表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古代文字(ルーン)を詠う者  作者: 綾瀬蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/30

25.空の防波堤と親友の刻印

1. 古代飛行艇「レガリア号」の起動


大賢者サガにセレフィアを連れ去られ、エルフの里シルヴァニアは静まり返っていた。しかし、ライエルの心に絶望で立ち止まる余裕はなかった。里の最奥、聖なる滝の裏側に隠されていたのは、神話の時代にエルフと人間が共同で建造したとされる古代飛行艇「レガリア号」であった。

「この船を動かせるのは、エルフの自然魔力と、古代文字の正しい詠唱を同時に行える者だけだ」長老が重い口を開く。

ライエルは操縦席に座り、水晶のコンソールに手を置いた。隣には、傷だらけながらも「地獄の果てまで付き合ってやる」と笑うゼノンと、複雑な魔力回路を瞬時に把握しようとするノアがいた。そして、後方では贖罪を誓ったグラントが情報のバックアップを担う。

「Anima e'l Machina. Sursum e'l Astra!」

(機械に魂を。星々へ昇れ!)

ライエルの詠唱に呼応し、船体に刻まれた数千のルーンが一斉に青く発光した。長年眠っていたエンジンが咆哮を上げ、巨大な船体が浮上を始める。エルフの戦士たちが祈りを捧げる中、レガリア号は雲を突き抜け、サガが待つ空中要塞「アーク・ルーン」を目指して急上昇を開始した。


2. 空の迎撃部隊


高度数千メートル。酸素が薄くなり、空気が凍りつく極限の世界。レガリア号の前に、空中要塞から放たれた無数の魔導戦闘機が立ちふさがった。

「来たな、聖刻会のハエどもが!」ゼノンが操縦桿を握り、レガリア号の魔導砲を操作する。

激しい空中戦が繰り広げられる中、一機の漆黒の戦闘機が、異常な機動でレガリア号の甲板に強行着陸した。ハッチから降り立った人物を見て、ライエルは息を呑んだ。

「……カイン? なぜ、君がそこに」

そこにいたのは、魔導学院時代、ライエルと首席を争った親友カインだった。しかし、彼の右顔面には不気味な黒いルーンが侵食し、かつての情熱的な瞳は機械的な冷徹さに塗りつぶされていた。

「ライエル……サガ様は正しかった。僕たちの努力なんて、この圧倒的な『真実のルーン』の前では無意味だったんだ」

カインの声には感情がなかった。サガの手によって、彼の魔力経路は無理やり拡張され、肉体そのものがルーンの媒介へと改造されていたのである。


3. 親友という名の障壁


カインは右手を掲げた。そこから放たれたのは、本来なら多人数での儀式が必要なはずの『崩落の重力ルーン』だった。

「ぐっ……なんて魔力だ!」ゼノンが甲板に膝をつく。レガリア号の船体がきしみ、高度が急速に下がり始めた。

「やめるんだ、カイン! 君はサガ先生に利用されているだけだ。そのルーンは君の命を削っている!」ライエルは叫びながら、カインの重力を中和する複合ルーンを編み出す。

しかし、カインは止まらない。「利用されて何が悪い。僕は……君に勝ちたかっただけなんだ、ライエル! 天才の君の隣で、ずっと感じていた劣等感から、サガ様が解放してくれたんだ!」

カインは、自身の魂を燃料にするかのように、さらに強力な複合ルーンを多重起動させた。それは、周囲の空間そのものを破砕する『次元断裂ルーン』の亜種だった。

ライエルは悟った。言葉では届かない。今のカインを止めるには、彼が縋っている「偽りの力」を、正面から打ち破るしかない。

「ごめん、カイン……。君を救うために、僕は君を倒す」

ライエルは、サガから教わったのではない、旅で培った「不完全で、しかし温かい魔力」を一点に集中させた。


4. 悲しき決着


「Vinculum e'l Amicus. Frango e'l Maledictio!」

(友の絆よ、呪いを打ち砕け!)

ライエルの放った純白の閃光が、カインの黒い重力波を貫いた。爆発と共にカインは吹き飛ばされ、甲板に倒れ伏す。顔を覆っていた黒いルーンがひび割れ、剥がれ落ちていった。

「……はは、やっぱり……君には勝てないな」

カインの瞳に、一瞬だけかつての光が戻った。しかし、改造の代償は大きく、彼の魔力源は既に枯渇しかけていた。

「ライエル、気をつけろ……サガ様は、セレフィアを使って……『門』を開こうとしている。あのお方は、もう……人間じゃない……」

カインはそう言い残し、深い眠りにつくように意識を失った。ライエルは動かなくなった親友をノアに託し、前方を見上げた。

雲海の向こう側、太陽を背にして君臨する巨大な浮遊要塞「アーク・ルーン」。その最上階では、セレフィアを触媒とした、世界を創り変えるための最終儀式の光が漏れ始めていた。

「待ってて、セレフィア。今、行く!」

レガリア号は全速力で要塞へと突入を開始した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ