ガーティエラとの出会い
数日後、シーナはフィフラティエに屋敷の外へと連れ出されていた。
もうじきフィフラティエが言っていた知り合いが到着するので、そのまま買い物に行ってもらう、ということらしい。
「……さて……シーナ。ほら、これ着て」
「? ……あ! えへへ……可愛い服……」
「ちゃんとフードも被って。シーナの容姿は目立つから、外しちゃダメ」
フィフラティエはシーナにローブを着せ、満足そうに頷いた。
メモも、お金も、しっかりと持っていることを確認して、フィフラティエは腕を組んで知り合いの到着を待つ。
「……チッ。どこで道草食ってんだか……報酬、考え直すか……?」
「オイ、やめろ。お前が早いんだろうが、フィフラティエ」
「……来たか、ガーティエラ。遅かったな」
知らない声がして、シーナはその姿も確認しないままフィフラティエの後ろに隠れた。
そして、そーっと顔を覗かせて、声の主の姿を確認する。
フィフラティエと同じく、人外なのであろう彼は、シーナとは違う姿をしていた。
ただ、彼はフィフラティエとは違い、たった一つの大きな特徴を除いて、ヒトと言っても差し支えないくらいには人間と同じ姿をしていた。
人間と同じ服を着ていて、肌の色もおかしなところはない。
ただ一つ、彼を人外たらしめている大きな特徴がある。
それは――
「……鳥さんの、羽?」
人間の頭部に当たる場所には、鳥の翼のようなナニカしかなかった。
真っ白なそれは、きっと翼のある生き物の背にあれば何の違和感も無いのだろうが、首から翼の生えた彼は、紛れもなく化け物である。
「……お? 言ってたのはそいつか? よう、シーナちゃん。俺はガーティエラだ。今日はよろしくな?」
「がーてぃ……ガーティエラ様っ。よ、よろしくお願いします、シーナです!」
「……おお……本当に怖がらないのな。この頭見ても何も思わないのか?」
「お口がないのにどうやって喋っているのか不思議です! あっ、それから、後ろから見てもいいですか!」
怖がる様子もなく元気に質問をするシーナにガーティエラが少し気圧されたように後退った。
そして、後ろを見たいと言われたので、不思議に思いながら後ろを向いてみる。
「フー様! 凄いです、後ろにも羽があります! 鳥さんの羽……四枚?」
「ふーん、良かったね。……ガーティエラのことは普通に呼べるんだから、もうその呼び方やめたら?」
「? ……お母様……?」
「だっははははははは! そうかそうか、フィフラティエがお母様なぁ! いいじゃねーかシーナちゃん、そう呼んでやれ!」
「チッ……シーナ、次そう呼んだら薬の実験台にするから。人間用に調整したけどまだ実験できてないやつ、たくさんあるからね。……それから……」
フィフラティエはとても不機嫌そうにシーナに警告をすると、その顔に不気味な笑みを貼り付けてガーティエラを見た。
そして、一気に上機嫌な雰囲気になると、どこからか薬瓶を取り出してガーティエラの頭部へと突き付ける。
「人外用の毒――薬はもっとたくさん。如何せん実験対象が少ないもんだから、実用段階に中々持っていけないんだよねぇ……ははっ!」
「おいやめろ殺す気か!?」
「お前が死んだって僕は困らないよ。僕のことが知りたいんだろう? 僕の趣味をその身で味わって、知ればいいじゃないか。なぁ?」
「なぁじゃねぇよそれ近付けんな」
「……仲良しなんですね……!」
「「違う」」
声を揃えて否定され、シーナが首を傾げた。
本で得た知識から仲良し判定を下したんだろう、と推測しつつ、フィフラティエはシーナをガーティエラへと押し付ける。
フィフラティエが否定した時点でシーナはすぐに認識を改めるはずなので、しつこく否定しても仕方がないしな、なんてことを思いつつ。
「……ガーティエラ。帰ってきた時、シーナに一つでも傷が付いていれば……生きて帰さないから」
「お? なんだお前、シーナちゃんのこと大切に思ってんのか?」
「違う。シーナは研究対象だから、死なれると困るだけ。お前と違ってね。薬とか使っても死なないように、しっかり育ってもらわないと」
「げぇ……フィフラティエお前、こんな子どもにまで……」
「今はちゃんと育ててるって。……ほら、シーナ。財布もメモも、ちゃんと持ったね? ガーティエラの言うことちゃんと聞くんだよ。地図の見方もしっかり覚えてるね?」
「はい、フー様! 私、ちゃんと地図を見てお買い物してきます!」
「よし。顔見られないように気を付けなよ。……後はよろしく」
フィフラティエはシーナへいくつかの確認をすると、くるりと振り返って手を振りながら屋敷へと戻っていった。
ガーティエラはそれを眺め、そして少し寂しそうなシーナを見下ろす。
「……はー……子どもの相手、慣れてないんだけどなぁ……」
「ガーティエラ様……?」
「よーし……シーナちゃん、街までは連れてってやるからな。ちょっと飛ぶけど、高いところは平気か?」
「飛ぶ……? えっと、平気です……でも、ガーティエラ様は飛べるんですか? 頭の羽で、飛ぶ……?」
シーナはガーティエラの質問に答えつつ首を傾げる。
翼が無いと飛ぶのは難しいことをシーナは知っているので、飛ぶと聞いて不思議に思ったのだ。
ガーティエラの翼は、背中ではなく頭にあるだけなので。
しかも、人の身体を浮かばせるにはとても頼りないサイズだ。
「俺がいいって言うまで、目ぇ瞑ってな? ちょっとしたマジックを見せてやるよ」
「は、はいっ。瞑ります!」
シーナが言われた通りにぎゅっと目を瞑り、数秒後。
ガーティエラにもういいと声を掛けられ、シーナはそっと目を開けた。
「……わあ!?」
ガーティエラの背中に、先程までは確実に無かった翼が生えていた。
真っ白なそれは、人も十分に支えられそうなほどには大きい。
ガーティエラは自慢げに胸を張ると、何も言わずにシーナを抱き上げる。
「飛ぶから、口閉じてろよ。空中で喋ると舌を噛むからな……お前のゴシュジンサマは、傷一つ無い状態での帰宅をお望みだ。お前が怪我すると、俺が責任を負うことになるんだからな! 約束だぞ!」
「わかりました! 約束です! 私、喋りません!」
「……よし……じゃあ、行くぞ!」
ガーティエラがそう宣言し、助走をつけて一気に空中へと飛び上がった。
翼をはためかせて飛んでいるのを見て、シーナは目を輝かせる。
「凄いです、ガーティエラしゃ――あぅっ」
「喋るなって言ったよな!?」
飛び上がって数秒で約束を破ったシーナに、ガーティエラが声を大にして叫んだ。




