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薄幸少女はジョウシキを疑わない  作者: 木に生る猫
第一章

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6/10

ガーティエラとの出会い

 数日後、シーナはフィフラティエに屋敷の外へと連れ出されていた。

 もうじきフィフラティエが言っていた知り合いが到着するので、そのまま買い物に行ってもらう、ということらしい。


「……さて……シーナ。ほら、これ着て」

「? ……あ! えへへ……可愛い服……」

「ちゃんとフードも被って。シーナの容姿は目立つから、外しちゃダメ」


 フィフラティエはシーナにローブを着せ、満足そうに頷いた。

 メモも、お金も、しっかりと持っていることを確認して、フィフラティエは腕を組んで知り合いの到着を待つ。


「……チッ。どこで道草食ってんだか……報酬、考え直すか……?」

「オイ、やめろ。お前が早いんだろうが、フィフラティエ」

「……来たか、ガーティエラ。遅かったな」


 知らない声がして、シーナはその姿も確認しないままフィフラティエの後ろに隠れた。

 そして、そーっと顔を覗かせて、声の主の姿を確認する。

 フィフラティエと同じく、人外なのであろう彼は、シーナとは違う姿をしていた。


 ただ、彼はフィフラティエとは違い、たった一つの大きな特徴を除いて、ヒトと言っても差し支えないくらいには人間と同じ姿をしていた。

 人間と同じ服を着ていて、肌の色もおかしなところはない。

 ただ一つ、彼を人外たらしめている大きな特徴がある。


 それは――


「……鳥さんの、羽?」


 人間の頭部に当たる場所には、鳥の翼のようなナニカしかなかった。

 真っ白なそれは、きっと翼のある生き物の背にあれば何の違和感も無いのだろうが、首から翼の生えた彼は、紛れもなく化け物である。


「……お? 言ってたのはそいつか? よう、シーナちゃん。俺はガーティエラだ。今日はよろしくな?」

「がーてぃ……ガーティエラ様っ。よ、よろしくお願いします、シーナです!」

「……おお……本当に怖がらないのな。この頭見ても何も思わないのか?」

「お口がないのにどうやって喋っているのか不思議です! あっ、それから、後ろから見てもいいですか!」


 怖がる様子もなく元気に質問をするシーナにガーティエラが少し気圧されたように後退った。

 そして、後ろを見たいと言われたので、不思議に思いながら後ろを向いてみる。


「フー様! 凄いです、後ろにも羽があります! 鳥さんの羽……四枚?」

「ふーん、良かったね。……ガーティエラのことは普通に呼べるんだから、もうその呼び方やめたら?」

「? ……お母様……?」

「だっははははははは! そうかそうか、フィフラティエがお母様なぁ! いいじゃねーかシーナちゃん、そう呼んでやれ!」

「チッ……シーナ、次そう呼んだら薬の実験台にするから。人間用に調整したけどまだ実験できてないやつ、たくさんあるからね。……それから……」


 フィフラティエはとても不機嫌そうにシーナに警告をすると、その顔に不気味な笑みを貼り付けてガーティエラを見た。

 そして、一気に上機嫌な雰囲気になると、どこからか薬瓶を取り出してガーティエラの頭部へと突き付ける。


「人外用の毒――薬はもっとたくさん。如何せん実験対象が少ないもんだから、実用段階に中々持っていけないんだよねぇ……ははっ!」

「おいやめろ殺す気か!?」

「お前が死んだって僕は困らないよ。僕のことが知りたいんだろう? 僕の趣味をその身で味わって、知ればいいじゃないか。なぁ?」

「なぁじゃねぇよそれ近付けんな」

「……仲良しなんですね……!」

「「違う」」


 声を揃えて否定され、シーナが首を傾げた。

 本で得た知識から仲良し判定を下したんだろう、と推測しつつ、フィフラティエはシーナをガーティエラへと押し付ける。

 フィフラティエが否定した時点でシーナはすぐに認識を改めるはずなので、しつこく否定しても仕方がないしな、なんてことを思いつつ。


「……ガーティエラ。帰ってきた時、シーナに一つでも傷が付いていれば……生きて帰さないから」

「お? なんだお前、シーナちゃんのこと大切に思ってんのか?」

「違う。シーナは研究対象だから、死なれると困るだけ。お前と違ってね。薬とか使っても死なないように、しっかり育ってもらわないと」

「げぇ……フィフラティエお前、こんな子どもにまで……」

「今はちゃんと育ててるって。……ほら、シーナ。財布もメモも、ちゃんと持ったね? ガーティエラの言うことちゃんと聞くんだよ。地図の見方もしっかり覚えてるね?」

「はい、フー様! 私、ちゃんと地図を見てお買い物してきます!」

「よし。顔見られないように気を付けなよ。……後はよろしく」


 フィフラティエはシーナへいくつかの確認をすると、くるりと振り返って手を振りながら屋敷へと戻っていった。

 ガーティエラはそれを眺め、そして少し寂しそうなシーナを見下ろす。


「……はー……子どもの相手、慣れてないんだけどなぁ……」

「ガーティエラ様……?」

「よーし……シーナちゃん、街までは連れてってやるからな。ちょっと飛ぶけど、高いところは平気か?」

「飛ぶ……? えっと、平気です……でも、ガーティエラ様は飛べるんですか? 頭の羽で、飛ぶ……?」


 シーナはガーティエラの質問に答えつつ首を傾げる。

 翼が無いと飛ぶのは難しいことをシーナは知っているので、飛ぶと聞いて不思議に思ったのだ。

 ガーティエラの翼は、背中ではなく頭にあるだけなので。

 しかも、人の身体を浮かばせるにはとても頼りないサイズだ。


「俺がいいって言うまで、目ぇ瞑ってな? ちょっとしたマジックを見せてやるよ」

「は、はいっ。瞑ります!」


 シーナが言われた通りにぎゅっと目を瞑り、数秒後。

 ガーティエラにもういいと声を掛けられ、シーナはそっと目を開けた。


「……わあ!?」


 ガーティエラの背中に、先程までは確実に無かった翼が生えていた。

 真っ白なそれは、人も十分に支えられそうなほどには大きい。

 ガーティエラは自慢げに胸を張ると、何も言わずにシーナを抱き上げる。


「飛ぶから、口閉じてろよ。空中で喋ると舌を噛むからな……お前のゴシュジンサマは、傷一つ無い状態での帰宅をお望みだ。お前が怪我すると、俺が責任を負うことになるんだからな! 約束だぞ!」

「わかりました! 約束です! 私、喋りません!」

「……よし……じゃあ、行くぞ!」


 ガーティエラがそう宣言し、助走をつけて一気に空中へと飛び上がった。

 翼をはためかせて飛んでいるのを見て、シーナは目を輝かせる。


「凄いです、ガーティエラしゃ――あぅっ」

「喋るなって言ったよな!?」


 飛び上がって数秒で約束を破ったシーナに、ガーティエラが声を大にして叫んだ。

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