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薄幸少女はジョウシキを疑わない  作者: 木に生る猫
第一章

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フィフラティエを知る

「ええと、つまり……」


 恥ずかしそうにしながら、シーナはフィフラティエに言われたことを再確認する。


「私が、フー様のために街に出て……お買い物をして、ここに戻ってくる……」

「そう。全く、早とちりして泣きじゃくって……勘弁して」

「ご、ごめんなさい……フー様に捨てられちゃうって思ったら、なんにも、頭に入ってこなくなってしまって……」

「はぁ……まぁいいよ。とりあえず、色々準備が整ったら行ってもらうから、覚えておいて。買う物のリストと店の位置も、しっかりメモして持たせるから」


 フィフラティエが言うと、シーナは恥ずかしそうにしながらこくりと頷いた。

 ぐしぐしと目の端を拭って、シーナは前を向く。

 お買い物を任されたのだから、シーナはしっかりとそれを完遂しなければならない。


「……気合入れてるところ悪いけど。買い物、行くのは数日後だから」

「あっ……はいっ! ……でも、どうしてですか? フー様と一緒に、街に行ったことはありますよ……? 行こうとすれば、明日にでも……」

「危なっかしいんだよ、シーナ。まだ気付いてないだろうけど。この間街に行った時は、ふらふらして誘拐されかけるわ、知らない人に付いて行くわ……挙句の果てに余所見して転んで大泣きして、その外見も相まって大騒ぎになって……はぁ、僕は目立てないっていうのに、本当に面倒な……」

「フー様、他の人の身体を借りることができるんですよねっ」

「怒ってるのわからない? 能天気で何よりだねぇほんっと」


 不機嫌そうにフィフラティエが言い、深い溜息を吐いた。

 そして、咳払いをすると、気を取り直して買い物に行かせるのが数日後になる理由を明かす。


「僕は行かない。けど……代わりに、シーナの一時的な保護者を用意する」

「……でも、さっき一人って」

「買い物自体は一人でしてもらうよ。ただ、監視役を付ける。そのために知り合いを呼び出すから、時間が必要ってこと。わかったね」

「そ……それなら、フー様でも……」

「シーナは、僕が見てるってわかってたら甘えるでしょ。それじゃ意味が無いんだよ。わかったらさっさと寝支度して」

「……はい……」


 フィフラティエは来てくれない、ということに少し寂しそうにしつつシーナが頷いた。

 そして、言われた通りに寝支度をして、シーナはすぐにベッドに潜り込む。

 シーナはすぐに眠りに落ちて、やがて朝が来た。



 美味しそうな匂いに釣られて、シーナは目を覚ます。

 そして、寝起きで少しぼんやりとしながらも朝の支度をし、部屋から出た。

 そのまま、一人でダイニングに向かうと、ちょうどフィフラティエがシーナを起こしに歩いてくるのが見えた。


「……シーナ。自分で起きたのか」

「はい……美味しそうな匂いが、して……んぅ」

「僕が来たからって寝ないで。さっさと食事。ほら行くよ」


 半ば引き摺るようにしてフィフラティエが眠たそうなシーナを連れていき、食事を摂らせた。

 そして、シーナの眠気が飛んだことを確認すると、フィフラティエはシーナの正面に座る。

 何か話があることを察して、ピシッとシーナが姿勢を正した。


「……大した話じゃないんだけど。街に一人で行かせるからには保険を掛けておきたいから、僕のことについて軽く説明しておこうと思ってね」

「フー様のこと……ですか……?」

「そう。シーナは人間で、僕は人外……所謂化け物。ここまでは知ってるね」

「むぅ……フー様は、化け物なんかじゃありませんっ。フー様はフー様です……!」

「はいはい……そんなことはどうでも良くて。人外にも色々いるけど、僕は影を本体とし、肉体としてる種族。ヒトの形をしてるけど、この姿は本質じゃない。ヒトの姿であれなんであれ、僕は僕。影こそが僕の本質なんだよ」

「影って、黒いのですよね! 私、影で遊ぶの、好きです!」


 ニコニコと楽しそうに笑うシーナを無視して、フィフラティエはそっと手のひらを上にして見せた。

 きょとんとするシーナの前で、フィフラティエは手の形を変形させてみせる。

 フィフラティエの黒い手はどろりとした液体のようになり、そして次の瞬間には蝶の羽を形作った。


「……ちょうちょ?」

「そうだね。……こうやって影を操り、姿形を変えることができるのが特徴。この身体は実体のある影って認識してくれればいいかな。実体を無くすこともできるけど。……ほら、触ってみて」


 フィフラティエに促され、シーナがおずおずと、蝶になったフィフラティエの手に触れた。

 すると、するりとシーナの手は蝶を通り抜ける。

 まるで、そこら中にある、フィフラティエではない『影』のように。


「僕に決まった形は無いし、はっきりした形なんて無くても存在できる。そういう存在なんだよ。人外っていうのは、摩訶不思議で不気味なものだからね。言ってしまえば、なんでもありだ」

「……フー様は、不気味じゃないですよ?」

「ふぅん。……さて、僕についての説明もしたことだし、次はさっき言った保険について説明しようか」


 興味の無さそうな相槌を打ち、フィフラティエがさっさと次の話題へと移った。

 大した反応をしてもらえなかったことを気にすることなく、シーナはぷらぷらと足を揺らしながらその話に耳を傾ける。


「僕は影で、実体を無くすことができる。それを利用して、人間の体内とかに影……僕の一部を忍ばせることができるんだ。シーナを保護した時、折れてた骨を補強してたのも、それを利用してのこと。体内で実体化させることもできるからね。さて……これを利用して、シーナの体内に影を忍ばせて保険としておきたい。いいね、シーナ?」

「はいっ。大丈夫です、フー様!」

「これで、何かトラブルがあればわかるし……万が一の時は、僕が影を操るから。とはいえ、僕自身がすぐに駆け付けられるとかではないからね。勘違いしないように」


 シーナが大きく頷くのを見ると、フィフラティエは満足そうに笑みを浮かべた。

 そして、シーナの額にそっと指先で触れると、目を眇める。


「……終わったよ。何か違和感は?」

「ありません!」

「……やっぱり、無いんだ。骨の補強の時も苦しんだりしなかったしな……でも、益々わからないな。どうしてあの時だけ……やってることはそこまで変わらないのに……」

「フー様? あの、ごめんなさい……声が、聞こえません……」

「ただの独り言。シーナは気にしなくていい。……僕は知り合いに連絡取るから、部屋で読書か勉強でもしておいて。昼食の時間になったら呼びに行く」

「はい、フー様!」


 シーナは元気よく頷き、言われた通りに自室へと向かった。

 それを見届けて、フィフラティエはゆっくりと息を吐き出す。


「……ガーティエラ……さて、何を餌にすれば釣れるかな」


 フィフラティエはぼそりと独り言を呟くと、連絡のために自分の部屋へと戻っていった。

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