7.裏社会の情報ギルドと新たな仲間
1. 辺境都市ヴァルナの闇
古代都市アークスから数日後、ライエルたちは辺境の商業都市ヴァルナにたどり着いた。ここは王国の法が届きにくく、表向きは交易で賑わっているが、裏では違法な取引や情報売買が横行している危険な街だった。
「ひしひしと感じるわね、この街の澱んだ空気」セレフィアは、貴族の娘として生きてきた環境とのあまりの違いに、身を引き締めた。
「身分を隠すには最適だ。学院の制服は脱げ。ゼノン、お前の騎士剣も今は布で巻いておけ」ライエルはそう言いながら、手早くルーンを刻んだ小さな「認識阻害の護符」を三人に分け与えた。これは、彼らの顔や特徴を周囲の記憶からぼやけさせる効果がある。
彼らが選んだのは、ヴァルナの地下深くに根を張る情報ギルド『影の舌』への潜入だった。聖刻会が国中を監視している今、その追跡を完全に避けるには、逆に王国の監視外にある裏の情報網に飛び込むしかない。
2. 裏ギルドへの潜入と試練
『影の舌』は、街の最下層にある薄汚れた酒場の奥、暗号めいた扉の先にあった。案内された部屋で、ライエルたちは、ギルドの顔役である小柄で鋭い目つきの女と対面した。彼女の名前はリディと名乗った。
「あんたたち、ただの学生崩れに見えるが、うちで何を求める?」リディは冷ややかに問う。
ライエルが口を開いた。「私たちは、ある秘密結社の次の行動を追っている。その組織は、古代の力を利用し、王国の中枢を狙っている。その情報を提供してほしい」
「秘密結社?物騒なね。うちは慈善事業じゃない。情報に見合う対価は?」
「対価は情報だ」ライエルは毅然と答えた。「君たちのギルドにも、聖刻会が関わっている可能性がある。彼らは情報だけでなく、古代の力を狙っている。僕が古代文字を解読し、その危険性から君たちを守る。それが、僕らの対価だ」
リディの目が初めて、驚きに細められた。彼女はライエルを試すように、一枚の古びた地図を差し出した。
「ほほう。ならば、これを解読してみろ。これは、近隣で発掘された、誰も読めない古代語の記録だ。解読できれば、あんたたちの力を信じる」
ライエルは地図を見た瞬間、それが古代文字による暗号地図であることを理解した。しかも、地図が示す場所は、ヴァルナの近郊に存在する、別の古代遺跡だった。
3. 情報屋リディとの契約
ライエルは、地図に描かれた古代文字を即座に解読し始めた。
「これは…『影の都市へ至る道』と書かれている。そして、このルーンは、『偽りの封印』を意味する。この遺跡は、聖刻会が何かを隠すために、偽装を施した場所だ」
さらにライエルは、地図の端に極小で刻まれたルーンを見逃さなかった。
「そして、この隠されたルーン。これは、聖刻会が次に狙う古代遺物が、『天穹の瞳』と呼ばれる、遠隔操作と監視の能力を持つ遺物であることを示している」
リディは驚愕した。この地図の解読は、王国にいる最高位の学者でも不可能だったはずだ。
「…あんた、本当に只者じゃないね」リディは静かに言った。「分かった。あんたたちの力を買う。リディだ。このヴァルナの情報網は、あんたたちの手の内にあると思え」
ライエルたちは、リディを新たな協力者として迎え入れた。彼女の情報網は、王国の表と裏を縦断しており、聖刻会に関する核心情報を握っている可能性が高い。
4. 聖刻会の次の目標
リディは、ライエルに新たな情報を提供した。
「聖刻会が最近、ヴァルナ近郊の山間の村に大規模な兵力を投入している、という裏情報が入っている。彼らは表向きは盗賊討伐だが、その村はかつて、優秀な魔導師や学者が多く住んでいた場所だ」
ライエルはすぐにピンときた。聖刻会が次に狙う「天穹の瞳」は、監視と遠隔操作の能力を持つ。そして、その遺物に必要なのは、膨大な知識と、それを扱う高度な魔力だ。
「彼らは、その村に隠された、天穹の瞳の起動に必要な知識(古代文字の記録)を狙っている。そして、村に残された魔導師の末裔たちを生贄にするつもりだ」
ライエル、セレフィア、ゼノンの三人は顔を見合わせた。聖刻会が、次の犠牲者を出す前に、阻止しなければならない。
「リディ、その村の場所を教えてくれ。私たちはすぐに向かう」
ゼノンは騎士剣を手に、セレフィアは光魔法を練り、そしてライエルは、新たに見つけた聖刻会の目標を打ち砕くため、古代文字を心の中で詠い始めた。




