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古代文字(ルーン)を詠う者  作者: 綾瀬蒼


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26.天儀の間の邂逅と非情な選択

1. 要塞侵入と二つの道


古代飛行艇レガリア号は、激しい対空砲火を潜り抜け、空中要塞「アーク・ルーン」のドックへと強行着陸した。衝撃と共にハッチが開くと、ライエル、ゼノン、ノア、そしてグラントが戦場へと飛び出す。

要塞の内部は、外観の無機質な石造りとは裏腹に、壁一面が血管のように脈動する魔力回路で埋め尽くされていた。サガの狂気とも言えるルーン知識が、要塞そのものを巨大な生き物へと変えているのだ。

「ライエル、ここでお別れだ」ゼノンが重い大剣を担ぎ直し、要塞の下層へと続く通路を指差した。「俺とノア、それにグラントでこの要塞の心臓部……動力源を叩き潰してくる。要塞が落ちれば、サガの術も弱まるはずだ」

「でも、それでは皆さんも……!」ライエルが制止しようとするが、ノアが不敵な笑みを浮かべて遮った。

「安心しなよ、天才さん。あんたがセレフィアを助け出すまで、この要塞をバラバラにして時間を稼いであげるからさ。……その代わり、必ず二人で戻ってきなよ」

「……分かった。信じてる、みんな!」

ライエルは一人、サガが待つ最上階「天儀の間」へと続く昇降機に飛び乗った。


2. 幻影の回廊


昇降機が上昇するにつれ、周囲の景色が歪み始めた。サガが仕掛けた最高位の『精神干渉ルーン』がライエルの意識を侵食する。

目の前に、かつて滅ぼされたはずの自分の村が現れた。両親が笑い、幼い自分にルーンを教えている。次に、学院でカインと共に競い合っていた平和な日々が映し出される。

「ライエル、もういいのだ。戦う必要などない。この理想郷に留まれば、誰も傷つかず、誰も失われない……」

サガの声が頭の中に直接響く。その声は優しく、疲れ切ったライエルの心を甘く溶かそうとする。しかし、ライエルは自身の腕を噛み、その痛みで意識を繋ぎ止めた。

「偽物だ……。僕が愛した師匠は、人の心を踏みにじってまで世界を救おうとはしなかった!」

ライエルは、指先から魔力を迸らせ、空中に『真贋の複合ルーン』を殴り書きした。

「Falsus e'l Somnium. Veritas e'l Lux!」

(偽りの夢よ、潰えよ。真実よ、光れ!)

ガラスが砕けるような音と共に幻影が霧散し、ライエルの前に重厚な黄金の扉が現れた。そこが、世界の運命を司る「天儀の間」だった。


3. 世界の核と同化する少女


扉を蹴破ったライエルの目に飛び込んできたのは、異様な光景だった。

広大な円形の部屋の中央、巨大なルーンの歯車が噛み合う「天儀」の装置に、セレフィアが宙吊りになっていた。彼女の身体からは無数の魔力の糸が伸び、それが要塞全体、さらには雲の下に広がる世界そのものと繋がっているように見えた。

サガは、その装置の傍らで静かに本を読んでいた。

「ようやく来たか、ライエル。間に合わなかったな。彼女の意識は既に『世界の核』、つまり境界を維持するシステムそのものと結合を始めている」

「セレフィア!」ライエルが駆け寄ろうとするが、目に見えない障壁に弾き飛ばされる。

セレフィアがゆっくりと目を開けた。しかし、その瞳にはもはや感情の色はなく、透き通った青い光が溢れていた。彼女の口が、機械的な、しかし紛れもない彼女自身の声で紡がれる。

「……ライエル君……? 止めて……お願い。私の意識を通じて……サガ様が世界の境界を……書き換えようとしている。もう、私の心は……長く持たない」

彼女の頬を、一筋の涙が伝った。それは、彼女がまだ「人間」であることを示す最後の証だった。

「ライエル君……私ごと、この『核』を壊して。私を殺して、世界を……救って。それが、王族の血を引く者の……最後の役割だから」

サガは残酷に微笑んだ。「そうだ、ライエル。彼女を殺せば、この儀式は止まる。世界は現状を維持できるだろう。だが、数十年後には境界が自然崩壊し、人類は滅びる。一方で、このまま同化を進めれば、彼女という個体は消滅するが、全人類は『新世界』で生き永らえることができる。……さあ、どちらが『救い』かな?」


4. 継承者の答え


「殺せるわけがないだろう!」

ライエルの叫びが、広間に木霊した。彼は杖を構え、全身の魔力回路を真っ赤に燃え上がらせた。

「師匠、あなたは言った。個人の意志は塵に等しいと。でも、一人の少女の涙を救えないような世界に、価値なんてない! セレフィアも殺さない、世界も滅ぼさせない! 僕は、あなたの想定していない『第三の道』を、僕のルーンで刻んでみせる!」

ライエルは、一族の禁書にも、エルフの古文書にも記されていない、全く新しい複合ルーンの構成を頭の中で組み上げた。それは、世界の境界を再構築するのではなく、『個人の魂を、世界のシステムから分離・独立させる』という、ルーンの概念そのものを覆す試みだった。

「無謀な。ことわりを無視したルーンなど、自爆を招くだけだ」サガが静かに立ち上がった。

要塞の下層から、巨大な振動が伝わってくる。ゼノンたちが動力源に到達したのだ。

「始まるぞ、ライエル。お前の言う『絆』と、私の『理』。どちらが正しいか、ここで証明してみせろ」

ライエルとサガ、師弟の魔力がぶつかり合い、天儀の間が白光に包まれた。

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