。本来なら見ないといけないんだが……これなら大丈夫だろう。言いつけを守れて偉いな、通って大丈夫だ。おつかい、頑張れよ」

「あ、ありがとうございますっ。頑張ります!」


 シーナはお礼を言うと、小走りで街の中へと入った。

 そして、懐からメモを取り出すと、道の端でメモと周辺の道を確認する。


「えっと……今がここ、だから……ええと、方角を照らし合わせて……太陽があっちだから……こっちの、道を……まずは、真っ直ぐ……二つ目の曲がり道が見えるまで、歩く……」


 口に出して確かめながらシーナは道を確認し、最初の目的地へと歩き出した。

 しかし、少し歩くとなんだかいい匂いが漂ってきて、シーナはふらふらと匂いのする方へと引き寄せられてしまう。

 それは、甘ーいお菓子のような匂いで、甘い物が好きなシーナはお店に行くまでのルートから外れて、どんどんと引き寄せられていく。


「美味しそうな匂い……いたっ!?」


 だが突然、手の甲に痛みが走ってシーナは足を止めた。

 見れば、シーナの左手が右手の甲をぎゅぅっと抓っている。

 そんなことをするつもりなんてないのに、シーナの手は強く手の甲を抓るので、シーナは泣きそうになってしまった。


 どうして離れないの、とシーナが唇を噛み締めて泣くのを我慢していると、シーナの左手が手の甲から離れた。

 シーナは混乱しながら左手を見るが、もう勝手に動き出すようなことはなさそうだ。


「……あっ。甘い物じゃなくて、おつかい……必要なもの、買わないと……」


 シーナはふるふると首を振ると、メモを確認して元々歩いていた道に戻り、改めて目的のお店へと向かった。

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